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ラングリンド
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釘付けになったように動きを止めたアデライデを、フロイントはゆっくりと振り返った。
「アデライデ……」
深い赤の眼差しに見つめられたアデライデの唇は、やはりやめましょう──と言おうとして震えた。だがそのとき、小屋の入口がゆっくりと開き、扉の向こうから父が姿を現すのが目に入った。あれこれと思い悩んでいた気持ちは父の姿を一目見た途端にすべて吹き飛び、頭の中は真っ白になった。思わず叫び声を上げそうになったのをなんとか抑え、気がつくとフロイントを引っ張って近くの木の陰に身を隠していた。
なつかしさに込み上げる涙をこらえ、そっと顔を覗かせ改めて父を見たアデライデは、その様子がまるで変わってしまっているのを見、ショックを受けて言葉を失った。父の姿はこの数カ月の間に、すっかり年老いてしまったように見えた。
アデライデは確かに遅くにできた子どもだったため、自分と同じ年頃の娘たちの父親のようには自分の父が若くないことは当然理解していたが、それでも茶色の髪は日の光を受けて健やかに輝いていたし、木こりの仕事で鍛えられた腕や背中は逞しく頼もしかった。
それがたった三月会わないうちに髪はほとんど白くなり、筋肉はやせ細って腰も曲がり気味になっている。面やつれした顔からは慈愛に満ちたあたたかな笑顔は消え、無表情にさえ見えた。アデライデの胸には切なく悲しい気持ちがあふれ、滔々と涙が頬を伝った。
「お父さん……どうしてそんなに変わってしまったの……? 病気なのかしら……幸せじゃないのかしら……」
アデライデは悲しみに頭を振りながら、ゆっくりと外に出て木々の上の青空を仰ぐ父を食い入るように見つめた。
フロイントはアデライデの震える肩にそっと手を置き、アデライデの頭越しに、小屋の外に立って空を眺める初老の男を見つめた。その面差しはどこかアデライデに似ていたが、額や眉間には深い皺が刻まれ、ぼんやりとして生気がない目は虚ろで、初めてアデライデの父を見たフロイントの胸をも強く打って動揺させた。
アデライデの父、ミロンは空に輝く太陽を暫くの間見上げていたが、やがてゆっくりと踵を返して小屋に戻ろうと歩き出した。入口でふと足を止めると、腰を屈めて扉の横に置かれていた黒パンを取り上げた。
「……あぁ、また誰かパンを置いて行ってくれる人があったか……」
ミロンはパンを見つめてしわがれた声で呟いた。その張りの失われた声が、木の陰で息を殺して耳をそばだてていたアデライデの元まで届いた。アデライデは再び激しいショックに襲われて胸を押さえた。いつもやさしく自分の名を呼んでいた父の声はまるで別人の誰か──老いて病みついた人の声のように生気を欠き、アデライデの胸に冷たい秋風を吹き荒ばせた。
ミロンが小屋の中に戻ってドアを閉めてしまうと、アデライデは思わず木の陰から転げるように飛び出して小屋へと駆けて行った。フロイントは取り乱した様子で走るアデライデの後を追いかけながら、自分の犯した罪の大きさを痛感し、身の内は鋭く尖ったナイフでえぐられるようだった。
アデライデは小屋に近づくと、荒い息を潜めて小さな窓の隙間から中を覗き込んだ。後ろに立ったフロイントも、同じように窓に空いた小さな隙間から中の様子を窺った。
ミロンは小さな木の椅子に腰かけ、テーブルに置いたパンをぼんやりと眺めていた。何かに思いをめぐらしているような目つきで、時々苦しそうなため息をついてはシャツの胸を強く掴んだ。その様子を目にしたアデライデは、もしかすると父が胸を患ったのだろうかと心配し、居ても立ってもいられないほどだった。
「アデライデ……」
深い赤の眼差しに見つめられたアデライデの唇は、やはりやめましょう──と言おうとして震えた。だがそのとき、小屋の入口がゆっくりと開き、扉の向こうから父が姿を現すのが目に入った。あれこれと思い悩んでいた気持ちは父の姿を一目見た途端にすべて吹き飛び、頭の中は真っ白になった。思わず叫び声を上げそうになったのをなんとか抑え、気がつくとフロイントを引っ張って近くの木の陰に身を隠していた。
なつかしさに込み上げる涙をこらえ、そっと顔を覗かせ改めて父を見たアデライデは、その様子がまるで変わってしまっているのを見、ショックを受けて言葉を失った。父の姿はこの数カ月の間に、すっかり年老いてしまったように見えた。
アデライデは確かに遅くにできた子どもだったため、自分と同じ年頃の娘たちの父親のようには自分の父が若くないことは当然理解していたが、それでも茶色の髪は日の光を受けて健やかに輝いていたし、木こりの仕事で鍛えられた腕や背中は逞しく頼もしかった。
それがたった三月会わないうちに髪はほとんど白くなり、筋肉はやせ細って腰も曲がり気味になっている。面やつれした顔からは慈愛に満ちたあたたかな笑顔は消え、無表情にさえ見えた。アデライデの胸には切なく悲しい気持ちがあふれ、滔々と涙が頬を伝った。
「お父さん……どうしてそんなに変わってしまったの……? 病気なのかしら……幸せじゃないのかしら……」
アデライデは悲しみに頭を振りながら、ゆっくりと外に出て木々の上の青空を仰ぐ父を食い入るように見つめた。
フロイントはアデライデの震える肩にそっと手を置き、アデライデの頭越しに、小屋の外に立って空を眺める初老の男を見つめた。その面差しはどこかアデライデに似ていたが、額や眉間には深い皺が刻まれ、ぼんやりとして生気がない目は虚ろで、初めてアデライデの父を見たフロイントの胸をも強く打って動揺させた。
アデライデの父、ミロンは空に輝く太陽を暫くの間見上げていたが、やがてゆっくりと踵を返して小屋に戻ろうと歩き出した。入口でふと足を止めると、腰を屈めて扉の横に置かれていた黒パンを取り上げた。
「……あぁ、また誰かパンを置いて行ってくれる人があったか……」
ミロンはパンを見つめてしわがれた声で呟いた。その張りの失われた声が、木の陰で息を殺して耳をそばだてていたアデライデの元まで届いた。アデライデは再び激しいショックに襲われて胸を押さえた。いつもやさしく自分の名を呼んでいた父の声はまるで別人の誰か──老いて病みついた人の声のように生気を欠き、アデライデの胸に冷たい秋風を吹き荒ばせた。
ミロンが小屋の中に戻ってドアを閉めてしまうと、アデライデは思わず木の陰から転げるように飛び出して小屋へと駆けて行った。フロイントは取り乱した様子で走るアデライデの後を追いかけながら、自分の犯した罪の大きさを痛感し、身の内は鋭く尖ったナイフでえぐられるようだった。
アデライデは小屋に近づくと、荒い息を潜めて小さな窓の隙間から中を覗き込んだ。後ろに立ったフロイントも、同じように窓に空いた小さな隙間から中の様子を窺った。
ミロンは小さな木の椅子に腰かけ、テーブルに置いたパンをぼんやりと眺めていた。何かに思いをめぐらしているような目つきで、時々苦しそうなため息をついてはシャツの胸を強く掴んだ。その様子を目にしたアデライデは、もしかすると父が胸を患ったのだろうかと心配し、居ても立ってもいられないほどだった。
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