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1000年後の世界~大和王国編~

ギーク王国決着、そして遙か未来へ

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 ──モコモコ王国入り口付近──

 そこでは気絶したベルベット、アミー、アリシア、ベロニカがツタで持ち上げられながらアルラウネに運ばれている。
 塔を見渡すと上の階が消滅しており、その周辺にある民家までもがバラバラに崩壊し被害状況はかなり出ている様子だった。
 そんなアルラウネの後ろからマリン、カジル、クフェア、セネカが歩きながら着いてきている。

「あの雪女の気配がないわ、でもそれよりユウト達が心配…
アルラウネ、本当に無事なんでしょうね?」
「彼らに何かあった時は、その時点で俺達も敵になると知れ」
「しかし、なかなか住み心地の良さそうな国でありんすねぇ。
魔族を忌み嫌う人間共もおらず、空気も悪くない」
「確かに…でも今は雪女でしょ、あれの強さはマリンや魔神をも越える強さだったわよ?」

 マリン達とアルラウネは雪女のヒョウカを探しつつ、仲間の元へ、ユウト達の元へ目指して歩いていた。

「いずれにせよ、まずは状況を確認しましょう…
アミー、ベルベット、そろそろ起きなさい」

 アルラウネがそう言って草の鞭で叩くと、気絶していたベルベット、アミーが驚いて目を覚ます。
 彼女らはヘカテー、ニュクスとの戦いでほぼ互角の実力を見せたものの、最後は油断し2人とも敗北したのだ。

「申し訳…ありません、敗北し、意識を失うなど…
次こそは必ず、アルラウネ様のお役に立ってみせます…」
「はうぅぅ…自分が情けない…
こんなんじゃ、もう親衛隊長なんて…」

 意識を取り戻した2人が暗い表情になりながら、まるで反省会のような雰囲気で泣き言を言っていた。

「2人とも、戦いが終わったら特訓が必要ですね?
でもその前に、今は敵戦力の生き残りがいるかも知れません…まずは探索を…」

 しかし皆の進む進行方向の先で、いかにも待ち構えていたかのように地面に剣を両手で突き立て、立っている男がいた。

「あなたは先程の…」

 彼は黒姫の部下にしてギーク王国宮廷魔術師だった男、ガーネット・スター、戦闘中行方がわからなくなった男だった。
 彼は無謀にも剣を抜き、その切っ先をアルラウネに向けている。
 体はボロボロで、目に生気は無く、しかし何らかの覚悟を決めたような表情ではあった。

「貴方は黒姫様を殺しました…
ですから、今度は私が相手です…」
「正気ですか?
やめておきなさい、死にますよ?」

 誰が見ても一目瞭然で、黒姫、ニュクス、ヘカテーを無傷で倒したアルラウネにガーネット・スターが適うはずがない。
 にもかかわらず彼は疲労が見える足取りで剣を地面から引き抜こうとしている。
 プライドが許さないのか、あるいは死に急いでいるのか、彼は剣を抜いて構えたのだ。

「ふ…この世界には、もう私の居場所なんて何処にも無いんですよ…
アルラウネ、貴方を殺して私も逝きます…」

 その返答に、アルラウネも目を瞑りがっかりと言った表情で肩を落とした。

「残念です、貴方とはもしかすると分かり合えたかも知れませんのに…」

 ガーネット・スターは派手に剣を構え、足で地面を蹴ると素早い動きでアルラウネに斬りかかって来る。
 しかし戦力差はあまりに大きく…到底埋まることはなかった。
 これは誰が見ても、ガーネット・スターの一方的な自殺にしか見えなかった。

「私はギーク王国宮廷魔術師…ガーネット・スターだ!
覚悟しろアルラウネ!」
「そうですか……」

 彼は力一杯アルラウネを斬りつけるのだが、案の定、避けられてしまう。

「あ…くっ…!!!」

 そして直後に地面からツタが出現し、それらは彼の全身を貫いた。
 手も足も腹も背中も心臓も硬いツタに貫かれ、彼は口から血を吐きながら体の力が抜けていく。

「では、おゆきなさい、彼女の元へ…」
「がはぁっ…黒…姫…様」

 その言葉を最後に、彼は倒れ込むと意識を失った。
 彼の体はツタに魔力を吸われ干からび植物の養分となった。
 しかし彼の遺体は絶望ではなく、満足したかのような表情だったのだ。


