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【第13話】プラムと翔斗の無駄話
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夕飯を終え、やがて夜が深くなった。
住宅街の明かりも乏しくなり、頼りになるのはまばらな間隔に照る街灯のみ。
父さんは今日も、帰ってこない。
消灯した客間。家政婦が用意してくれた3つの布団。さすがに疲れていたのか、アローは布団に体を滑り込ませるや否や、すぐに寝てしまった。
翔斗は、今日起きた非日常の出来事を、布団の中で思い出していた。変な2人組と出会って、殺し屋に毒を盛られて、車酔いして、変な2人組と一緒にご飯を食べた。
これがすべて、今日1日の間に起きたこと。未だにどこか、信じられない自分がいる。
翔斗は、左で眠るアローの逆・・・右側の壁に寄りかかって座るプラムの方を見た。用意してきたのか、畳には小さな電子式LEDランタンが置かれている。そのオレンジ色の強く寂しい明かりを頼りに、銃を部品ごとにバラして整備している。
翔斗がこちらを見ていることに気づいたのか、プラムは布団から頭だけ出す翔斗と目を合わせた。
「寝れねえのか?」
「・・・まぁ」
「明日も学校なんだから早く寝ろよ」
そう言って、プラムはいつもと変わらぬ眠たそうな表情で、再び目線を手元の銃の部品に移した。ランタンの明かりにわずかに照らされたプラムを、翔斗はぼんやりと眺める。
「・・・寝ないの?」
「あたしとアローが同時に寝たら、3人一緒にオダブツするかもしれねえからな。こうやって、2時間交代制で見張ってんのさ」
「・・・そっか」
「分かったら早く寝ろ」
・・・。
しばしの沈黙。聞こえてくるのは、アローの快眠を示す寝息と、プラムが整備している銃のカチャカチャという心地よい音だけ。翔斗はぼんやりと天井を見て、夕飯前アローに言われたことを思い返した。
クズみたいな親なんか捨てて、家を出てしまえばいい。
きっと、実行に移すのが最適解なんだろう。けどなぜ、僕はその道を選ぼうとしない?
・・・甘いから。
無意識に、自問自答を繰り返す。
「プラムさんはさ・・・なんで殺し屋になったの?」
「ア? なんだよいきなり」
静寂を破った翔斗に驚くことなく、プラムは相変わらず眠たそうな顔で、天井を見つめる翔斗を見た。
「気になってさ。なんでそんな危ない世界に入ったのか」
「さぁてね。なんでだったっけ。そんな深く考えずに入ったから、もう覚えてねえな」
整備が終わったのか、プラムはバラバラだった銃を組み立て始めた。
「そんな軽い気持ちで入ったの?」
「軽いも重いもねえよ。流れに身を任せた結果だ」
・・・そんな曖昧な理由で、簡単に人を撃てるものなのか?
