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お嬢様と小間使いの話

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 君と一緒に死にたかった。
 ふんわりとなびく髪は白く、枯れ木のような手は萎びた顔を覆う。
 君は浄土へゆくのだろう。君は、君は。

 僕は違う、僕は君を失いたくなくて、多くの過ちを犯したから。きっと灼熱の釜でゆでられるのでせう。

 そう言って泣いた僕に、君は笑ってそんなことはないと言った。

 何処へでもついてゆきますと、足に鎖のついた彼女は僕の手を取った。


 僕の過ちは、彼女を縛り付けたこと。
 僕の過ちは、彼女の大切な人をみなみなころしてしまったこと。
 だから僕は、あなたと同じところへは逝けないのですよと言ったのに、彼女は笑うばかりだった。


「地獄のなにがこわいのでせう、わたくしを閉じ込めていたあの場所こそが地獄でした」

 彼女はしわくちゃの手で、もう一度ぼくの手を取った。

「お嬢様、」
 何をいうべきかわからなくて、僕はただ、ただ、ただ、口を開け閉めするだけで、精一杯だった。

「わたくしを地獄から連れ出してくれたあなたといっしょなら、ほんとの地獄さえ遊び場でせうよ」

 にっこり笑った皺だらけの枯れた彼女は、僕の皺だらけの枯れた手を取った。
「そうですね……お嬢様には、お山の天狗でも勝てませんから」
「まあ!」

 君が好きだとは結局言えない。

 だからこそ、僕は君といっしょに死にたかった。
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