白の魔女の世界救済譚

月乃彰

文字の大きさ
上 下
42 / 338
第二章「魔女殺しの神父」

第三十九話 蹂躙

しおりを挟む
 ウェレール王国がガールム帝国に宣戦布告を出してから三週間後の日の朝。今日はいつもと比べて気温が高く、早朝だというのに動いていると汗をかくくらいだ。
 現在時刻から二時間後に、戦争は始まる。そのためか、兵士たちの顔には緊張の色が見えた。
 戦争の舞台は王国と帝国のさかいにあるレレグア平野。その近くにある王国軍の駐屯地は騒がしくなっていた。
 彼女の白いロングヘアはサラサラとしており、瞳は灰色。白を基調としたゴシックドレスは彼女の優美さを強調しており、豊満な体つきとその美貌も相まって、ここに居る殆ど全員の目を引く──いや、一部はそれとは違った理由で目を引かれただろう。

「まさか、あの人が⋯⋯」「魔女⋯⋯」「あれが⋯⋯」

 美貌に惹かれた者、魔女であるという情報を事前に知っていた者、その力の片鱗を感じた者、違いがあるとはいえ、絶句する結果には違いなかった。

「──まあ流石に、斬りかかってくる人間は居ないね」

 名を出すだけで、彼女に斬りかかって来る者も少ない。その場合、大抵は相手を殺すことになる。
 この場で人を殺してしまうことにならずに済みそうだ。

「冒険者には僕が言っておいた。王国軍人はその辺弁えてる。徴兵はそもそも、そんな勇気ある行動はしないだろう。⋯⋯お前に敵対しようものなら──帝国みたいになる、そうだろう?」

 白の魔女、エストに近づくのは冒険者組合長、ジュン・カブラギだけだった。それ以外の全員は、近づくどころか距離を取っていた。

「そうだね。⋯⋯で、帝国軍の様子は?」

「絶好調だ。何せ、警戒すべきは僕たち二人だけと考えてるからね」

 駐屯地にある見張り台から、ジュンは帝国の駐屯地の様子をずっと見ていた。その限り、あちらの士気はかなり高いように思えた。

「⋯⋯じゃあ、その余裕を砕いてあげよう」

 エストは嗜虐的しぎゃくていな笑みを浮かべる。

「⋯⋯。それで、例の神父はお前とレネさんが対応するのか?」

「そうだね。キミは雑魚帝国兵狩りでもするといい」

「⋯⋯それが分からない。どうしてだ? 僕がそこに加わわれば、勝率は上がると思うんだが」

 ジュンの疑問は最もだ。エスト、レネとアレオスの戦いに、彼は十分介入できる実力を持つ。無論、それを知らないエストではない。

「うん。実力だけなら、キミは役に立つ。⋯⋯でも、私たちの作戦に、キミは必要ない。むしろ邪魔なんだ」

「──は?」

 邪魔だと言われ、ジュンは少し不機嫌になる。

「アレオスの実力をキミは知ってるの?」

「⋯⋯化物、としか」

「なら尚更だね。⋯⋯作戦は、私の能力でレネとの完璧なコンビネーションを取って、人数差を活かして奴を仕留めるというものだ。でも、私の能力は、自分を除けば単体にしか使えないんだよ」

 エストの能力である『記憶操作』は、同時に複数の他者に使うことはできない。記憶の共有──思考の共有は、一人としかできないというわけだ。

「そして、アレオスの実力は私よりもほんの少しだけとはいえ高い。近接戦闘は当然、ちょっとやそっとじゃ魔法も意味をなさない」

「⋯⋯なんだと?」

 彼女の実力をよく知るジュンだからこそ、その事実には驚きを隠せない。最強の魔女と言われる彼女でさえ、勝てると確信できない相手であるからだ。

「──もっとも、周りを気にしなければ、まだ手段はあるんだけど」

 エストにとっての最大の切り札は、敵味方関係なく即死させるような魔法だ。それを使ってしまえば、レネごと全てを、彼女自身以外を殺してしまう。とは言っても、それがアレオスを殺せるとは限らない。博打ばくちみたいなものだ。