「・・・Group Emmaに入る前、プラムさんはどこで何をしていたの?」
「残念だが、その質問には答えられねえな」
「なんで?」
「過去を喋っちまうことになるからな」
「・・・ダメなの?」
「ああ」
「なんで・・・?」
「規則だから」
「規則?」
「そ、規則。あたしらは、たとえ相手が組織内の仲間だとしても、自分の経歴は明かしちゃいけねえんだ」
「・・・そうなんだ。じゃあ、将来の夢はある?」
「夢ぇ?」
「うん。夢」
「夢ねえ・・・ん~」
銃を組み立て終わったプラムは、最後に弾倉を入れ、舐めるように銃を見た。
「別に。無いかな」
プラムは銃を畳に置くと、足元にあったランタンを壁に寄せて、照明を一番弱い設定にした。
「お前は何か夢でもあんのか?」
「え、僕?」
「うん」
翔斗は一瞬、喉から出ようとする言葉を食い止めた。将来の夢など、誰にも言ったことがない。
「・・・言いたくない」
「え、なんで?」
「・・・言いたくないから」
「あっそ。じゃあ早く寝ろ」
「・・・うん」
あまりにもあっさりとした受け答え。しつこく話を聞いてくるアローとはまるで真逆の性格だ。プラムはポケットからスマートフォンを取り出し、画面を横にすると、無音設定のまま何かの動画を見始めた。
・・・。
「・・・ホントはさ」
「なんだよ寝るんじゃねーのかよ」
半分呆れたプラムが、スマホから顔を上げた。
「本当は、政治家になりたいんだ」
「政治家ぁ?」
「うん。政治家」
「ふーん、まぁ頑張ればなれるんじゃね」
「・・・何とも思わないの?」
「え、何が?」
「いや・・・僕が政治家になるって、何とも思わないの?」
「別に。あっそ、てカンジ」
「・・・」
翔斗は、初めて人に語る自身の夢を、プラムのランタンにわずかに照らされた暗い天井に思い描いた。
「政治家になって、この世から戦争を無くしたい。それこそ、プラムさんみたいに、裏社会で生きる人たちを何とかしたい」
「へー」
「どうしたらいいかな」
「何が?」
「裏社会を根絶するためには、どうしたらいいかな」
「知らねえよ。そんくらい自分で考えろ」
プラムの言葉に、翔斗は思わず笑った。
「そうだよね。それを考えないと、政治家じゃないよね」
すると、プラムがスマートフォンを一旦閉じて、翔斗の方を向いた。
「ただひとつ言えるのは、表だろうが裏だろうが、誰かに必要とされてるから存在するんだ。箸じゃスープを掬えねえからスプーンがあるんだろうが」
「・・・」
「スープを少しずつ掬って飲みたいのに、スプーンが無かったら嫌だろ。そーゆーこった」
「・・・そっか」
「ま、そんなこたぁどうでもいいから早く寝ろ」
翔斗は頷くと、それ以上は何も言わなかった。自身に吹く新しい風を確かに感じて、そっと目を閉じた。
住宅街の明かりも乏しくなり、頼りになるのはまばらな間隔に照る街灯のみ。
父さんは今日も、帰ってこない。
消灯した客間。家政婦が用意してくれた3つの布団。さすがに疲れていたのか、アローは布団に体を滑り込ませるや否や、すぐに寝てしまった。
翔斗は、今日起きた非日常の出来事を、布団の中で思い出していた。変な2人組と出会って、殺し屋に毒を盛られて、車酔いして、変な2人組と一緒にご飯を食べた。
これがすべて、今日1日の間に起きたこと。未だにどこか、信じられない自分がいる。
翔斗は、左で眠るアローの逆・・・右側の壁に寄りかかって座るプラムの方を見た。用意してきたのか、畳には小さな電子式LEDランタンが置かれている。そのオレンジ色の強く寂しい明かりを頼りに、銃を部品ごとにバラして整備している。
翔斗がこちらを見ていることに気づいたのか、プラムは布団から頭だけ出す翔斗と目を合わせた。
「寝れねえのか?」
「・・・まぁ」
「明日も学校なんだから早く寝ろよ」
そう言って、プラムはいつもと変わらぬ眠たそうな表情で、再び目線を手元の銃の部品に移した。ランタンの明かりにわずかに照らされたプラムを、翔斗はぼんやりと眺める。
「・・・寝ないの?」
「あたしとアローが同時に寝たら、3人一緒にオダブツするかもしれねえからな。こうやって、2時間交代制で見張ってんのさ」
「・・・そっか」
「分かったら早く寝ろ」
・・・。
しばしの沈黙。聞こえてくるのは、アローの快眠を示す寝息と、プラムが整備している銃のカチャカチャという心地よい音だけ。翔斗はぼんやりと天井を見て、夕飯前アローに言われたことを思い返した。
クズみたいな親なんか捨てて、家を出てしまえばいい。
きっと、実行に移すのが最適解なんだろう。けどなぜ、僕はその道を選ぼうとしない?
