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魔神復活編

魔神

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───そこは溶岩に囲まれた場所───


 地面にはグツグツと煮えたぎるマグマ…ここは洞窟の中のようにも見える…

 辺りには体が真っ赤に輝くドラゴンが飛び回り、さらにマグマの中にも生物がいた…

 まるでマグマに風呂のように浸かる存在、それはスライム種最強種

 「マグマスライム」

 常識外れの強さを持つ存在で、マグマスライムが現れれば地球が滅ぶとまで人々や魔族からも恐れられている。

 その理由はかつて500年ほど前のこと…

 火の国付近、カエン山脈が噴火した時に、中からこのマグマスライムが現れた事があった。

 まるでマグマの塊のような姿のスライムは、無差別に町をマグマで飲み込んでいった。

 近付くだけで、生き物は全て即死、人々や魔族は逃げる事しか出来なかった。

 やがて周辺国がマグマスライム討伐の為に冒険者を派遣した。

 彼らはカジルやパールグレイ、そしてアトラスに匹敵する当時の勇者達だった…

 しかし、その全員がマグマに飲まれ、止めることすら出来ず骨まで溶かされてしまったのだ。

 それ以降、人類からマグマスライムは地球を滅ぼす存在と恐れられ対処不能の災害とまで言われている。

 マグマスライムは今、風呂に浸かる感覚でマグマに入り、考えていた。

(ニンゲント…
マタ…会イタイナァ…)

 マグマスライムにとっては500年前の出来事が忘れられなかった。

 結局あの時は迷子になっていただけなのだが多くの人々や魔族を殺めてしまった。

 そして最後に出会った人間は今でも覚えている、確か金髪ショートボブのゴスロリファッションの女だった。

 彼女から滲み出る強者のオーラに圧倒され私は逃げたのだが、挑んでくる彼女と戦闘になり、そして敗北し、私はあることを約束させられ、元いた地面の中に帰っていった。

 約束の内容はこうだった。

 「マグマを制御出来るまで、君は地上に出てはいけない、もし約束を破ったら、その時こそボクが君を殺すからな」

 それはほとんど脅しだったが、自業自得だと受け入れた。

 それからというもの、マグマスライムは毎日自分の能力を制御するための訓練をしていた。

 500年という時を越えて、ここ最近はマグマを制御し、人間の姿に化けて、言葉を話す事も出来るようになっていた。

(制御シタラ、今度コソ、人間ト友達二ナリタイ)

 マグマスライムはヴィクトリアとの約束を守り、500年という長い時を制御の為だけに費やしていた。

 
───ミュッドガル帝国───

 そこにはリリス、クフェアとその部下、ローズマリー、アイリス、ルピナス、カトレア、アネモネの死体があった。

 その前に居る存在はまるで、人間サイズはある巨大なジェットエンジンを積んだゲーム機のコントローラーだった。

 ボタンはエル、アール、○、×、△、□があり、手や足はなく、空中をジェットエンジンから火を噴きながら浮いている。

 そのコントローラーは光りながら機械音声のような声を出していた。

「はぁ、はぁ、何という強さ…
スクエア、サークル、クロスマーク、トライアングルの四騎士全て失うとはかなりの損害でアール…
運が無ければ敗北した可能性も十分ありエル…

