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 「一体、何を考えているのあなたはっ!!」

 思い切り落とされた雷に、ラナはびくっと肩をすくませた。

 城へ戻ったラナとイベリスは、そのまま会議の間へと呼ばれ、事の子細を説明する事となった。その際、ラナの夜歩きの事も明るみに出てしまい、ただ今説教の真っ最中であった。

 「ご、ごめんなさい…フリージアお姉様」

 城の兵を動かしたのは、なんと長女のフリージアだった。

 ベンジャミンが城に来たと聞いた瞬間、良からぬ事態だとすぐに察知し、急いで兵を向かわせたのだった。

 「王女の身でありながら、夜な夜な一人で森を歩き回っていたなんて!何かあったらどうするの?!」

 「でも…カエルは夜行性なのよ?夜に行かなきゃ捕まえられないわ」

 「だからって一人で出歩いていい理由にはならないでしょう!?」

 「っ!…だ、だって…行きたいと申告したところで、許可なんてしてもらえないから…」

 「当たり前です!」

 そこまで言って、フリージアは憂いを瞳に宿した。

 「ねぇ、ラナ…。どうしてそんな危険な事をしたの?何か、そうしなければならない理由でもあったの?」

 「……それは…」

 ラナは言いにくそうに俯いた。

 すると、代わりにイベリスが口を開いた。

 「城の皆に認めてほしいから、だそうだ」

 「っ…」

 「認める?何を認めてほしいの?」

 「こいつの存在価値だ」

 「え?存在価値?一体どういう事なの?」

 さっぱり分からない、とフリージアは続きを促す。

 「こいつは、自分の事をこの世に必要のない存在だと思っている。皆が求めた男として生まれなかったから、自分には存在価値はないのだと。だから歴史に残るほどの功績を挙げて、少しでもその価値をあげたかったと、俺にそう話していた」

 フリージアの顔に悲しみが浮かぶ。

 「まぁ、ラナ……。あなた…そんな風に思っていたの?」

 「…………」

 ラナは俯いたまま、服の裾をギュッと握りしめた。

 「そんな事…あるはずないじゃない!」

 「っ!……お姉様…?」

 フリージアの強い断言に、ラナは驚いて顔を上げた。

 「確かに、あなたが産まれた時は残念がる人もいたわ。でもそれを覆して余りあるほどに、あなたはとても可愛かった」

 「!」

 「素直で、聞き分けが良くて、ものすごく元気で。いつも皆をその可愛い笑顔で幸せにしてくれてた。……正直言うとね?真ん中のアベリアやプリムラより、あなたの方が可愛いと思っているの」

 「え!?」

 「だって!あの子達ったら、私の事を口うるさいだのなんだのって、悪口ばっかり言うのよ?こっちは2人のためを思って言ってるのに!」

 「…………」

 フリージアは、ラナを優しく抱きしめた。

 「あなたは私の大事な大事な可愛い妹よ。誰がなんと言おうとね。だからもう、危ない事はしないで」

 「っ……」

 ラナはフリージアを抱きしめ返し、その胸に顔をうずめた。

 「はい……お姉様」

 家族との間にあった溝は、王子の助けもあって無事に埋まった。

 もう、王女が自分を悲観する事はない。

 「あ、そうだ。ねぇ、知ってた?実はお父様の部屋にね、あなたが小さい頃に描いたお父様の似顔絵がまだ飾ってあるのよ?」

 「ええっ?!」

 小さな驚きをたくさん受けながら、王女は平和に暮らす事だろう。
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