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突然の婚約破棄
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「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
目の前の婚約者、いや、婚約破棄したいと言われたので元婚約者になるケイロンの言葉に、ローズは目を丸くすることしかできなかった。口を開き何かを言いかけるが言葉が出ない。
「突然のことで本当にすまないと思っている。だけど、元々俺たちの婚約は家同士で決められたものだ。別に解消しても問題ないだろ?君だって俺のこと別になんとも思ってなかっただろうし」
畳み掛けるように言うケイロンに、ローズはさらに驚きを隠せない。なぜなら、そもそもローズと婚約したいと言い出したのはケイロンだったからだ。
二人が出会ったのは大人たちが自慢の令息令嬢たちをお披露目する社交パーティーで、当時ケイロンとローズは共に十歳。ローズは幼少期から可憐で可愛らしい見た目をしており、少し人見知りが強いため大人しく控えめな子供だった。侯爵家の令息であるケイロンはその可憐な見た目と控えめな様子のローズを一目で気に入り、結婚するならローズがいいとその場で駄々をこねたのだ。
ローズの家は伯爵家だったが身分もそれなりで何よりローズの父親の仕事ぶりが国王やその側近たちに評価されており、ケイロンの家としても二人の婚約は問題ないものだった。
確かに、最初の頃はローズもケイロンのことをなんとも思っていなかった。ただ両親が良い縁談だと喜んでいるし、ローズに会いにくるケイロンの姿も人見知りが強く他人とあまり接することのないローズには嬉しいものだった。
ローズは自分を気に入ってくれたケイロンのことをもっとよく知りたいと思うようになり、交流を深めるごとにケイロンへほんの淡い恋心を持ち始めていた。そしてケイロンの婚約者としてふさわしい人間になりたいと日々努力してきたのだ。
「あ、あの、婚約はそもそもケイロン様が私を気に入ってくださったからだったはずでは……」
「あ?……そうだったか?そんな気もするが昔のことだろう。それにお互いの両親が乗り気になったんだ、両家同士の婚約みたいなもんだろう。確かに君は小さい頃から今でもずっと可憐で可愛らしい。でも俺はもっと可憐で美しく気高い花のような女性と出会ってしまったんだよ。イライザを知っているか?学園一の美人と名高い令嬢だよ。頭もよくて淑女としての所作も完璧だ。そんな彼女とたまたま授業で一緒になってね、意気投合したんだ。侯爵家の男としてより良い女性と共に生きていきたいと思うのは当然のことだろう」
イライザはローズとケイロンが通う学園の同級生で、ケイロンと同じクラスだ。ローズは頭は悪くないが中の上、ケイロンとイライザはそれよりももっと上なのでローズだけは違うクラスだった。
(イライザと出会ってから俺にふさわしいのはローズよりもイライザだと確信した。ローズも人柄はいい、だが社交性に欠ける。見た目だってイライザの方が桁違いに良い。むしろ学園一の美貌と言われるイライザこそ、この俺にふさわしい令嬢だ!)
ローズを上から下までじっくり眺め、ケイロンは頭の中でローズとイライザを比べて確信する。そのままケイロンはローズを見つめ目を細めた。
「それともローズは本気で俺のことが好きなのか?それなら第二夫人にしてやってもいい。まぁそれをイライザが許すかどうかはわからないけどね」
ふん、と鼻で笑うケイロンを見て、ローズの胸の中からケイロンに対する淡い恋心がどんどん薄れていく。
(私は、こんな軽薄な人をずっと思っていたの……?)