「⋯⋯つまり、コンビネーションを取らなければ例の神父に負ける可能性が高いが、それができるのは一人とだけ。⋯⋯僕とお前の関係なら、特別僕を選ぶ理由はない、ってわけだ」

「そう」

 家族同然のレネか、殺し合いに発展しそうなくらい仲が悪いジュンか。エストが選ぶのは当然、前者だ。
 三人でコンビネーションなしでアレオスと戦うのも悪くない選択だが、それは一人潰されれば終わる諸刃もろはの剣だ。それならば、思考共有ができて、カバーし合える二人組の方が良いし、戦力的にもそれで十分である。

「そういえば、あの三人はどこなんだ?」

「多分、もうそろそろここに着く頃だろうね」

 噂をすれば影が射す。主に冒険者たちの騒ぎ声がする。

「来たみたいだね」

「⋯⋯あれからしばらく会ってないし、久しぶりに顔を見せるべきかな」

 ジュンはその騒ぎ声がした方に向かう。エストただ一人だけがそこに取り残された。

「──私も私で、準備をしようか」

 エストは自分の記憶の奥底にある、古い技術を思い出す。彼女がそれを最後に使ったのは、たしか約600年前だ。今では人間ですら、その技術を使うのは珍しい。

 ◆◆◆

 二時間後。
 右翼、左翼にそれぞれ五万ずつ。そして王がいる中央部分には二十万の兵が居るのが王国軍だ。それに対して、帝国軍は十万と少なく、素人目からすれば王国軍の圧勝となるのがこの戦争の結末だろう。しかし、現実はそうではなく、徴兵が殆どを占める王国軍と精鋭のみで構成された帝国軍では、この人数差があってようやく互角と言える。
 だがしかし、それもまた、間違いであった。なぜならば、この戦争において互いの兵力など、彼らの前ではあり同然の存在だったからだ。

「何をするつもりだ?」

 帝国の兵の一人が、そんなことを言い出したのは、開戦の合図の直後だった。
 王国軍の最前に、一人の少女が立っている。その少女が何者であるかを知らない者は、この場には居なかった。
 ──突如、少女は左腕を天に向かって上げる。

「っ!?」

 そこからの光景は、王国、帝国に関わらず、殆どの人間が信じられなかったものだった。
 彼女の左手の先に、地面と平行の巨大な四重ほどの赤色の魔法陣が現れる。
 溢れんばかりの魔力が辺りの空間に漂い、光を屈折させることで蜃気楼しんきろうのような現象が発生する。魔法使いにはそれの原因が、とんでもない密度の魔力であると分かる。
 魔法陣は眩い光を発しながら、常に形を変えつつ動いていた。それは一種の芸術品のように美しかった。
 少女は久しぶりに、その魔法本来の詠唱を全文声にした。普通ならば必要のないそれをわざわざしたのには理由がある。

「儀式魔法⋯⋯用途は行使できない高位の魔法を使うために、多人数で行う特殊な魔法の詠唱方法。本来、私達魔女には必要のない技術だ。でも、もしそれを魔女が行ったのなら?」

 一般常識での魔法の詠唱とは、本来の詠唱を短縮したものに過ぎない。だがそれで十分であったから、短縮されたその詠唱が一般化されたのだ。

「答えは簡単。そのリソースが魔法行使の安定化ではなく、代わりにその効果に割かれるようになる。普通なら、こんな長ったらしい詠唱を戦闘中にできるはずないけど、戦争前には時間がたっぷりとあった。──三十分くらいの詠唱とその効力の保持は、結構集中力を使うよ。けど、その威力はどうなるだろうね?」

