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契約結婚の二人(ガイル視点)

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 白龍使いの騎士団本部での会議が終わって屋敷に戻ってから、俺とシキは応接室で隣に座りながら茶を飲んでいる。そしてなぜか目の前には白龍ウェズがいた。

「で?なんでウェズがここにいるんだ?ただ単に俺たちと一緒に茶を飲みたいわけじゃないんだろ」

 目の前のウェズにそう言うと、ウェズはにっこりと微笑んだ。少し首を傾け金髪のサラサラセミロングをさらりとなびかせながら少したれ目がちな深い紺色の瞳でこちらを見つめる。

「ユーズも言っていただろう、君たちはもっと仲を深めなければいけない。でも君たちだけだと話し合いもせずにすぐ自室にこもってしまうだろう?だから私がこうして君たちを同じ部屋に集めたというわけだよ」

 ふふ、とウェズが嬉しそうに笑うと、シキが大きくため息をついた。

「別に私たちは問題なく力分けを行っています。別に外野からどうこう言われる筋合いはないと思いますが」
 可愛げのない顔で淡々とそう言うシキ。

「確かに、力分けは問題なく行っている。それについては文句を言うつもりはないよ。……ただ、ガイルは今回の会議で私に聞きたいことでもあるんじゃないのかな」

 ウェズの言葉にドキリとする。本当に白龍様は何でもお見通しなんだな。シキが横から真顔で視線を投げかけてくる。あぁくそ、シキがいると聞きずらいけど仕方ない。

「なんでウェズは俺を追放しないんだ?力分けは問題なく行っているとしても、俺とシキの関係性は良好とは言えないだろ。聖女のことを思うなら俺はニオ様のところの騎士みたいに追放されてもおかしくないと思ってさ」

 俺とシキの関係は言葉のとおり本当に契約結婚だ。白龍と任務のためだけに力分けを行い、それ以外はお互いに干渉しない。この4年間、これがくつがえされたことは一度もない。

 俺の質問に、ウェズは静かに微笑んでこう言った。

「そうだね、君たちの仲は決して良いものとは言えない。だが、力分けは聖女が嫌がっているわけでもなく君から強制されているわけでもない。聖女が納得しているなら私は別に問題ないんだよ」

 なんだそれ。てっきり白龍は聖女第一主義で聖女のためであれば気に入らない騎士を簡単に追放するものなのかと思っていた。それに、騎士と聖女の仲の在り方をきちんと考えるようにとユーズ団長は言っていた。だとしたら、やはり騎士と聖女の仲は白龍にとっても大事なものなんじゃないのか?

「それに、君はシキをないがしろにしたりもしていない。結婚後、君はシキ以外の女性と一度も関係を持っていないだろう」

 ウェズの言葉にシキが驚いたように俺を見る。

「……あなたはてっきり他の女のところにも行っているものだと思ってた」

「ふふ、そうだとしたらさすがにシキが了承していたとしても私は彼を追放しただろうね。聖女以外の女と交わるような、不純物を持ち込むような騎士は白龍使いの騎士としてふさわしくないからね」

 ウェズは微笑みながら静かに俺を見て言った。その声音は静かだが奥底から計り知れない重圧を感じる。これがこいつの本性か。やっぱり白龍は底が知れない。

「いいかい、お互いによく考えてごらん。女に不自由しないガイルが結婚後はシキ以外の女性と懇意な関係になっていない。シキはガイルとの力分けを嫌がって行っているわけではない」

「いや、でもこいつは義務で力分けをしているだけだろう」
 さっきまで驚愕の表情をしていたシキはまたいつものように真顔で真正面を向いている。そんなシキを見て、ウェズはまた面白そうに微笑んで俺を見た。

「いいかい、ガイル。たとえ聖女が義務感で力分けをしていたとしても、それが苦痛かどうか・騎士を拒絶しているのかどうかは白龍である私にはわかるんだよ。でも、それがシキにはない。むしろ好意的だ。それがどういうことかわかるだろう?」

 は?ウェズは一体何を言っているんだ?

「さて、ここからは君たち二人で話をしたほうがいいだろうね。いいかい、決して逃げてはいけないよ。ここで逃げても私が君たちの首根っこを引っ張って何度でも話し合いをさせるから」

 じゃあね、と軽くウィンクをしてウェズは窓の外から飛び降りた。飛び降りた、というよりも羽ばたいたというほうがあっているだろう。そのまま白龍の姿になって空へ飛んで行った。

 取り残された俺たち二人はポカーンとしてお互いの顔を見た。いや、そうなるよな、なんなんだこの状況。シキは気まずそうに目をそらす。

 シキが、俺を拒絶していない?いやいや、いつだって真顔で俺を見るときはまるで汚いものを見るかのような女だぞ。会話だって必要最低限しかしない、契約結婚を地で行くような俺たちなのに一体ウェズは何を言ってるんだ?
 でも待てよ、確かに力分けの時だけはいつだって聞き分けがよかったし、最中の時だって嫌がるところか……。

「ウェズの言っている意味がいまいちわかんないんだけど、あれだよな、シキが俺を拒絶していないだなんて嘘だよな。確かに力分けのときは嫌がってなさそうだったけど、それ以外はいつだってお前は俺のこと嫌ってる態度とってるし……」

 そう言ってシキのほうを向くと、シキは顔を背けている。ほら、やっぱり俺と話すらしたくないんだよこいつは。そう思ったけれど、ふとシキの耳が真っ赤になっていることに気づく。は?待て待て。いや、そんなはずは……。

「シキ」
 そう言ってシキの腕を取りこちらを向かす。そのシキの顔は真っ赤になっていた。




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