今目の前にいる男が、あんなに素敵だと思っていたケイロンと同一人物だとは思えない。けれど、どうしたって目の前の男は幼少期に自分を気に入って婚約者にしたいと駄々をこねた子供と同一人物だった。
震える両手を胸の前で組み、はぁ、と静かにため息をつく。
「……わかりました。婚約解消を慎んでお受けします。ケイロン様、どうかイライザ様と末長くお幸せに」
そう言ってローズは静かに微笑んだ。
目の前の婚約者、いや、婚約破棄したいと言われたので元婚約者になるケイロンの言葉に、ローズは目を丸くすることしかできなかった。口を開き何かを言いかけるが言葉が出ない。
「突然のことで本当にすまないと思っている。だけど、元々俺たちの婚約は家同士で決められたものだ。別に解消しても問題ないだろ?君だって俺のこと別になんとも思ってなかっただろうし」
畳み掛けるように言うケイロンに、ローズはさらに驚きを隠せない。なぜなら、そもそもローズと婚約したいと言い出したのはケイロンだったからだ。
二人が出会ったのは大人たちが自慢の令息令嬢たちをお披露目する社交パーティーで、当時ケイロンとローズは共に十歳。ローズは幼少期から可憐で可愛らしい見た目をしており、少し人見知りが強いため大人しく控えめな子供だった。侯爵家の令息であるケイロンはその可憐な見た目と控えめな様子のローズを一目で気に入り、結婚するならローズがいいとその場で駄々をこねたのだ。
ローズの家は伯爵家だったが身分もそれなりで何よりローズの父親の仕事ぶりが国王やその側近たちに評価されており、ケイロンの家としても二人の婚約は問題ないものだった。
確かに、最初の頃はローズもケイロンのことをなんとも思っていなかった。ただ両親が良い縁談だと喜んでいるし、ローズに会いにくるケイロンの姿も人見知りが強く他人とあまり接することのないローズには嬉しいものだった。
ローズは自分を気に入ってくれたケイロンのことをもっとよく知りたいと思うようになり、交流を深めるごとにケイロンへほんの淡い恋心を持ち始めていた。そしてケイロンの婚約者としてふさわしい人間になりたいと日々努力してきたのだ。
「あ、あの、婚約はそもそもケイロン様が私を気に入ってくださったからだったはずでは……」
「あ?……そうだったか?そんな気もするが昔のことだろう。それにお互いの両親が乗り気になったんだ、両家同士の婚約みたいなもんだろう。確かに君は小さい頃から今でもずっと可憐で可愛らしい。でも俺はもっと可憐で美しく気高い花のような女性と出会ってしまったんだよ。イライザを知っているか?学園一の美人と名高い令嬢だよ。頭もよくて淑女としての所作も完璧だ。そんな彼女とたまたま授業で一緒になってね、意気投合したんだ。侯爵家の男としてより良い女性と共に生きていきたいと思うのは当然のことだろう」
イライザはローズとケイロンが通う学園の同級生で、ケイロンと同じクラスだ。ローズは頭は悪くないが中の上、ケイロンとイライザはそれよりももっと上なのでローズだけは違うクラスだった。
(イライザと出会ってから俺にふさわしいのはローズよりもイライザだと確信した。ローズも人柄はいい、だが社交性に欠ける。見た目だってイライザの方が桁違いに良い。むしろ学園一の美貌と言われるイライザこそ、この俺にふさわしい令嬢だ!)
ローズを上から下までじっくり眺め、ケイロンは頭の中でローズとイライザを比べて確信する。そのままケイロンはローズを見つめ目を細めた。
「それともローズは本気で俺のことが好きなのか?それなら第二夫人にしてやってもいい。まぁそれをイライザが許すかどうかはわからないけどね」
ふん、と鼻で笑うケイロンを見て、ローズの胸の中からケイロンに対する淡い恋心がどんどん薄れていく。
(私は、こんな軽薄な人をずっと思っていたの……?)
今目の前にいる男が、あんなに素敵だと思っていたケイロンと同一人物だとは思えない。けれど、どうしたって目の前の男は幼少期に自分を気に入って婚約者にしたいと駄々をこねた子供と同一人物だった。
震える両手を胸の前で組み、はぁ、と静かにため息をつく。
「……わかりました。婚約解消を慎んでお受けします。ケイロン様、どうかイライザ様と末長くお幸せに」
そう言ってローズは静かに微笑んだ。
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