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7.少年は賭けにでる

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 ガチャリッ!

 扉を叩こうと握った手を上げた時、勢いよく内側から扉が開く。
 反射的に後ろへ下がったため、顔面に扉が当たることは無かったが突然のことに驚いたアシュリンの口からは、乱れた呼吸音しか出てこない。

「アシュリンー!」

 勢いよく玄関扉を開けたのは、満面の笑みを浮かべたエメルだった。

「誰か瀕死の人いない?」

 おはようでもない第一声が不穏だったため、言われた言葉をアシュリンが理解するのに時間を要した。

「は? いきなり何を言い出すのよ?」
「ついに完成したの! 体力魔力を全回復させる魔法薬が! 治験したいから瀕死の人が欲しいのよー」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるエメルの思考は、連日の徹夜と魔法薬の完成できっとおかしくなっている。

「そんな人はいないって、あっ!」

 普段以上におかしくなっているエメルに、冷静な対応しようとしていたアシュリンの脳裏に浮かんだのは、牢に閉じ込められているルークの姿だった。

「一人、瀕死ではないけど酷い怪我をした人を知っているわ。治験するなら、一つ貰ってもいい?」
「いいわよー。飲ませてどうなったか、絶対に教えてよー」

 鼻歌混じりのエメルはスキップをして家の中に戻って行った。


 ベッドに座り、兎のぬいぐるみを撫でていたルークはアシュリンの気配に気付き、顔を上げた。

「神妙な顔をしてどうした?」
「魔力と体力を全回復させることが出来るかもしれないわ。怪我と魔力が回復したら、生き残れるかもしれないでしょう」

 もしも怪我が回復したら、鎖をはずしてこの牢から逃げ出せるかもしれない。
 鎖が外せず逃げ出せなくても、処刑の日に隙をみて逃げ出せるかもしれない。

「回復? どうやって?」

 立ち上がりかけて、揺れたベッドから転がり落ちそうになった兎のぬいぐるみを、伸ばしたルークの手が止める。

「魔女特性の魔法薬を飲めば、怪我と魔力が回復するかもしれない。回復したらこれを使って鎖を外して」

 抱えて眠りこちらへ持ち込んだ毒々しい赤紫の液体入りの小瓶と、以前エメルから護身用に貰った魔法の短剣をルークに見せた。

「これを飲めというのか?」

 瓶の中で揺れる度に、泡立った泡が弾け立ち上る紫色の煙が出て消えるという、毒にしか思えない液体にルークの顔色が若干悪くなる。

「この薬を作った魔女の友達いわく、飲めば体力魔力を全回復出来るそうよ。まだ試作品だけど、上手くいけば魔力が回復出来るかもしれない。見た目と臭いは酷いし、本当に効果があるのか分からないから……これを飲むか飲まないか、ルークに任せるわ」

 アシュリン自身、「飲め」と言われても絶対に飲みたくない魔法薬。
 飲んでほしいとルークに強要は出来ず、アシュリンは俯いた。

「飲むよ。アシュリンが俺を害することはしない。君は、俺の天使だから」
「天使?」

 アシュリンの持つ魔法薬を受け取り、ルークは瓶の蓋を開いた。

「うっ」

 蓋を開けた瞬間、瓶の中から発せられる目と鼻を攻撃する刺激臭。
 顔を歪めたルークは両手で瓶を持ち、一気に中に入っている液体を口の中に流し込んだ。

「ぐっ、うぅ!」

 涙目になって吐き出しそうになるのを堪え、口を手で押さえたルークはごくりと液体を飲み込む。

 カランッ。

 瓶を取り落としたルークの顔色は、青を通り越して黒くなっていた。

「どう? 変化はあった? きゃあっ」

 口を押さえて震えているルークの全身から白色の光が放たれ、眩しさでアシュリンは目を瞑る。

「アシュリン」

 白色の光で埋め尽くされ、遠ざかっていく意識の中で金属が割れるような音と、ルークの声が聞こえた。


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