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第六章「黒」
六万回目のプロローグ
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ついさっきまで、エストは今回召喚された被召喚者を殺す算段を立てていた。しかし今、彼女はその計画を捨て去った。
「は⋯⋯はは。ああね、そう⋯⋯そうか」
エストは、段々と記憶を思い出していっていた。彼女の能力では殆ど経験することのない感覚であったが、それは仕方のないことであった。本来であれば、彼女のその記憶は全て消去されていただろうから。
「思い出した⋯⋯いや、今回だけかもしれないね。少なくとも、こんなものじゃないはずだ」
エストが思い出した記憶は前回のことだけだ。しかもそれも完璧ではない。夢のように曖昧であったが、存在は確実だ。
「⋯⋯ああ、覚えているよ、マサカズ、ナオト、ユナ、レイ、そしてイザベリア、私は」
メーデアによって世界は終焉を迎えるはずだった。しかし、その直前、マサカズの手によって世界の時間は逆行し、終焉は防がれた。
その回数はエストにはわからなかった。だが、それがたった一回であるはずがない。この、前回は覚えられなかった倦怠感があるのだから。
分からないことは多い。ならば、知れば良い。幸いにも、当事者の居場所は知っているのだから。
「──やることは山積みだね」
そして、エストは家を出た。
◆◆◆
──目を醒ましたとき、三人の周りには大勢の人がいた。しかし彼らには自我がないように思えた。そうまるで、魂を失ったかのようであったのだ。
先程まで、彼はバス停に居たはずだ。しかし気づけば、この場所に居た。
広さはおよそ体育館ほどか、もしくはもっと広い。人を百人ほど入れてもまだまだ余裕があるくらいだ。
中心にはレッドカーペットが敷かれており、その先には玉座がある。高い天井にはいくつもシャンデリアがあった。ステンドグラスから差す光はオレンジ色であって、それは彼らを照らしていた。
「────」
しかし、それには既視感があった。否、実際に見たことがある。なにせ、これは、
「先に謝ろう」
王冠を被った、かなり年老いた男──現ウェレールの国王は、口を開き三人に謝罪する。
彼に対して、ユナは「ここはどこですか?」とこの後訊くのだ。
「ここはどこですか?」
マサカズの知っている通りに、世界は動く。
彼には予知能力なんてない。ただ、それに近しいことができるだけだ。
「⋯⋯そうかよ。そうか。ああ、そうなのか」
──『死に戻り』をしたことを覚えている。いや、それ以外のことも全て思い出した。
「⋯⋯?」
そんなマサカズの言葉に、王は頭の上に疑問符を浮かべる。ナオト、ユナも同じだ。
「ああ、失礼」
マサカズは立ち上がり、忘れていた高貴な立ち振る舞い行う。それは正しく貴族がするものであり、そこには培われたものがあった。真似しただけのものではなかった。
しかし、その動作を見た国王は、驚いた。なにせその振る舞いは、今やする者は居ないほど、昔のものであったから。そして何より、それを異世界人がしたことに。
「現国王、メラオア・ボッサ・ララ・リゲルドア・ウェレール様とお会いできて光栄です」
正和は、まだ彼に名前を名乗っていない王に対して、深く頭を下げる。
「俺は⋯⋯私は、黒井正和。貴方様の『黒の魔女を殺せ』という命、必ずや成し遂げてみせましょう──『最初の魔法使い』という名に懸けて」
そしてまだ言ってもいない願いを、正和は当てた。
「は⋯⋯はは。ああね、そう⋯⋯そうか」
エストは、段々と記憶を思い出していっていた。彼女の能力では殆ど経験することのない感覚であったが、それは仕方のないことであった。本来であれば、彼女のその記憶は全て消去されていただろうから。
「思い出した⋯⋯いや、今回だけかもしれないね。少なくとも、こんなものじゃないはずだ」
エストが思い出した記憶は前回のことだけだ。しかもそれも完璧ではない。夢のように曖昧であったが、存在は確実だ。
「⋯⋯ああ、覚えているよ、マサカズ、ナオト、ユナ、レイ、そしてイザベリア、私は」
メーデアによって世界は終焉を迎えるはずだった。しかし、その直前、マサカズの手によって世界の時間は逆行し、終焉は防がれた。
その回数はエストにはわからなかった。だが、それがたった一回であるはずがない。この、前回は覚えられなかった倦怠感があるのだから。
分からないことは多い。ならば、知れば良い。幸いにも、当事者の居場所は知っているのだから。
「──やることは山積みだね」
そして、エストは家を出た。
◆◆◆
──目を醒ましたとき、三人の周りには大勢の人がいた。しかし彼らには自我がないように思えた。そうまるで、魂を失ったかのようであったのだ。
先程まで、彼はバス停に居たはずだ。しかし気づけば、この場所に居た。
広さはおよそ体育館ほどか、もしくはもっと広い。人を百人ほど入れてもまだまだ余裕があるくらいだ。
中心にはレッドカーペットが敷かれており、その先には玉座がある。高い天井にはいくつもシャンデリアがあった。ステンドグラスから差す光はオレンジ色であって、それは彼らを照らしていた。
「────」
しかし、それには既視感があった。否、実際に見たことがある。なにせ、これは、
「先に謝ろう」
王冠を被った、かなり年老いた男──現ウェレールの国王は、口を開き三人に謝罪する。
彼に対して、ユナは「ここはどこですか?」とこの後訊くのだ。
「ここはどこですか?」
マサカズの知っている通りに、世界は動く。
彼には予知能力なんてない。ただ、それに近しいことができるだけだ。
「⋯⋯そうかよ。そうか。ああ、そうなのか」
──『死に戻り』をしたことを覚えている。いや、それ以外のことも全て思い出した。
「⋯⋯?」
そんなマサカズの言葉に、王は頭の上に疑問符を浮かべる。ナオト、ユナも同じだ。
「ああ、失礼」
マサカズは立ち上がり、忘れていた高貴な立ち振る舞い行う。それは正しく貴族がするものであり、そこには培われたものがあった。真似しただけのものではなかった。
しかし、その動作を見た国王は、驚いた。なにせその振る舞いは、今やする者は居ないほど、昔のものであったから。そして何より、それを異世界人がしたことに。
「現国王、メラオア・ボッサ・ララ・リゲルドア・ウェレール様とお会いできて光栄です」
正和は、まだ彼に名前を名乗っていない王に対して、深く頭を下げる。
「俺は⋯⋯私は、黒井正和。貴方様の『黒の魔女を殺せ』という命、必ずや成し遂げてみせましょう──『最初の魔法使い』という名に懸けて」
そしてまだ言ってもいない願いを、正和は当てた。
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