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1000年後の世界~大和王国編~

北の要塞都市フブキ

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 ――10年前――
 魔族の国カリバーンは、北の要塞都市フブキと南のボレガノ帝国の兵士達、合わせて10万の軍隊に攻め込まれていた。
 カリバーンの魔族軍は壊滅状態で、もはやトドメを刺されるのを待つだけだった。

「おのれ!人間ども!
貴様等全員、我が炎で焼き尽くしてくれる!」

 炎と一体化したように翼を広げ怒り狂うカリバーンの女王、サラマンダーのロカ…彼女の顔色は悪く傷だらけで今にも倒れそうだった。
 敗北はもう確定している状態、カリバーンを覆い尽くす十万の軍は止まることなく魔族達を殺し続けている。
 オーク、ゴブリン、オーガ、スライム、メデューサ、ハーピーなどの魔族が銃や剣で殺されていく。
 もはやこれは戦いではなく狩りに近かった。

「わははははっ!!」
「可愛いお嬢ちゃんだ、殺すのはもったいないぞ」
「捕まえて愛玩動物として飼ってやろう!」

 勝利を確信した10万の軍人達…
 その理由は女王ロカの前に立つ威風堂々とした2人の存在にあった。

 一人は北の要塞都市フブキ軍「国王」氷結のクールヘッド…彼の前に立つ者は氷漬けにされ死んでしまう事で有名だ。
 もう一人は南のボレガノ帝国「将軍」炎熱帝フレイム…彼に向かう敵は炎に焼き尽くされ消し炭すら残さぬと有名だった。

 つまり、この2人が共闘したならば敵はないと誰もが皆、信じて疑わなかった。

「おほっ♪あやつが女王か、なかなか良い体をしておるのぉ!是非味わってみたい!
貴様等、奴を捕らえるのじゃ!」

 肉饅頭のような頬にブクブクに太った肉体、そんなクールヘッドは槍を構えロカを見つめ舌舐めずりをしている。
 勲章が目立つ軍服を着ており強そうには見えないのだが実力は確かなようだ。

「やめろ、楽に死なせてやれ…今回の共闘はそこで仕舞いだ…」

 そう言ったのは髭面で金の鎧に身を包んだ筋肉質な男「炎熱帝フレイム」だった。
 敵陣の残るは追いつめられ震える魔族達と女王のロカだけで、二人が出なくても片付くレベル…。
 もはや魔族達から見ても敗北は一目瞭然で…彼らは皆、人間に滅ぼされる覚悟をしていた。

(ああ…私達は人間に滅ぼされて終わるのか…)

 魔族側の誰もがそう思った瞬間……見知らぬ黒マントが背を向けて立っていた…

(ん?何だこいつは)

 気になったロカはその黒マントの存在に問いかける。

「何のつもりだ人間、私の前に背を向けて」

 しかし黒マントは無反応で一度も振り返る事は無かった。
 身長180越えの黒マントを羽織った男は天に向かって手を翳した。
 すると男の体が赤黒い炎に包まれ、その異様な光景に周辺はざわつき始める。

「おい!空!」
「夜になってるぞ!」
「どーなってんだありゃ!」

 空が夜に変わり…さらには満月が現れる。
 しかし空の変化はそれだけでは終わらなかった。

「うわあぁぁぁ!!」
「月がああぁぁぁ!!」
「化け物かよありゃあ」
「どうなってる??」

 フブキ&ボレガノ軍の視線の先には満月があるのだが、それはなんと化物の姿へ変貌していた。
 その満月には目と口があり手もあった、目はこちらを眺めている…そして黒マント男の奇行は止まらない。

