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2章 魔王様は抱き枕を所望する

  酒は飲んでも飲まれるな②

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「果実酒ですか? 飲みやすいですね」

 グラスに残った酒を一気に飲み干した理子は、上機嫌でボトルからピンク色の果実酒を空になったワイングラスへ注いだ。

(あれ、頭が、グラグラする……)

 三杯目のおかわりをして、グラスに口つけたまでは意識がしっかりしていた。
 突然、頭の中がゆらゆら揺れだし目蓋が重くなっていき、ぼやけだした視界に理子は首を傾げた。
 アルコールには強いはずなのに、体が熱くて頭の中がグラグラふわふわして思考が定まらなくなっていく。

(まだ少ししか飲んでいないのに、目が回るなんておかしい)

 ワインを飲む魔王は平然と、全身を赤く染める理子を観察するように見ている。
 魔王が自分を観察してくるなら、こっちも日記を付けるくらい観察してやる。と鼻息を荒くして理子は魔王を見詰めた。
 銀髪赤目の綺麗な魔王様は、ただ座っているだけなのに優雅で、完璧すぎて、憎たらしい。関わらないで眺めるだけなら鑑賞用として最高の逸材なのに。

「魔王様は、何で無駄に綺麗な顔をしているのよ」
「綺麗な顔だと?」

 怪訝そうな顔をした魔王が前髪を指で払った仕草でさえ、色気を放っている気がして理子は「フンッ」と唇を尖らす。

「美人で権力を持っていて、モテモテなんて女の敵だわ。女の敵の魔王様なんか滅んじゃえばいいんだー」

 握り拳を作って言い放てば、魔王は片方の眉を器用に上げた。

「酔った上の発言とはいえ、我の滅びを望むとはな」

 冷笑を浮かべた魔王は、コトンッと音をたててテーブルにワイングラスを置いた。

「まったくお前は、いい度胸をしている」
「あっ」

 魔王が言い終わると同時に、理子の持っていたワイングラスは手の内から消える。

「もう終いだ。伝え忘れていたが、魔国の酒は人が飲む酒よりも悪酔いしやすい」
「まだお酒は残っていたのに、消すこと無いでしょう」

 頬を膨らました理子はグラスを消した魔王を睨む。

「そう膨れるな。無理矢理眠らせるぞ」
「じゃあ、もう寝るからあっちに帰して、あれ?」

 プイッと横を向いて立ち上がった理子は、強い目眩に襲われてよろめいた。
 立っていられず、床に膝を突きかけた理子の腹部へ瞬時に腕が回され、後ろから抱き抱えられる。

「魔王様は私を抱っこするのが好きなんですか?」

 体を反転されて横抱きとなった理子は、急激な眠気に朦朧としながら魔王を見上げる。

「……お前は抱き心地がいいからな」
「ふふっ、私、魔王様にぎゅってされるのは好きですよ」

 酔いが回って全身を真っ赤に染めた理子は、魔王の胸元に頬をくっつけて、へにゃりっと笑う。
 ベッドへ向かう足を止めた魔王は、目を丸くして理子を見た。

「……そんな顔は、我以外の男に見せるなよ」
「うー? 魔王様にしか見せませんよー?」

 返答を聞き息を吐いた魔王は、抱きかかえていた理子をベッドへ横たえた。

「もう眠れ」
「はーい。あのね、魔王様の手、冷たくて気持ちいいから、好きです」

 頬を撫でた魔王の手の上から自分の手を重ねて、目蓋を閉じた理子は甘えるように彼の手のひら頬を擦り寄せた。


 ***


 翌朝、目覚まし時計のアラーム音で目覚めた理子は重たい瞼を開いた。
 いつもの朝と同じ、魔王の寝室ではなく自室での目覚め。
 眠った時の記憶が曖昧で、昨夜の事を思い出そうとした理子は頭を抱えた。

(昨日……お酒を飲みはじめてからの記憶が無い。私、何かやっちゃったかな?)

 魔王に向かって何か失礼なことを言ったのは、何となく覚えていた。
 生きて元の世界に戻って来たということは、魔王が許してくれる範囲での絡みだったのだろうか。

(とりあえず、今夜向こうへ行ったら謝らなきゃ)

 ベッドに寝転んだまま伸びをして、理子は勢いよくベッドから飛び起きた。


酔っ払って何かしたのか聞いても、魔王様は教えてくれませんでした。
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