 エストが展開した魔法陣の魔力反応が強くなる。同時に、魔法の発光が強くなり、近くを赤く照らす。

「あと必要な詠唱文は一言だけだ。⋯⋯さあ、始めようか⋯⋯戦争蹂躙を」


 〈爆裂エクスプロージョン


「⋯⋯てっ、撤退っ!」

 遅すぎる撤退命令。それは本来、この戦場に立った時点で行うべきものだった。
 ──瞬間、この戦場全体に渡るほどの光が発せられる。
 帝国軍の中央陣を丸々飲み込むほどの大爆裂が引き起こされる。凄まじい熱が、凄まじい衝撃が、人間をドロドロの肉塊に、細々とした肉塊に、哀れな姿へと変えていく。所詮鉄の鎧など氷のように一瞬にして溶けて、役目を果たさずに消滅する。防御魔法だって刹那さえ持たずに破壊される。
 平民貴族、善人悪人、老若男女ろうにゃくなんにょ、立場が低い者から高い者、それらは一切問われず、万人は等しく虐殺される。
 死への絶望。戦への後悔。人への思い。それらは犠牲者たちが、一瞬だけ、死ぬ直前に思ったことだ。
 この一連が終了した頃には、中央に居たはずの兵士は誰人一人として生きていなかった。辛うじて原型が残った死体でさえ、見当たらない。両翼の一部人間も被害を受けて、生きたまま体の一部がドロドロになった人間、風圧によって空中に飛ばされ、そのまま落下死した人間も多い。
 ──中央の全兵約四万人と、その他死者、重傷者数は約一万人。計五万人の兵士は、たった一撃の魔法によって、その命を失うこととなった。

「⋯⋯これで普通の〈爆裂エクスプロージョン〉と同じ消費魔力量だから、詠唱がいかに大きな力を持っているか分かるよね。まあ実用的でないんだけど。⋯⋯でも、詠唱文が長ければ長いほど、威力は上がるのかな? オリジナルの詠唱文を考えるのも良さそうだ」

 そんな惨劇さんげきを起こした張本人であるエストは、その手で人間を大量に殺したというのに、全く悪びれる気も、反省する気も、謝る気も、後悔する気も、ましてや興味すら示さない。彼女が唯一、興味を示したのは魔法についてであり、今行ったこれだって、彼女にとっては魔法研究の、魔法についての知識を深めるための一環に過ぎなかったのかもしれない。

「まあいいや。それは後でじっくりと考えよう」

 エストは後ろに居る王国軍に振り返る。その姿はとても可憐で、そして──。

「こんなの⋯⋯戦争じゃない」

 恐怖した王国軍の誰かが言った。それを確かに聞いたエストは、答えた。

「そうだよ。これは──私による帝国の蹂躙。そして、私達だけの戦い。戦争なんて、名目上のものだよ。⋯⋯でも、キミたちが思う戦争もできる。だって、まだまだ敵はいるでしょ?」

 エストは生き残っている帝国軍を指差す。半狂乱状態にあり、どう見ても戦意を喪失しているが、生きている。
 半数の約五万人は殺害、無力化されたことで、本来の戦争ならば既に終了している。普通ならば撤退戦の開始だし、王国の兵士たちは帝国への同情心もあるため、王国は彼らを見逃す選択を取っただろう──エストが居なければ。

「今度はキミたちの手番だ。私達には殺さないといけない敵が居るからね。レネ、早く行こう」

「⋯⋯エスト、あなたには後で、説教しなくてはいけませんね」

「⋯⋯えっ。なんで」

「なんででも、です。⋯⋯心配しなくても彼女は皆さんに被害など与えません。わたくしが保証しますので」

 後ろから歩いてきた青の魔女、レネとエストは、転移魔法によって次の瞬間消える。どこへ行ったか、なんて考える気にもなれない。

「レネ様──あなた様を信じてもよろしいのですか?」

 王国の英雄にして女神。彼女への信頼は、信仰に至るほどだ。だから、王国兵は、辛うじて正気を保てたのかもしれない。
 王国軍人たちは、槍を構えて、突撃する。
 雄叫びにはどのような感情が込められていたのだろうか? 帝国軍が半壊したことで、勝ち戦が決定したことによる喜びか? 生きて帰られる可能性が高くなったことによる感動か? それとも──これをいとも簡単に行った少女への恐怖か?
 いやおそらく、恐怖だろう。敵であるはずの帝国軍に「逃げてくれ」と心の底から懇願こんがんするほどに同情している。あるいは、今度は自分たちが帝国軍と同じ目に遭わされるのではないかという心配をしている。

 ──これは戦争という名の蹂躙、大虐殺だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...