つぼみ姫

ねこうさぎしゃ

文字の大きさ
上 下
14 / 14

エピローグ

しおりを挟む
 深い森の奥で永遠とわの眠りの国の門番となったつぼみ姫のきらめきは、清冽な朝もやが漂う森に棲む、あらゆる生き物たちの息吹と共に、王さまの心をきよらかに、やわらかく、解きほぐしていくようでした。
 王さまは泣き濡れた瞳を喜びに輝かせ、つぼみ姫のやさしい花びらのしとねにのぼって身を横たえました。王さまを取り巻いていた重苦しい影はすっかり消え去って、ただ歓喜と安堵の光だけが王さまの胸に灯されていました。
 王さまは全身から力を抜いて、体を包み込もうとするつぼみ姫のきらめく花びらにすべてを委ねました。あたたかくやさしく、そしてなつかしい匂いが体じゅうを満たしていました。それと同時に気だるく心地良い眠気が訪れて、王さまは幸福のうちにゆっくりとまぶたを閉じました。
 完全なる眠りに落ちる直前、王さまはようやく訪れようとしている安息のために深いため息を吐き、それと一緒に長い間自分を苦しめていた胸のつかえと痛みと重荷とを、すべてきれいに吐き出しました。そして満足そうに微笑むと、最期の言葉を呟きました。
「花守りのドニよ、感謝するぞ……」
 王さまがはじめてドニおじいさんへのねぎらいの言葉を口にするのを聞いて、つぼみ姫は自分がようやくドニおじいさんに報いることができたように思いました。
 つぼみ姫はドニおじいさんとシュシュの面影を胸に、静かな眠りについた王さまの魂を、お妃さまと王子さまが待つ地下深い平安の王国へと運んだのでした。


 世界の西の西の果ての国では、かつてつぼみ姫と呼ばれた美しい命の花が、永遠に枯れることなく輝きながら、今日も誰かの魂を、安らかな眠りの国へと送り届けているのです。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

さらさら

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
たったひとり、ニーナは砂浜で「何か」をさがしていた。それはまるで遠い昔の「約束」をさがすように──。大人の短編童話。

デシデーリオ

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
田舎の領主の娘はその美貌ゆえに求婚者が絶えなかったが、欲深さのためにもっと条件のいい相手を探すのに余念がなかった。清貧を好む父親は、そんな娘の行く末を心配していたが、ある日娘の前に一匹のネズミが現れて「助けてくれた恩返しにネズミの国の王妃にしてあげよう」と申し出る……尽きる事のない人間の欲望──デシデーリオ──に惑わされた娘のお話。

ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
その昔、天の国と地上がまだ近かった頃、自ら人間へ生まれ変わることを望んだ一人の天使が、ある国の王子ミシオンとして転生する。 だが人間界に生まれ変わったミシオンは、普通の人間と同じように前世の記憶(天使だった頃の記憶)も志も忘れてしまう。 甘やかされ愚かに育ってしまったミシオンは、二十歳になった時、退屈しのぎに自らの国を見て回る旅に出ることにする。そこからミシオンの成長が始まっていく……。魂の成長と愛の物語。

フロイント

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
光の妖精が女王として統治する国・ラングリンドに住む美しい娘・アデライデは父と二人、つつましくも幸せに暮らしていた。そのアデライデに一目で心惹かれたのは、恐ろしい姿に強い異臭を放つ名前すら持たぬ魔物だった──心優しい異形の魔物と美しい人間の女性の純愛物語。

【完結】豆狸の宿

砂月ちゃん
児童書・童話
皆さんは【豆狸】という狸の妖怪を知っていますか? これはある地方に伝わる、ちょっと変わった【豆狸】の昔話を元にしたものです。 一応、完結しました。 偶に【おまけの話】を入れる予定です。 本当は【豆狸】と書いて、【まめだ】と読みます。 姉妹作【ウチで雇ってるバイトがタヌキって、誰か信じる?】の連載始めました。 宜しくお願いします❗️

ある羊と流れ星の物語

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
たくさんの仲間と共に、優しい羊飼いのおじいさんと暮らしていたヒツジは、おじいさんの突然の死で境遇が一変してしまいます。 後から来た羊飼いの家族は、おじいさんのような優しい人間ではありませんでした。 そんな中、その家族に飼われていた一匹の美しいネコだけが、羊の心を癒してくれるのでした……。

蛇逃の滝

影燈
児童書・童話
半妖の半助は、身に覚えなく追われていた。

Sadness of the attendant

砂詠 飛来
児童書・童話
王子がまだ生熟れであるように、姫もまだまだ小娘でありました。 醜いカエルの姿に変えられてしまった王子を嘆く従者ハインリヒ。彼の強い憎しみの先に居たのは、王子を救ってくれた姫だった。

処理中です...