「呪い魔術「魔界の扉」」

 男が手を挙げたままそう言うと彼の後ろに不気味な色の超大型扉が空から落ちるように現れた。

「まずは挨拶程度だ、やれ、極月(ゴクゲツ)」

 黒マントの男に言われると極月と呼ばれた月の魔物は口から無数の隕石を吐き出した。
 それらは周辺国を消滅させてしまう程の広範囲に広がる危険な攻撃。
 まるでこの世の終わりのような光景に、この場で足が動かせる者は誰一人いない。
 正直あんなのが魔術を使い、体当たりでもしてくれば、国どころか地球そのものが滅んでしまうと誰もが思った。
 この場の皆、落ちてくる隕石を見ながら自分の身を心配していたのだ。

「バカな…隕石…?」
「あんなのが落ちてきたら俺ら一発で全滅じゃ…」
「この世の終わりかよ!」
「何だよあの月の化け物は!」

 黒マントが手で「やめろ」と合図を送れば極月は石を吐き出すのをやめたのだ。
 さらに男は現れた巨大な門に手をかけ左右に開いてしまう。

「ドライアド、赤鬼、来るんだ」

 開いた門の中から足音が聞こえ何者かが現れる。
 カリバーンを囲む10万を越える兵達も門から出てくる存在には脅えている。
 炎熱帝フレイムと氷結帝クールヘッドすらも体の震えが止まらず剣を持つ手に力が入らない。
 その部下の軍人達はもはや勝利を諦め脅えているだけだった。
 あんな月の後に出てくる化け物など、出来れば皆、目にしたく無かったからだ。

「あんな月の他に何が出てくるんだ…」
「もう世界は終わりなのか!?」
「いやだ、死にたくねぇよ!!」

 パニックを起こす10万の兵達の前に堂々と門の中から現れたのは毒々しい鎧に身を包んだ女剣士だった。
 ビキニアーマーと言ったエロい格好で人間のようにも見えるが…
 彼女の雰囲気は圧倒的な強者オーラを放ち、その場の誰もが見ただけでそれを理解していた…

「やれ、ドライアド」

 黒マントに言われ彼女が剣を一振りする…
 すると大地は大きく裂けてしまい夥しい数の兵が地面に落ちて即死して行った。

「「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 剣の一振りで、全軍の三分の一は命を落とし、生き残った彼らは動けなくなっていた。

「ふしゅる~…」

 魔界の門からさらに足音がして、中から赤い鬼が現れた。
 ツノ、金色の鋭い目、鮫のような鋭い牙、そして異常発達した筋肉が特徴的な赤い鬼が歩いて門の中から現れる。

「我、最強ヲ目指ス者」

 鬼はそう一言だけ言い残し進軍を開始した。
 その一歩一歩が兵達には死に見えてしまう事はフレイムやクールヘッドにも同じ事だった。

「あれらに挑めば確実に死ぬ、正直逃げられるかどうかもわからん…」
 
 そう言ったのはボレガノ帝国軍「将軍」炎熱帝フレイム。
 戦場で敵無しと言われた彼であっても赤い鬼の前では死を覚悟した。
 この赤鬼が月の化け物や女剣士に続く強者であれば当然手に負える相手ではなく、挑めば瞬殺間違いなしだと理解したからだ。

「やれ赤鬼、だが2人ぐらいは残せよ…今回はデモンストレーションだし人間の目撃者は必要だ」

 赤鬼は一度頷いたあと走り出した。
人間の兵の元に赤鬼は飛び込んでどんな戦い方をするのかと思いきや、シンプルなパワーだけだった。
 武器は使わず素手で殴る蹴るの攻撃のみ、だが問題はその威力で兵士達は皆撲殺されて行った。
 しかも赤鬼の肉体には刀も銃も通らず、どれだけ攻撃をどれだけ受けても無傷だった。

 やがて赤鬼は飽きたのか爪を振り下ろす…すると、広範囲へ及ぶ死の斬撃が放たれた。
 かまいたちのような風が宙を舞い、残り数万の兵を皆切り刻み殺していく。
 その攻撃はフレイムにも届いていた。

