68 / 92
3章 私と魔王様のお盆休み
08.ベタな展開に、ここが異世界だと実感する
しおりを挟む
どうしてこうなったのだろうか。
こんなことをする人は、漫画やアニメの世界だけだと思っていた。
まさか人々が行き交う大通りで、柄の悪い酔っ払った破落戸風の男に絡まれるとは思っていなかった理子は、目の前の男二人を困惑の表情で見上げた。
「余所見していて気が付きませんでした。ぶつかってしまい、すみません」
尻もちをついた状態から起き上がれず、理子は自分とぶつかったなるべく刺激しないようにと下手に出たのに、男達は鼻で笑う。
「おいおい、お嬢さん『すみません』だけか?」
「そっちからぶつかって来たのに、『すみません』だけで済まそうって言うのか?」
しゃがんだ男の一人は、理子の顔に真っ赤な顔を近付けて酒臭い息を吹きかける。
(酔っぱらっていて怖いっ! 誰か? 警察はいないの?)
酔っ払いに絡まれている姿は一目瞭然で、やりとりは聞こえているはずなのに行き交う人達は、男達を止めようもしない。
酔っ払った柄の悪い男達は腕っぷしが強そうだし、止めに入ったら巻き込まれるのが嫌で関わらないのだろう。
「お嬢さん、謝るだけで許されると思ってるのかよ?」
「ぶつかられたせいで、足を挫いちまったみたくてさぁ。医者に行く金と、仕事が出来なくなった分の金を貰わなきゃならねぇ」
黙っている理子は怯えていると思ったのか、顔を見合わせた男達はニヤニヤと笑う。
(いきなり、酔っ払いに絡まれる展開になるとは……)
衣料品店の店主から気を付けるように言われたのに、観光出来ることに浮かれていて注意力が散漫になっていた。城の外へ出られたのに、心がくじけそうになる。
「おい! お嬢ちゃん聞いてんのか!」
しゃがんだ男に肩を掴まれ至近距離で怒鳴られて、酒臭い息が顔にかかった理子は思いっきり顔を歪めた。
理子の感情を、肩を捕まれて凄まれた恐怖と嫌悪感を感じ取ったのか、右耳にはまっている深紅の玉が熱を持つ。
(だ、駄目。鎮まって、大丈夫だから!)
守護の玉が力を放ったら男達を撃退はできる。だが、理子が危険な目に遭ったとシルヴァリスに伝わってしまう。右手で右耳を押さえる。
「……おいおい、女の子相手に何やってんだ?」
この場をどう乗り越えるか考えを巡らしている理子の耳に、男達とは違う若い男性の声が聞こえた。
「ああっ? 何だお前は?」
立っている男が振り返ったと同時に、彼は勢いよく真横に吹っ飛んだ。
がっしゃーん!
吹っ飛んだ男は、歩道に置かれた乾物屋の店頭ワゴンに突っ込んでいった。
店頭ワゴンを壊された乾物屋の店員が、慌てた様子で店から出てくる。投げられた男は打ち所が悪かったのか、完全に意識を失って伸びていた。
「さて、次はお前だな」
男の襟首を掴んで真横に放り投げた人物、黒髪を短く刈り込んだ碧眼、鋭い目付きの背の高い筋骨隆々の鉄の胸当てを着けた、いかにも戦士風といった男性がしゃがんでいる男を睨む。
「てめぇ!」
こめかみに青筋を浮かべ立ち上がった男を一瞥し、戦士風の男性は口角を上げた。
「ハッ、足を挫いているんじゃなかったのか? どれっ、俺が診てやるよ」
「うおおおおー!」
不敵に笑った男性は、殴りかかってきた男の拳を簡単に片手で受け止める。
「くそっ! 放せよ!」
男性に拳を握られて苛立った男は、自由になる手をズボンのポケットに入れて折り畳みナイフを取り出し、ナイフの刃を出して振り上げた。
「ぐえっ!」
ナイフの切っ先が戦士に届く前に、男の鳩尾に骨ばった男性の拳がめり込む。
男は胃液と消化しきれていない胃の内容物を地面へ吐き出した。
内容物をびちゃびちゃ吐き出した男は、ガクガクと痙攣する膝から崩れ落ちるように吐瀉物の中へと倒れる。
男が吐いた吐瀉物がかかった通行人から悲鳴が上がった。
「おっと、きったねぇな」
吐瀉物の飛沫を避けた男性は吐き捨てると、理子へ向けて笑いかけた。
「お嬢さん、大丈夫か?」
大股で歩み寄ってきた男性は、片膝を地面に突けて屈み理子と目線を合わせる。
「あ、ありがとうございます」
屈んでも大柄な男性の方が大きいため、理子は彼を見上げてお礼を伝えた。
「立てるか?」
「あ、足に力が入らなくて、立てない」
自力で立ち上がるのは困難だと覚り、迷いながら差し出された手のひらに自分の手を乗せる。
「わっ」
勢いよく引っ張りあげられて立ち上がるも、強く地面に打ち付けた尻の痛みと両脚に力が入らないせいで、理子はよろめいた。
「おっと」
傾いでいく理子の肩に男性の手が伸びて、太くたくましい腕が抱き留める。
「はぁ仕方ないな。少しだけ我慢してくれよ」
「きゃああっ」
回した腕一本で理子を抱き上げて、そのまま男性は彼女を担ぐように肩に乗せた。
こんなことをする人は、漫画やアニメの世界だけだと思っていた。
まさか人々が行き交う大通りで、柄の悪い酔っ払った破落戸風の男に絡まれるとは思っていなかった理子は、目の前の男二人を困惑の表情で見上げた。
「余所見していて気が付きませんでした。ぶつかってしまい、すみません」
尻もちをついた状態から起き上がれず、理子は自分とぶつかったなるべく刺激しないようにと下手に出たのに、男達は鼻で笑う。
「おいおい、お嬢さん『すみません』だけか?」
「そっちからぶつかって来たのに、『すみません』だけで済まそうって言うのか?」
しゃがんだ男の一人は、理子の顔に真っ赤な顔を近付けて酒臭い息を吹きかける。
(酔っぱらっていて怖いっ! 誰か? 警察はいないの?)
