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モコモコ王国編
VS黒姫
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──10分後──
モコモコ王国上空に帽子を被り、ホウキに乗った緑の長髪の女が浮いていた。
周りには黒いゴーストのようなモンスターも浮いている。
「正面から入るよりこのほうが確実だったな。
アルラウネとやらは想像以上に手強いかも知れない。
気を引き締めて行かねば」
その魔女のような彼女が指示を出すと空中からゴースト達が辺りに散らばり、まるでミサイルのように各地に直撃すると大爆発を起こす。
「混乱している隙に、私も入るとしよう…」
その姿は過去にヴィクトリアが4000年もの過去へ飛ばした悪魔塔A5塔、そこで幹部を務めていた3人の魔法少女のうちの一人。
(魔法少女シオン)
しかし、以前より少しだけ大人になっているようにも見える。
彼女がホウキで下まで降りると体が真っ黒な液体に変化する。
そしてその液体は柔らかな粘土をこねるように別の形に変形して、別人へと変化してしまう。
それは金髪のシオンと同い年ぐらいの女だった。
「ふーん、やっぱり集まってきたかぁ…
だったらこれでどうよ!
「クリエイト・サックサク!」」
その女が何らかのスキルを発動すると、門の付近にいた兵士達がすべて揚げ物へと変化してしまう。
しかし、納得行かない様子の彼女は、また黒い液体に変化すると、黒髪の赤い着物を着た女「黒姫」へと変化した。
「ふむ、やはり、この姿が一番じゃ…
自我が強い者は妾の中ですら、己を保とうとする…
扱うのが大変じゃ…」
そこに、後ろからシルクハットを被ったスーツの男がやってきた。
「黒姫様…」
それはボロボロになって今にも倒れそうな、死んだと思われたギーク王国の宮廷魔術師、ガーネット・スターだった。
「黒姫様…どうして、デネブを…タニアを手に掛けたのですか…」
「はぁ…お前か…全く…しつこいのぉ…」
「私は今でも黒姫様をお慕いしております…貴方が人の姿をしていなくとも、人間でなくとも関係ありません!
あなたの為ならこの命、いつでも差し出せる!
しかしあのとき、デネブ、タニアには何故一言も頂けなかったのですか!
何故何も言わず、飲み込まれたのですか!」
必死で叫ぶガーネットに黒姫は無表情で答える。
「タニア、デネブ、そしてお前は妾を追い…妾の敵である羽佐木郁磨の研究を手伝い、4000年後の世界へ到達したのじゃろう?
ならば、取り込んで楽にしてやるのも愛ではないか?
どうじゃガーネット、お前も妾の一部となり力になってくれぬか?」
黒姫は手を広げ、ガーネットに笑みを向ける。
まるでハグされるのを待っているかのポーズだった。
しかしガーネットは黒姫の考えを察して、下を向いて悔し涙を流す。
「私を信じていませんね…黒姫様…
貴方は変わってしまわれました…
いいえ、もしかすると、本当は最初から人の心など持っては居なかったのかも知れませんね。
貴方はあの、愚かな科学者と将軍を利用し、魔族の世界を作らせた。
その結果がこの、4000年後の未来です」
「気に食わぬかガーネットよ、しかし、妾の計画は完璧じゃ…
現に魔族と人族の対立は叶い、今こうして、本物の魔族達をも呼び寄せる事に成功した。」
「魔神、あるいは最強種の事ですか…」
「うむ、この国で頂点の中の頂点が決まり、やがてそやつが神となろう…
そして、その強者共をすべて食らい、この世の神と言っても過言ではない力を手にし…
帰れなくなった魔界へ帰る…
それが妾の願いじゃ…」
「魔界へ──?
そんな事の為に…
ここまでしたとは…」
「ガーネット・スター、お前は今までよく妾に仕えてくれた…褒美をくれてやる」
黒姫は二本の刀を抜き、ガーネット・スターに構えている。
そして、そのまま、彼に向かって二本の剣を振り下ろした。
「黒姫流二刀流剣術!
