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「――ぴ」

 ……ぴ?

「ぴゃあああぁああ!」

 突如響き渡った小鳥のような悲鳴に、周囲のみなは音の発生源を探し、そしてその音の源に気づいて驚愕の視線を向けた。
 その顔に、なんだ、今の声は、という困惑を宿して。

「ぴゃ、ぴゃぁああ……」
「ああ、小さいころからかわらないね、驚くと小鳥みたいに悲鳴をあげるところ」
「……な……!ばか!フリードリヒ様のばかっ!」
「うんうん、はずかしくてたまらないんだね。それに、罵倒したいのに罵倒の語彙がなくてばか、しかいえないんだよね、アリアナは」
「ば……ば、ばかっ!ばかばかっ!」

 ぽかぽかとフリードリヒの胸をたたくアリアナの目は涙に潤んでいる。
 その様は、鷹や鷲という猛禽というよりは、フクロウの赤ん坊のようだった。
 おや……?と周りの面々が首を傾げ、しばしの沈黙がその場に落ちる。
 そんな中、ふいに、誰かが言った。

「あ、アリアナさまって、かわいいのでは」
「しっ……!いやでもたしかに……」
「赤ちゃんフクロウ……」
「ばかしか語彙がないって、それ、もしかしてミリナ様への悪口もそれしか言えてないってこと?」
「いや、っていうか、そもそもこのかわいいのが悪意ある言葉を発するのがもう想像できないんだけど……」

 周囲の、アリアナへの悪印象があっという間に塗り替えられていく。まるで仕組まれてでもいるかのように。
 混乱して、あわあわと涙を浮かべ、最終的にはずかしくてフリードリヒにしがみつくアリアナは、その時に浮かべられたフリードリヒの薄い笑みに気づかない。

「ミリナ嬢をいじめたなんて、ミリナ嬢本人がそう言ったのかい?アリアナにいじめられたって」
「い、いいえ」

 フリードリヒの言葉に、女子生徒が呆然と返す。彼女たちは、今見ている光景が信じられないようだった。

「ミリナ嬢は、アリアナに貴族になるためのアドバイスをもらった、と言っていたよ。そもそも、ミリナ嬢は卒業式の答辞にアリアナへの賛辞と感謝を原稿用紙100枚分つづっていたんだ。そんなミリナ嬢がアリアナを嫌いだと思う?嘘だと思うなら、ミリナ嬢に直接聞いてみればいい」
「……ア……御前、失礼します……!」

 礼をとって女子生徒たちが走り出す。
 おそらく、フリードリヒの言葉通り、ミリナに直接聞きに行くのだろう。
 しかしそんなことはもはやアリアナには関係ない。
 ぐるぐる回る頭で、震える口で、必死に「ばか」と繰り返すしかできないのだ。

「ふふ……アリアナはかわいい。本当にかわいいね……。本当は、人前にこんなにかわいいところを見せたくはなかったんだけれど」
「かわいくっ、ないですっ!」
「うーん、まったくもってかわいい」

 かみしめるようにフリードリヒが言う。周囲の生徒たちがそれぞれに頷くのがわけがわからない。
 アリアナは、しぼりだすような声で言った。

「だって、そんな、どうして……そう思っていたなら、言ってくださらないの」
「君が好きすぎて照れてしまったんだ。でも、このままではいけない、と思ってね」

 フリードリヒの目がすう、と細められる。
 アリアナは気づけば目から涙を流してしまっていて、しゃくりあげるような嗚咽を我慢することができなかった。
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