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強引な約束
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2人の一日の流れは、3日目、4日目ともなればもうほぼ確定していた。
学校内では一切会話せず、放課後も別行動で校門を出る。コンビニの所で小坂が待っているので、そこから一緒に喫茶小路へ向かう。コーヒーとカフェオレを飲みながら夜まで勉強し、コンビニまで一緒に帰る。誰かに見られないために、そこで別れる。
コンビニから喫茶店までが、2人の空間となったのだった。
そして金曜日。勉強5日目。授業が全て終わり、帰り仕度をする。碧乃の斜め後ろ辺りにある小坂の席が、何やら騒がしかった。彼に週末の約束を取り付けようと、男女問わず群がっているのだ。部活が休みの今なら、それを理由に断られる事がないからだろう。
「ふぁ…」
全く興味のない碧乃は、出そうになったあくびを噛み殺していた。
帰りのホームルームが終わると、小坂は再び大人数に囲まれた。これはしばらくかかりそうだ。今日は1人でお店に向かう事になるだろう。
碧乃は、小坂と一瞬目を合わせただけで教室を出ていった。助けを求めるような顔をしていたが、巻き込まれたくないので見なかったことにした。
いつものように、喫茶小路までの道を歩く。小坂を待つ気はないので、躊躇なくコンビニの横を通過していく。やはり、1人で行く方が楽だ。
店に到着し、中野さんの出迎えを受けた。
「いらっしゃい。あれ、1人で来たのかい?」
「こんにちは。忙しそうだったので、先に来ました」
「そうかい。今日もコーヒーで良いかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
いつもの席に座り、かばんを下ろす。
碧乃はここのコーヒーがすっかり気に入っていた。たまには勉強抜きでゆっくり飲みたいのだが、小坂と一緒は嫌だった。
…今度バスケ部の練習時間を狙って、1人で来てみようかな。
そんな事を考えながら、碧乃は勉強道具をテーブルに広げた。
勉強を始めて30分程経った頃、やっと小坂が現れた。疲れた様子で、向かいの席にどかっと座った。
「あー、疲れた…」
「…お疲れ様」
問題集から顔を上げ、一応情けをかけてみる。
「こんなことなら、部活禁止の事みんなに言うんじゃなかった…」
ということは、皆それを理由に言い寄っていたのか。……まぁ、そうか。彼のピンチは女子達には接近の大チャンスだ。逃す訳がない。男子に至っては本気で心配してくれたのだろうが。
「それで、明日の予定は決まったの?」
あまり興味はないが、なんとなく訊いてみた。
「え?斉川と勉強に決まってるだろ」
「は?!」
いつ決めたんだ、そんなこと!………って、まさかあれ全部断ったの?
「……」
碧乃は二の句が継げなかった。不覚だった。少し考えれば分かっただろうに、寝不足のせいか頭が働いていなかった。
「何か用事でもあるのか?」
「…………ある」
「え、何すんの?」
「……………………家で……勉強…」
都合が悪い事にしようとしたが、何も思いつかなかった。こういう時に嘘がつけない自分を呪った。
「なんだ。じゃあ、ここですれば良いじゃん」
小坂にむすっとした顔で言われた。
「いや…まぁ……そうなんだけど……」
明日は丸一日、自分の勉強に充てようと思っていたのに。そして小坂からも解放されたかったのに。
そこへ中野さんがカフェオレを持ってやってきた。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます。あ、中野さん、明日って一日中いたら迷惑ですか?」
は?一日中いる気なのか、この人は?
「んー、いや、大丈夫だよ。土曜日だからそれなりにお客さんは来るけど、満席にはならないからね」
そこは断ってほしかった…。中野さんは優しすぎる。
「じゃあ、明日もここで2人で勉強させてもらってもいいですか?俺1人じゃ全然はかどらなくて…」
小坂は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。碧乃には、それがわざとらしく見えた。
「ああ、もちろん。そんな事でお役に立てるなら、私も嬉しいよ。どんどん使って構わないからね」
勝手に話が進んでいく。もう口を挟める雰囲気ではなかった。
「すいません、ありがとうございます。あ、昼もここで食べて売り上げに貢献しますよ」
「おー、それは嬉しいねぇ。じゃあ頑張ってね」
中野さんは戻っていった。
「…だってさ?」
小坂は、意地悪な笑みを向けてきた。
「……」
完全に先手を打たれてしまった。ちょっと嫌な顔をしただけなのに、そこまで強引に決めなくても良いじゃないか。
「明日もよろしく、先生」
「…せんせい?」
「俺今、家庭教師雇ったことになってるから」
「あ…そう……」
そう言って皆の誘いを断ったのか。あながち間違いではないが、なんか嫌だ。
「…明日もちゃんと来るから、先生はやめて」
「はいはい」
……まただ。嬉しそうにニヤニヤした顔。彼が気さくで優しいだなんて、絶対嘘だ。
「んで、今日は何?」
「え?あ、えっと…」
小坂の問いに、碧乃はモヤモヤした脳内を何とか切り替えた。
「…眠い」
碧乃は自分の部屋に入ると、ベッドではなく勉強机に向かった。毎晩睡眠時間を削っているので、横になったら速攻で寝てしまいそうだった。明日は11時にコンビニ集合になった。店で直接待ち合わせれば良いのにと思ったが、面倒だったので反論しなかった。
…明日も小坂に会うのか。
ため息を1つ漏らす。もう、これで何度目だろう。ため息をつくと幸せが逃げてしまうというのに。
もう、やめよう…。考えていたら、また逃がしそうだ。