 ──塔周辺──

 「はぁ…何だ此処は…いったい何が?」

 先程の事を覚えていないユウトは、マーガレット、サタン、パールグレイ、セシルと顔を見合わせ混乱していた。

「確か、この枕を預かって、逃げたところまでは覚えてるんだけど…」
「恐ろしく強い雪女が現れて砲弾を受け止められ、その後、どうなったかわかりません」
「つまり、記憶を消されているのか、我もユウトも」
「まぁ、細かいことはいいのです、僕たちは生きているのであります!
にゃん♪」

 そんな話をしていると、向こうからよく知る人物、アルラウネがやってきて全員で身構えた。

「アルラウネ!!」

 ユウトが怒り、三本のうち、未来予知の大剣ガーネットの鞘に手をかける。
 しかし、彼女はそんなユウトに怒ることもなく、優しい表情で語り出した。

「皆様…モコを…私の命を守って下さったのですね…」

 その視線の先はマーガレットが抱き抱える生きた枕だった。
 彼女は心の底から感謝した表情だった。
 そんなアルラウネの様子にマーガレットは枕のことだと理解し、彼女に差し出した。

「貴方の部下から届けるように頼まれてね…
三人の死体はあそこよ…」

 マーガレットが指さした先には凍った3人、ミユキ、カルラ、アリスの死体があった。

「あぁ…なんという事でしょう…死後から時間が立ち過ぎています…これではもう…」

 死後の仲間を見て、アルラウネは力が抜けてしまい、動けるようになったアミーとベルベットに支えられる。

 アルラウネの後ろからも疲れ果てたアリシアとベロニカがやってきて、さらに後ろからやってきた者に声をかけられる。
 その声は聞き覚えのある声だった。

「ユウト!パールグレイ!無事か!?」
「こら、みんな死んでないか心配したんだから!」

 カジルとマリンだった。
 彼らはユウトピアからユウト達の元へ駆け付けたのだ。

「まぁ、やはり、言ったとおりピンピンしてるでありんすねぇ…」
「マゾゴミが頑丈なのは昔からよね♪」

 続いてドッペルゼンガーのクフェアとエルフのセネカも現れ、ユウトピアの戦闘員全てが現れたことにユウトとマーガレットが頭を抱えている。

「カジル、マリンと…セネカ様にクフェア様まで…全員来たの?」
「駄目じゃない、ユウトピアを放置して全員で来るなんて!」

 2人の指摘に合流した4人は一瞬気まずそうにするものの、クフェアとセネカが言い訳をする。

「ラタトスクがいるでありんす…」
「まぁ、あの娘がいれば大丈夫でしょ」
「はぁ…そんなので良いのかしらね…ユウトピアの運営は…」

 2人の言い訳にマーガレットが呆れていたが、マリンがユウトに抱きついて涙を流していた。

「もう…危なくなったら教えてって言っておいたのに…どうして私に連絡を寄越さなかったの?」
「いや、それが…色々あって連絡の手段もすべて絶たれてだな…」

 ただ、マリンも、カジルも、皆が生きていた事に関しては安心し笑みがこぼれていた。
 そこにアルラウネがやって来て皆に頭を下げ話し始めた。

「貴方達には本当に酷いことをしてしまいました、今更ですがお詫びをしたいと考えております…」
「まず、何故あんな事をしたのだ?アルラウネよ」

 最初に疑問を口にしたのはサタンだった、感情を押し殺してはいるが、場合によっては怒りが爆発しそうにも見える。

「はい、皆様には彼と同じスキルを身につけて頂こうと思いまして…出過ぎた真似をしてしまいました」

 彼と同じスキルと言われたサタン、パールグレイ、マーガレット、セシルには心当たりがあった。
 昔の仲間や家族と再会、そこからこの世界へ戻って来たあの体験。
 あれこそが、スキルの修得に必要だったのだと、ユウトも体験したものだと、何となくだが理解してしまった。
 つまりは、ユウトと同じく死んでも魔力を糧に蘇る不死身スキルを皆も身につけた事になる。
 結局、彼女は「試練」と言いながら実際にサタン達を殺害したのは間違いなく、残虐非道な行いをした事には変わりはなかった。

「許さん!元部下だからと容赦はせんぞ!
そもそも…我よりも強くなりおって!
ユウトも何か言ってやったらどうだ!?」
「そうだ!よくもペットにしてあんな酷い目に遭わせてくれたな……
アルラウネも、ベルベッ…ひぃっ……」
「おいユウト!何故声が小さくなる、震えて脅えているではないか!」

 理由はアルラウネにツタに巻かれているベルベットが、ユウトを凄い形相で睨んでいたからだった。

「どうしたんだい?
続けたまえ…家畜…」
「いや…何でも…」
「おいユウト!それでいいのか!?」
「よくない…去勢されたのは初めてだったし…
オーク達に…酷いことをされて…思い出しただけで…うぅっ…
ベルベットの馬鹿ぁ…」
「ユウトったら泣いてるじゃない!いったい何をされたの!?」

 泣き出したユウトがサタンとマリンに心配され、ベルベットは困った表情で言った。

「なに、ただマゾの快楽を教えてやっただけだよ…
実際喜んでいたじゃないか、なぁ家畜?」
「違っ、喜んでなんか…」
「ほほぅ、ではまた、調教が必要なようだね?」

「マリン…助けてくれ」

 赤髪の女剣士の格好のマリンの後ろに隠れ、ユウトはガタガタと震えていた。
 その後、マーガレットがアルラウネのほうを向いて語り出した。

「アルラウネ、少しでも悪いと思っているなら私達の願いを聞いて?」
「……伺いましょう、私に出来る範囲であればなんなりと」
「マゾ教には木になった大切な仲間がいるの、彼女がいないと私達メンバーは始まらないと言っても過言ではないわ?
その仲間を何とか元に戻して欲しいの…出来そう?」

 マーガレットの話にアルラウネは察した様子で続きを話し始めた。

「ああ、パンドラの事ですね…ユウト君の記憶を見せて貰ったので知っています。
もちろん構いませんよ」

 その答えにサタンとパールグレイ以外は明るくなり、喜んでいた。
 大切な仲間が蘇る、その事実だけでユウト達の心は晴れていった。



 その後、能力でマゾ教へワープするのだが、そこでは大事件が起こっていた。

「ご主人様の木が…消えた?」
「そんな…ちゃんと確認したの?
誰かが持ち出したりしてない?」

 マゾ教にある今は亡きヴィクトリアの部屋、そこにパンドラの木が置いてあり、飾られていたのだが、今日見たら消えていたというのだ。
 マゾ教の幹部達に心当たりもなく、司教のソニアですら持ち出す者は見ていないと言っていた。

「困りましたね…時間を巻き戻して確認してみましょう…」

 アルラウネは能力で過去の映像を見たのだが、なんと突然透明になり消えたと言っていた。

「…なんだよそれ、俺はもう…どうすれば…」
「泣かないでユウト、存在が消えたって確定したわけでもないし…これから私たちで探しましょう?」
「そうよ、私達なら間違いなく探し出せるわ」

 マーガレットとマリンに励まされるが、この事件がきっかけにユウトの心にはぽっかり穴が開いてしまった。
 ギーク王国陣営と、邪神ヒョウカが居なくなった事により今世紀の巨悪は滅んだのかも知れない。
 しかし、助けようと思っていたパンドラの行方がわからなくなってしまった事は、ユウトピア陣営にとっても大事件だった。

「色々、今後のことも考えなきゃいけないなぁ」

 ユウトは落ち込んだままだが、悩みに悩んだ末、ひとつの方針をアルラウネに伝える事にした。

「あんたらが人間の事が憎いのはわかる…
種族間の差別は今後も続くだろうし、そう簡単には終わらないだろう。
しかし、ユウトピアでは人も魔族も共存出来る環境を作りたいと考えているんだ…
そこでアルラウネ様、俺達に力を貸して欲しい」

 ユウトの提案にアルラウネは素直に頷いて、聞き入ってくれた。
 共に戦い、自分の命を守ってくれたユウト陣営を信頼したのか、今までのような極悪女王のようなオーラは感じなかった。

「確かユウトピアとは、女尊男卑国家にして人間と魔族の住む国と言っていましたね?」
「ああ、現状メンバーの比率が女性のほうが多くなった結果こうなっているだけだが…
俺は女尊男卑の階級制度を作っても良いと考えている」
「何ですとぉ!?
正気ですか?ユウト君!」
「貴様!それはやめておけ!王国が崩壊するぞ!」
「おいユウト、国の運営は遊びじゃないんだ、よく考えてものを言え」

 ユウトの発言にパールグレイ、サタン、カジルがテーブル席の紅茶を吹き出すほど驚いていた。
 そこに、おとなしく席で紅茶を飲んでいたベルベットが口を挟む。

「差別のない国、人間と魔族の共存する国と言ったな?
人の寿命は100年、魔族の寿命は短い者でも1000年は軽く越える。
これで、どう共存するというんだい?」
「冷静な判断が出来るトップに任せようと考えている…」

 ユウトが言った滅茶苦茶な意見に、皆が驚き口をポカーンとあけていた。

「へぇ、面白い事を言うじゃないか家畜、それで?
冷静で正しい判断が出来るのは誰なんだい?」

 舌舐めずりをしつつ、ユウトを小馬鹿にするような態度で足を組み紅茶を飲むベルベット。
 ユウトは席に着いた皆のうち、アルラウネに向けて指を刺した。

「私に人間と魔族の国の女王になれと言うのですか?」
「はい…出来ればモコモコ王国民をユウトピアへ招き入れ…そこの女王になって貰いたい…」
「ぐぬぬぬ!
さっきから聞いていれば勝手な事を!
アルラウネ様、こんなやつに耳を傾けちゃ駄目よ??」

 ユウトの意見にアミーが頬を膨らませながら机をバンバン叩いている。

「落ち着きなさいアミー…まだ話は終わっていません」
「ぐぬぬぬぬ…!!」

 アルラウネに叱られ黙り込むアミーだったが、ユウトは続けた。

「もちろん俺も、奇麗事ばかりを言うつもりはありません…
こちらの世界で悪い人間や魔族の抑止力としてマゾ教が必要なように…
ユウトピアにおいて、アルラウネ様は希望になるんだ…」
「ふん、マゾゴミのくせによくわかってるじゃない…
でもその役割をアルラウネひとりに任せていいの?
ここって、人間に恨みを持ってる子が多いんでしょ?
争いが増えちゃうんじゃない?」

 エルフの女王セネカの意見は最もだとマリンやマーガレットも頷いた。
 しかしユウトはアルラウネを見つめ、言った。

「貴方は人間を嫌っちゃいるが、しかしそこの魔神2人やアリシア達ほど狂気に染まっちゃいないし、冷静な判断が出来る。
貴方ならきっと人も魔族も正しく導けると俺は確信している。
国を任せるならアルラウネ様しか考えられないんだ」

 根拠のない話だが、ユウトはアルラウネを信じて、まっすぐに見つめて言った。

「…ほほう、私が狂気に染まっているだと?」
「許さないわ、ボコボコにしてやるから表に出なさい!この家畜!」

 アミー、ベルベットが立ち上がって怒っているが突然身動きが取れなくなり椅子に座らされた。

「「うっ……」」
「はぁ…貴方達…
あまり私に恥をかかせないで下さい…
今は私が彼と話をしています…おとなしくしていなさい」

 その後、しばらく沈黙が続いてから、アルラウネがユウトピア陣営の女性陣を見て話しかける。

「貴方達は賛成なのですか?
一度は仲間を殺した、憎き私を女王として認められるのですか?」

 罪悪感を感じながら言うアルラウネにマーガレットとマリンが悩みもせずにすぐに答えた。

「まぁ、その件に関しちゃ文句はあるけれど…
ユウトが言うんだもの、私は息子を信じるわ?」
「私だって、今までユウトの判断には救われてきたし、賛成よ!」
「ふふ…サタン、パールグレイ、カジルにセシル…
何をそんなに嫌がっているでありんすか?」
「嫌に決まってるだろ…法で女尊男卑を決定するなど…」
「我は…あれか、インキュバスだし、最悪女体化すれば…」
「卑怯だぞサタン!!」
「そうですよサタン!!あなたもこちら側でしょう!!」
「何を!?我とて出来ればこの体の方が落ち着くのだ、卑怯と言うならカジル、パールグレイ、種族が違う己を恨め!」

 反対派の三人は、賛成する女性陣とユウトに取り残され、勝手に話が進んでいった。
 階級制度を作り、女性優遇、男性冷遇を強制的に実施させるという案が話され、決められていく。
 サタン、カジル、パールグレイには猛反対されるものの、彼らの意見はいっさい取り入れられなかった。
 役職はアルラウネを女王として、そのサポートにマーガレット、マリンを置く形でまとまった。


■□■□■□■□■□■□■□

 それから月日は流れ、モコモコ王国の国民達がユウトピアへ大移動を始める。
 アリシア、クライス、歓楽街の魔族達も皆アルラウネに着いてきた。
 残ったのは一部人を異常なまでに嫌悪する魔族達だけ。
 しかし、その結果、ユウトピアは国として完成したのだ。


 ユウトピア内首都「ロックタウン」

 そこは高い岩の壁に囲まれた巨大な都市、そこの中心部に大きな城がある。
 名は「無限城」と言う。
 ラタトスクとセシルはメイドと執事をしており、ユウトとサタンは女王アルラウネの騎士という地位を与えられていた。
 カジルは王国軍の隊員、パールグレイは研究所の局長となった。

