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 一陣の風が吹き抜けた。
 風――そうだ、風だ。

 風のように走り、アリアナをかばうように抱きしめたのは、最近見ることのなかなかできなくなった、輝かしい金の髪をした青年だった。

 ゆるりと顔をあげ、秀麗な顔をした青年が、その顔に剣呑な色を浮かべて女生徒たちを見据える。

「誰が、誰にふさわしくないって?」
「ふ、フリードリヒ王太子殿下!」
「君は今、アリアナに手をあげようとしたね?この学園では暴力は禁止されている。そうでなくとも相手に手をあげる行為は人としてありえない。申し開きがあるなら聞こうか」

 青年――フリードリヒ。
 彼は、まるでアリアナを守るようにして女生徒たちに言ってのける。
 どうしてアリアナを守るのだろう。アリアナはフリードリヒにすでに見限られているはずだ。
 ……女生徒たちはなにも言えないようだった。だってそうだ。王太子に申し開きーー口答えができる人間なんて、この学園にはいない。
 周囲にざわめきが大きく広がって、そこでアリアナは、ここが人目のある中庭だということを思い出した。

「ふ、フリードリヒ様」
「なんだい?アリアナ」
「そ、その方たちは、べつに」
「君に手をあげる人間をかばうの。ふーん……」

 女生徒たちが戸惑うようにアリアナとフリードリヒを見ている。
 アリアナは混乱して、あわあわと顔を赤くしてフリードリヒを見つめた。
 ――と、フリードリヒの顔がふいにそらされる。
 アリアナが、ああ、まただわ、と傷心して目を伏せた。最近のフリードリヒはいつもこうやってアリアナから目を逸らす。そんなにアリアナを疎ましく思っているのなら、守る必要なんてないのに。
 そう思った時だった。

「アリアナ、そんな目をしないでほしい。そんな可愛い顔をされてしまうと、僕はどうにかなってしまいそうになるんだ。ただでさえ君は最近大人びてきて、きれいになっているのに」

 ――ん?
 周囲の心がひとつになった。
 もちろん、アリアナもそのひとりだ。
 風向きがおかしいわ?とアリアナは目をぱちくりさせる。
 フリードリヒの顔を見上げると、フリードリヒは顔を赤くして、アリアナを見たり目をそらしたりを繰り返している。
 その姿は、とても周囲が、そしてアリアナが思っていたような「素行の悪い婚約者を厭っている王太子」のものではなかった。

「あ、あの、フリードリヒ、さま?」
「……ああ、もう!どうしてアリアナはそんなに愛くるしいんだ……!この女生徒たちへの怒りより、君への愛でおかしくなってしまいそうになる……!」
「……え?」

 フリードリヒがたまらない、というようにアリアナの額にキスをする。
 それは、まさしく婚約者が愛しくてならない、という態度でしかなくて。
 ――この見世物に、周囲に人が集まってくる。
 周囲の人間が不可思議なものを見るように目を見張る、その瞬間。
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