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【第4話】梅工房にレッツゴー
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任務開始2日前。準備に取り掛かるプラムとアローは、ランサーエボリューションⅦに乗ってとある田舎の工房を目指していた。
車内はクーラーを最低風力でつけていて、程よく冷たい風がハンドルを握るプラムの頬を撫でている。高速道路に入ったプラムは、ギアを2速に入れ、一気に車を加速させた。
素晴らしいエンジン音に、ハンドルを握るプラムの胸が高鳴る。続いて3速。すぐに4速。間を空けずに5速・・・やがて6速。シフトチェンジをする度に、エンジンが唸る感覚。プラムにとって、これはかけがえの無い至高の時だ。
運良く高速道路が空いていて、車を飛ばしやすい。プラムは思う存分に運転を楽しむ。その隣、助手席に座るアローは、ベルから渡された資料を読み込んでいた。
「護衛対象は黒川翔斗、18歳。身長168cm、体重59kgの細身。私立稽進学園高校 3年生 普通科クラス。父は大物政治家で、日本民栄党の党首、黒川一博だってさ」
「クロカワカズヒロ? 聞いたことあるぞ」
「あたし知らない。どんな人なの?」
「たしか、1年くらい前に黒川と同じ党にいた白山団二郎が事故死した時の黒幕だ。金と圧力でメディアを封殺して、事件を闇に葬った。世間は真相を知らない事件だ。ネットのニュースで見た気がする」
「へ~。知らなかった」
アローは資料をまるごと丸めて棒状にすると、ポンポンと一定のリズムで軽く肩叩きを始めた。
「なーるほど。白山殺しの報復として息子が狙われてるから、守ってほしいってことか」
「ま、そんなとこだろうよ」
あくびをしながら答えるプラムを横目に、アローは首を傾げた。
「でも、なんで息子を狙うんだろ。本人を狙えばいいのにね」
「あちらさんにも色々と狙いがあるんだろうよ。息子を誘拐すれば身代金が要求できるし、金が無くなれば黒川の地位も失墜する。それこそ殺しちまえば、息子を失った悲しみで政治どころじゃなくなるだろ」
やがて目的地の標識が見えたプラムは、左にウィンカーを出し、車線を変更した。高速道路を降りたすぐ先の赤信号で一旦、車を停止させる。
「裏社会と繋がってるって・・・。それでもコイツら政治家なの?」
アローが腹を立てると、赤信号が青に変わるのをつまらなそうに待つプラムがアローの方を向いた。
「まあいいじゃん。報酬はたんまりくれるらしいし、あたしらはやることやるだけだろ」
青信号になったのを確認したプラムは、素早くギアを1速に入れてアクセルペダルを踏んだ。同時に、クラッチペダルを半分まで上げる。
やがてプラムが運転するランエボは、建物よりも自然が目立つ田舎へと足を踏み入れた。
「そういえば、黒川を狙う白山の依頼先はどこなんだ?」
「それがまだ調査中らしいのよ」
「マジかよ」
「怖いわよね~」
少しして、プラムは寂れた自動車整備工場に入り、無駄に広い駐車場に車を停めた。ふたりは車を降りると、古びた工場のすぐそばにポツンと佇む、錆だらけのバラックが特徴的な事務所に足を運んだ。アローの片手には、ボストンバッグが握られている。
玄関には、梅工房と書かれた立て看板が無造作に置かれており、とても営業しているような雰囲気ではない。アローがインターホンを鳴らしてドアを開けて入ると、中に人の気配はなく、資料やらファイルやらで散らかった事務机がふたりを出迎えた。
「こんにちわ~。梅おじさーん、来たよー」
アローが声かけると、いちばん奥の、いちばん散らかった机から微かに音がした。どうやら、山のように積み上がった資料やダンボールのせいで見えなかっただけで、人がひとりいたようだ。
何者かが机から立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。やがてふたりの前に姿を現したのは、暗めの灰色生地に汚れが目立つ、よれよれのつなぎを着た小柄な老人だった。老人はワイヤレス付きのイヤホンを両耳につけており、スマートフォンの画面をタップすると、イヤホンをはずした。
