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エピローグ

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 何度目かのため息をつき、ラナは窓辺からぼーっと外を眺めていた。

 イベリスが国に帰って三週間が経とうとしていた。

 今は完全に夜歩きをやめ、トリトマの元へは供を連れて昼の間に会いに行っていた。

 家族と和解し、充実した日々を送っているはずなのに、なんとも物足りない。

 ほんの数日ではあったけれど、いつも側にいた小さなカエルと言い合う日々は、とても楽しいものだった。

 彼は今、何をしているのだろう?

 …と、その時だった。

 ガラガラと音をたて、一台の馬車が敷地を抜け城の前に止まった。

 「!?…あれは!」

 「あっ!お、お待ちください!ラナ様!」

 馬車にレッド王国の紋章を認め、ラナは慌てて部屋を出ていった。

 モナルダ達が驚くのもかまわず、そのまま城の入り口まで全力で駆けていく。

 そして…。

 「…おい、なんだ?ここの王女はまともに客の出迎えもできないのか?」

 「……イベリス」

 久方ぶりの王子の姿だった。

 「ラナ、お前を迎えに来た」

 「…え?」

 「聞くところによると…お前、お見合いで全敗らしいな?」

 「なっ…ど、どうしてそれを知ってるの?!」

 年頃の娘であるラナは、実は何度もお見合いを繰り返していた。

 第一印象は悪くないはずなのに、なぜかいつも途中で向こうからお断りされるのだった。

 「どうせカエルの話に熱中しすぎて相手に引かれてるんだろ」

 「え!そうだったの?!」

 「自覚なかったのか…」

 「だって皆、笑顔でうなずいてくれてたから」

 「それは愛想笑いというやつだ」

 「そうだったのね…」

 落ち込むラナを、イベリスはふっと笑って抱き寄せた。

 「ひゃっ」

 「来い、ラナ。俺ならその話を聞いてやれる。……俺にはお前が必要だ」

 「っ!」

 「俺の隣で、ずっとその笑顔を見せてくれ」

 頬を撫でられ、ラナはぴくんと反応した。

 慣れない事に戸惑いながら、おずおずと王子を見上げる。

 「……本当に…私の話、聞いてくれる?」

 「ああ、もちろんだ」

 「引いたりしない?」

 「それは保証できんな」

 「ええ?!」

 「お前は変人だからな」

 「んもう!」

 「ははっ」

 イベリスがラナの瞳を覗き込む。

 「さぁ、どうする。…来るか?俺の元へ」

 「……行く」

 この日、2人の婚姻は決まった。

 きっといろいろ言い合いながらも、幸せに暮らしていくに違いない。
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