酔っ払いに絡まれている姿は一目瞭然で、やりとりは聞こえているはずなのに行き交う人達は、男達を止めようもしない。
酔っ払った柄の悪い男達は腕っぷしが強そうだし、止めに入ったら巻き込まれるのが嫌で関わらないのだろう。
「お嬢さん、謝るだけで許されると思ってるのかよ?」
「ぶつかられたせいで、足を挫いちまったみたくてさぁ。医者に行く金と、仕事が出来なくなった分の金を貰わなきゃならねぇ」
黙っている理子は怯えていると思ったのか、顔を見合わせた男達はニヤニヤと笑う。
(いきなり、酔っ払いに絡まれる展開になるとは……)
衣料品店の店主から気を付けるように言われたのに、観光出来ることに浮かれていて注意力が散漫になっていた。城の外へ出られたのに、心がくじけそうになる。
「おい! お嬢ちゃん聞いてんのか!」
しゃがんだ男に肩を掴まれ至近距離で怒鳴られて、酒臭い息が顔にかかった理子は思いっきり顔を歪めた。
理子の感情を、肩を捕まれて凄まれた恐怖と嫌悪感を感じ取ったのか、右耳にはまっている深紅の玉が熱を持つ。
(だ、駄目。鎮まって、大丈夫だから!)
守護の玉が力を放ったら男達を撃退はできる。だが、理子が危険な目に遭ったとシルヴァリスに伝わってしまう。右手で右耳を押さえる。
「……おいおい、女の子相手に何やってんだ?」
この場をどう乗り越えるか考えを巡らしている理子の耳に、男達とは違う若い男性の声が聞こえた。
「ああっ? 何だお前は?」
立っている男が振り返ったと同時に、彼は勢いよく真横に吹っ飛んだ。
がっしゃーん!
吹っ飛んだ男は、歩道に置かれた乾物屋の店頭ワゴンに突っ込んでいった。
店頭ワゴンを壊された乾物屋の店員が、慌てた様子で店から出てくる。投げられた男は打ち所が悪かったのか、完全に意識を失って伸びていた。
「さて、次はお前だな」
男の襟首を掴んで真横に放り投げた人物、黒髪を短く刈り込んだ碧眼、鋭い目付きの背の高い筋骨隆々の鉄の胸当てを着けた、いかにも戦士風といった男性がしゃがんでいる男を睨む。
「てめぇ!」
こめかみに青筋を浮かべ立ち上がった男を一瞥し、戦士風の男性は口角を上げた。
「ハッ、足を挫いているんじゃなかったのか? どれっ、俺が診てやるよ」
「うおおおおー!」
不敵に笑った男性は、殴りかかってきた男の拳を簡単に片手で受け止める。
「くそっ! 放せよ!」
男性に拳を握られて苛立った男は、自由になる手をズボンのポケットに入れて折り畳みナイフを取り出し、ナイフの刃を出して振り上げた。
「ぐえっ!」
ナイフの切っ先が戦士に届く前に、男の鳩尾に骨ばった男性の拳がめり込む。
男は胃液と消化しきれていない胃の内容物を地面へ吐き出した。
内容物をびちゃびちゃ吐き出した男は、ガクガクと痙攣する膝から崩れ落ちるように吐瀉物の中へと倒れる。
男が吐いた吐瀉物がかかった通行人から悲鳴が上がった。
「おっと、きったねぇな」
吐瀉物の飛沫を避けた男性は吐き捨てると、理子へ向けて笑いかけた。
「お嬢さん、大丈夫か?」
大股で歩み寄ってきた男性は、片膝を地面に突けて屈み理子と目線を合わせる。
「あ、ありがとうございます」
屈んでも大柄な男性の方が大きいため、理子は彼を見上げてお礼を伝えた。
「立てるか?」
「あ、足に力が入らなくて、立てない」
自力で立ち上がるのは困難だと覚り、迷いながら差し出された手のひらに自分の手を乗せる。
「わっ」
勢いよく引っ張りあげられて立ち上がるも、強く地面に打ち付けた尻の痛みと両脚に力が入らないせいで、理子はよろめいた。
「おっと」
傾いでいく理子の肩に男性の手が伸びて、太くたくましい腕が抱き留める。
「はぁ仕方ないな。少しだけ我慢してくれよ」
「きゃああっ」
回した腕一本で理子を抱き上げて、そのまま男性は彼女を担ぐように肩に乗せた。
11
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる