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大切な気持ち

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 救護所の作業が終わった頃、現地で浄化していた白龍二匹が戻ってた。それによりその場にいた全員が無事に帰還できることになる。

 俺とリラはケインズ団長のはからいでそのまま自分たちの屋敷へ帰れることになった。 

「救護班とはいえお前らも疲れただろ。いろいろと助かった、ありがとな」

 ケインズ団長にお礼を言われて、失礼だが少し驚いた。ぶっきらぼうだが本当は意外といい人なのかもしれない。

 白龍になったジュインに乗り、俺とリラはその場を後にする。

「ジュイン、お話、できる?」

 背中越しにリラが話しかける。そういえば白龍姿なのにミゼルたちとなぜか会話できてたな。ジュインも同じように会話できるのか?

――あぁ、できるよ。君たちは日頃の任務のおかげで白龍の力に慣れつつある、普段できないような言葉での会話も今は可能だ

 ジュインから言葉が聞こえてくる。なるほど、今まで白龍姿では聞こえなかった言葉がそういう経緯で聞こえるようになったのか。

「リラ、ジュインに聞きたいこと、あるの」

――なんだい?

 ジュインが静かにそう言うと、リラはふぅーと深呼吸する。

「リラも、ロイと、キス、したほうが、いい?」

 おいおいどうした、何を聞いてるんだリラ。さっきの光景を見てしなきゃいけないものだと思ったのか。動揺してジュインの背中からずり落ちそうになる、あぶねぇ。

――いや、ロイも私もミゼルたちほど力を使ったわけではないからね。キスはしなくてもいいよ。ただ、いつもより力を多く使ったことには違いないからね。ハグはしてもらわないといけないだろう

 ジュインの言葉にリラはほうっと息を吐いた。

――リラはロイとキスがしたいのかい?

 いやいやまてまて、何て質問してくれてるんだよジュイン!リラの表情を確認しようにもジュインの背中に乗った今の状態ではリラの後頭部しか見えない。

「……わからない」

 ぽつり、とリラが静かに呟く。その声からは感情は読めない。そうだよな、わからないよな。そもそも少しずつだが一生懸命頑張って人に慣れてきたリラが、こんな急にキスできるかどうかなんてわかるわけがない。

 そう、そうなのだけれど、リラの返事になんとなく胸がズキリとする。なんだこれ。なんで胸が痛むんだ。

 俺はリラにキスしたいって思われたかったのか?わからないだけで別に拒否されたってわけでもないのに。それだけなのに、なんでこんなにモヤモヤするんだろうか。






 屋敷に到着し、ジュインは俺たちを降ろすとそのまま自分の住む山へと飛び立っていった。

 部屋に着くとどっと疲れが押し寄せる。自覚してなかったが案外気をはってたのかもしれない。

「ロイ、大丈夫?」

 リラが心配そうにかけよってくる。

「あぁ、屋敷に着いたらホッとしたのか急に疲れが出てきた。少し休めばよくなるさ」

 リラの頭を優しく撫でると、リラは少し微笑んでから両手を広げた。ん?なんだ?

「ロイ、力わけ」

 あ、あぁ、そうか。そうだよな。リラは心配してすぐにでも力わけしてくれようとしてるのか。

「大丈夫か?別に今すぐにじゃなくてもいいんだぞ。リラだって疲れてるだろ」

 そう言うと、リラは首を横にブンブンと振った。

「大丈夫、そんなことより、ロイの方が大切」

 リラはキリッとした顔で両手を広げている。参ったな、ちょっと前まではあんなに人見知りでおびえているような子だったのに、こんなにも成長するもんなのか。

「……わかった。しんどくなったらちゃんと言ってくれよ」

 俺の言葉にリラは今度は縦に首を振る。それを見てから俺はそっとリラを優しく抱き締めた。

 指輪から光が静かに放たれる。じんわりと暖かい何かが俺の中に流れ込んでくるのを感じる。抱き締めでの力わけはこんな感じなのか。今まではリラのことを考えて軽い任務ばかりで手を握る程度で事足りたから、こんなに力をはっきりと感じられるのは不思議な気分だ。

 抱き締めたリラは相変わらず小さいが、心なしか少しだけふっくらした気がする。といってもそもそもがあまりにも細すぎなのでちょっと肉がついたかな、程度だ。

 それでも、ここにきて栄養のあるものをきちんと食べさせた結果が出ていることを実感する。教会ではろくなものを食べさせてもらえなかったリラには、もっといいものを食わせてやりたい。

 腕の中にいるリラは本当に小さくて愛おしい。この子がたくさん笑ってくれるなら、たくさん幸せを感じてくれるのなら、俺はどんなことでもしてみせる。

 討伐祭で前衛に出ていたランスたちは、よくわからない黒い大きな塊に聖女が左腕ごともっていかれそうになったと言っていた。左腕に妙な手跡ができていたというし、黒い塊の言葉も気になる。

 聖女誘拐事件と何か関係あるんだろうか。もしリラに危険なことが迫ったとしたら……いや、俺が絶対にリラを守る。

 そんなことを思っていると、自然に抱き締める力が強くなってしまったようでリラが苦しそうに身もだえた。

「悪い、苦しかったか」

 少し力を緩めると、リラがふーっと息を吐いてくすくすと笑う。何が面白いのかわからないが、リラが楽しそうならそれでいい。

 指輪から放たれる光が次第に弱まり、消えていった。これで力分けが無事に済んだということだ。体が驚くほど軽いし、さっきまであった疲労感や倦怠感が嘘のようだ。

「抱きしめでの力分けってのはこんなにも実感するもんなんだな。それだけ力を消費したからなんだろうけど……」

 思わず自分の体を見渡すと、リラも首をかしげてこちらを見てくる。

「リラ、ちゃんとロイの役に立ててる?」

「あぁ、すごいよリラ。リラのおかげでこんなに元気になった。ありがとうな」

 優しく頭をなでると、リラは嬉しそうに微笑んだ。






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