「エンプレス・ツリー」」
彼女が剣を振り下ろすと、ガーネットめがけて追尾する死の斬撃が飛んで行く。
だというのに、ガーネット・スターは満足気で、しかし少し寂しそうな表情で黒姫に微笑みかけ死を受け入れていた。
しかし、その斬撃は予想外な相手に受け止められる。
それは、黄金に輝く屋台を引きながら歩いている、リザードマンと人間のハーフだった。
「らっしゃい、らっしゃい、安くしとくよお兄さん♪
天下無敵の最強武器屋「ゴールド」の武器の実力!
とくと見てっておくれ!」
空気を読まない大きな剣を持ったトカゲの尻尾の女。
金色に輝く屋台を引きながら現れて、黒姫の斬撃を大きな剣で受け止めた。
「馬鹿な…この技を止められる者が、こんなところにも居たとは…」
「誰です貴方は、これは我々の問題ですよ。
貴方たちモコモコ王国の民が関わる問題ではありません」
「いやぁ、そうでもねぇっすよ、ハーフエルフのお兄さん♪
現に不法侵入ですし、そこの姫様は門番を何人か殺してますからね、処刑対象なんすよ!」
何故か屋台の上に立っていたヴァンパイアのアリシアが答える。
「そうでぃ、そうでぃ、女王様も認める最強武器屋、ゴールドの店主ベロニカちゃん一人いりゃ!
王国軍もプラントナイトも出る幕無しってもんだ!」
武器屋ゴールドの娘「ベロニカ」の持つ大きな剣は黄金に光り輝いていた。
これが実は、先程の黒姫の斬撃を受け止めた剣でもある。
そんな剣を見たアリシアはテンションがあがり目を輝かせている。
「うおおぉぉっ!!!
ベロニカそれ、斬撃系で最高の威力を誇る、ゴールドソードじゃないっすかぁ!!」
「流石アリシア大佐、お目が高い!
今なら金貨五千枚でお譲りしますよ!
皮膚の硬いドラゴンでもゴーレムでも、植物化する斬撃でも、ゴールドソードに防げぬ物無し!」
「いや、いらねぇっす、緊急事態だからちょっと貸せって言ってるんすよベロニカ!」
「何だって??買わねえ大佐に用はない!帰った帰った!」
「はぁ、でもベロニカ…緊急事態っすから…」
ベロニカは屋台を引くと、死体のあった位置に小瓶を投げ始めた。
「ベロニカちゃん特性蘇生薬!
「名前はまだない」これで生き返らなきゃアルラウネ様に頼むしかねぇってもんだ!
ほら、生き返ったらお勘定だよ!門番ども!」
黒姫が先程倒した門番達が生き返り、起き上がって来る。
「う…なんだ?」
「どうなって───」
「確かゴーストが飛んできて爆発して」
「空に魔女がいたような気が…」
「さぁさぁ、最弱の門番ども!支払いだ支払いだ!
ひとり金貨五万枚!
てめぇらの命が金貨五万枚で買えるんだ!
安いもんだろう?
金がねぇなら、一生只働きだよ!」
その発言に、門番のオークやゴブリン達が青ざめて、涙を流している。
「5万枚って…俺達の5年分の給料じゃ…」
「勘弁してくれよベロニカ様ぁ…」
「五年只働きとか嫌だぁぁぁ」
その様子に黒姫は驚いて、しかし口元をつり上げると、二本の刀を構えた。
「どうやら妾が舐められておるな、では最初から全力で行くとしよう。
「ブラッディ・ムーン」」
月に向かって剣を振り、彼女は月に斬撃を飛ばす。
すると…空が暗くなり、雨雲が集まってくる
そこへ光の早さで何者かが飛んで来て、地面に着地した。
「ぐぬぬぬっ…アリシアとベロニカに先を越されるなんて…
ちなみにあいつは?」
やって来たのは小さなサキュバスで魔神のアミーだった。
その後ろから、見知った軍服に帽子を被った将軍ベルベットの声がする。
「私のことかい?
アミー、君と同時に今到着したところだよ。
そんな事より君には女王様の護衛任務があるだろう、ここは私に任せて…そちらを優先したまえ。」
「そうしたいのは山々だけど…」
アミーの視線の先をベルベットが見ると、そこには女王アルラウネが立っていた。
「なるほど…困ったお方だ…」
「ベルベット、アミー、聞こえていますか?
アリシアとベロニカではあの着物の侵入者の相手は厳しいでしょう。
サポートしてあげなさい。」
「「はい」」
その時、入り口付近からさらに何者かが侵入してくる。
それはカジル、クフェア、そしてマリンとセネカだった。
「ユウトは無事なんでしょうね?カジル」
「わからん…サタンが死んだ時点で一緒に殺されてる可能性もあるかもな…」
「マリン、あの変態小僧のしぶとさは異常でありんす」
「そうそう!あの変態マゾゴミがそう簡単に死ぬわけないじゃない!」
酷い言われようだが、入り口付近にユウトピアから来た仲間が、黒姫とガーネット・スターを挟んでいる。
そして反対側にはアリシア、ベロニカ、アミー、ベルベット、アルラウネだ。
「女王アルラウネ!
ユウトを!仲間達を返しなさい!」
その時、マリンを見たベルベットが笑みを浮かべ、興味深そうに聞いてきた。
「あの家畜にマーキングしたスライムは君だったか…
安心しなさい…彼だけは、まだ生きているよ…」
「じゃあ、他のみんなは…」
「────」
「そう──」
マリンの問いに、ベルベットは無言だった。
「そしてもうひとつ、この空は誰がやったの?
これって、あの黒い影の化け物のしわざよね?」
ベルベットの視線が赤い着物の女に向き、マリンは察した。
(この女から、あの白塗りの顔の男を倒した時の黒い雨と同じ気配を感じるわ…
そしてお姉ちゃんが変貌した姿にも…)
マリンが敵意を黒姫に向けていると、アルラウネが前に出て来た。
「スライムのお嬢さん、話は後でお聞きしましょう、仲間も蘇生させお返しすると約束します」
「やけに低姿勢でありんすね、モコモコ王国の女王」
「そうか…マーガレット様も、パールグレイも助かるのか…よかった…」
「それで?何がお望み?
ユウトピア陣営舐めんじゃないわよ!
モコモコ王国の女王!」
アルラウネの言葉にカジルは安心し、クフェア、セネカが噛みつきそうな勢いだった。
「共闘して、そこのギーク・ハザードを倒しては頂けないでしょうか…」
「仲間を殺しておいて良く言えたものね?」
「お詫びも致します、これには深いわけがありまして、戦いの後には必ずご説明させて頂きますので…」
アルラウネとマリンが言い争っていると空の雲がモコモコ王国全体を包み込んでいた。
「くくく…妾に時間を与え過ぎたのぉ、愚か者どもが…
魔神共も、アルラウネも、滅びの黒き雨に打たれ消滅するがよい!」
そして雨が降り始めた瞬間…
モコモコ王国組はアルラウネ以外警戒し、マリン側も皆、空を見上げ、クフェアがスキルで退路を準備していた。
魔神クラスのベルベット、アミー、マリンと言えど絶体絶命かと思いきや…
突然、景色が別の場所へと変化してしまう。
そして雨は落ちてこなかった。
「こ、これは…?」
技を放った黒姫が驚いている──
そこは見たこともない不気味な夜の草むらで…
しかし空はやはり雨雲がでていて黒い液体の雨が降っていた。
一滴でも当たれば体が溶け始め、永遠の死が待ち受けている恐ろしい雨で、もし受ければ蘇生魔法でも生き帰りはしない…
そんな、恐ろしい即死の全体攻撃だというのに──。
アルラウネの力により、その雨が誰かに降りかかる事は一度も無かったのだ。
「あの雨をこうも簡単に防がれるとは流石…」
「ふふん、流石アルラウネ様だわ!!」
「アミー、ベルベット、本来なら私より先に貴方達がこれをやるべきなのですよ?
