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「ディーニー様……」
目の前に立っていたのはキールではなく三人目の元婚約者でヴィオラの大食いに耐えられないと婚約破棄を告げてきたディーニーだった。
「なぜお前がこんな所にいる?社交の場にいるなんて場違いも甚だしい」
ふん、と鼻で笑うディーニーの横には、見知らぬご令嬢がディーニーと腕を組んでヴィオラを見つめていた。艶やかな金髪に色白で美しい顔立ち、何より守ってあげたくなるような儚さを醸し出しており、自分とは対照的なその姿にヴィオラはほんの少しだけ胸が痛む。そのご令嬢がヴィオラを見ながら口を開いた。
「もしかしてこの方が噂の?」
「あぁ、小リス令嬢だ。今日は食べ物を持ち歩いていないんだな。それにひとりぼっちでなぜこんな所にいる?あぁ、そうか、例の婚約者がどうせ大食いのお前に呆れていなくなったか」
ディーニーの嘲笑うかのようなの顔をヴィオラはただ黙って見つめるしかない。
「確か次のお相手は黒豹騎士様だったか。いつも無愛想で黒づくめ、感情がなくて慈悲の心もないと評判の騎士様が相手じゃそりゃ愛想も尽かされるだろうな」
その言い分にヴィオラは納得がいかない。なんだか黒豹騎士様の噂がさらに悪く肥大している気がする。
「キール様はそんな方ではありません!私のことはいくら罵倒しても構いませんが、キール様のことを知りもしないのに悪く言うのはやめてください」
「はぁ!?なんだその態度は!?大食いしか取り柄のないみみっちい女のくせにいっちょまえに婚約者を庇うなんて。どうせお前に庇われたところでその婚約者もありがたいなんて思わないだろうがな」
ヴィオラの態度が気にくわなかったのだろう、ディーニーはムキになってヴィオラへ食って掛かる。さらにヴィオラへ罵声を浴びせようとするディーニーだったが、ディーニーの隣にいたご令嬢が後ろを見て何かに気づき慌てて腕をひく。
「なんだ、今俺はこいつに……」
「俺の婚約者に何か用か」
ディーニーの背後からドスの効いた低い声が鳴り響く。ディーニーが驚いて後ろを振り返ると、そこには前髪の間から鋭い眼光でディーニーを睨みつけ料理をこんもり乗せた皿を持ったキールがいた。ディーニーよりも背が高くディーニーを完全に見下ろしている。
「ひっ、黒豹騎士……」
あまりの恐怖にディーニーが怯えると、キールはヴィオラの横に来てひざまづきヴィオラへ優しく話しかけた。その姿は愛する女性を守る騎士そのものの美しい立ち振る舞いで、周囲の人たちも思わず感嘆のため息を漏らすほどだった。
「大丈夫か?俺が君の側を離れたばかりに変な男に絡まれてしまったようだな、すまない」
「い、いえ、大丈夫です……」
「ほら、美味しそうなものをとりあえず持ってきた」
そう言ってキールはヴィオラに料理いっぱいの皿を渡す。本当にどれもこれも美味しそうだが、今は正直言ってそれどころではない。ヴィオラに優しく接するキールを見て、ディーニーは驚いた表情でヴィオラとキールを交互に眺めている。
ふと、そんなディーニーの顔をもう一度よく見てからキールは立ち上がり、途端に不機嫌そうな顔をした。
「あなたは確か……ヴィオラの元婚約者?」
「あ、あぁ!そうです!こいつの元婚約者ですよ!あなたも大変ですね、こんな大食いの婚約者で。あ、でも確か魔力放出の発作を抑えるための縁談だったんでしたか?そうであれば別にこいつのことはどうでもいいでしょう。俺はこいつに元婚約者に楯突いたことを諌(いさ)めようと思っていただけですから、邪魔しないでいただきたい」
何故か息を吹き返したようにベラベラと話をするディーニー。だが、そんなディーニーの言葉にキールはさらに不機嫌さを増していく。
「最後の方の会話が少し聞こえましたが、どう考えても諌(いさ)める様子ではなく罵声を浴びせているように感じましたね。それに私は彼女の大食いについて可愛いと思うことはあっても大変だと思ったことは一度もない」
「可愛い?あぁ、そうでしょうね、最初はみんなそう思うんですよ。でもね、大食いがいつでもどこでもずっとなんですよ?可愛いなんて思えなくなります。きっとあなたもそのうちそうなりますよ」
やれやれという顔でディーニーはそう言うと嘲笑うかのようにヴィオラを見る。だがキールはその視線を遮ってヴィオラを守るかのようにディーニーの前に立った。
「あなたは何か勘違いをしているようだ。彼女が食べ物を常に摂取しなければいけないのはそうしないと命が削られてしまうからだ。彼女は懸命に命を絶やさぬようにしているだけのに、それを大食いだと言い疎んじるなど恥ずかしいと思わないのか」
厳しい目つきではっきりとそう言うキールに、ディーニーは何も言い返せない。黒豹に完全に睨まれて動きを封じられたように固まっている。
「ここは不愉快になる。場所を移そう、ヴィオラ。それでは失礼します」
ヴィオラの片手を優しく取り、キールはその場を立ち去ろうとする。だがディーニーとすれ違う一瞬、キールは視線をディーニーへ向ける。
その眼光は鋭く、まるで二度とヴィオラに話しかけるなと言っているかのような圧力で、すれ違った後ディーニーは青ざめた顔でその場に膝から崩れ落ちた。
