上 下
6 / 22

06.

しおりを挟む
 両腕、両脚に絡み付いた触手はぬめりが少ない鰻に似ていて、生理的な嫌悪感から身を捩って逃れようとするも、触手の力が強くなっていきによって身動きが取れなくなる。

 得体の知れない侵入者、四肢に絡み付く触手に体を締め付けられる恐怖から、両目いっぱいに涙を溜めた陽菜は全身を震わせる。
 身動きも悲鳴を上げることも出来ず、口腔内いっぱいに入り込んだ触手にせめてもの抵抗で歯を立てた。

「ふっ、人型であることと、女であることだけは良かったか」

 甲冑で表情は見えないのに、侵入者の声から愉しそうに笑っているのが分かった。

 力いっぱい噛んだ触手が口腔内から抜け出ていき、触手の先端から垂れた唾液の糸が陽菜の口の端に落ちる。

「貴方、なん、なの?」

 発した声は恐怖で震え、瞬いた際に両目からの零れ落ちた涙が陽菜の頬を伝う。

「ひっ」

 顔の近くで二本の触手が蠢き、涙で濡れる陽菜の頬を撫でながら下がっていき細い首に巻き付く。
 首を絞められるかもしれないという恐怖で、浅い呼吸を繰り返す陽菜の首筋を触手の先から出た繊毛が慰めるように撫でた。

「はぁはぁ……あ、貴方は何なんですか? これは、不法侵入だし、ドッキリにしてはやり過ぎでしょう」

 唯一自由になる目を動かして、部屋の何処かに仕掛けられているだろうカメラを探した。

「ドッキリ? 何だそれは。俺は最上級のエナジーを求め探し出し、採取するため此処へやって来た。俺と相性が良く、我が軍を強化することの出来るエナジーの持ち主、それが貴様だっただけだ」

 侵入者が首を少しだけ傾げ、擦れた甲冑が軋み音を鳴らす。

「エナジー? それこそ何のことですか?」

 聞き覚えの無い、否、幼い頃に見たテレビアニメでヒロインの敵が集めていた力と同じ言葉。
 アニメと同じ意味だとしたら、この甲冑は人外の存在ということになる。

(触手を出す時点で人外だって薄々気が付いていたけど、この後はどうなるの? まさか……)

 触手の出す敵が出て来る漫画は、学生時代に付き合った恋人の愛蔵書の中でも成人向け美少女漫画で読んだことがあった。
 敵の触手に捕らえられたヒロイン達がどうなったのかを思い出して、背筋が寒くなってくる。

 陽菜の脳裏にヒロイン達が触手の出す魔物に凌辱された末、快感に負けて気持ちよさそうに甘い声で喘いで自ら腰を振っているという、とんでもない場面が浮かんだ。
 別れた恋人の性癖云々は置いておいて、人外と触手の組み合わせときたらエロ展開しか浮かばない。

「ちょっと、意味が分からない。エナジーなんてもの、知らないわ」

 どうにか逃げ出さなければ、脳裏に浮かんだ成人向け漫画と同じ展開になってしまう。
 触手の生えた甲冑の化け物に凌辱されるのはご免だ。全力でこの場から逃げたいのに、四肢に絡み付く触手によって身動きが取れない。

「ドッキリでないなら、これを解いて帰ってください。このまま帰ってくれれば、警察に通報はしません」
「はっ、帰れだと? 此処へ来るだけで相当な魔力を使ったのだ。貴様からエナジーを摂取しなければゲートは開けないし、この場より他へは行けぬ。俺を帰したいのならば、拒絶せずにエナジー採取の協力をするのだな」
「協力って? 貴方に協力すれば、帰ってくれるの?」

 大声を出して隣の部屋の住人に助けを求めたくても、夕方から出勤している隣人は不在だった。

「ああ、必要量のエナジーを手に入れたらな」

 想像してしまった成人向け場面が脳裏から消えてくれなくても、甲冑に帰ってもらうには協力するしかないと陽菜は覚る。
 ゴクリと唾を飲み込み、陽菜は表情の分からない甲冑の顔を見詰めた。

(エナジー接種って、献血みたいなものかしら? もう疲れ過ぎて頭がくらくらするし、早く帰ってもらって寝なければ明日起きられなくなるわ。少しくらいなら大丈夫よね)

 甲冑に協力すれば此処から去ってくれる約束しれもらえるのなら、献血するくらい大したことは無い。

 異様な状況と連日の残業で、疲労困憊になっていたこの時の陽菜は判断力が鈍っていたと、思い出す度に後悔することになった。

「分かったわ。貴方に協力します。エナジー採取したら帰ってください」

 神妙な顔で言う陽菜を見下ろし、目元以外は見えないはずの甲冑がニヤリと口角を上げて笑った、気がした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...