「なんじゃお前たち、来とったんか」
「まーたアイドルの曲聞いてサボってんのか? 梅さん」
プラムが呆れ顔で言うと、老人は豪快に笑った。
「よぉ分かったの! 正解じゃ! 最近は韓国のSHINEっちゅうグループにハマっとってな? センターのソアちゃんが可愛いのなんのって」
「よく飽きないわよねー。何がいいか全然分かんない」
「いや、イケメンバンドファンのアローがそれ言っちゃダメだろ」
呆れながら、プラムは黒いスーツの懐から分厚い封筒を取り出した。
「ちょっとまた仕事が入っちゃってさ。あたしのランエボいじってほしいんだけど。これ、梅さんにあたしとアローからお気持ち」
プラムから差し出された分厚い封筒を受け取った梅は、ためらうことなく封を開け、中身を取り出した。
「うーん、これだけだとやってやれることは少ないぞ」
いくつかにまとまった札束を握り、梅は難しい顔をした。
「なーに言ってんのよぉ梅おじさん。これは私とプラムのお気持ちって言ったじゃない」
すると、アローは片手に持っていたボストンバッグを梅に差し出した。
「はい、これはベル姉からの気持ち」
ボストンバッグを受け取った梅は、すぐにチャックを開けてその中身を確かめると、目を大きくさせて笑った。ボストンバッグには、札束が山のように積まれていたのだ。
「おっほぉ! やりおるのぉあの女は! この梅工房を得意先にするだけのことはある! これだけ金があればお前さんたちにもイイもんをやれるぞ! あと遊べる!」
札束に頬をスリスリと擦り付ける梅を見て、アローはプラムに聞いた。
「ベル姉って、どれだけ金持ってるのかな」
「知らねえよ。けど、相当溜め込んでるはずだぜ。むかし『誰でもカンタン貯金術』って本読んでたし」
ため息が出そうになるほどの札束の山をそそくさと金庫に入れた梅は、プラムとアローに工房に案内した。ふたりを引き連れて工房内を歩く梅は、車を整備中の若い男性何人かに指示を出しながら、奥の壁際の物置まで足を運んだ。
「お前さんたちが昨日電話で言ってたモンは、あらかた準備できとる。ランエボに換装する部品も揃っとるから、あと数時間くらいここら辺で待っといてくれ」
そう言うと、梅はダンボールや部品入れが乱雑に置かれた物置から、ひときわ厳重な雰囲気を放つアタッシュケースを何個も取り出した。近くにあった台座と折りたたみ式ベンチを広げ、3人は座ると、早速いくつものアタッシュケースを開けて中身を取り出した。
「まずはSIG SAUER KSC-P226R サプレッサー付き2丁と、P3652丁。それぞれカートリッジは100以上ある。弾切れの心配はいらん」
「おっ。このナイフ、コールドスチールじゃん。さすが梅さん。分かってらぁ」
「そうじゃろ。それも2本取り寄せて、こっちでちょいと加工しといたぞ」
「こんなの、誰が付けるのよ」
呆れ顔のアローが持ち上げたのは、防弾チョッキだった。
「あーそれ?『黒川翔斗』用に注文した」
「バッカねぇプラム。年頃の高校生が学校にこんなもの来ていけるわけないでしょ」
「え、でもそれ、服の下に着ても大丈夫なやつだぞ?」
「あのねぇ・・・膨らんじゃうでしょーが。制服姿が膨れるなんて、思春期にとってみたらとんでもない話よ?」
「そんなこと気にしてる場合かよ。死なれちゃこっちが困るんだ」
「気にしてる場合なのよ。少年のおしゃれ心も尊重してやんなさい」
若干の言い合いになるプラムとアローを無視して、梅は続いてあるものを持ってきた。
「ほれ! 91式携行地対空誘導弾。こいつぁオマケだ」
急に現れた地対空ミサイルに、ふたりは目を丸くして驚いた。
「何よこれー! 頼んでないわよ?」
「おいおい、こんなもんどっから仕入れたんだ」
「凄いじゃろ! ちっと注文してみたくてな? 買ったんじゃ。これでお前さんたちに隙はない!」
「バカ、第一どこに積めってんだ」
「うーむ。ランエボのトランクとかでいいんじゃないか?」
「ヤーよこんな物騒なのー!」
「あたしのランエボは武器庫じゃねえ。・・・ってか、喉乾いた。梅さんコーラ奢って~」
