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呪いへの対策
しおりを挟む「状況を整理しようか」
あくる日、クリスの執務室でエルフリートが口火を切った。
例のカヤの姿をした呪いの主についての確認をしたい、ということだった。
クリスの椅子にもたれかかり、思い出すように目を上向ける。
「私は前王リーハの番のことももちろん知っているが、墓には死体をどうにかする呪術は使用されてはいなかった。痕跡を消しているのかもしれないが」
「精霊竜の目から逃れられる呪い、などとあったら見てみたいものだ」
「そうだろうね。少なくとも、術者が私より上位存在だというのは考えにくい。……というか、さ、前から気になってたんだけど、君、番様と他人じゃ態度が違いすぎないかい?」
エルフリートは呆れたように言った。
クリスはきょとんと目を瞬く。
「どうしてエリー以外に傅く必要がある?エリーはこの世界で最も尊い存在だが、ほかは違うだろう」
「開き直りありがとう。そうだよねえ、君はそういう生き物だ。……とにかく、先だって君が呪いの主に攻撃を仕掛けたとき、与えたダメージは相当なものだったはずだ。少なくとも、今番様の体に染みついている呪い以外に新たなものを重ね掛けされるということはない」
「……しばらくは、危険はないと?」
「いいや」
クリスの問いに。エルフリートはわかっているはずだ。と目を細めた。
クリスは首肯して、そうだな。と続けた。
「それでも、エリーの体に残っている呪いはそのままだ。むしろ、大元が姿をくらましてしまった以上、次の出現を待たねばならなくなった。呪いの根本的な解呪には、カヤの姿をしたアレを消滅させることが必要だ」
「そうだね」
エルフリートが椅子のひじ掛けに頬杖をついた。
「君が今できることは、番様のある程度近くにいて、呪いの出現を待つことだ。直接的な被害を散らしてやりながらね」
「ある程度?そばにいて、事前に防げないのか?」
「可能ではある。しかし、あれだけの攻撃をしたんだ。並みの術者なら精神がばらばらになるほどのダメージを与えられて、呪いの主が君がいるのにも関わらず姿を現す、というのは考えにくい」
「……守れはするが、根本的な解決にはならない、ということか」
「そういうこと」
クリスが椅子に腰を下ろすと、エルフリートが半透明の霊体になって宙に浮く。
そのまま寝そべった姿勢でふわふわと漂いながら、つまり、と口を開いた。
「いざという時、君はぎりぎりまで番様を助けに出てはいけないということ」
「それは許容できない」
クリスはぴしゃりと言った。
そうだろうねえ、とエルフリートがけらけら笑う。
「一応、私のダーナがそばにいるんだけど、といっても、君は納得できないんだろう。なにせ番のことだからね」
「お前は番に淡泊すぎるんだ」
「そりゃあ、いくらかは淡泊になるさ、何周目だと思っているんだい?精霊竜の一生は長いんだ。ダーナも何度も生まれ変わって来た。しめつけてばかりじゃかわいそうじゃあないか」
そう言ってほほ笑むエルフリートは、自身の番であるダーナのことを考えているのだろう。
ダーナ、と名前を出しただけで、その目はやさしげに細まった。
長く生きて来た余裕、というべきか、そういうものを感じ取って、クリスはぐ、と奥歯を噛んだ。少し悔しい気持ちになって。
「まあ、私も君に気配消失の魔術をかけてあげるよ。それでだいぶましだろう。まあ、君は存在感が大きすぎるから、君も気配を消すように頑張らないといけないけれどね」
「……善処する」
「ああ、いつになっても竜王ってのは難儀なものだよねえ。リーハもだけれど、君も。……私は、君たちが間違わない限り、君たちの味方さ」
「それは、お前の番に危害を加えるかどうかという話だろう」
クリスが言うと、エルフリートは半透明のままにい、と笑った。
ダーナ……エルフリートの番。エルフリートが長命であるから、その命の長さだけ、生まれ変わってきた彼の最愛は、クリスにとってのエリスティナのようにカヤの嫉妬を受けた。
クリスと違ってエルフリートに力があったためにダーナの前世だった少女は守られたが、それ依頼、エルフリートは竜王がクリスへと代替わりするまで、一切の助言も仕事もしなかったという。
リーハやカヤがあんなにも簡単に幽閉できたのはエルフリートの力があってこそ。
敵に回してはいけないな、と思いながら、クリスは窓の外を見やった。
タンポポの咲き誇る中庭で、エリナが楽しそうにダーナと何か話している。
ややあって、上階のクリスに気づいたらしい。
嬉しそうに手を振るエリナに微笑んで手を振り返しながら、ふと横を見ると、霊体のまま窓をすり抜け、彼の番のもとに飛び去って行くエルフリートの姿。
これだから自分勝手な精霊竜は!と、クリスは窓を開け話し、窓枠へ足をかける。
ガラスのような翼を出し、はためかせ、せめて速度の面ではエルフリートに負けるまい、と、中庭へと急降下していった。
なお、このあと二人は各々の番に「危険でしょう!」と怒られることになったのであった。
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