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第二章

庭園にて、タンポポを好きと言いました2

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 ユリウスの手がレインの頭を撫でてくれる。レインははにかんで目を細めた。

「そうか、では、この庭園をタンポポでいっぱいにしよう」
「ええっ!? で、でも、公爵家のお庭にはふさわしくないですっ」
「レインが好きかどうかが大切なんだ。私はレインの好きなものをまたひとつ、知ることができてうれしい」
「好き、というか……」
「というか?」

 ユリウスは、レインのゆっくりとした言葉を、ひとつひとつ、しっかり聞いてくれる。それが嬉しい。

「男爵家にいたころ、よく森から失敬して食べていたんです。タンポポは葉も花も食べられますし、土を落とせば根もおいしいんですよ」

 まあ、おいしいとは言っても、他の草に比べて、ではあるし、公爵家で出される素晴らしい料理に比べては申し訳ないものなのだが。
 思い出しながら言葉を紡いだレインは、言ってしまってから、あ、と思った。
 公爵家には――レインの今の身分である、公爵家の令嬢、にはふさわしくない話だった。
 やってしまった、とうなだれるレインの髪を、ユリウスの指がすく。

「そう、それで……他にはどんなものを食べていたの?」

 ユリウスの手が握りしめられている。怒りだろうか。けれど、そこにレインへのものは感じられなかった。ユリウスは、きっと男爵家の人間に怒っている。
 ふと、気になることがあって、レインは尋ねた。

「……引かないんですか」
「レインのことで嫌だと思うことはないよ。むしろ、レインの言葉を、レインの口から、もっと聞きたい」
「……ありがとうございます」

 タンベット男爵家では、レインのことを聞くだけでもわずらわしいと言われていたのだ。
 だから、レインにはユリウスの態度は新鮮で、心臓をなんだかあたたかくさせるものだった。

「……あれは?」

 ふっと、花壇に咲いた大きな花が気になって声をあげた。ユリウスが、レインの隣で足を止める。

「あれ……ああ、ダリアか。これはダリアという花だよ」
「だりあ。こんなにすごいお花、見たことないです。……花びらがいっぱいのところが、タンポポみたい。……もし、もし増やすなら、このお花がいいです。タンポポに似てるし、公爵家には、きっと……」
「好きなものを植えていいと言ったのに。でも、そうか。レインは僕らのことを考えてくれるんだね……」

 ユリウスは少し考えていった。

「公爵家の庭師は腕がいい。庭師のダンに言えば、きっと、ダリアも、タンポポも、綺麗に植えてくれる。この庭を管理している彼は、腕がいいんだ」
「……一緒に言ってくれますか?」
「もちろん」

 レインがおずおずと尋ねると、ユリウスはにこりと笑って返してくれる。
 その顔があんまりやさしくて、レインはそっと胸を押さえた。どきどきする、と思った。

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