「あたしもあたしも!」
「なんじゃお前たち、ジュースくらい自分で買わんか!」
無駄な言い合いを繰り返す3人。梅は、久々に会えたプラムとアローとの時間が、楽しくて仕方がなかった。
車内はクーラーを最低風力でつけていて、程よく冷たい風がハンドルを握るプラムの頬を撫でている。高速道路に入ったプラムは、ギアを2速に入れ、一気に車を加速させた。
素晴らしいエンジン音に、ハンドルを握るプラムの胸が高鳴る。続いて3速。すぐに4速。間を空けずに5速・・・やがて6速。シフトチェンジをする度に、エンジンが唸る感覚。プラムにとって、これはかけがえの無い至高の時だ。
運良く高速道路が空いていて、車を飛ばしやすい。プラムは思う存分に運転を楽しむ。その隣、助手席に座るアローは、ベルから渡された資料を読み込んでいた。
「護衛対象は黒川翔斗、18歳。身長168cm、体重59kgの細身。私立稽進学園高校 3年生 普通科クラス。父は大物政治家で、日本民栄党の党首、黒川一博だってさ」
「クロカワカズヒロ? 聞いたことあるぞ」
「あたし知らない。どんな人なの?」
「たしか、1年くらい前に黒川と同じ党にいた白山団二郎が事故死した時の黒幕だ。金と圧力でメディアを封殺して、事件を闇に葬った。世間は真相を知らない事件だ。ネットのニュースで見た気がする」
「へ~。知らなかった」
アローは資料をまるごと丸めて棒状にすると、ポンポンと一定のリズムで軽く肩叩きを始めた。
「なーるほど。白山殺しの報復として息子が狙われてるから、守ってほしいってことか」
「ま、そんなとこだろうよ」
あくびをしながら答えるプラムを横目に、アローは首を傾げた。
「でも、なんで息子を狙うんだろ。本人を狙えばいいのにね」
「あちらさんにも色々と狙いがあるんだろうよ。息子を誘拐すれば身代金が要求できるし、金が無くなれば黒川の地位も失墜する。それこそ殺しちまえば、息子を失った悲しみで政治どころじゃなくなるだろ」
やがて目的地の標識が見えたプラムは、左にウィンカーを出し、車線を変更した。高速道路を降りたすぐ先の赤信号で一旦、車を停止させる。
「裏社会と繋がってるって・・・。それでもコイツら政治家なの?」
アローが腹を立てると、赤信号が青に変わるのをつまらなそうに待つプラムがアローの方を向いた。
「まあいいじゃん。報酬はたんまりくれるらしいし、あたしらはやることやるだけだろ」
青信号になったのを確認したプラムは、素早くギアを1速に入れてアクセルペダルを踏んだ。同時に、クラッチペダルを半分まで上げる。
やがてプラムが運転するランエボは、建物よりも自然が目立つ田舎へと足を踏み入れた。
「そういえば、黒川を狙う白山の依頼先はどこなんだ?」
「それがまだ調査中らしいのよ」
「マジかよ」
「怖いわよね~」
少しして、プラムは寂れた自動車整備工場に入り、無駄に広い駐車場に車を停めた。ふたりは車を降りると、古びた工場のすぐそばにポツンと佇む、錆だらけのバラックが特徴的な事務所に足を運んだ。アローの片手には、ボストンバッグが握られている。
玄関には、梅工房と書かれた立て看板が無造作に置かれており、とても営業しているような雰囲気ではない。アローがインターホンを鳴らしてドアを開けて入ると、中に人の気配はなく、資料やらファイルやらで散らかった事務机がふたりを出迎えた。
「こんにちわ~。梅おじさーん、来たよー」
アローが声かけると、いちばん奥の、いちばん散らかった机から微かに音がした。どうやら、山のように積み上がった資料やダンボールのせいで見えなかっただけで、人がひとりいたようだ。
何者かが机から立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。やがてふたりの前に姿を現したのは、暗めの灰色生地に汚れが目立つ、よれよれのつなぎを着た小柄な老人だった。老人はワイヤレス付きのイヤホンを両耳につけており、スマートフォンの画面をタップすると、イヤホンをはずした。
「なんじゃお前たち、来とったんか」
「まーたアイドルの曲聞いてサボってんのか? 梅さん」
プラムが呆れ顔で言うと、老人は豪快に笑った。
