29 / 36
28.醜態
しおりを挟むラウル様に…侯爵の爵位が…!?
この年で、しかも伯爵家の次男に…これは異例中の異例だ。
会場の皆も驚いている。
「ラウル・アイロワニーは、命をかけ私を賊から守り抜き、ワルヤーク伯爵の悪行を見抜き隣国との戦争を未然に防いだ!更に悪政に苦しむ侯爵領の領民達を救い出したその功績は大きい。その上、妻となるフレミアは元々バラレンド侯爵領を1人で支えていたと報告を受けており、この地を任せる2人に相応しいと見受けられる!!」
「ありがたき幸せ」
ラウル様が跪き返事をする。
何という事だろうか。
侯爵領をもう一度治めることが出来るなんて…これ以上の幸せは無い。
(いや、待って…?)
領民達は私が離れる際に"しばしの別れ"と言っていた。
ラウル様も心配無いと言っていた。
こうなる事が最初から全て分かっていたように……。
(これが全て計算内なら…)
私は自分の夫となるラウル様を少し恐ろしくも思うのだった。
その時。
会場中から拍手が鳴り止まぬ中、
ジュリーが衛兵に捕らわれながら耳を疑うような事を口にした…
「あぁ、ラウル様!このお歳で侯爵なんて凄いですっ!やっぱり貴方は私が思った通りの方でしたわ!!私…侯爵夫人として尽力致しますわ…!」
「何…?」
きっと今まで全て計算内だったラウル様も、これは想定外だったようで思わず顔をあげる。
「ラウル様…お顔も綺麗に治ったし…!これで酷い顔になった事も全て水に流しますわ!お母様とお父様は残念だけど仕方無いですわね!」
突飛な発言に思わず私も話さずにはいられない。
「殿下、発言をしても…?」
そう言うと、皇子は頷かれた。
「ジュリー。おやめなさい。両陛下の御前です!貴女がラウル様の妻になる事は有り得ないのです…!これ以上恥の上塗りはやめなさい!」
姉としての最後の情けだ。
「きゃぁ、またお姉様はそう言っていつも私を虐めて…!はっ!!ラウル様を私から奪おうとしているのね!ラウル様と先に婚約したのは私よ!ラウル様も私とだから婚約したのよ!私と婚約解消になって自暴自棄でお姉様と婚約…そうよね、ラウル様ぁ…?」
その様子を見た皇子が、不快感を露わにした顔つきでラウル様を見る。
[お前、本当にこの女と婚約解消できて良かったな]
そう言わんばかりだ…。
「私は以前も申しましたが、フレミアと婚約できて幸せです。婚約解消を申し出て頂き心より感謝していますよ」
ラウル様はそう言ってジュリーにフワリと微笑む。
その笑顔は男女を問わず虜にする魔性の微笑みだ…。
このような状況にも関わらず、ジュリーも一瞬見惚れているようだ。
しかしふと我に帰り、
「やだっ!やだやだやだ!やっぱり私ラウル様と結婚したい!」
遂に駄々をこね始めた。
「もう、良い。不愉快だ。連れて行け」
今まで事の成り行きを見守っていた陛下が静かにそう仰ると、衛兵が義母と妹を無理やり引きずり連れていく。
「ちょっと!!離しなさいよっ!!元はと言えばラウルが悪いのよっ!!」
「いやあ!怖い!ラウル様っ!?ラウル様!?助けてっ!!!貴女の妻がこんな目にあっているのよ!!ラウル様ぁぁぁいやああああ」
なりふり構わず叫ぶ2人には、もはや哀れみすら感じる…。
父は私の方を振り返ると、哀しそうに微笑み、抵抗する事無く衛兵に連れていかれた。
(お父様………)
父は本当に心の弱い人だった…。
祖父が生きている時は祖父に怯え、次は義母に怯え……。
父親らしい事をしてもらった覚えはあまり無い。
それでも…。
この世に存在する唯一の肉親。
もう少し、向き合いたかった……。
そう思い少し唇を噛む。
しかし。
これからは自分も侯爵夫人。
立ち止まっている暇は無い。
少し湿っぽくなってしまったものの、そう自分に言い聞かすのだった。
会場の扉がパタンと閉まる。
嵐が去った後のようだ。
「他人事のように見ている者もいるかもしれないが…。ラウルの傷を悪く言った者はこちらで全て把握している。第2.第3皇子達の婚約相手を探している所だが、浅はかな者、王族を愚弄する者は真っ先に除外だ」
皇子がそう言うと、数名の令嬢は顔面蒼白になった。
何とか王家と繋がりを持とうと必死になって皇子達と婚約を望む高位貴族は少なくない。
皇子の婚約者になるならない関係無く、王族に悪い印象を与えただけで貴族には致命的だろう。
88
お気に入りに追加
8,074
あなたにおすすめの小説
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?
青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・
心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。
※ご注意
これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。
この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します
天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。
結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。
中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。
そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。
これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。
私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。
ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。
ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。
幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。
婚約破棄、国外追放しておいて、今さら戻ってきてほしいとはなんですか? 〜今さら戻るつもりなどない私は、逃げた先の隣国で溺愛される〜
木嶋隆太
恋愛
すべての女性は15歳を迎えたその日、精霊と契約を結ぶことになっていた。公爵家の長女として、第一王子と婚約関係にあった私も、その日同じように契約を結ぶため、契約の儀に参加していた。精霊学校でも優秀な成績を収めていた私は――しかし、その日、契約を結ぶことはできなかった。なぜか精霊が召喚されず、周りからは、清らかな女ではないと否定され、第一王子には婚約を破棄されてしまう。国外追放が決まり、途方に暮れていた私だったが……他国についたところで、一匹の精霊と出会う。それは、世界最高ともいわれるSランクの精霊であり、私の大逆転劇が始まる。
婚約者を奪われた私は、他国で新しい生活を送ります
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルクルは、エドガー王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。
聖女を好きにったようで、婚約破棄の理由を全て私のせいにしてきた。
聖女と王子が考えた嘘の言い分を家族は信じ、私に勘当を言い渡す。
平民になった私だけど、問題なく他国で新しい生活を送ることができていた。
アリスと魔法の薬箱~何もかも奪われ国を追われた薬師の令嬢ですが、ここからが始まりです!~
有沢真尋
ファンタジー
アリスは、代々癒やしの魔法を持つ子爵家の令嬢。しかし、父と兄の不慮の死により、家名や財産を叔父一家に奪われ、平民となる。
それでもアリスは、一族の中で唯一となった高度な魔法の使い手。家名を冠した魔法薬草の販売事業になくなてはならぬ存在であり、叔父一家が実権を握る事業に協力を続けていた。
ある時、叔父が不正をしていることに気づく。「信頼を損ない、家名にも傷がつく」と反発するが、逆に身辺を脅かされてしまう。
そんなアリスに手を貸してくれたのは、訳ありの騎士。アリスの癒やし手としての腕に惚れ込み、隣国までの護衛を申し出てくれた。
行き場のないアリスは、彼の誘いにのって、旅に出ることに。
※「その婚約破棄、巻き込まないでください」と同一世界観です。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま・他サイトにも公開あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる