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猛獣との出会い

  猛獣とOLの新しい関係④

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(どういうこと?)

 食べ残してあった料理が乗った皿とワイングラス、脱がされた紗智子のジーンズとショーツは、全て片付けられていた。
 昨夜の皿の代わりに、焼きたてのロールパンとコーンスープ、サラダに厚切りベーコンとスクランブルエッグが置かれていて、香ばしいパンの香りで紗智子の腹は空腹を訴えだす。

「あー、あのねクロードさん? このバスローブは何処から出したの? あとね、この美味しそうなご飯は何?」

 突っ込みたい所は色々あるが、とりあえず紗智子が不思議に思ったことを聞いてみる。

「お前が寝ている間に部下へ連絡して用意させた。コレは、風呂でヤッている間に届けさせた」
「えーっと、それってつまり……」

 このマンションは古い上に壁は防音では無い。
 此処は角部屋で、三日前から隣人は出張で不在なのは幸いだった。とはいえ、部屋へ入った相手に情事の音はバッチリ聴こえていただろう。
 それ以前に不法侵入だ。紗智子の顔は一気に青ざめていく。

「聞こえた音、見えたモノは全て記憶から消せと命令してある。だから安心しろ」
「あ、あ、あり得ない」

 そういう問題では無いと体が震え出す。
 抗議の声を上げようとして、彼はデリカシーの無い男だということを思い出した。


「ほら、口を開けろ」

 ベーコンを切り分けてフォークに刺したクロードは、腕の中にいる紗智子の口へ運ぶ。
 雛鳥へ食事を運ぶ親鳥のように、クロードは紗智子の世話を焼こうとする。
 複雑な思いを抱きつつ、紗智子は口へ運ばれてくる料理を食べていた。
 本音は自分で食べてたいのに、先程散々乱れたせいで腕が怠くて腰も痛い。体中痛くて動けないのだ。

「ごちそうさまでした」

 用意された食事を食べ終わり、食後の紅茶もクロードの介助で飲まされて一息ついた。

「お前の休みは週休二日、だったな。俺も明日の夜までフリーにした。あと一日半、堪能させてもらう」

 意味深な台詞を言い、ニヤリと口角を上げたクロードは喉を鳴らして笑う。

「あの、クロードさんは恋人、特定のお相手はいないの?」

 雰囲気は猛獣をイメージさせる彼は、容姿だけ見たらモデルと言われても納得するくらい、整った容姿をしている。
 そんな男ならば、付き合っている彼女の一人や二人や三人くらいいるだろうに。
 いくら体の相性が良くても、本命、もしくは体のお付き合いをしている相手がいる男と関わりたくない。

「ハッ、恋人? そんなものは煩わしいだけだ。たとえ女がいたとしても、お前の方がずっと具合がイイだろうな」
「具合って、今のはかなりの最低発言ですよ」
「最低だと? 俺にとっては誉め言葉だな。お前を抱けるならば、それなりの対価は払うつもりだ」

 クロードとの価値観の違いを感じて、紗智子は眉を寄せた。

「対価って、この後も私とは体だけの関係を続けるってことですか?」
「ああ。お前はセックスするのに特別な感情が必要なのか?」

 “体の関係だけだ”とはっきり言い切られ、紗智子は体の奥が冷えていくのを感じた。

「私と貴方の関係は特別だわ。今後、私に好きな人や恋人が出来たら……私は、恋人がいたら恋人以外の人とはセックス出来ないと思う」

 万が一、クロードと恋人関係になり「浮気は嫌だ」なんて彼に伝えたら、「面倒だ」と言って簡単に切り捨てるのだろう。

「ほぅ」

 表情を強張らせる紗智子の頬を一撫でして、クロードは器用に片眉だけを上げる。

「それならば、恋人は作るな。お前に言い寄る男は、全て排除してやるよ」
「はぁ? それって横暴だわ。いい出会いがあったら、仲良くなりたいと思うのは仕方ないでしょう」
「黙れ」
「いたっ」

 背後からバスローブの合わせをずらし、紗智子の首筋に顔を埋めたクロードが鎖骨の上に歯を立てた。
 噛まれたこともそうだが、服で隠しにくい部分に歯形が付いてしまったじゃないか、という怒りが沸々と湧き上がってくる。

(この猛獣、一方的に体の関係を続けろだなんて、とても私の手に負えないわ!)

 睨みつけても、クロードは涼しい顔でなおも首筋を軽く噛み、歯形がついた鎖骨へ舌を這わせた。

「クロードさんのお仕事は、ううん、何でもない」
「ふっ、知りたいか?」
「部下がいるのなら、社長さん、とか」

 彼の纏う雰囲気に気付かない振りをして、あり得ないだろう職業をわざと答える。

「社長、ねぇ。そういうことにしておくか」

 腕の中に閉じ込めるように、背後から紗智子を抱き締めたクロードは愉しそうに笑った。


 これが、猛獣みたいな男と普通のOL、山田紗智子の体から始まった、名前の定まらない関係の始まり。


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