特にアミー、あなたは私の護衛なのですから…
これはまた鍛え直す必要がありそうですね」
「はうう…申し訳ございません…
っつー事で、アミーちゃんいっきまーす☆」
アミーが両手を黒姫に向けると、彼女は突然呼吸が出来なくなった。
「くっ…おのれ…」
黒姫は倒れ、苦しそうな表情のまま両膝を曲げ前に倒れ込む。
そこへマグマスライムと化したベルベットが黒姫に隕石のように飛んで彼女の周りをマグマの海に変化させ、包み込む。
彼女は黒い液体と化し地面へと溶けていく。
「おのれ…魔神どもが…」
アミーの指定した範囲、空気を無くす特殊なスキルと、ベルベットの変身スキルが炸裂し、黒姫は終わったように見えた。
だが次の瞬間、黒い液体は分裂し、それぞれが形を作り人型になる。
その様子にユウトピア陣営、アルラウネ陣営も顔色を変えて見つめていた。
「あれって…あの時の…魔神ニュクスよね?
それに、お姉ちゃん?」
「それどころか…魔神ヘカテーまでいるぞ…他にも緑髪の魔女…金髪の女…あのビデオカメラを持った男は何者だ?」
「堕天使、メタルスライム、ゴールドスライムもいるわね…」
「しかし、本当に見た目通りの強さなのでありんすか?
わちきにはとてもそうは見えないのだけれど…」
マリン、カジル、セネカ、クフェアが復活するかつての敵の戦力分析をしている。
確かにゴールドスライム一匹と言えど、あの黒い液体を扱うなら同じに考えてはならない。
あの黒姫の生み出した存在の時点で、例えどんな魔物でも極限級に危険な力を持っていても不思議じゃない。
「いいや、まだだ…まだ出てくるぞ…」
「ドラゴンゾンビ…そしてあれは、人魚に龍…スライムに…あの子は…イチタ…」
「何でありんすか?
この絶望的なまでの数の暴力は…
歴代の強者を一度に相手にするなど流石にわちきでも…」
「ふふん、どーせ見かけ倒しで本物の劣化版か何かでしょ♪」
カジル、マリン、クフェアは不安そうだったが、セネカだけは余裕の表情だった。
その話を聞いていたアリシアとベロニカが反応する。
「と…あちらのエルフの女王は言ってますが、そうなんすか?」
「うわっ!!!
能力解析のメガネによると、魔神達はアミー様ベルベット様に匹敵する強さじゃねぇか!
人魚と龍も激ヤバ!さっさと店仕舞いして帰りてぇ気分だ!
別々の武器を持った私が後100人は欲しい!」
「ひええぇ!ベロニカ100体とか考えただけで気分が悪くなるっす!」
アリシアとベロニカのやりとりを聞いていたアミーがニヤリと笑った。
そして掌を向ける。
「いいわよベロニカ!
100体に分身させてあげる!」
掌を向けられたベロニカが煙と共に増え始め、彼女の分身が現れて行く。
「ひええぇ!!地獄絵図っす!まるでこの世の終わりじゃねぇですか!」
その数はざっと100を越えている、アリシアは青ざめた表情で頭を抱えていた。
「アリシアもどうだい?
するなら私がコピーのスライムを用意するが…」
「いえ、アタシにはこのスキルがありますんで強化の方をお願いしたいっすね!
「ブラッドフィールド」」
空が真っ赤に染まり、地面からは鮮血騎士達が現れる。
「いいだろう、鮮血騎士を強化し、私もサポートするよ」
ベルベットが鮮血騎士達に魔法をかけると、赤いオーラを放ち、武器が豪華な装備に変化していく。
金や銀、光り輝く鎧に剣も強化されていた。
「うおおおお!かっけえっす!!
流石将軍!!これなら行けそうっす!!」
「アリシア、油断しないように」
強化された金色の鎧の軍勢が進行する。
敵側で一番初めに動いたのは魔神ヘカテーだった。
「灰になりなさい」
美しいサキュバスの魔神ヘカテーは、モデル歩きのような感じでゆっくりと歩きながら鮮血騎士へと向かってゆく。
強化されたアリシアの鮮血騎士が一斉攻撃を開始すると、皆灰へと変化して消滅していった。
「げ!!!
やべぇっす、アタシこの流れだと、このまま灰になるじゃねぇですか!」
魔神ヘカテーに近付く鮮血騎士は皆、灰となり、アリシアとの距離を詰められて行く。
モコモコ王国上空に帽子を被り、ホウキに乗った緑の長髪の女が浮いていた。
周りには黒いゴーストのようなモンスターも浮いている。
「正面から入るよりこのほうが確実だったな。
アルラウネとやらは想像以上に手強いかも知れない。
気を引き締めて行かねば」
その魔女のような彼女が指示を出すと空中からゴースト達が辺りに散らばり、まるでミサイルのように各地に直撃すると大爆発を起こす。
「混乱している隙に、私も入るとしよう…」
その姿は過去にヴィクトリアが4000年もの過去へ飛ばした悪魔塔A5塔、そこで幹部を務めていた3人の魔法少女のうちの一人。
(魔法少女シオン)
しかし、以前より少しだけ大人になっているようにも見える。
彼女がホウキで下まで降りると体が真っ黒な液体に変化する。
そしてその液体は柔らかな粘土をこねるように別の形に変形して、別人へと変化してしまう。
それは金髪のシオンと同い年ぐらいの女だった。
「ふーん、やっぱり集まってきたかぁ…
だったらこれでどうよ!
「クリエイト・サックサク!」」
その女が何らかのスキルを発動すると、門の付近にいた兵士達がすべて揚げ物へと変化してしまう。
しかし、納得行かない様子の彼女は、また黒い液体に変化すると、黒髪の赤い着物を着た女「黒姫」へと変化した。
「ふむ、やはり、この姿が一番じゃ…
自我が強い者は妾の中ですら、己を保とうとする…
扱うのが大変じゃ…」
そこに、後ろからシルクハットを被ったスーツの男がやってきた。
「黒姫様…」
それはボロボロになって今にも倒れそうな、死んだと思われたギーク王国の宮廷魔術師、ガーネット・スターだった。
「黒姫様…どうして、デネブを…タニアを手に掛けたのですか…」
「はぁ…お前か…全く…しつこいのぉ…」
「私は今でも黒姫様をお慕いしております…貴方が人の姿をしていなくとも、人間でなくとも関係ありません!
あなたの為ならこの命、いつでも差し出せる!
しかしあのとき、デネブ、タニアには何故一言も頂けなかったのですか!
何故何も言わず、飲み込まれたのですか!」
必死で叫ぶガーネットに黒姫は無表情で答える。
「タニア、デネブ、そしてお前は妾を追い…妾の敵である羽佐木郁磨の研究を手伝い、4000年後の世界へ到達したのじゃろう?
ならば、取り込んで楽にしてやるのも愛ではないか?
どうじゃガーネット、お前も妾の一部となり力になってくれぬか?」
黒姫は手を広げ、ガーネットに笑みを向ける。
まるでハグされるのを待っているかのポーズだった。
しかしガーネットは黒姫の考えを察して、下を向いて悔し涙を流す。
「私を信じていませんね…黒姫様…
貴方は変わってしまわれました…
いいえ、もしかすると、本当は最初から人の心など持っては居なかったのかも知れませんね。
貴方はあの、愚かな科学者と将軍を利用し、魔族の世界を作らせた。
その結果がこの、4000年後の未来です」
「気に食わぬかガーネットよ、しかし、妾の計画は完璧じゃ…
現に魔族と人族の対立は叶い、今こうして、本物の魔族達をも呼び寄せる事に成功した。」
「魔神、あるいは最強種の事ですか…」
「うむ、この国で頂点の中の頂点が決まり、やがてそやつが神となろう…
そして、その強者共をすべて食らい、この世の神と言っても過言ではない力を手にし…
帰れなくなった魔界へ帰る…
それが妾の願いじゃ…」
「魔界へ──?
そんな事の為に…
ここまでしたとは…」
「ガーネット・スター、お前は今までよく妾に仕えてくれた…褒美をくれてやる」
黒姫は二本の刀を抜き、ガーネット・スターに構えている。
そして、そのまま、彼に向かって二本の剣を振り下ろした。
「黒姫流二刀流剣術!
「エンプレス・ツリー」」
彼女が剣を振り下ろすと、ガーネットめがけて追尾する死の斬撃が飛んで行く。
だというのに、ガーネット・スターは満足気で、しかし少し寂しそうな表情で黒姫に微笑みかけ死を受け入れていた。
しかし、その斬撃は予想外な相手に受け止められる。
それは、黄金に輝く屋台を引きながら歩いている、リザードマンと人間のハーフだった。
「らっしゃい、らっしゃい、安くしとくよお兄さん♪
天下無敵の最強武器屋「ゴールド」の武器の実力!
とくと見てっておくれ!」
空気を読まない大きな剣を持ったトカゲの尻尾の女。
金色に輝く屋台を引きながら現れて、黒姫の斬撃を大きな剣で受け止めた。
「馬鹿な…この技を止められる者が、こんなところにも居たとは…」
「誰です貴方は、これは我々の問題ですよ。
貴方たちモコモコ王国の民が関わる問題ではありません」
「いやぁ、そうでもねぇっすよ、ハーフエルフのお兄さん♪
現に不法侵入ですし、そこの姫様は門番を何人か殺してますからね、処刑対象なんすよ!」
何故か屋台の上に立っていたヴァンパイアのアリシアが答える。
「そうでぃ、そうでぃ、女王様も認める最強武器屋、ゴールドの店主ベロニカちゃん一人いりゃ!
王国軍もプラントナイトも出る幕無しってもんだ!」
武器屋ゴールドの娘「ベロニカ」の持つ大きな剣は黄金に光り輝いていた。
これが実は、先程の黒姫の斬撃を受け止めた剣でもある。
そんな剣を見たアリシアはテンションがあがり目を輝かせている。
「うおおぉぉっ!!!
ベロニカそれ、斬撃系で最高の威力を誇る、ゴールドソードじゃないっすかぁ!!」
「流石アリシア大佐、お目が高い!
今なら金貨五千枚でお譲りしますよ!
皮膚の硬いドラゴンでもゴーレムでも、植物化する斬撃でも、ゴールドソードに防げぬ物無し!」
「いや、いらねぇっす、緊急事態だからちょっと貸せって言ってるんすよベロニカ!」
「何だって??買わねえ大佐に用はない!帰った帰った!」
「はぁ、でもベロニカ…緊急事態っすから…」
ベロニカは屋台を引くと、死体のあった位置に小瓶を投げ始めた。
「ベロニカちゃん特性蘇生薬!
「名前はまだない」これで生き返らなきゃアルラウネ様に頼むしかねぇってもんだ!
ほら、生き返ったらお勘定だよ!門番ども!」
黒姫が先程倒した門番達が生き返り、起き上がって来る。
「う…なんだ?」
「どうなって───」
「確かゴーストが飛んできて爆発して」
「空に魔女がいたような気が…」
「さぁさぁ、最弱の門番ども!支払いだ支払いだ!
ひとり金貨五万枚!
てめぇらの命が金貨五万枚で買えるんだ!
安いもんだろう?
金がねぇなら、一生只働きだよ!」
その発言に、門番のオークやゴブリン達が青ざめて、涙を流している。
「5万枚って…俺達の5年分の給料じゃ…」
「勘弁してくれよベロニカ様ぁ…」
「五年只働きとか嫌だぁぁぁ」
その様子に黒姫は驚いて、しかし口元をつり上げると、二本の刀を構えた。
「どうやら妾が舐められておるな、では最初から全力で行くとしよう。
「ブラッディ・ムーン」」
月に向かって剣を振り、彼女は月に斬撃を飛ばす。
すると…空が暗くなり、雨雲が集まってくる
そこへ光の早さで何者かが飛んで来て、地面に着地した。
「ぐぬぬぬっ…アリシアとベロニカに先を越されるなんて…
ちなみにあいつは?」
やって来たのは小さなサキュバスで魔神のアミーだった。
その後ろから、見知った軍服に帽子を被った将軍ベルベットの声がする。
「私のことかい?
アミー、君と同時に今到着したところだよ。
そんな事より君には女王様の護衛任務があるだろう、ここは私に任せて…そちらを優先したまえ。」
「そうしたいのは山々だけど…」
アミーの視線の先をベルベットが見ると、そこには女王アルラウネが立っていた。
「なるほど…困ったお方だ…」
「ベルベット、アミー、聞こえていますか?
