上 下
14 / 32
月にのぼった野ねずみの一家~シャルル・ド・ラングシリーズ2

しおりを挟む
 シャルルとコレットの会話を聞いていたジェラルドは、だんだん元気を取り戻すとコレットの胸の中から飛び出して、興奮したように瞳を輝かせ、シャルルに向かって勢いよく飛び跳ねながら言いました。
「奇跡って、すごいことっていう意味なんでしょ? うん、確かにすごいや! だってぼく、猫はみーんな恐ろしい怪物なんだって思っていたもの」
「これこれ、ジェラルド。シャルルさんに失礼だぞ」
 アルマンにたしなめられ、ジェラルドは不思議そうに首を傾げました。
「どうして失礼なの? シャルルさんのおかげで、ぼく、猫が怖くなくなったって言いたいんだよ?」
 シャルルはおもしろそうに笑いました。それからジェラルドのつぶらな瞳をのぞき込むと、
「それは嬉しいことです。きみは猫をひとくくりにしてしまわないで、わたし個人を見てくれたのですね。でもひとつご忠告を。大概の猫は、恐らくきみが思っていた通り、鋭い爪や牙を見せびらかすチャンスをいつもうずうずしながら窺っていますから、見かけても決して近づかないことです。もし興味があっても、遠くから眺めておくに留めるべきでしょうね」
 ジェラルドはシャルルの忠告にじっと耳を傾けていましたが、話を聞き終えると、得心した顔で頷きました。
「うん、わかったよ。シャルルさんは、たまたまいい猫さんだったってことだね。ぼく、これからもしもまた猫に出くわすことがあったら、用心して観察してみるよ」
 シャルルは興味深く金色の目を見開いて、感心したようにジェラルドを見下ろしました。
「きみはとても聡明な野ねずみさんですね」
 シャルルの言葉にジェラルドがぴんとしっぽをを立てて、嬉しそうに胸を張ったのをあたたかく見守っていたシャルルは、不意に傍らに置いていたステッキを手に取りました。そしてゆっくりと二本の足で立ち上がると、野ねずみの一家を見回しながら、にっこり笑って言いました。
「ところで、皆さん。先ほどのお話ですが、もしかしたら、わたしが皆さんのお役に立てるかもしれません」
「え?」
「お役に立てるって、なんのことです?」
 三匹はきょとんと呆けたようになって聞き返しました。
 人間のように二本の足で、ベンチから二、三歩ほど行ったところまで、非常に洗練した足取りで歩いて行ったシャルルは、ふと立ち止まって三匹を振り向きました。それから、やおら手にしたステッキを高く掲げて言いました。
「月に行くというお話ですよ」
 三匹は一瞬息を呑んで、大きく目を見開きました。シャルル・ド・ラングが空に掲げたステッキのてっぺんでは、大きな猫目石が月の光を受けて夢のようにきらめいていました。それはシャルル自身の瞳とまったく同じ輝きでした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

つぼみ姫

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
世界の西の西の果て、ある城の庭園に、つぼみのままの美しい花がありました。どうしても花を開かせたい国王は、腕の良い元庭師のドニに世話を命じます。年老いて、森で静かに飼い猫のシュシュと暮らしていたドニは最初は気が進みませんでしたが、その不思議に光る美しいつぼみを一目見て、世話をすることに決めました。おまけに、ドニにはそのつぼみの言葉が聞こえるのです。その日から、ドニとつぼみの間には、不思議な絆が芽生えていくのでした……。 ※第15回「絵本・児童書大賞」奨励賞受賞作。

ことみとライ

雨宮大智
児童書・童話
十才の少女「ことみ」はある日、夢の中で「ライ」というペガサスに会う。ライはことみを「天空の城」へと、連れて行く。天空の城には「創造の泉」があり、ことみのような物語の書き手を待っていたのだった。夢と現実を行き来する「ことみ」の前に、天空の城の女王「エビナス」が現れた⎯⎯。ペガサスのライに導かれて、ことみの冒険が、いま始まる。 【旧筆名:多梨枝伸時代の作品】

あきたのこぐま

鷹尾(たかお)
児童書・童話
【絵本ver.制作中】 秋田県の森吉山に住むこぐまの話。 山一番の最強を探す探検をするよ!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...