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いえろ~

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いただいた題材の小説

カラス

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 僧も走る程の大忙しな時期、俺はどこを走っているかわからず、途方に暮れていた。

 頭の何かが「切れた」のは今日の午前中、派遣社員でぞんざいな扱いをされ、何とか繋いでいたのだが、遂に鬱憤を晴らすように怒鳴り散らして会社を出ていったのだ。

 それからと言うもの、小さい野球場と川と不法投棄のゴミ袋しかない殺風景な河川敷の土手で、ずっと寝っ転がっていた。

 空を流れる雲を見つめては、即興の詩をボソボソと呟いている。三流大学の文学部で得た少しばかりの知識と感性は、就職では全く役に立たなかった。

 いつしか、中学生が野球場で練習を始めた。おじさんの怒号が聞こえる。恐らく部活だろう。俺と同じ三流チームの。いや、それだと未来ある少年達に失礼か。

 俺は上体を起こし、野球場を見る。あの頃は、俺はまだ「未来ある少年」だったのだろうか。少なくとも、何かに夢中だった覚えはあるが、それが何だったかは、これもまた忘れてしまった。

 中学生達が帰っていくと、俺はまた寝っ転がった。日はとっくに暮れ、薄暗い。

 風が強く吹いてきた。

 真上を、カラスが翼を広げ止まっている。

 いや、動いている。

 進もうとしている。

 風に抗おうと、翼を動かしている。

 しかし、風に煽られ、なかなか前に進まない。

 辺りは暗かったはずなのに、カラスだけは容易に目視できた。

 かと思えば、風が少しだけ弱くなった一瞬、カラスはタイミングを見計らっていたかのようにもう彼方へ飛んでいってしまった。

「黒な何色でさえも黒にする。黒は絶望の色だ。闇の色だ。だがしかし、微かな希望を持ってさえいる」

 そんな、ありきたりな短文を言ってみる。

 言葉は風に運ばれる。

「人々は黒を恐れる。見ても見ても果てがないから。でも、そこに光があると知っている者は、飛び込むことを臆することはない」

 そして。

 12月中旬の、風が強い夕方5時くらいのことだった。
 


「あん時のあれよかったな...なんだっけ。あぁ、あれだ。カラスだ」

 俺はあの時に会い、目の前にいる妻に話しかける。

「カラスなんて、しょっちゅう見かけるじゃない。それに見た鳥の名前ですらも思い出さなくちゃ言えないだなんて」

「過去との決別だよ」

 あれから、俺はありきたりな小説を書き続けている。この間、独自に小説を刊行した。というのも、妻が勝手にしてしまったのだが、俺に勘づかれることなくできたのは、俺の鈍感さか、妻の行動力か。

 タイトルは、まだ知らない。
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