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ドレス
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フレンの様子おかしい。
夜中に突然目が覚めて、アリシアを見て涙を流すフレン。怖い夢を見たのだろうと優しく宥めたが、なぜか落ち着くどころかフレンは欲情し、アリシアがどんなに懇願してもやめてくれないほどに抱き潰された。
元々フレンはアリシアを求めることが多い。騎士団の任務で屋敷を不在にすることも多く、帰ってくると必ずアリシアを求める。もちろんアリシアにとっても嬉しいことなのだが、あの日のフレンはそれはそれはすごかった。今までで一番すごかったのではないだろうか。もしかして、今まではアリシアのために手加減してくれていたのだろうかと思ってしまうほどだった。
とにかくあの日から、フレンはおかしいのだ。どこに行くにも何をするにもアリシアのそばを離れず、任務で離れてしまう時は帰ってきてからとにかくアリシアにべったりだ。
元々、心配性で嫉妬深く、アリシアへの執着心は強い方だと思う。それは婚約者時代から思っていたことで、どうしてこの人は自分なんかを選び、こんなにも愛してくれるのだろうと不思議に思っていた。
だが、別に嫌な気持ちにはならい。元々フレンは見た目も育ちもよく、性格も基本的に穏やかで、アリシアの嫌がることは絶対にしないような男で、全身全霊でアリシアを愛していることを表現してくるのだ。
だが、あの日からフレンのアリシアに対する執着は増したように思う。よっぽど辛く悲しい夢でも見たのだろうか。
(かれこれ一緒になって十年近くなるけれど、こんなフレンは初めてかも。私の知らないフレンがまだいるのかもしれないわ。それにしても、どうしたら落ち着いてくれるのかしら。ここまでだと逆に心配になる。フレンがこうなってしまう何かを拭ってあげられたらいいのだけれど)
夢の内容を聞いても具体的なことは教えてくれない。それが逆に引っかかる。原因がわからない以上、対応も何が正しいのかわからない。
(日が経って次第に落ち着いてくれればいいのだけれど)
ほうっとため息をついてアリシアは窓の外を眺めた。
◇
フレンが元いた未来に戻ってきてから数週間が経った。今日は上流貴族の社交パーティーの日だ。アリシアは、フレンが選んでくれたドレスを見に纏い、パーティーに向けて支度をしていた。
「アリシア、入ってもいいか?」
ドアがノックされ、フレンの声がする。
「はい、どうぞ」
ちょうど支度も終わったところだ。アリシアが明るい声で返事をすると、フレンが部屋に入ってきた。
(やっぱり何度見ても素敵……!)
礼服に身を包んだフレンを見て、アリシアはほんのり顔を赤らめる。騎士服姿も似合うが、いつもとは違う見なれぬ礼服姿のフレンはいつも以上に色気があってかっこいい。思わず見惚れてしまうほどだ。
アリシアが見とれていると、フレンはアリシアのドレス姿を見て目を大きく見開いている。
「アリシア、そのドレス…… !」
「懐かしいでしょう?婚約者時代にあなたが選んでくれたドレスよ。二人でドレス屋に行ったら、なぜかあの時あなたは二着も選んで、こっちは大人っぽすぎるって言ったら、似合う時になったら着てほしいって言われて。年齢的にもそろそろ大丈夫かなって思ったんだけど、どう?似合う……かしら」
フレンの瞳と同じアパタイト色のドレス、首から鎖骨まではレースになっていて、肩から背中は大きく開いている。マーメイドラインのドレスは美しく細かい宝石が散りばめられていて、片足には大きくスリットが入っていた。歩くたびに足が見え隠れするデザインだ。買ってもらった当時はあまりにもセクシーすぎて気後れするほどだった。今でも少し気後れして、似合うかどうか正直自信がない。アリシアはドキドキしながらフレンに訪ねた。
「嘘だろ、そんな、まさか……」
そう言って、フレンはアリシアに近づいてくる。フレンのあまりの気迫にアリシアが驚いてフレンを見つめていると、フレンはアリシアの目の前まで来て、新底嬉しそうに微笑んだ。
「アリシア、似合ってる。本当にとても似合ってるよ」
フレンは片方の手でそっとアリシアの肩を撫でる。そして、その手はゆっくりと首筋を上り、アリシアの頬に手を添えた。
(えっ?どうしたの?)
動揺するアリシアをよそに、フレンは熱い眼差しでアリシアを見ながら手を優しく動かし、フレンの手が動くたびにアリシアの体がビクッと揺れる。そしてそんなアリシアの様子に、フレンの瞳はさらに熱を帯びていった。
そして、フレンの顔が静かにアリシアに近づいてくる。フレンの鼻とアリシアの鼻が今にも触れ合いそうな程の距離まで近づいたその時。
(あ、れ?この状況、どこかで……)
アリシアは両目を見開いた。自分は、この状況を過去に経験している。過去の自分は、あり得ないはずなのになぜかこのフレンを知っている。
「フレン、様……?」
アリシアはそう呟いてからハッとして片手で口元を覆う。なぜ、自分はフレンに様をつけたのだろうか。でも、胸の内側から溢れてくる何かがそうさせる。そしてそんなアリシアに、フレンは驚愕の眼差しを向けた。
「アリシア、もしかして、思い出したのか?」
驚くフレンの言葉を聞いて、アリシアはフレンをじっと見つめてから両目に涙を浮かべ始めた。アリシアの中に、言いようのできないフレンに対する愛が溢れ出て、何かがカチッとはまる。
(ああ、そうか、そういうことなのね……!この人は、ちゃんとここにいる……!)
