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黒銀の龍
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目の前には黒銀の色のような大きな大きな龍が二体いる。さっきまで人間だったのに、薄黒いツヤツヤした塊のようなものを飲み込んだら龍に変形してしまった。これは一体どういうことなの!?
「彼らにはサリ国で蓄えた銀龍の力を格納した魔石を飲み込んでもらった。二度と人間には戻れないが、彼らはそれが自分の役割だとわかっているからね」
ベイルの声に反応するように、黒銀の龍は雄叫びを上げる。耳をつん裂くようなものすごい音量……!しかも突風まで吹いて来る!飛ばされないようランス様が体を抱えながら剣を地面に突き刺しているけれど、それがなかったらきっとひとたまりもないほどの突風だ。
「くっ」
他の騎士様も聖女様を抱えながらなんとか突風を回避した。体の小さなリラはロイ様にすっぽりと覆われてしまっている。
「大丈夫か」
「……だい、じょうぶ、ロイ、ありがとう」
リラはそう言ってからすぐにキッと前を向いて黒銀の龍を睨みつけた。そこにはいつも様子を伺いロイ様の後ろに隠れていた頃の面影はどこにもない。そんなリラの様子を見て、ロイ様は一瞬だけ微笑み、すぐに真剣な顔で前を向いた。
突然、背後から白く光が輝き出す。驚いて振り向くと、そこには発光した白龍様たちがどんどん人の姿から白龍の姿に変化していった。
「流石に白龍の力を使わずに勝てる相手ではないわね」
シキ様が剣をぎゅっと握り締め、静かにつぶやいた。確かに、相手が銀龍の力を持つ龍ならこちらも白龍の力を使うしかない。
「セシル、お願いできるかしら。白龍たちまで届くように全体に」
ベル様が真剣な顔でこちらを向いている。わかっています、任せてください!
「能力底上強化」
両手を胸の前で組んで目を閉じ詠唱すると、足元に緑色に輝く魔法陣が大きく大きく浮かび上がる。敵以外のその場にいた全員の能力が強化されたはずだ。白龍様たちの力だって強化されているはず。私にできることはこれしかない。だからこそ、絶対に手を抜くことも気を抜くこともしない。
「!!」
ケインズ様がハッとすると、勢いよく飛び出して二体の黒銀の龍の間を駆け抜けていく。えっ、ものすごいスピード!強化魔法でスピードもアップしているのだろうけれど、それにしてもそもそものスピードがきっと尋常ではないのかも。
あっという間にニオ様の体を抱えると、リオン様の近くにニオ様を置いて二人を守るようにしながらベイルの方を向いて剣を構えた。
「おい、バカ白龍。お前さっきの強化魔法で少しは体力回復してんだろ。今のうちにニオを連れて仲間の後ろまで逃げろ」
ケインズに言われてリオン様は両目を見開く。そしてすぐにニオ様を抱きかかえ走り出した。
「恩にきる」
「ケインズ!」
リオン様に抱えられたニオ様が叫ぶと、ニオ様を見てケインズ団長がニッと笑った。
「余計なことを」
ベイルが不機嫌そうに言いながらリオン様たちを追いかけようとするが、その前にケインズ団長が立ちはだかった。
「おっと、お前の相手は俺だ。お前みたいなやつは心底嫌いなんだよ。この手でぶっ殺してやる」
「へぇ、やれるものならやってみるがいい。貴様は白龍使いの騎士ではなく王都の騎士だろう。白龍の力もなく俺に勝てるとでも思っているのか」
ベイルが不敵な笑みを浮かべるが、ケインズ団長はふんと鼻で笑った。
「王都の騎士を侮ってもらっちゃ困る。なんでもかんでも白龍の力に頼ってばかりの奴らはどいつもこいつも気にくわねぇ。見せてやるよ、本当の騎士の力ってやつをな」
ケインズ団長の機転でニオ様を抱えたリオン様がこちらに戻ってきた。リオン様を狙って黒銀の龍が腕や脚で踏み潰そうとするがリオン様のスピードも早い。力を失って瀕死に近い白龍様とは思えないほどだわ。
——よく戻ってきた
「……色々と迷惑をかけたね。すまない」
白龍姿のギール様がリオン様に声をかけると、息が上がりながらもリオン様が謝罪をする。
——今は後ろに下がって休んでいるといい、ニオのことを絶対に守るんだよ
ユイン様が優しくそう言うと、リオン様が悲しげに微笑み頷いた。
「ケインズ……」
ニオ様はケインズ団長を心配そうに見つめている。