碧乃は大きく伸びをした。
「…よし」
明日できない分、今日頑張って勉強しなくては。
学校内では一切会話せず、放課後も別行動で校門を出る。コンビニの所で小坂が待っているので、そこから一緒に喫茶小路へ向かう。コーヒーとカフェオレを飲みながら夜まで勉強し、コンビニまで一緒に帰る。誰かに見られないために、そこで別れる。
コンビニから喫茶店までが、2人の空間となったのだった。
そして金曜日。勉強5日目。授業が全て終わり、帰り仕度をする。碧乃の斜め後ろ辺りにある小坂の席が、何やら騒がしかった。彼に週末の約束を取り付けようと、男女問わず群がっているのだ。部活が休みの今なら、それを理由に断られる事がないからだろう。
「ふぁ…」
全く興味のない碧乃は、出そうになったあくびを噛み殺していた。
帰りのホームルームが終わると、小坂は再び大人数に囲まれた。これはしばらくかかりそうだ。今日は1人でお店に向かう事になるだろう。
碧乃は、小坂と一瞬目を合わせただけで教室を出ていった。助けを求めるような顔をしていたが、巻き込まれたくないので見なかったことにした。
いつものように、喫茶小路までの道を歩く。小坂を待つ気はないので、躊躇なくコンビニの横を通過していく。やはり、1人で行く方が楽だ。
店に到着し、中野さんの出迎えを受けた。
「いらっしゃい。あれ、1人で来たのかい?」
「こんにちは。忙しそうだったので、先に来ました」
「そうかい。今日もコーヒーで良いかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
いつもの席に座り、かばんを下ろす。
碧乃はここのコーヒーがすっかり気に入っていた。たまには勉強抜きでゆっくり飲みたいのだが、小坂と一緒は嫌だった。
…今度バスケ部の練習時間を狙って、1人で来てみようかな。
そんな事を考えながら、碧乃は勉強道具をテーブルに広げた。
勉強を始めて30分程経った頃、やっと小坂が現れた。疲れた様子で、向かいの席にどかっと座った。
「あー、疲れた…」
「…お疲れ様」
問題集から顔を上げ、一応情けをかけてみる。
「こんなことなら、部活禁止の事みんなに言うんじゃなかった…」
ということは、皆それを理由に言い寄っていたのか。……まぁ、そうか。彼のピンチは女子達には接近の大チャンスだ。逃す訳がない。男子に至っては本気で心配してくれたのだろうが。
「それで、明日の予定は決まったの?」
あまり興味はないが、なんとなく訊いてみた。
「え?斉川と勉強に決まってるだろ」
「は?!」
いつ決めたんだ、そんなこと!………って、まさかあれ全部断ったの?
「……」
碧乃は二の句が継げなかった。不覚だった。少し考えれば分かっただろうに、寝不足のせいか頭が働いていなかった。
「何か用事でもあるのか?」
「…………ある」
「え、何すんの?」
「……………………家で……勉強…」
都合が悪い事にしようとしたが、何も思いつかなかった。こういう時に嘘がつけない自分を呪った。
「なんだ。じゃあ、ここですれば良いじゃん」
小坂にむすっとした顔で言われた。
「いや…まぁ……そうなんだけど……」
明日は丸一日、自分の勉強に充てようと思っていたのに。そして小坂からも解放されたかったのに。
そこへ中野さんがカフェオレを持ってやってきた。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます。あ、中野さん、明日って一日中いたら迷惑ですか?」
は?一日中いる気なのか、この人は?
「んー、いや、大丈夫だよ。土曜日だからそれなりにお客さんは来るけど、満席にはならないからね」
そこは断ってほしかった…。中野さんは優しすぎる。
「じゃあ、明日もここで2人で勉強させてもらってもいいですか?俺1人じゃ全然はかどらなくて…」
小坂は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。碧乃には、それがわざとらしく見えた。
「ああ、もちろん。そんな事でお役に立てるなら、私も嬉しいよ。どんどん使って構わないからね」
勝手に話が進んでいく。もう口を挟める雰囲気ではなかった。
「すいません、ありがとうございます。あ、昼もここで食べて売り上げに貢献しますよ」
「おー、それは嬉しいねぇ。じゃあ頑張ってね」
中野さんは戻っていった。
「…だってさ?」
小坂は、意地悪な笑みを向けてきた。
「……」
完全に先手を打たれてしまった。ちょっと嫌な顔をしただけなのに、そこまで強引に決めなくても良いじゃないか。
「明日もよろしく、先生」
「…せんせい?」
「俺今、家庭教師雇ったことになってるから」
「あ…そう……」
そう言って皆の誘いを断ったのか。あながち間違いではないが、なんか嫌だ。
「…明日もちゃんと来るから、先生はやめて」
「はいはい」
……まただ。嬉しそうにニヤニヤした顔。彼が気さくで優しいだなんて、絶対嘘だ。
「んで、今日は何?」
「え?あ、えっと…」
小坂の問いに、碧乃はモヤモヤした脳内を何とか切り替えた。
「…眠い」
碧乃は自分の部屋に入ると、ベッドではなく勉強机に向かった。毎晩睡眠時間を削っているので、横になったら速攻で寝てしまいそうだった。明日は11時にコンビニ集合になった。店で直接待ち合わせれば良いのにと思ったが、面倒だったので反論しなかった。
…明日も小坂に会うのか。
ため息を1つ漏らす。もう、これで何度目だろう。ため息をつくと幸せが逃げてしまうというのに。
もう、やめよう…。考えていたら、また逃がしそうだ。
碧乃は大きく伸びをした。
「…よし」
明日できない分、今日頑張って勉強しなくては。
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