上 下
44 / 82

聖女シキと騎士ガイル

しおりを挟む
 先ほどまで大会議室で会議をしていたはずなのに、今はなぜか会議室にいた全員が中庭にいる。

「剣、貸して」

「本当にやるのか?めんどくせぇからやめろよ」

 聖女様と白龍使いの騎士様が話をしているのが聞こえるが、どうやら剣を借りようとしているらしい。え、聖女様が剣を使うの?

「いいじゃないかガイル、シキはやる気満々なんだよ。それに王都の騎士達に聖女が足手まといではないということの証明もできる。一石二鳥じゃないか」

「いやいや、何言ってるんだよ正気か?相手は一応王都の騎士だぞ。それが聖女とやり合うなんて……」

 今度は白龍様と白龍使いの騎士様が会話している。どうやら白龍使いの騎士様は聖女様を心配しているらしい。そりゃそうよね、王都の騎士と剣を向け合うなんて危険すぎると思うのだけれど、白龍様には心配のしの字も見当たらない。

「いちいちうるさいわね。いいから早く貸しなさいよ」

 聖女様が不機嫌そうに片手を白龍使いの騎士様に出す。

「……はぁ~、どうなっても知らないからな」

 白龍使いの騎士様はそういうと渋々剣を聖女様に渡した。えっ、本当に渡しちゃうの?!驚いて思わずランス様を見ると、ランス様も心配そうな顔をしている。でもその横では白龍ミゼル様がニコニコと笑顔で聖女様を見つめていた。なんでそんなに笑顔なんですかミゼル様?



「王都の騎士と剣を向け合うなんて正気ですか?痛い目を見る前にこんなことはやめた方がいい」

 聖女様に指名された王都の騎士様が半笑いをしながら聖女様、シキ様と呼ばれていたかしら、そのシキ様にそう言い放つ。

「あら、怖気付いたの?聖女をあまり見くびらないほうがいいわ。本気で来ないと恥をかくわよ」

 ふん、と鼻であしらうように無表情でシキ様が言うと、二人の周りを取り囲んでいる王都の騎士達が騒ぎ出した。

「いいからそんな生意気な聖女様、やっちまえ!」

「かわいそうだが後悔させてやれよ、王都の騎士を馬鹿にするとどうなるか思い知ればいいんだ」

 ワーワーとヤジが飛ぶ。

「そうだな、かわいそうだけど痛い目を見てもらおうじゃないか」

 剣を構えて王都の騎士様がそう言うと、聖女様が初めて口角の端を上にあげた!

「よし、一本勝負といくか。はじめ!」

 ケインズ団長の声で勝負がはじまった。すぐに王都の騎士様が走り出し聖女様に剣を向ける。

 キィン!カキィィン!

 剣のぶつかり合う音が中庭に響き渡る。

 王都の騎士様から振り下ろされる剣を、シキ様はこともなさげに振り払っている。何これ、王都の騎士様と互角だわ!

「手加減してくれるなんて王都の騎士様はお優しいのね。でもそんなことでは私のことは倒せないわよ」

 キィィィン!と大きく剣が弾かれて、王都の騎士様が後ろに吹き飛ばされる。

「チッ、ただ守られるだけ、力を分けるためだけに白龍使いの騎士とやることやるだけの聖女のくせに!」

 騎士様が悪態をつきながら剣に力を込めると、剣に炎が宿った。

「これに俺が勝ったら聖女様、俺とも一晩寝床を共にしてくださいよ。もちろん添い寝だけでは終わりませんけどねぇ!いいでしょ、それくらい」

 ゲスイ笑みを浮かべて王都の騎士様がそう言うと、周りからいいぞ!やれやれ!と野次が飛ぶ。あまりの光景に居た堪れなくなって白龍使いの騎士ガイル様の方を見ると、片手で顔を覆って盛大にため息をついている。

「だめだ、それを言ったら終わりだ、もう終わりだ……」

 ガイル様はブツブツと独り言を言っている。シキ様の心配をしている、と言うよりもむしろ……?

「……へぇ、いいわよ。そのかわり私が勝ったら地面に這いつくばって許しを乞いなさい。白龍使いの騎士と白龍、そして聖女を馬鹿にしたことを心の底から謝りなさい」

 無表情だったシキ様の表情が変わる、いや無表情のままなのだけれど、なんというかこう、禍々しいものを発しはじえめているような気がするのは私だけだろうか?



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...