上 下
4 / 32
月にのぼった野ねずみの一家~シャルル・ド・ラングシリーズ2

しおりを挟む
 そうやって白い月を見上げていたコレットは、急にあっと叫んで勢いよく立ち上がると、胸の前で拳を固く握って大きく目を見開き、白くにじんだ月を食い入るように見つめました。急いで何度もごしごしと目をこすって涙を拭い、息をつめて伸び上がらんばかりに月を見上げていたコレットは、やがてハッと息を呑んで、大慌てで巣穴の中に戻りました。
「あなた、大変よ!」
 コレットの金切り声に、アルマンとジェラルドは驚いて奥から飛び出してきました。
「いったいどうしたんだい、そんなに慌てて」
「お母さん、何かあったの?」
 コレットはアルマンとジェラルドを見ると、胸を押さえてへなへなと床に座り込みました。心配して顔をのぞき込む二匹を前に、コレットはうまく呼吸ができずに何度か口をパクパクさせた後、ようやっと息を整えると、自分でもまったく信じられない心持ちで叫びました。
「月に……月にあの子がいるのよ!」
「あの子?」
 怪訝な顔で聞き返したアルマンに、コレットはいきなりがばっと身を起こすと、かぶりつかんばかりの勢いで飛びついて、
「あの子よ! わたし達のギィよ……!」



 アルマンはコレットの勢いに押されて尻もちをついてしまいました。それから目をぱちぱちとしばたかせ、じっとコレットを見つめました。
「なんだって? いったい何を言っているんだい?」
「だから、ギィですよ! あの子が、あの白いお月さまの中にいるのよ!」
 そう叫んだ後、一瞬動きを止めたかと思うとコレットはいきなり前掛けで顔を覆って、激しく声を上げて泣き出しました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

つぼみ姫

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
世界の西の西の果て、ある城の庭園に、つぼみのままの美しい花がありました。どうしても花を開かせたい国王は、腕の良い元庭師のドニに世話を命じます。年老いて、森で静かに飼い猫のシュシュと暮らしていたドニは最初は気が進みませんでしたが、その不思議に光る美しいつぼみを一目見て、世話をすることに決めました。おまけに、ドニにはそのつぼみの言葉が聞こえるのです。その日から、ドニとつぼみの間には、不思議な絆が芽生えていくのでした……。 ※第15回「絵本・児童書大賞」奨励賞受賞作。

あきたのこぐま

鷹尾(たかお)
児童書・童話
【絵本ver.制作中】 秋田県の森吉山に住むこぐまの話。 山一番の最強を探す探検をするよ!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...