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第八章

サファイアの導き1(ユリウス視点)

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「レインがいない……!?」
「はい、もうお休みになっていると思って確認しに行きましたところ、どこにもいらっしゃらなくて……」

 深夜に、慌てたようにユリウスの泊まる客室に転がり込んできた女官長ベルにより、婚約者であるレインの不在を伝えられたユリウスは、目を見開いて呆然と口を開いた。

 急いで駆け付けたレインの部屋はも向けの殻で、しかし、レインが勝手に城の外に出たうえ、戻らないこともありえない。レインの好きな中庭にもレインの姿はなく、ユリウスは眉根を寄せた。

「まさか、さらわれた……?」

 最悪の想像が脳裏をよぎる。だが、この王城でどうやって王女を攫うというのだろう。
 ユリウスの言葉に、その場に沈黙が降りる。

 レインの居住区一帯の護衛を任されていたダンゼント騎士団長が、青い顔をして絞り出すように言った。

「わしのせいだ……わしが、おひいさまの部屋に張り付いておれば……」
「女王になるまではレインのプライベートを尊重しよう、と言ったのは私だ。ダンゼント騎士団長が気に病むことではない」

 ユリウスは、そこまで言って、はっととあることに気づいた。

「……どうして、レインの部屋にも、中庭にも、争ったような跡がないんだ?」

 ユリウスのこめかみを汗が伝う。レインを早く取り戻し、安選させてやりたいと、焦りばかりが先行する。

「閣下!」

 その時、他の王族の居住区にレインがいる可能性を考えて確認をしてきたチコが戻ってきた。その顔は暗く、震えた声でチコは言う。

「アレン様もいないのです……!」
「な……」
「そして、投獄されていたコックス子爵令嬢と、北の塔にいるはずのオリバー第一王子の姿も……看守は殺されていて……ひ……ッ」
「ユーリ、落ち着け、おやじも」

 いきり立つダンゼントを息子であるベンジャミンが押さえた。
 しかし、ユリウスには声をかけただけ。ユリウスは、自分でも凍えるほど冷たい表情をしている自覚があった。だからこそ、手を出すのは逆効果だと思ったのだろう。

 チコの悲鳴の理由も、おそらくそうだ。

「ユリウス……」
「大丈夫だ。少なくとも、頭は落ち着いている」
「……そうか。……まだ、オリバー王子とコックス子爵令嬢が犯人と決まったわけじゃないが……」
「だが、十中八九」
「……あの二人だろう。ここまでやるとは、俺も思わなかったが」

 犯人はおそらく、オリバーとヘンリエッタだ。その手引きで入ってきた何者かによって、レインとアレンは攫われたのだろう。アレンはレインの抵抗を封じる人質かもしれない。

 夜明けが近い。レインがいなくなってから、少なくとも五時間は経っている。
 レインへ続く手がかりを追って中庭を探していたユリウスは、中庭の向こう、使用人用の門から繋がる馬車道に、きらりと輝くものを見た気がして、そちらへ足を進めた。

 その馬車道へ出ると、数人の子供たちがこぞって何かを集めている。
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