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月にのぼった野ねずみの一家~シャルル・ド・ラングシリーズ2

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 アルマンとコレットは、まるで事態の呑み込めない様子で、目をまんまるに見開いてジェラルドを見つめ、茫然と立ち尽くしていました。
「お、おいおい、ジェラルド。おまえは一体何を言い出すんだ?」
 思いがけない告白に、アルマンは無理やり作った笑顔を張りつかせながら、ジェラルドの方に近づいていきました。アルマンにつられるように、コレットもギィを連れ、うずくまって泣き叫ぶジェラルドのもとに歩み寄りました。
「そ、そうよ、ジェラルド。めったなことを言うものじゃないわ」
 しかしジェラルドは地面に突っ伏したまま、両手で頭を覆って首を振りながら、泣くばかりでした。



 コレットは自分の体から血の気が引いていくのを感じながら、一家の少し離れたところに立っているシャルル・ド・ラングに、縋るような視線を向けました。
「あの……、シャルルさん。こんなこと、あなたにお尋ねするのもおかしいですけど、ジェラルドはいったいどうしたのでしょう? こんなことを言いだすなんて、まさかわたし達を担いでいるという訳じゃございませんわよね?」
 シャルルはまるで月の光そのもののような瞳に真摯な色を浮かべ、静かな、それでいてはっきりとした口調で言いました。
「コレット、そしてアルマンも、どうかジェラルドの話を最後まで聞いて差し上げてください」
「話って……」
 野ねずみの夫婦はすっかり戸惑いきって、地面に倒れ伏すジェラルドに困惑した視線を向けました。
「さぁ、ジェラルド。今こそ、きみの恐怖と対決するときです」
 シャルルに促され、ジェラルドは頭を覆ったまま、くぐもった泣き声で話し出しました。
「あの日、最初に外に出たのは、ほんとうはぼくなんだ。兄さんはぼくを止めたけど、ぼくはどうしても外に出てみたい気持ちを抑えきれなくて、ほんのちょっとだけのつもりで、家を出たんだ。だけど初めて見た外の世界は、お日さまの光がきらきらして、そこらじゅういい匂いがして、ぼくは頭がぼーっとなっちゃったんだ。それで誘われるみたいにふらふら歩いていたら、突然ぼくの名前を叫ぶ兄さんの声が聞こえて、驚いて振り向いたら、恐ろしい牙をむき出しにしたヘビが、ぼくのすぐ目の前にいたんだよ。ぼくは信じられないくらい怖くなって、頭が真っ白になって、動けなくなっちゃったんだ。そしたらいきなり、ぼくはものすごい力で突き飛ばされて、地面に転がったんだ。驚いた拍子に動けるようになって、それで振り返って見てみたら、さっきまでぼくがいたところに、ギィ兄さんが立っていた。そして……そして……あのヘビが、あの恐ろしいヘビが、兄さんを頭から一飲みにしてしまったんだ……!」
 ジェラルドはそこまで言うと、わぁっとひときわ大きな悲鳴のような泣き声を上げ、月の大地の上にますます体を丸めて縮こまりました。




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