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第一章

その5

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「わたしは王宮にいて、満たされない退屈を感じていました。それでわたしは国を見て回ろうと考えたのですが、思ったより楽しいことは少なく、供の者も皆死んでしまいました。あなたは満ち足りて、幸福そうですが、それはどうしてなのでしょう?」
「それにお答えするのは簡単ですじゃ。わしは与えられる物に満足し、感謝しておりますからじゃ」
「与えられる物? あなたはこう言っては失礼だが、豪華な館や、きらびやかな装飾品も持たず、着古した繕いだらけの服を着て、確かに大変美味ではありましたが、ヤギの乳とパンの食事のみで満足していると言うのですか? それに、重ねての失礼を承知で言いますが、あなたはとても年を取っておられます。少なくとも、感謝に足るような何かを与えられているようには見えません」
「いいえ、殿下。今あなたがおっしゃったことは皆、充分に感謝に足る物ですじゃ。粗末かもしれないが、雨露しのげる暖かい小屋は、どんな豪奢な宮殿よりも居心地がいいし、この服はわしの娘がひと針ずつ、愛情こめて繕ってくれたもので、丈夫で着心地よく、働くにはもってこいのものですじゃ。それに、年を取ると、確かに体力は衰え、目も悪くなり、骨は痛み、皮膚は弾力を失って、命はしぼんでいくように思われるものですが、体力が衰える代わりに経験は増え、知恵がつき、物事は若いときよりも、ずっとよく見えますのじゃ。何もかもが有り難いことだと骨身にしみて、身の回りにあるものはすべて皆、ひとつとして当たり前のものなどなく、そのどれもがわしに与えられている物だということが、つくづくとわかりますのじゃ。そうすると、すべてがいとおしく、奇跡のように思えて来て、ますます感謝が生まれ、わしはもっと満たされて、幸福な気持ちになるのですじゃ」
 ミシオン王子は農夫が語る言葉に真剣に耳を澄ませていましたが、しばらく黙って考えてから、正直に言いました。
「あなたのおっしゃることは、まるで年を経た木に生っている果実のようなものだということはわかります。しかし、わたしにはその実を噛んで味わって飲み込むことは、難しいかもしれません」



 農夫は重く垂れさがった瞼を半ば開くようにして微笑すると、
「殿下はまだとてもお若くていらっしゃるからのぅ」
「でもおじいさん、年を取れば誰でもそうなるという訳ではないのでしょう? わたしは年老いた人たちもたくさん知っていますが、あなたが今おっしゃったようなことを考えている人は、いないように思います」
「それは殿下、確かに誰もが皆、こうした考えを自然に持つというわけではございません。しかし、心がけて日々を暮らしていれば、老境に差し掛からずとも、真の豊かさや人生について、幸福な考え方を築くことはできますのじゃ。恐れながら殿下、そうしたことをあなたに教えて差し上げることのできるような人々は、殿下のお側近くからは追い払われておるのでしょう。そうしたことを教える人というのは、若い人たちにとってはうるさいものでしょうからな」
 ミシオン王子はそれまでの自分の生き方を恥じました。教育係をはじめ、王子よりずっと年上の貴族たちの中には、王子にあえて耳の痛いことを言う人たちがいて、王子はこうした人々のことを邪魔に思って遠ざけたので、向こうの方でも王子からは離れて行ってしまったので、親しく話をする機会がなかったのでした。



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