・・・甘いから。
無意識に、自問自答を繰り返す。
「プラムさんはさ・・・なんで殺し屋になったの?」
「ア? なんだよいきなり」
静寂を破った翔斗に驚くことなく、プラムは相変わらず眠たそうな顔で、天井を見つめる翔斗を見た。
「気になってさ。なんでそんな危ない世界に入ったのか」
「さぁてね。なんでだったっけ。そんな深く考えずに入ったから、もう覚えてねえな」
整備が終わったのか、プラムはバラバラだった銃を組み立て始めた。
「そんな軽い気持ちで入ったの?」
「軽いも重いもねえよ。流れに身を任せた結果だ」
・・・そんな曖昧な理由で、簡単に人を撃てるものなのか?
「・・・Group Emmaに入る前、プラムさんはどこで何をしていたの?」
「残念だが、その質問には答えられねえな」
「なんで?」
「過去を喋っちまうことになるからな」
「・・・ダメなの?」
「ああ」
「なんで・・・?」
「規則だから」
「規則?」
「そ、規則。あたしらは、たとえ相手が組織内の仲間だとしても、自分の経歴は明かしちゃいけねえんだ」
「・・・そうなんだ。じゃあ、将来の夢はある?」
「夢ぇ?」
「うん。夢」
「夢ねえ・・・ん~」
銃を組み立て終わったプラムは、最後に弾倉を入れ、舐めるように銃を見た。
「別に。無いかな」
プラムは銃を畳に置くと、足元にあったランタンを壁に寄せて、照明を一番弱い設定にした。
「お前は何か夢でもあんのか?」
「え、僕?」
「うん」
翔斗は一瞬、喉から出ようとする言葉を食い止めた。将来の夢など、誰にも言ったことがない。
「・・・言いたくない」
「え、なんで?」
「・・・言いたくないから」
「あっそ。じゃあ早く寝ろ」
「・・・うん」
あまりにもあっさりとした受け答え。しつこく話を聞いてくるアローとはまるで真逆の性格だ。プラムはポケットからスマートフォンを取り出し、画面を横にすると、無音設定のまま何かの動画を見始めた。
・・・。
「・・・ホントはさ」
「なんだよ寝るんじゃねーのかよ」
半分呆れたプラムが、スマホから顔を上げた。
「本当は、政治家になりたいんだ」
「政治家ぁ?」
「うん。政治家」
「ふーん、まぁ頑張ればなれるんじゃね」
「・・・何とも思わないの?」
「え、何が?」
「いや・・・僕が政治家になるって、何とも思わないの?」
「別に。あっそ、てカンジ」
「・・・」
翔斗は、初めて人に語る自身の夢を、プラムのランタンにわずかに照らされた暗い天井に思い描いた。
「政治家になって、この世から戦争を無くしたい。それこそ、プラムさんみたいに、裏社会で生きる人たちを何とかしたい」
「へー」
「どうしたらいいかな」
「何が?」
「裏社会を根絶するためには、どうしたらいいかな」
「知らねえよ。そんくらい自分で考えろ」
プラムの言葉に、翔斗は思わず笑った。
「そうだよね。それを考えないと、政治家じゃないよね」
すると、プラムがスマートフォンを一旦閉じて、翔斗の方を向いた。
「ただひとつ言えるのは、表だろうが裏だろうが、誰かに必要とされてるから存在するんだ。箸じゃスープを掬えねえからスプーンがあるんだろうが」
「・・・」
「スープを少しずつ掬って飲みたいのに、スプーンが無かったら嫌だろ。そーゆーこった」
「・・・そっか」
「ま、そんなこたぁどうでもいいから早く寝ろ」
翔斗は頷くと、それ以上は何も言わなかった。自身に吹く新しい風を確かに感じて、そっと目を閉じた。
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