アリシアとベロニカではあの着物の侵入者の相手は厳しいでしょう。
サポートしてあげなさい。」
「「はい」」
その時、入り口付近からさらに何者かが侵入してくる。
それはカジル、クフェア、そしてマリンとセネカだった。
「ユウトは無事なんでしょうね?カジル」
「わからん…サタンが死んだ時点で一緒に殺されてる可能性もあるかもな…」
「マリン、あの変態小僧のしぶとさは異常でありんす」
「そうそう!あの変態マゾゴミがそう簡単に死ぬわけないじゃない!」
酷い言われようだが、入り口付近にユウトピアから来た仲間が、黒姫とガーネット・スターを挟んでいる。
そして反対側にはアリシア、ベロニカ、アミー、ベルベット、アルラウネだ。
「女王アルラウネ!
ユウトを!仲間達を返しなさい!」
その時、マリンを見たベルベットが笑みを浮かべ、興味深そうに聞いてきた。
「あの家畜にマーキングしたスライムは君だったか…
安心しなさい…彼だけは、まだ生きているよ…」
「じゃあ、他のみんなは…」
「────」
「そう──」
マリンの問いに、ベルベットは無言だった。
「そしてもうひとつ、この空は誰がやったの?
これって、あの黒い影の化け物のしわざよね?」
ベルベットの視線が赤い着物の女に向き、マリンは察した。
(この女から、あの白塗りの顔の男を倒した時の黒い雨と同じ気配を感じるわ…
そしてお姉ちゃんが変貌した姿にも…)
マリンが敵意を黒姫に向けていると、アルラウネが前に出て来た。
「スライムのお嬢さん、話は後でお聞きしましょう、仲間も蘇生させお返しすると約束します」
「やけに低姿勢でありんすね、モコモコ王国の女王」
「そうか…マーガレット様も、パールグレイも助かるのか…よかった…」
「それで?何がお望み?
ユウトピア陣営舐めんじゃないわよ!
モコモコ王国の女王!」
アルラウネの言葉にカジルは安心し、クフェア、セネカが噛みつきそうな勢いだった。
「共闘して、そこのギーク・ハザードを倒しては頂けないでしょうか…」
「仲間を殺しておいて良く言えたものね?」
「お詫びも致します、これには深いわけがありまして、戦いの後には必ずご説明させて頂きますので…」
アルラウネとマリンが言い争っていると空の雲がモコモコ王国全体を包み込んでいた。
「くくく…妾に時間を与え過ぎたのぉ、愚か者どもが…
魔神共も、アルラウネも、滅びの黒き雨に打たれ消滅するがよい!」
そして雨が降り始めた瞬間…
モコモコ王国組はアルラウネ以外警戒し、マリン側も皆、空を見上げ、クフェアがスキルで退路を準備していた。
魔神クラスのベルベット、アミー、マリンと言えど絶体絶命かと思いきや…
突然、景色が別の場所へと変化してしまう。
そして雨は落ちてこなかった。
「こ、これは…?」
技を放った黒姫が驚いている──
そこは見たこともない不気味な夜の草むらで…
しかし空はやはり雨雲がでていて黒い液体の雨が降っていた。
一滴でも当たれば体が溶け始め、永遠の死が待ち受けている恐ろしい雨で、もし受ければ蘇生魔法でも生き帰りはしない…
そんな、恐ろしい即死の全体攻撃だというのに──。
アルラウネの力により、その雨が誰かに降りかかる事は一度も無かったのだ。
「あの雨をこうも簡単に防がれるとは流石…」
「ふふん、流石アルラウネ様だわ!!」
「アミー、ベルベット、本来なら私より先に貴方達がこれをやるべきなのですよ?