「防いでみた…つもりだったが…無駄だったようだ…
何だこの力の差は…」

 口から血を吐き胴体が真っ二つになるフレイム。
 剣は折れ、上半身とともに宙を舞い、彼の上半身は地面へ落ちてグシャリと潰れた。
 ソレをみた部下の士気が下がってしまい、諦め呆然と立ち尽くす者まで現れる。
 彼ら数万の兵は皆、赤鬼の放った追尾する斬撃に巻き込まれ皆命を落とした。

「ひっ、ひいぃい!!」

 生き残ったのは逃亡中だったフブキ軍国王クールヘッド、そして名もなきボレガノ帝国の兵の2名だけだった。
 そこへ、カリバーンの魔族達が黒マントに震え声で質問する。

「あ…あんたは…あんたは一体…なんなんだ…」
「こ…こんな恐ろしい事をする目的は、なんだ?」

 すると黒マントは振り向いて笑顔で答えた。

「ん?俺か…?そうだな…
魔王ユア、呪術師ユア、魔界の門番?
どれでも好きに呼ぶと良いさ…目的はひとつ、この世界を滅ぼす事さ…」

 それを聞いて走って逃げ出すボレガノ帝国の兵2人と要塞都市フブキの国王クールヘッド…噂を広げさすため、ユアはわざと彼らを逃がした。
 その後、ユアの助けもありカリバーンは復興され今の状態にまで戻った。
 魔王ユアがバックについた事でボレガノ帝国も要塞都市フブキも魔族の国カリバーンへ手が出せなくなっていたからだ。


 ──そして現在に至る──

「なのに、なのに何故だ貴様!
勇者を名乗り人間に味方をするだと?
許さん!許さんぞユア!」
「うわあぁぁぁっ!助けてえぇっ!!」

 ロカは魔法で炎の大玉をユウトに向かい解き放った。
 ユウトは後ろを振り返らず、悲鳴を上げながら逃げるのが精一杯で、ボロボロになりながらカリバーンの入口まで走って逃げる。

「奴を絶対に通すな!」
「ここで仕留める!」

 夜の入口を守る骸骨兵士2人、本調子のユウトであれば瞬殺出来る相手だろう。
 だが今の状態のユウトでは、彼らの攻撃を避けるだけで精一杯だった。

「くっ!バカな!逃げられたぞ!」
「死にかけなのになんだあの身体能力の高さは」

 ユウトは火傷や骨折の痛みに苦しみ涙を流しながら夜道を走って逃げていく。

(痛ぇよぉ、暑いよぉ…
どうして俺がこんな目にあってんだ…
しかもいったい何処を走って…
方向感覚もわからねぇが、今はとにかく追い付かれるわけにはいかねぇ…
あの国、恐ろしい…
もう二度と行きたくねぇ)

 ユウトは痛みに耐えながらも、暗い夜道を凄まじい早さで走り続けた。

 


 ──北の要塞都市フブキ──

 民家が並ぶ街に見えるこの都市だが、実際には街のあらゆる場所に盗聴器、監視カメラが仕掛けられている。
 国王クールヘッドは気分次第で庶民を虐殺する鬼畜な王様。
 庶民は彼の命令に忠実に従い老若男女すべて軍人として教育済みだった。
 王直属の暗殺部隊まで用意されており、国王を侮辱する国民は翌日無惨な死を遂げている。
 そんな国に、ある男がたどり着いたのだった。

「助けてくれ!サラマンダーに追われてるんだ!」

 そんな助けを求める男に入国管理局の兵士達は大慌てだった。

「何者だ怪しい奴め!
何処から来た、名を名乗れ!」
「俺は旅をしているユウトという者だ、魔族の村カリバーンで殺されそうになり逃げてきたんだ」
「まさか人間に化けた魔族などという事はあるまいな?
少しでも怪しい動きをすれば射殺するぞ、覚悟しておけ」