「よぉ分かったの! 正解じゃ! 最近は韓国のSHINEっちゅうグループにハマっとってな? センターのソアちゃんが可愛いのなんのって」
「よく飽きないわよねー。何がいいか全然分かんない」
「いや、イケメンバンドファンのアローがそれ言っちゃダメだろ」
呆れながら、プラムは黒いスーツの懐から分厚い封筒を取り出した。
「ちょっとまた仕事が入っちゃってさ。あたしのランエボいじってほしいんだけど。これ、梅さんにあたしとアローからお気持ち」
プラムから差し出された分厚い封筒を受け取った梅は、ためらうことなく封を開け、中身を取り出した。
「うーん、これだけだとやってやれることは少ないぞ」
いくつかにまとまった札束を握り、梅は難しい顔をした。
「なーに言ってんのよぉ梅おじさん。これは私とプラムのお気持ちって言ったじゃない」
すると、アローは片手に持っていたボストンバッグを梅に差し出した。
「はい、これはベル姉からの気持ち」
ボストンバッグを受け取った梅は、すぐにチャックを開けてその中身を確かめると、目を大きくさせて笑った。ボストンバッグには、札束が山のように積まれていたのだ。
「おっほぉ! やりおるのぉあの女は! この梅工房を得意先にするだけのことはある! これだけ金があればお前さんたちにもイイもんをやれるぞ! あと遊べる!」
札束に頬をスリスリと擦り付ける梅を見て、アローはプラムに聞いた。
「ベル姉って、どれだけ金持ってるのかな」
「知らねえよ。けど、相当溜め込んでるはずだぜ。むかし『誰でもカンタン貯金術』って本読んでたし」
ため息が出そうになるほどの札束の山をそそくさと金庫に入れた梅は、プラムとアローに工房に案内した。ふたりを引き連れて工房内を歩く梅は、車を整備中の若い男性何人かに指示を出しながら、奥の壁際の物置まで足を運んだ。
「お前さんたちが昨日電話で言ってたモンは、あらかた準備できとる。ランエボに換装する部品も揃っとるから、あと数時間くらいここら辺で待っといてくれ」
そう言うと、梅はダンボールや部品入れが乱雑に置かれた物置から、ひときわ厳重な雰囲気を放つアタッシュケースを何個も取り出した。近くにあった台座と折りたたみ式ベンチを広げ、3人は座ると、早速いくつものアタッシュケースを開けて中身を取り出した。
「まずはSIG SAUER KSC-P226R サプレッサー付き2丁と、P3652丁。それぞれカートリッジは100以上ある。弾切れの心配はいらん」
「おっ。このナイフ、コールドスチールじゃん。さすが梅さん。分かってらぁ」
「そうじゃろ。それも2本取り寄せて、こっちでちょいと加工しといたぞ」
「こんなの、誰が付けるのよ」
呆れ顔のアローが持ち上げたのは、防弾チョッキだった。
「あーそれ?『黒川翔斗』用に注文した」
「バッカねぇプラム。年頃の高校生が学校にこんなもの来ていけるわけないでしょ」
「え、でもそれ、服の下に着ても大丈夫なやつだぞ?」
「あのねぇ・・・膨らんじゃうでしょーが。制服姿が膨れるなんて、思春期にとってみたらとんでもない話よ?」
「そんなこと気にしてる場合かよ。死なれちゃこっちが困るんだ」
「気にしてる場合なのよ。少年のおしゃれ心も尊重してやんなさい」
若干の言い合いになるプラムとアローを無視して、梅は続いてあるものを持ってきた。
「ほれ! 91式携行地対空誘導弾。こいつぁオマケだ」
急に現れた地対空ミサイルに、ふたりは目を丸くして驚いた。
「何よこれー! 頼んでないわよ?」
「おいおい、こんなもんどっから仕入れたんだ」
「凄いじゃろ! ちっと注文してみたくてな? 買ったんじゃ。これでお前さんたちに隙はない!」
「バカ、第一どこに積めってんだ」
「うーむ。ランエボのトランクとかでいいんじゃないか?」
「ヤーよこんな物騒なのー!」
「あたしのランエボは武器庫じゃねえ。・・・ってか、喉乾いた。梅さんコーラ奢って~」
「あたしもあたしも!」
「なんじゃお前たち、ジュースくらい自分で買わんか!」
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