特にアミー、あなたは私の護衛なのですから…
これはまた鍛え直す必要がありそうですね」
「はうう…申し訳ございません…
っつー事で、アミーちゃんいっきまーす☆」
アミーが両手を黒姫に向けると、彼女は突然呼吸が出来なくなった。
「くっ…おのれ…」
黒姫は倒れ、苦しそうな表情のまま両膝を曲げ前に倒れ込む。
そこへマグマスライムと化したベルベットが黒姫に隕石のように飛んで彼女の周りをマグマの海に変化させ、包み込む。
彼女は黒い液体と化し地面へと溶けていく。
「おのれ…魔神どもが…」
アミーの指定した範囲、空気を無くす特殊なスキルと、ベルベットの変身スキルが炸裂し、黒姫は終わったように見えた。
だが次の瞬間、黒い液体は分裂し、それぞれが形を作り人型になる。
その様子にユウトピア陣営、アルラウネ陣営も顔色を変えて見つめていた。
「あれって…あの時の…魔神ニュクスよね?
それに、お姉ちゃん?」
「それどころか…魔神ヘカテーまでいるぞ…他にも緑髪の魔女…金髪の女…あのビデオカメラを持った男は何者だ?」
「堕天使、メタルスライム、ゴールドスライムもいるわね…」
「しかし、本当に見た目通りの強さなのでありんすか?
わちきにはとてもそうは見えないのだけれど…」
マリン、カジル、セネカ、クフェアが復活するかつての敵の戦力分析をしている。
確かにゴールドスライム一匹と言えど、あの黒い液体を扱うなら同じに考えてはならない。
あの黒姫の生み出した存在の時点で、例えどんな魔物でも極限級に危険な力を持っていても不思議じゃない。
「いいや、まだだ…まだ出てくるぞ…」
「ドラゴンゾンビ…そしてあれは、人魚に龍…スライムに…あの子は…イチタ…」
「何でありんすか?
この絶望的なまでの数の暴力は…
歴代の強者を一度に相手にするなど流石にわちきでも…」
「ふふん、どーせ見かけ倒しで本物の劣化版か何かでしょ♪」
カジル、マリン、クフェアは不安そうだったが、セネカだけは余裕の表情だった。
その話を聞いていたアリシアとベロニカが反応する。
「と…あちらのエルフの女王は言ってますが、そうなんすか?」
「うわっ!!!
能力解析のメガネによると、魔神達はアミー様ベルベット様に匹敵する強さじゃねぇか!
人魚と龍も激ヤバ!さっさと店仕舞いして帰りてぇ気分だ!
別々の武器を持った私が後100人は欲しい!」
「ひええぇ!ベロニカ100体とか考えただけで気分が悪くなるっす!」
アリシアとベロニカのやりとりを聞いていたアミーがニヤリと笑った。
そして掌を向ける。
「いいわよベロニカ!
100体に分身させてあげる!」
掌を向けられたベロニカが煙と共に増え始め、彼女の分身が現れて行く。
「ひええぇ!!地獄絵図っす!まるでこの世の終わりじゃねぇですか!」
その数はざっと100を越えている、アリシアは青ざめた表情で頭を抱えていた。
「アリシアもどうだい?
するなら私がコピーのスライムを用意するが…」
「いえ、アタシにはこのスキルがありますんで強化の方をお願いしたいっすね!
「ブラッドフィールド」」
空が真っ赤に染まり、地面からは鮮血騎士達が現れる。
「いいだろう、鮮血騎士を強化し、私もサポートするよ」
ベルベットが鮮血騎士達に魔法をかけると、赤いオーラを放ち、武器が豪華な装備に変化していく。
金や銀、光り輝く鎧に剣も強化されていた。
「うおおおお!かっけえっす!!
流石将軍!!これなら行けそうっす!!」
「アリシア、油断しないように」
強化された金色の鎧の軍勢が進行する。
敵側で一番初めに動いたのは魔神ヘカテーだった。
「灰になりなさい」
美しいサキュバスの魔神ヘカテーは、モデル歩きのような感じでゆっくりと歩きながら鮮血騎士へと向かってゆく。
強化されたアリシアの鮮血騎士が一斉攻撃を開始すると、皆灰へと変化して消滅していった。
「げ!!!
やべぇっす、アタシこの流れだと、このまま灰になるじゃねぇですか!」
魔神ヘカテーに近付く鮮血騎士は皆、灰となり、アリシアとの距離を詰められて行く。
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