上 下
32 / 38

30羽包丁愛と野次馬精神

しおりを挟む
今日は休業日。朝から大雨だ。この状態じゃ客は来ないだろ。
足りなかった食器やグラスを買い足すため街に来ている。

朝起きたら土砂降りで、テントにぶつかる雨の音で予定よりも早く目が覚めた。傘代わりにデカい葉っぱさして来たけど、やっぱ濡れたな。
手ごろな店で傘を買い街を探索中。

「朝ご飯もまだだったな。何か食うか?っていっても、どこも出店は閉まってるんだよな…。やっぱ雨の日は閉める店が多いみたいだな」

特に反応もなく、雨の中を歩くファース。なぜかファースの周りだけ雨が弾いてるんだよな。

テントを出る時に、俺にも雨弾くようにしてくれよと言ったら葉っぱ一枚持って来られて終わった。持って来てくれただけ感謝するけどね。

小一時間歩いたが、出店が開いている雰囲気はない。仕方なくパン屋に入り、ファースが食いたいとうパン40個と俺のパン3つ買って、屋根があるベンチの上で食べた。

勿論パン屋の店員にはレジまで40個のパンなんて持って行けないから、この棚からこの棚まで貰っていいですかね?って金を渡した。
大量の袋を貰い棚から直接袋に入れて持ち帰ったけど、変な目で見られてしまった…。

「ほら、置いとくから勝手に食えよ」

——ジュワッジュワッ——

ファースは甘いパンの次は総菜パンと交互に食べていた。デザート的な感じなのか、フルーツが乗ったパンは最後に取っているようだ。

俺はウインナーが挟まっているパンと木の実パンにクリームパンを完食。美味いんだけど、ちょっと生地がボソッとしている感じが残念なパン屋だったな。

そう考えると、あの屋台のチーズパン美味かったんだよなぁ…。まぁ腹ごなしも終わったし、食器見に行くか。





「ありがとうございました」

食器は前回と同じものを購入。それにお椀を買った。トン汁入れる食器が無くてメニューとして出せてないからな。

それに同じ素材で統一感がある方が良いだろ。コップやフォーク等々も買ったしな。

「ケン。こんな雨の中お買い物か?」

「イーサさんこそ、どうされたんですか?」

「あぁ。贔屓にしている店が包丁を研いで欲しいと言って来てたから。休み時間使って行ってたんだ」

包丁研ぎに行ってたって、あなたギルド職員でしょ。なんで出張研屋みたいなことやってるんだと思ったけど
この人の包丁愛を考えればなんか納得も行く。

イーサさんには今日はこの雨だから休業日にして、足りないものを買いに来ましたと伝えた。
今日は止みそうにないからな。それが良いだろうと空を見上げていた。

「俺はそろそろギルドに戻る。また近いうちにお邪魔しよう」

「はい。お待ちしております」

「あぁ。それじゃぁ———」

少し離れた場所から、『誰か捕まえてとくれーー!泥棒ー!泥棒よー!』という大きな声が聞こえてくる。
イーサさんは声の方に走って向かってしまった。

野次馬精神が働いたと言ったら怒られそうだけど、俺も向かってみる。
ほら、ちょっとどんな奴が泥棒するのか興味があった。

向かった先でイーサさんが抑え込んでいるのは、小学中学年ぐらいの女の子。手には盗んだ果物が握られていた。
こんな小さな子が…。どうして…。

「なぜ盗んだ。窃盗は重罪だぞ」

「………」

「なぜ盗んだかと聞いているんだ!」

女の子は下を向き話す気配がない。
そしてイーサさんの迫力満点の顔で怒鳴られると、怒鳴られてない俺ですら怖いのに、ある意味この子凄いわ。

「捕まえてもらって悪いね。ほら、リンゴは返してもらうよ!」

果物屋の女店主が女の子からリンゴを奪おうとするが、両手でがっちりと握りしめたリンゴを離す気配はない。

リンゴの値段は市場とは違い若干値段が高かった。生産者が直接売るわけじゃない。仕入れ値に上乗せした金額なんだろうが、それでも1つ銀板3枚だ。
子供のお小遣いで十分買えそうに見えるんだけど…。

周りに集まる見物客。イーサさんは傘を手放しており、2人ともずぶ濡れだ。

「ほら離すんだ」

「あっ…!」

イーサさんが無理やり女の子の手を開き、リンゴを奪い取ると女店主に渡した。

女店主はリンゴを受け取ると、傷が無いから今回は良いが、次やったら突き出すからね!と言い放ち店の中へ戻っていった。それを見終えた見物客もチラホラと去っていく。

俺はどうして良いのかわからず、そっとイーサさんの傘をあいてる手で持ち濡れてる2人の上に持って行った。

「とりあえず、ギルドに連れて帰って話しを聞こう。俺が聞くよりも、ダニアの方が聞き上手だからな」

「突き出すって女の人は言ってましたけど、ギルドがそうなんですか?」

「いや、ギルドはギルドだ。犯罪を取り締まる場所は別にあるのさ。ほら、さっさと立って歩け。それとも、こんな街中で担がれたいのか?」

担がれると言う言葉に、女の子は渋々立ち上がり腕を掴んでるイーサさんに引っ張られるように歩いて行った。
俺は何とも後味が悪い感じがしながら、その場を後にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙
ファンタジー
最強の勇者レオは、国の長年の悲願であった魔王討伐を成し遂げる。 しかし魔王にとどめを刺した瞬間、彼は右目に呪いを受けてしまった。 見た目は呪いで禍々しくなってしまい、他者に強力な嫌悪と恐怖を感じさせてしまうように。 魔王を討伐したにも関わらず、そのせいで国から追放されることになったレオ。 勇者ではなくなったが、人を救いたい彼は誰かを助けながら進み続ける。 盲目の奴隷少女や呪いを治す聖女ーーそういった人たちを救う中で、自身のことは全く顧みないレオ。 そんな彼の周りには、彼を慕う少女たちが集まっていく。 各々が、レオに対する重い感情を抱いたまま。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...