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2章 魔王様は抱き枕を所望する

11.心地よい温もりに触れる

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 入浴を済ませた後、メイド達に全身マッサージをしてもらったおかげで、理子の肌は潤いと弾力のあるもち肌となった。

「魔王様」

 隣室から魔王の寝室へ向かうと、戻っていた魔王は既に寝間着に着替えてソファーに腰掛けていた。

「お仕事お疲れ様です」
「リコ」

 気怠そうに半眼伏せたまま、ソファーに座った魔王は理子に向かって右手を伸ばす。


 ふわりっ。

 ソファーの前まで行くと、半乾きだった理子の髪をあたたかい風が包み込み、一瞬で水気を飛ばして乾いていく。
 さらさらに乾いた髪から仄かに香るのは、バニラに似た甘い香り。 
 薔薇園でうたた寝をするくらい睡眠不足でも、魔王は理子の髪を乾かしてくれる。その事実に、理子の胸の奥もほんわかあたたかくなった。

「わっ」

 突然、右手を引かれて理子の体は魔王の上に倒れ込んでしまった。

(うわぁ!)

 至近距離で見た気だるげ表情の魔王は、昼間よりも色気が増していて理子は頬を赤く染めた。
 昼間の薔薇園で抱き締められた時のことを思い出して、心臓の鼓動が速くなる。

「魔王様、離れたください」
「駄目だ」

 離して欲しくてもがいても、肩に回された腕はびくともしない。
 理子を横抱きにした魔王は、乾いた彼女の髪を片手で弄る。
 弄られる度、鼻孔を擽る甘いバニラの香りがすることに気が付き、理子は体から力を抜いた。

(安息香の香りは、リラックスの効果があるって香織が言っていたような気がする)

 アロマグッズが好きな香織は、時折アドバイスとともに自作したアロマグッズを分けてくれるのだ。
 以前、落ち込んでいた時に貰ったのが、バニラのような甘い安息香のスプレーだった。
 安息香の効能は、リラックス、緊張やストレスをやわらげて、気持ちを落ちつけてくれると、香織から教えてもらった。

 密着している魔王の体からは、いつも通り爽やかな花の香りのみで甘い香りはしない。

(私の髪の香りを安息香にしたのは、魔王様が疲れているから? 抱き枕に安眠効果を付属させたのね)

 顔を上げた理子の視線は、気怠そうな雰囲気を纏う魔王の赤い瞳とぶつかる。

「王女様との会食はどうでしたか?」

 髪を弄る手を止めて、魔王は嫌そうに顔を顰めた。

「……王女でなかったら、あの女は消し炭にしていた」
「消し炭って、どんな王女様だったんですか」

 あまり感情を面に出さない魔王に嫌そうな顔をさせるとは、どんな王女なのだろう。王女様というカテゴリーの人に会ったことがないせいか、純粋な興味が湧いてくる。

「王女様と魔王様の会食は華やかだったでしょうね」
「華やか、だと?」

 目を細めるた魔王は眉間に皺を寄せ、残忍さを感じさせる冷笑を浮かべた。

「喧しくて鬱陶しい女との会食など、華やかさなど皆無だ。お前と食事した方が面白かっただろうな」

 喧しくて鬱陶しい女と評価された王女は、薔薇園で会ったキルビスからも顰蹙を買っていた。
 王女との会食も気になるが、それ以上に気になることを言われて、理子はゆるみそうになる口元を手で隠す。

(王女様より、私との食べた方が良かったと思ってくれるのは、それだけ気を許してくれているってこと? 面白いって言われたのはひっかかるけど、嬉しいな)

 肩に回された腕の力が弱まったのを見逃さず、身を縮め込ませた理子は魔王と密着した上半身に隙間をつくった。

「魔王様、今日は私の世界では経験出来ないことをいっぱい経験させていただき、ありがとうございました。でも、いろんな方に勘違いされたのは困りました」
「勘違いされた、だと。リコを不快にした者がいたのか?」
「丁寧に対応してもらいました。不快なことはありません」

 何故か怖い表情になる魔王に、理子は慌てて首を横に振った。

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