お題を消化していくよ

いえろ~

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でもな

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 東京の大学を卒業し、地元に戻ってきた。ローカル線の駅を降り、近くのコンビニに行く。俺が上京した時にはなかったが、新しくできたと思われるコンビニに客はいなかった。

 缶コーヒーをレジに置く。ポケットから財布を取り出そうと視線を落とす。

大志たいし……?」

 店員から突然名前を呼ばれ、顔を上げる。その男の店員は、右目元にホクロがあり、俺はそいつを知っていた。

「まさか、賢吾けんごか?」

 賢吾と呼ばれた男は、嬉しそうに笑顔を見せた。旧友の再会に、言うまでもなく俺もテンションが上がった。

「久しぶりだなぁ! 高校以来か?」

「そうだな! でも、お前も東京に行ったんじゃなかったなかったんか?」

「あー、そうだな。まあ、色々あったんだ。そうだ、今夜一緒に呑まねぇ?」

「高校の時は『酒なんか絶対呑まねぇ』つってたお前から呑みに誘われるとはなぁ」

 賢吾は、色々あったんだ、と繰り返した。



 高校時代の賢吾は、誰よりも眩しかった。「将来は絶対漫画家になる!」と事ある毎に言っていたし、性格も明るく、人気者だった。成績もそこそこ良く、俺と共に大学進学のため上京した。とは言っても、大学のランクは俺の方が少し上だが。

 国道沿いの大衆酒場は満場だった。何とか隅の空席を取り、中ジョッキで乾杯。

 話を切り出したのは、やはり賢吾だ。

「東京じゃあどうだったん?」

「普通に4年間過ごしただけだよ」

「えぇ、嘘!? 東京なんぞハイカラ都市の普通は、こちらの普通じゃねぇんだよ」

「んー、まあ。確かにグラノーラ専門店とか行ったわ」

「グラノーラ!! かあー!」

 賢吾がわざとらしく大きい反応をする。

「でも、大志、勿体ねぇよ」

 と思いきや、トーンを落とす。差が激しい奴だ。

「何が?」

「折角東京のT大に行ったんに、なんでこんな田舎の教員にねぇ。東京の大企業なんて余裕だんべ」

「まあ、教員はガキん頃からの夢だったしな。同じブラックなら、楽しいブラックの方がいいだろ?」

 今度は、俺の番だ。

「てか、お前もどうしたんだよ。コンビニでバイトなんかして。漫画家になるんじゃなかったのか」

 その時、賢吾の顔が強ばった。何とも言えない表情だった。

 ジョッキがカタカタと音を立てる。

「父さんが倒れたんだ」

 賢吾の父はよく会っていたが、賢吾が「この親にしてこの子あり」という感じで、よく喋る、陽気な人だった。

 当然、衝撃だった。なのに、直ぐにそれは塗り替えられた。

「そのまま、死んじまった」

「死んだ……」

「年寄りの母さんだけだと心配だろ? 中退して、戻ってきたのはもう2年前かな」

「じゃあ、諦めたのか」

 我ながら、酷なことを言った。

「諦めざるを得ないだろ。これっきりは仕方ねぇ」

 俺は何となく、そうだな、と返す。賢吾がビールを一気飲む。

「でも、フリーターじゃあ母さん食わせてやれねぇからな。早く仕事見つけねぇと」

 それでも、賢吾は気丈に振る舞う。

「つっても、今からでも遅くないんじゃないか? そりゃここじゃあ機会はないかもだけど、たまに東京でも何処でも行ってみたらいいんじゃないか」

「そんな、簡単に言うなよ」

「弱気になるなよ。らしくない」

「お前の無鉄砲なところが、俺は魅力だった」

 すると、賢吾はクククと笑った。

「お前、実はソッチだったのか」

「ば、馬鹿か!」

 俺は少しだけ赤面し反論した。

「あーそうだよな! 俺は何も考えない無神経野郎だもんな!」

「まあ、そこまでは言ってないけどな」

 俺の言葉を聞く前に、賢吾は焼き鳥の平らげ、お代わりしたビールをまた飲み干した。

「……」

 賢吾が小声で何かを言っていた。

 特徴的な「エ」の口、「オ」の口、「ア」の口。

 いつの間にか、賢吾は笑いながら泣いていた。

 ごめん。

 何でお前が謝んだよ。らしくねぇ。

 いや。ごめん。

 俺はとにかく「ごめん」しか言えなかった。
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