 銃口を向けられながら検問所で取り調べをされているユウト。
 彼は生身の人間から見れば、傷だらけで走れるほうが不思議なレベルの重傷だった。
 職員は入国希望者ユウトの事を哀れに思ったのか上に報告をしている。

「カリバーンから追われた入国希望者、ユウト・アカギ、映像送ります」

 入国者監視室に映像が送られ軍服を着た者達がチェックしていた。

「武器は所有していません」
「全身チェック、人間に化けた魔族の確率10%以下」

 監視員達はモニターで入国希望者をチェックし監視する決まりである。
 ユウトは超小型の監視カメラ、盗聴器を仕掛けられ、病院送りとなった。
 彼は外見的に人間な為、半魔族とバレる事は無かった…。



 ──1時間後──

「何故じゃ!何故奴を入れたのじゃ!
手負いなら何故その場で殺さなかった!
魔王ユアじゃぞ?奴は世界を滅ぼす存在じゃぞ!?
この国を、いいや世界を滅ぼす驚異を何故受け入れたのじゃ!!!」

 巨大な監視モニター室で部下達が軍服の肥満な男に殴られている。
 怒り狂い部下を暴行するこの男の名は、北の要塞都市フブキ国王クールヘッド。
 彼は数年前、魔族の国カリバーンで魔王ユア襲来以降軍事力を高めていた。

「しかし彼はユウト・アカギと名乗っていましたが…似ているだけで別人だったりするのでは?」
「バカか!その名前こそが証拠であろうが!ユウト・アカギ、略してユアじゃ!貴様等の処罰は後回しとして、まずは我が国暗殺部隊を呼べ!奴を監視させ、油断しているうちに暗殺しろ!」

 モニター室にクールヘッドの叫び声だけが鳴り響いていた。




 その頃…
 ユウトは病院内で治療が終わり傷は回復していた。

(あの首輪の影響か回復が出来なかったな、魔力や傷口は徐々に戻りつつあるが後半日は戻らない可能性が高い…スキルも使えるかどうか…追っ手が来たらやばいな…)

 そもそも重度の怪我をした状態でカリバーンからフブキまで走るなどという芸当はふつうの人間には出来やしない。
 馬で二週間と言った距離をユウトは六時間で走りきった事もあり、レベル9999の肉体はやはり異常なのだ。
 しかし、そんな彼にもクロス王国製の首輪による負荷は彼の身体に多大なるダメージを与えていた。

(しばらく魔力やスキル使用不能じゃマリンも呼べねぇし、偶然たどり着いたこの国でまず身体を癒すしかないか…)

 ユウトはその後、手術が終わると、入院患者として病室に案内された。

「本当に死ぬところだった…
俺が生きているのはあなたのおかげだよ…ありがとう先生」
「ほっほっほっ…気にするな…
しかし、火傷に切り傷、酷いやられっぷりじゃったのう、カリバーンの魔族にやられたとか言っておったが」
「ああ、クレスタウンで奴隷商人に捕まって、カリバーンに売られ拷問されていたんだ…そこで俺は隙を見て逃げてきた」
「そうじゃったか、それは災難じゃったのぅ…まぁ、ゆっくり休んでいくと良い、旅人さんよ」

 しかしその数分後外は騒がしくなり病院周辺は軍に包囲される事になる。
 国王クールヘッドは冷や汗を流しながら軍へ連絡を取っていた。

「ふっ、奴隷商人に捕まったじゃと?
世界を滅ぼす魔王が言うとは、笑わせてくれる。
そして皆、無駄かも知れぬが病室の外で何時でも戦えるよう準備をしておけ。
指揮権は将軍グレイに任せる、魔王ユアが脱走せぬか、十分に警戒するのじゃ。
そして暗殺部隊はこちらの意図に気付かれぬよう十分に注意しながら徐々に弱らせろ…
殺すのが不可能なら封印でも弱体化でもかまわん…
奴を本気にさせれば世界が終わる…十分に注意して警戒される前に終わらせるのじゃ…」
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