「心配なのはわかるが、今は彼らに任せよう。我々にできることはそれだけだ」
リオン様がそう諭すと、ニオ様がリオン様の腕にしがみついて苦しそうに頷いた。
「彼らにはサリ国で蓄えた銀龍の力を格納した魔石を飲み込んでもらった。二度と人間には戻れないが、彼らはそれが自分の役割だとわかっているからね」
ベイルの声に反応するように、黒銀の龍は雄叫びを上げる。耳をつん裂くようなものすごい音量……!しかも突風まで吹いて来る!飛ばされないようランス様が体を抱えながら剣を地面に突き刺しているけれど、それがなかったらきっとひとたまりもないほどの突風だ。
「くっ」
他の騎士様も聖女様を抱えながらなんとか突風を回避した。体の小さなリラはロイ様にすっぽりと覆われてしまっている。
「大丈夫か」
「……だい、じょうぶ、ロイ、ありがとう」
リラはそう言ってからすぐにキッと前を向いて黒銀の龍を睨みつけた。そこにはいつも様子を伺いロイ様の後ろに隠れていた頃の面影はどこにもない。そんなリラの様子を見て、ロイ様は一瞬だけ微笑み、すぐに真剣な顔で前を向いた。
突然、背後から白く光が輝き出す。驚いて振り向くと、そこには発光した白龍様たちがどんどん人の姿から白龍の姿に変化していった。
「流石に白龍の力を使わずに勝てる相手ではないわね」
シキ様が剣をぎゅっと握り締め、静かにつぶやいた。確かに、相手が銀龍の力を持つ龍ならこちらも白龍の力を使うしかない。
「セシル、お願いできるかしら。白龍たちまで届くように全体に」
ベル様が真剣な顔でこちらを向いている。わかっています、任せてください!
「能力底上強化」
両手を胸の前で組んで目を閉じ詠唱すると、足元に緑色に輝く魔法陣が大きく大きく浮かび上がる。敵以外のその場にいた全員の能力が強化されたはずだ。白龍様たちの力だって強化されているはず。私にできることはこれしかない。だからこそ、絶対に手を抜くことも気を抜くこともしない。
「!!」
ケインズ様がハッとすると、勢いよく飛び出して二体の黒銀の龍の間を駆け抜けていく。えっ、ものすごいスピード!強化魔法でスピードもアップしているのだろうけれど、それにしてもそもそものスピードがきっと尋常ではないのかも。
あっという間にニオ様の体を抱えると、リオン様の近くにニオ様を置いて二人を守るようにしながらベイルの方を向いて剣を構えた。
「おい、バカ白龍。お前さっきの強化魔法で少しは体力回復してんだろ。今のうちにニオを連れて仲間の後ろまで逃げろ」
ケインズに言われてリオン様は両目を見開く。そしてすぐにニオ様を抱きかかえ走り出した。
「恩にきる」
「ケインズ!」
リオン様に抱えられたニオ様が叫ぶと、ニオ様を見てケインズ団長がニッと笑った。
「余計なことを」
ベイルが不機嫌そうに言いながらリオン様たちを追いかけようとするが、その前にケインズ団長が立ちはだかった。
「おっと、お前の相手は俺だ。お前みたいなやつは心底嫌いなんだよ。この手でぶっ殺してやる」
「へぇ、やれるものならやってみるがいい。貴様は白龍使いの騎士ではなく王都の騎士だろう。白龍の力もなく俺に勝てるとでも思っているのか」
ベイルが不敵な笑みを浮かべるが、ケインズ団長はふんと鼻で笑った。
「王都の騎士を侮ってもらっちゃ困る。なんでもかんでも白龍の力に頼ってばかりの奴らはどいつもこいつも気にくわねぇ。見せてやるよ、本当の騎士の力ってやつをな」
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——よく戻ってきた
「……色々と迷惑をかけたね。すまない」
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——今は後ろに下がって休んでいるといい、ニオのことを絶対に守るんだよ
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「ケインズ……」
ニオ様はケインズ団長を心配そうに見つめている。
「心配なのはわかるが、今は彼らに任せよう。我々にできることはそれだけだ」
リオン様がそう諭すと、ニオ様がリオン様の腕にしがみついて苦しそうに頷いた。
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