しかし…これで…
求めていた素材をようやく揃える事に成功した…

もはや、サタンという隠れ蓑も必要ない…
最後に彼らにも魔神復活への、素材になって貰おう」

 空中に浮くコントローラーは、死体を転移魔法で何処かへ移動させ、自身も帰って行った。



 マーガレットとセネカは交渉の結果、農作物などの取引が成立し貿易を結ぶ事に成功する。

 ミュッドガル帝国より種や機材の輸出も決まり、さらには軍事同盟も結んだ。

 ちなみにパールグレイはミュッドガル帝国の地下監獄に幽閉する事になり、連れて帰る事になっていた。


───さらに5日後の事───

 帰り道、アザミ、アカネ、パッシマンのいる悪魔塔B1塔に立ち寄るとサイクロプスの死体があり、3人はいなくなっていた。

「アザミ!アカネ!
パッシマン、何処にいるの?いたらすぐに返事をしなさい!」

 マーガレットが心配しながら探し回るが、しかし返事はなかった。

 さらに塔の中にも誰もいなかった。

「不味いなこれは…3人共死んだ痕跡がある…
通信手段も断たれているな」

「そんな…」

 マーガレットがショックで倒れそうになり、ユウトが背中を支える。

「大丈夫さお母さん、死んでも生き返らせて貰えばいい。
俺なんて何度死んで何度生き返った事か…」

 ユウトがパンドラを見ると彼女は頷いた。

 ヴィクトリアは能力でこの場所の過去を調べている。
 するとサイクロプスとの戦闘で相討ちで死亡したアザミ、アカネが見えていた。

 さらには死体をエルとアールに魔法で何処かに転移させられる。

 エルとアールはそのままミュッドガル帝国に向かい、リリスやパンドラ騎士団と戦っていた。

 しばらく互角の戦いが続くものの、追い込まれたエルとアールがジェットエンジンの付いた「コントローラー」の姿へ変身しアイリス、ローズマリー、ルピナス、カトレアを倒し、逃げるリリスとアネモネの息の根を止めた。

(不味いな…これは、未来のボクからも聞いていない情報だぞ…)

 ヴィクトリアは皆に状況を話した。するとパンドラがショックを受ける。

「まさか…皆が…そんな…
エルとアールは、それほどまでの強敵だったんですか?」

「それだけじゃない、彼らは魔神復活を望んでいて、死体をその触媒にするらしい…
もし本当に復活させられれば、
パンドラ騎士団もマーガレットの騎士も手遅れになるだろう…」

「「そんな…」」

 パンドラとマーガレットがショックで泣き出しそうになってしまう…

 そこに、拘束されて、これからミュッドガル帝国に向かうパールグレイが口を開いた。

「魔神と言えば、魔王よりもさらに上の存在と聞いた事があります。
例えばその…ヘカテー様など…」

 その問いにヴィクトリアが答える。

「ああ、そうだな。
分類するならヘカテーは魔神だよ…
つまり復活すれば、彼女に匹敵する強さになるのは間違いないだろう」

 皆が静まり返ってしまう。

 ヘカテークラスが現れれば、まともに戦える存在など、こちらの陣営にはヴィクトリアとヘカテーしかいないからだ。

 パンドラ達やマーガレット達が力を合わせても戦いにすらならないだろう。


───その二時間後───

 ミュッドガル帝国に帰還すると、入り口付近は破壊されており魔物の死体で溢れていた。

 国民達は壁を直したり、魔物の死体の後片付けをしていた。

 魔物の肉は食料にもなるし、牙や爪、鱗などは服、防具、武器にもなるからだ。

「あ!
帰ってこられたぞ…」
「マーガレット様…」

 落ち込んでいる国民達がマーガレットに近寄って来てヴィクトリアが見た通りの状況を説明し始めた。

 やはりミュッドガル帝国側も通信手段をエルとアールにより断ち切られていたらしい。

 そして国民達が集まって彼らはマーガレットに今の状況を報告した。

 エルとアール、その部下と戦い、アイリスもローズマリーもルピナスもカトレアもアネモネもリリスもクフェアも死んだ事を…

 ベルフェゴールは元々表情がわかりにくい存在だったが、さらにわかりにくくなっていた。

「リリスを…アネモネ様を…絶対に許さん!
しかしエルとアールめ、その様子では魔神復活の為なら仲間も利用しそうだな…
次にサタンの奴が狙われてもおかしくはない」

「誰かパッシマンさんの事も思い出してあげて?」

 誰も話題に出さなかったパッシマンの名前をユウトが言う。

 パンドラはヴィクトリアに聞いていたとは言え、再び国民から言われてショックを受けていた。

「今回ばかりはボクの判断ミスだ…」

 悔しがるヴィクトリアの影からヘカテーとティファが現れる。

「それで、どうします?
今すぐワタクシとティファと貴方で奴らを潰しに行きますか?」

「いや…この状況、
マゾ教も危ないかも知れないな…
エルとアールだけならアンリエッタがいるし大丈夫だろうが魔神が関わって来ると話は別だ、ヘカテー、マゾ教に戻って守りを固めててくれるかい?」

「わかりました、それではワタクシが戻って強力な結界を張っておきましょう」

 ヘカテーは転移魔法でマゾ教へと移動した。

「それで私はどうしましょう」

「ティファはボクとエルとアールを探しに行く、マーガレット、ここでお別れだ。後は任せて欲しい。」

「わかりました、ヴィクトリア様、どうかよろしくお願いします。」

「お母さん私も…」

「ダメだ、ここから先はボクやヘカテーの戦いだ、パンドラはこれからもっと強くなれる。
ボクやヘカテーよりも、きっとね。」

 パンドラが行きたがるが頭を撫でられ止められてしまう。

 そしてヴィクトリアも転移魔法で何処かに消えてしまった。

 その後、ミュッドガル帝国復興作業が開始して、忙しくなるのは目に見えていた。

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