「良かった、無事に、未来に戻ったのね……!」
その言葉を聞いた瞬間、フレンはアリシアを力強く抱きしめた。
夜中に突然目が覚めて、アリシアを見て涙を流すフレン。怖い夢を見たのだろうと優しく宥めたが、なぜか落ち着くどころかフレンは欲情し、アリシアがどんなに懇願してもやめてくれないほどに抱き潰された。
元々フレンはアリシアを求めることが多い。騎士団の任務で屋敷を不在にすることも多く、帰ってくると必ずアリシアを求める。もちろんアリシアにとっても嬉しいことなのだが、あの日のフレンはそれはそれはすごかった。今までで一番すごかったのではないだろうか。もしかして、今まではアリシアのために手加減してくれていたのだろうかと思ってしまうほどだった。
とにかくあの日から、フレンはおかしいのだ。どこに行くにも何をするにもアリシアのそばを離れず、任務で離れてしまう時は帰ってきてからとにかくアリシアにべったりだ。
元々、心配性で嫉妬深く、アリシアへの執着心は強い方だと思う。それは婚約者時代から思っていたことで、どうしてこの人は自分なんかを選び、こんなにも愛してくれるのだろうと不思議に思っていた。
だが、別に嫌な気持ちにはならい。元々フレンは見た目も育ちもよく、性格も基本的に穏やかで、アリシアの嫌がることは絶対にしないような男で、全身全霊でアリシアを愛していることを表現してくるのだ。
だが、あの日からフレンのアリシアに対する執着は増したように思う。よっぽど辛く悲しい夢でも見たのだろうか。
(かれこれ一緒になって十年近くなるけれど、こんなフレンは初めてかも。私の知らないフレンがまだいるのかもしれないわ。それにしても、どうしたら落ち着いてくれるのかしら。ここまでだと逆に心配になる。フレンがこうなってしまう何かを拭ってあげられたらいいのだけれど)
夢の内容を聞いても具体的なことは教えてくれない。それが逆に引っかかる。原因がわからない以上、対応も何が正しいのかわからない。
(日が経って次第に落ち着いてくれればいいのだけれど)
ほうっとため息をついてアリシアは窓の外を眺めた。
◇
フレンが元いた未来に戻ってきてから数週間が経った。今日は上流貴族の社交パーティーの日だ。アリシアは、フレンが選んでくれたドレスを見に纏い、パーティーに向けて支度をしていた。
「アリシア、入ってもいいか?」
ドアがノックされ、フレンの声がする。
「はい、どうぞ」
ちょうど支度も終わったところだ。アリシアが明るい声で返事をすると、フレンが部屋に入ってきた。
(やっぱり何度見ても素敵……!)
礼服に身を包んだフレンを見て、アリシアはほんのり顔を赤らめる。騎士服姿も似合うが、いつもとは違う見なれぬ礼服姿のフレンはいつも以上に色気があってかっこいい。思わず見惚れてしまうほどだ。
アリシアが見とれていると、フレンはアリシアのドレス姿を見て目を大きく見開いている。
「アリシア、そのドレス…… !」
「懐かしいでしょう?婚約者時代にあなたが選んでくれたドレスよ。二人でドレス屋に行ったら、なぜかあの時あなたは二着も選んで、こっちは大人っぽすぎるって言ったら、似合う時になったら着てほしいって言われて。年齢的にもそろそろ大丈夫かなって思ったんだけど、どう?似合う……かしら」
フレンの瞳と同じアパタイト色のドレス、首から鎖骨まではレースになっていて、肩から背中は大きく開いている。マーメイドラインのドレスは美しく細かい宝石が散りばめられていて、片足には大きくスリットが入っていた。歩くたびに足が見え隠れするデザインだ。買ってもらった当時はあまりにもセクシーすぎて気後れするほどだった。今でも少し気後れして、似合うかどうか正直自信がない。アリシアはドキドキしながらフレンに訪ねた。
「嘘だろ、そんな、まさか……」
そう言って、フレンはアリシアに近づいてくる。フレンのあまりの気迫にアリシアが驚いてフレンを見つめていると、フレンはアリシアの目の前まで来て、新底嬉しそうに微笑んだ。
「アリシア、似合ってる。本当にとても似合ってるよ」
フレンは片方の手でそっとアリシアの肩を撫でる。そして、その手はゆっくりと首筋を上り、アリシアの頬に手を添えた。
(えっ?どうしたの?)
動揺するアリシアをよそに、フレンは熱い眼差しでアリシアを見ながら手を優しく動かし、フレンの手が動くたびにアリシアの体がビクッと揺れる。そしてそんなアリシアの様子に、フレンの瞳はさらに熱を帯びていった。
そして、フレンの顔が静かにアリシアに近づいてくる。フレンの鼻とアリシアの鼻が今にも触れ合いそうな程の距離まで近づいたその時。
(あ、れ?この状況、どこかで……)
アリシアは両目を見開いた。自分は、この状況を過去に経験している。過去の自分は、あり得ないはずなのになぜかこのフレンを知っている。
「フレン、様……?」
アリシアはそう呟いてからハッとして片手で口元を覆う。なぜ、自分はフレンに様をつけたのだろうか。でも、胸の内側から溢れてくる何かがそうさせる。そしてそんなアリシアに、フレンは驚愕の眼差しを向けた。
「アリシア、もしかして、思い出したのか?」
驚くフレンの言葉を聞いて、アリシアはフレンをじっと見つめてから両目に涙を浮かべ始めた。アリシアの中に、言いようのできないフレンに対する愛が溢れ出て、何かがカチッとはまる。
(ああ、そうか、そういうことなのね……!この人は、ちゃんとここにいる……!)
「良かった、無事に、未来に戻ったのね……!」
その言葉を聞いた瞬間、フレンはアリシアを力強く抱きしめた。
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