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7.婚約の行方2
しおりを挟む「わ、私ですか!?」
「実は、噂で聞いていたのです。前侯爵夫人が亡くなられた時、まだ12歳と幼さの残る御令嬢だったのに、侯爵家の為尽力されていて領民からもとても慕われている侯爵令嬢がいらっしゃると…」
…知らなかった。自分がまさかそのように言われていただなんて…。
私が驚いているとさらにラウル様が続ける。
「その時からどのような方なのだろうとずっと気になっておりました。そして、フレミア様が社交界デビューの日。初めてフレミア様を見てフレミア様から目が離せませんでした」
…忘れもしない、デビュタントの日。
同じ歳の妹ジュリーも同じ日に社交界にデビューした。
本来貴族令嬢が社交界へデビューする際には、両親が紹介して回る事が一般的だが、両親はジュリーに付きっきりだった為私は1人だった。
しかし、今後の事を考え他家の方々と良き繋がりを持つ為、慣れない社交場で1人で必死に交流をしていた。
あの時の姿を見られていただなんて…。
「あの日、両親に放っておかれても暗い顔1つせず真っ直ぐに前を向き、侯爵家の為にと立派に振る舞う一生懸命なフレミア様に心惹かれたのです」
…嬉しい……。
自分が知らない間にそうやって誰かに認めて貰えていただなんて…。
「なので…私の中でバラレンド侯爵令嬢と言えばフレミア様だったのです。よくよく話を聞き、婚約相手は妹のジュリー様だと聞いてそれはもう心の底から落ち込みまし……っと!コホン!これはあまりにも失礼ですねっ!!」
慌てて咳払いをするラウル様。
「フレミア様、失礼ながらジュリー様はお元気なのではありませんか?私の顔の傷が恐ろしく婚約解消を望まれたのでは」
ラウル様の質問に思わず固まってしまう。
(ど、どうしましょう…!気付かれているわ…。でもこれ以上嘘は……)
「も、申し訳ございません…!」
これ以上嘘を重ねる事のできない私はそう言って頭を下げる事しかできなかった。
「顔をあげてください。良いのですよ、フレミア様を困らせるつもりでは無いのです。私は貴女に惹かれているからこそ、婚約を解消して貰わなければならないと思ったのです」
「ど、どういう事でしょうか…」
「貴女が望まぬ事を強要したく無かったのです。しかし…やはり貴女とお会いしてこうして話をして…貴女を諦めきれなくなりました」
そう言ってラウル様が立ち上がり、私の前で跪き私に手を差し出した。
「フレミア様。私は貴女にずっと心惹かれておりました。その気持ちは、今日貴女にお会いして確かな物であったと確信致しました。きっかけはこのような形ですが、どうか私と結婚してくださいませんか」
跪かれたラウル様が私を真っ直ぐ見据え、私の胸の鼓動はどんどん早くなる。
今日初めてお話した方なのに、どうしてだろうか。
私の身体中全てがこの告白をお受けするように急かしてくる。
私の直感が言っている。
この方とならば幸せな毎日を過ごして行ける…。
しかし……
「ラウル様…私も貴方に惹かれております…。できれば貴方の手を取りたいと思っている自分がおります。しかし…私が侯爵家を出れば、使用人や領民達がどうなるかが気がかりなのです…」
私が侯爵家を出てしまえば、使用人の皆がぞんざいな扱いを受けてしまうのでは無いか。
義母や妹、父達は自分達ばかりが甘い蜜を吸えるような政治を行い、領民を苦しめるのでは無いか…。
今更私が侯爵家に戻った所で居場所は無い事は分かっているが、それでも自分だけが逃げる訳にはいかない。
「フレミア様…貴女は何という人なのだろう…。一度でも貴女には貴女だけの幸せを考えて欲しいくらいです。しかし、貴女ならそう言うかもしれないと思っていました。侯爵家の事は…私が必ず何とかします。信じてください。私の求婚を断る理由がそれだけであるのならば…どうか私の手を取ってくださいませんか」
「……はい。」
…私には断る理由は無くなった。
そう思い、ラウル様の手を取るのだった。
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