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バルトロークの城
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「アデライデ、そなたは我々魔の一族を、そなたら人間と同じように考えてはおらぬか? たとえあれが我らの間で如何に下等の存在よと侮られていようとも、仮にも魔族の一員なのだ。その肉体が人間のように脆弱なものであると思うのか?」
「……それでは、ほんとうにあの方は、無事なのですね……?」
「わたしをもっと信頼するのだ、アデライデ。思い出してみるがよい。わたしがそなたの傷を癒した日のことを──」
バルトロークは両手で頬を押さえて必死に思考を正そうとしているアデライデの耳元に、甘い誘惑を秘めた声で囁いた。
「わたしの……傷を……?」
アデライデはめまいを覚え始めた頭を巡らせ、バルトロークの言った言葉の意味を辿ろうとした。バルトロークはふらつき始めたアデライデの肩を抱き、先ほどまで自分が座っていた長椅子に導いて座らせた。バルトロークはなすがままとなっているアデライデの傍らに腰を下ろすと、たおやかなその手を取った。全身を巡る血はバルトロークに触れられた所から徐々に凍っていくようだったが、その手を払いのける気力は失われつつあった。バルトロークはアデライデの意識をさらなる混濁へと導くように甘い声を響かせて畳みかけた。
「そうだとも。あの日、鳥に身を変えたわたしの足の罠を、心やさしきそなたは外してくれるようあれに頼んだな。愚かなあれは迂闊にも素手で触れた──わたしが自ら仕掛けた罠にな。ふふ……あの場であのままあれを抹殺することなど造作もなかった。しかしそなたのその美しい瞳に下賤の者の流す血をあれ以上映させたくはなかった。それに、そなたが情けを掛けている生き物を、わたしがむざむざと殺めると思うか? さぁアデライデ、その後だ。そなたはあれの腕に触れて貴いその血を滲ませたな。わたしはそれを舐め取った──。するとアデライデ、傷はどうなった?」
「……治りました……跡形もなく……」
「そのとおり。わたしがそなたの傷を癒したのだ。その上、わたしはあれに対しても……どうしたかは憶えていよう?」
「……あの方も、癒やされた……」
バルトロークはにやりと唇を歪ませた。
「さぁアデライデ、これでわたしの気持ちはよく理解できたはずだ。わたしを恐れることはないのだ。わたしはそなたを愛しているのだ。美しきアデライデ、わたしにその心を──その尊い光に満ちたそなたの魂を明け渡すのだ」
バルトロークの冷たい手がアデライデの頬に触れた。アデライデのかすんだ視界に、バルトロークの妖しい光を放つ瞳が迫った。だがアデライデの頭はぼんやりと靄がかかったようにはっきりとせず、バルトロークの囁きだけが響いていた。バルトロークの顔に勝利を確信した笑みが広がった。
「……それでは、ほんとうにあの方は、無事なのですね……?」
「わたしをもっと信頼するのだ、アデライデ。思い出してみるがよい。わたしがそなたの傷を癒した日のことを──」
バルトロークは両手で頬を押さえて必死に思考を正そうとしているアデライデの耳元に、甘い誘惑を秘めた声で囁いた。
「わたしの……傷を……?」
アデライデはめまいを覚え始めた頭を巡らせ、バルトロークの言った言葉の意味を辿ろうとした。バルトロークはふらつき始めたアデライデの肩を抱き、先ほどまで自分が座っていた長椅子に導いて座らせた。バルトロークはなすがままとなっているアデライデの傍らに腰を下ろすと、たおやかなその手を取った。全身を巡る血はバルトロークに触れられた所から徐々に凍っていくようだったが、その手を払いのける気力は失われつつあった。バルトロークはアデライデの意識をさらなる混濁へと導くように甘い声を響かせて畳みかけた。
「そうだとも。あの日、鳥に身を変えたわたしの足の罠を、心やさしきそなたは外してくれるようあれに頼んだな。愚かなあれは迂闊にも素手で触れた──わたしが自ら仕掛けた罠にな。ふふ……あの場であのままあれを抹殺することなど造作もなかった。しかしそなたのその美しい瞳に下賤の者の流す血をあれ以上映させたくはなかった。それに、そなたが情けを掛けている生き物を、わたしがむざむざと殺めると思うか? さぁアデライデ、その後だ。そなたはあれの腕に触れて貴いその血を滲ませたな。わたしはそれを舐め取った──。するとアデライデ、傷はどうなった?」
「……治りました……跡形もなく……」
「そのとおり。わたしがそなたの傷を癒したのだ。その上、わたしはあれに対しても……どうしたかは憶えていよう?」
「……あの方も、癒やされた……」
バルトロークはにやりと唇を歪ませた。
「さぁアデライデ、これでわたしの気持ちはよく理解できたはずだ。わたしを恐れることはないのだ。わたしはそなたを愛しているのだ。美しきアデライデ、わたしにその心を──その尊い光に満ちたそなたの魂を明け渡すのだ」
バルトロークの冷たい手がアデライデの頬に触れた。アデライデのかすんだ視界に、バルトロークの妖しい光を放つ瞳が迫った。だがアデライデの頭はぼんやりと靄がかかったようにはっきりとせず、バルトロークの囁きだけが響いていた。バルトロークの顔に勝利を確信した笑みが広がった。
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