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愉快な宰相エルフリート2
しおりを挟む「はじめまして!私のこと気になる?気になっちゃう?気になっちゃうって顔をしているね!教えて差し上げよう!私の名前はエルフリート!ちょっと珍しい精霊竜!前の竜王の時代からひたすら仕事を押し付けられてきたかわいそうな宰相さ!」
「エルフリート、タイミングを考えろ」
「おやおや陛下!この上なく考えたつもりさ!ドアの外にはあたたかい食事を用意したメイドたちが列をなし、冷めるのも時間の問題だと泣いている。君らはまだ話すつもりみたいだし、今現れないでいつ現れるっていうんだい!」
両手を広げて仰々しく礼をしたエルフリートと名乗った青年は、驚くエリナを見て一瞬だけ目を細めたように見えた。
眉を下げて、申し訳なさげな顔をして――けれど、次の瞬間にはまた笑顔に戻っていて。
クーとそう年が違うようには見えないのに、前竜王の時代から宰相をしている、といったエルフリート。竜種の年齢はわかりにくい。
……いいや、精霊竜だからだろうか。
精霊竜は長い時を生きて国を守る守り神のような存在だと伝えられている、物語の存在だ。実在するなんて思わなくて、エリナは口を押えた。
「ふふ、驚いたかい?そうだろう、そうだろう、なにせ精霊竜は私一人!とっても珍しいのに、今の竜王様にはこき使われているんだ!もうここ90年くらい、休みをとっていないよ」
急に遠い目をしたエルフリートにエリナは苦笑いするしかできない。
けれどエルフリートは話すだけ話して満足したのか「なんにせよ、食事を用意させておくれ」と言ってぱちん、と指を鳴らした。
その音とともに、開け放したままだった扉から十数人ものメイドたちが入ってくる。
めいめいに湯気の立つ料理を持ち、部屋の中央に置かれたシンプルかつ大きなテーブルに配膳していった。
「陛下、予算はきちんと用意してあるから、早急に部屋を整えたほうがいいって言っただろう?こういうときのためだったんだよ」
「ぐ……」
「番を探すのはいいけど、番を守るためのきちんとした場所を用意しないと、番にとっては過ごしにくいこと限りなし。番を見つけたくせに、一生独り身でいるつもりだ、なんて言ってたけど、結局は使うことになったじゃないか」
「一生、独り身……?」
「おっと、それは陛下から聞いておくれ、愛くるしいお嬢さん。とにかく、今私が言えるのは、君は好きなものをなんだって買っていいってこと!私が汗水たらして働いて調整した予算だ!番のための分も、陛下の分だって潤沢にあるよ!」
「は、はあ……」
勢いに押されてエリナがうなずく。
頭を押さえてクーがうなだれているが、確かにこのテンションとずっと付き合っていると疲れるのかもしれない。
「言うべきことも言った、配膳も終わった!それじゃあ私は仕事に戻るよ!あっ、でもこれも仕事か!ははは!それじゃあ、あとは仲良くね」
手をひらひらと振って、エルフリートがメイドたちを引き連れて部屋を出ていく。
急に静かになったように感じた部屋で、エリナとクーは互いに見つめあった。
「と、とりあえず、食べましょうか、クー」
「……はい」
エリナはそう言って、手近にあったサンドイッチに手を伸ばした。
いったい何日分の食事かしらと思うくらいに並べられた料理。残してしまうのはもう目に見えてわかる結果だが、それでももったいないのでなるべくなら食べきりたい。
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