目の前に立っていたのはキールではなく三人目の元婚約者でヴィオラの大食いに耐えられないと婚約破棄を告げてきたディーニーだった。
「なぜお前がこんな所にいる?社交の場にいるなんて場違いも甚だしい」
ふん、と鼻で笑うディーニーの横には、見知らぬご令嬢がディーニーと腕を組んでヴィオラを見つめていた。艶やかな金髪に色白で美しい顔立ち、何より守ってあげたくなるような儚さを醸し出しており、自分とは対照的なその姿にヴィオラはほんの少しだけ胸が痛む。そのご令嬢がヴィオラを見ながら口を開いた。
「もしかしてこの方が噂の?」
「あぁ、小リス令嬢だ。今日は食べ物を持ち歩いていないんだな。それにひとりぼっちでなぜこんな所にいる?あぁ、そうか、例の婚約者がどうせ大食いのお前に呆れていなくなったか」
ディーニーの嘲笑うかのようなの顔をヴィオラはただ黙って見つめるしかない。
「確か次のお相手は黒豹騎士様だったか。いつも無愛想で黒づくめ、感情がなくて慈悲の心もないと評判の騎士様が相手じゃそりゃ愛想も尽かされるだろうな」
その言い分にヴィオラは納得がいかない。なんだか黒豹騎士様の噂がさらに悪く肥大している気がする。
「キール様はそんな方ではありません!私のことはいくら罵倒しても構いませんが、キール様のことを知りもしないのに悪く言うのはやめてください」
「はぁ!?なんだその態度は!?大食いしか取り柄のないみみっちい女のくせにいっちょまえに婚約者を庇うなんて。どうせお前に庇われたところでその婚約者もありがたいなんて思わないだろうがな」
ヴィオラの態度が気にくわなかったのだろう、ディーニーはムキになってヴィオラへ食って掛かる。さらにヴィオラへ罵声を浴びせようとするディーニーだったが、ディーニーの隣にいたご令嬢が後ろを見て何かに気づき慌てて腕をひく。
「なんだ、今俺はこいつに……」
「俺の婚約者に何か用か」
ディーニーの背後からドスの効いた低い声が鳴り響く。ディーニーが驚いて後ろを振り返ると、そこには前髪の間から鋭い眼光でディーニーを睨みつけ料理をこんもり乗せた皿を持ったキールがいた。ディーニーよりも背が高くディーニーを完全に見下ろしている。
「ひっ、黒豹騎士……」
あまりの恐怖にディーニーが怯えると、キールはヴィオラの横に来てひざまづきヴィオラへ優しく話しかけた。その姿は愛する女性を守る騎士そのものの美しい立ち振る舞いで、周囲の人たちも思わず感嘆のため息を漏らすほどだった。
「大丈夫か?俺が君の側を離れたばかりに変な男に絡まれてしまったようだな、すまない」
「い、いえ、大丈夫です……」
「ほら、美味しそうなものをとりあえず持ってきた」
そう言ってキールはヴィオラに料理いっぱいの皿を渡す。本当にどれもこれも美味しそうだが、今は正直言ってそれどころではない。ヴィオラに優しく接するキールを見て、ディーニーは驚いた表情でヴィオラとキールを交互に眺めている。
ふと、そんなディーニーの顔をもう一度よく見てからキールは立ち上がり、途端に不機嫌そうな顔をした。
「あなたは確か……ヴィオラの元婚約者?」
「あ、あぁ!そうです!こいつの元婚約者ですよ!あなたも大変ですね、こんな大食いの婚約者で。あ、でも確か魔力放出の発作を抑えるための縁談だったんでしたか?そうであれば別にこいつのことはどうでもいいでしょう。俺はこいつに元婚約者に楯突いたことを諌(いさ)めようと思っていただけですから、邪魔しないでいただきたい」
何故か息を吹き返したようにベラベラと話をするディーニー。だが、そんなディーニーの言葉にキールはさらに不機嫌さを増していく。
「最後の方の会話が少し聞こえましたが、どう考えても諌(いさ)める様子ではなく罵声を浴びせているように感じましたね。それに私は彼女の大食いについて可愛いと思うことはあっても大変だと思ったことは一度もない」
「可愛い?あぁ、そうでしょうね、最初はみんなそう思うんですよ。でもね、大食いがいつでもどこでもずっとなんですよ?可愛いなんて思えなくなります。きっとあなたもそのうちそうなりますよ」
やれやれという顔でディーニーはそう言うと嘲笑うかのようにヴィオラを見る。だがキールはその視線を遮ってヴィオラを守るかのようにディーニーの前に立った。
「あなたは何か勘違いをしているようだ。彼女が食べ物を常に摂取しなければいけないのはそうしないと命が削られてしまうからだ。彼女は懸命に命を絶やさぬようにしているだけのに、それを大食いだと言い疎んじるなど恥ずかしいと思わないのか」
厳しい目つきではっきりとそう言うキールに、ディーニーは何も言い返せない。黒豹に完全に睨まれて動きを封じられたように固まっている。
「ここは不愉快になる。場所を移そう、ヴィオラ。それでは失礼します」
ヴィオラの片手を優しく取り、キールはその場を立ち去ろうとする。だがディーニーとすれ違う一瞬、キールは視線をディーニーへ向ける。
その眼光は鋭く、まるで二度とヴィオラに話しかけるなと言っているかのような圧力で、すれ違った後ディーニーは青ざめた顔でその場に膝から崩れ落ちた。
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