「お前に付いてきた我が馬鹿だった…何だこの状況は…」
「仕方ないだろ、これが一番最善の方法だったんだから…
やばくなったらマリンやお母さんに助けて貰えばいいだろ…
あるいはクフェア様…は無理か…」
「僕なんて、ユウト殿のせいで、今ではベルベット殿とアミー殿の玩具です…にゃん♪」

 ユウトに対しサタン、セシルが文句を言っていた。

「俺なんて、王国軍の中佐だぞ?
元魔神や魔王の部下とか、伝説の勇者カジルの名が泣くぜ…いまや地に落ちたようなもんだ!
いや、そもそも動く死体、ワイトな時点で人の勇者じゃないのか…」

 王国軍の配置は、将軍がベルベット、大佐がアリシア、中佐がカジルと配置換えだった。
 しかし皆文句を言いつつも、本気では反対しなかった辺り、ユウトを信頼していると取れる。



 そうして月日が流れ…
 ユウトピア内で100年の時が流れた。

 つまり現実世界では1000年の時が流れた事になる。
 無限城では、ユウトを食卓で囲みあるパーティーが行われていた。

「ユウト、100歳のお誕生日おめでとう!」
「背も高くなって、ようやく大人になれたのね…
お母さん嬉しいわ…」
「やめろよ、人間の感覚だったから百歳とか言われると…お爺ちゃんみたいじゃないか…」

 テーブル席にはケーキがあり蝋燭10本、周りにはメンバー全員が揃っていた。
 マリン、マーガレットは当然として、サタン、カジル、パールグレイ、そしてアリシアやベルベット、アミーも座っていた。

「おーおー、美味そうなケーキじゃねぇですかぁ♪
アタシはチーズケーキのほうが好きなんで、こっちを分けて貰いますよ!」

 アリシアがケーキをナイフで切り分け、お皿に取っている。
 ユウトと同じく彼女もまた成長しており、ヴァンパイアのアリシアからは大人の色気を感じるほど魅力的だった。

 ちなみにユウトピアの外の世界の話をすると、そこでは大事件が発生していた。
 大和王国の国王と、今世紀の魔王とが平和条約を結び仮初めの平和を手に入れていた。
 魔族との戦争はなくなり、一時的とはいえ魔族と人族は安息の日々を手に入れたのだが…そこには国王と魔王による、悪意に満ちたカラクリがあった。



 ──旧悪魔塔B1塔──

 監獄の中で、百姓をしていた男達が捕らえられている。
 牢屋に閉じこめられており、彼らは此処のルールで死刑が確定していた。

「今月分の農作物が間に合わなかったからって死刑なんてあんまりだよ…
魔族と人族は平等なんじゃなかったのか?」
「しっ、誰か来るぞ!?」

 監獄内に足音が響き渡り、中へ美しいサキュバスが入ってきた。

「うふふふっ♡
貴方達、今日もゲームをしましょうか♪」
「「ひいぃぃっ!!」」

 男達の悲鳴が上がる…
 サキュバスはお茶碗と三つのサイコロを持って檻の前までやってきた。
 ボンテージのような姿で胸元や足に見とれるが、彼らには死の恐怖のほうが大きかった。
 彼女もまた何処か狂気を纏った表情で、鋼の尻尾がちらついており、男達は恐怖で何も言えなくなる。

「ゾロ目が出たら死刑♡
その時はこの中の一人に死んで頂きます。
貴方達が生きるか死ぬか、このサイコロに掛かっているんですよ♪」

 皆、地面に置かれたお茶碗を必死で見つめ、ある者は泣きだし、ある者は手を合わせて目を瞑る。
 カチャッと音がして、見るとサキュバスの女は既にサイコロを振っていた。

「あ………」

 サイコロはお茶碗の中でぶつかり合い、目を変えるのだが、やがて三つの目は1が揃っていた。

「おやおや、死刑が確定しましたよぉ♡
今日は、だ~れ~に~し~よ~う~か~なぁ~?」
「おい、やめっ、ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 サキュバスの尻尾が突然伸びて、一人の男の心臓を貫いた。
 引き抜かれた時には既に即死しており、サキュバスの女は鋼のような血の付いた尻尾を舐めながら言った。

「うふふっ、か弱い人間の男共、可愛いですね♪」

 監獄の中では男達の悲鳴と狂気に満ちたサキュバスの笑い声だけが鳴り響いていた。
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