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11.家を出るまでの1ヶ月

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「正式にラウル様との婚約が決まりました」


夕食の後、義母、父、妹に報告する。

しかし誰もさほど興味は無いようだ。


「そして…急ではございますが来月にはラウル様の元へ向かい、5ヶ月先には結婚をする約束を致しました」


「それは…随分早いのだな…まぁなんだ…元気でな」

父はチラチラと義母を見ながら当たり障りない言葉を口にする。


「ふぅ、やっと1ヶ月後には居なくなるのね?私、貴女の顔を見ると私を追い出した忌まわしき前妻を思い出してイライラしてたのよね。これで清清するわ」

義母は上機嫌だ。


「あら、お姉様ったら1ヶ月後に出ていかれるのですかぁ?やっぱり傷物になった男は必死ですわねっ!お姉様を逃したらもう結婚なんて夢のまた夢ですもの」


「ジュリー、ラウル様をそのように言わないで」


「まぁ!お姉様ったら早速ラウル様に同情されているのですね。やっぱり優しいですわね」

妹が私に一歩二歩と近づく。
そして耳元で…


「でも、そういう偽善的な所が昔っから大っ嫌い」


私だけに聞こえる声でそう言ってクスクス笑いながら部屋へ戻っていった。



「言っておきますけど、貴女に持たせる持参金はありませんからね。フレミア…貴女の部屋にある帳簿を見たわよ。おかしいと思っていたのよ!こんなに領地は栄えているのになぜ侯爵家はこんなにお金に余裕が無いのか!!そしたら貴女!最低限しか領民からお金を徴収していないじゃない!!」


…余裕が無い…?そんな事は無い。
義母と妹が来ている服は一流の物ばかりであるし、アクセサリーも使い捨てのように毎日違う物をつけている。
食事も贅沢が過ぎる程だ。

確かに履いて捨てる程は無いが、それでもお金が無いわけでは無い。
そもそも彼女達がそこまで贅沢しなければもっと余裕はもっとあるはずだが…。



「あら、ダンマリかしら?まぁ良いわ、これからは私が管理するわ。貴女は貧乏醜草騎士と豪華絢爛な侯爵家を指咥えて羨ましがったら良いわ!おーーほほほ!」


義母はそう高らかに笑い声をあげて扉の方へ歩いていく。

(帳簿を!?)

「お、お義母様!ご存知だとは思いますが、帳簿はとても重要な物でございます!帳簿の写しは王家への献上金と共に提出しなければなりません!万が一…不正が有れば重罪ですわ!それを…」


領民から徴収した税の25%を献上金として王家へ渡す事がこの国の決まりだ。

また、王家への反逆防止のため帳簿の提出も義務化されている。


これらを不正すると王家へ反逆の意があるとみなされ、悪質な場合は領地没収、爵位返上等重い罰が課される。


義母の背中へと訴えるが、手をひらひらとさせ、部屋を出て行った。



父を見やると、


「きょ、今日は疲れただろ、公務は明日からで良いから今日は休むと良い。しかし、1ヶ月でキチンと公務を整理して使用人に引き継いでおくのだぞ」


と言い部屋をそそくさと出て行く。


(公務は明日からで良い…使用人に引き継げ…なんて。やはり父は自分でする気は無いのね….)


思わずため息が漏れる。


「オディロン、聞いていたわよね?」

執事のオディロンに声を掛ける。

「はい。聞いておりました」

「悪いけど…明日から貴方に伝えなければならない事が沢山あるわ…」


オディロンは母の代から母や私の右腕となってこの侯爵家を支えてくれた人物だ。
後を任せるとしたら彼しか適任はいない。


「はい、フレミア様。何なりと」




明日は領地へ視察の日だ。
領民達には何と言えば良いのだろうか。


頭を抱えながら、自室へ戻り明日に備え休むのだった。




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