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卵を拾って1

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 ■■■

 エリスティナの今日の食事は離宮の端に拵えた野菜畑から取ってきた野菜の……と言ってもそんなに立派なものでもなく、言ってしまえば屑野菜でスープを作る。
 痩せたニンジンの皮を剥き、細かく刻む。葉はサラダにするからおいておいて、先日収穫して干しておいた玉ねぎも皮むきして刻み、鍋に放り込んだ。
 塩も胡椒も貴重品だ。だからこれ以上の味付けはない。ドレッシングなんて贅沢品もない。

 きっと家畜のほうがまだましな食事をしている。
 それはわかっているのだけれど、これ以上に調理のしようがないからどうしようもない。
 というわけで、エリスティナの今日の昼食はニンジンと玉ねぎのスープとニンジンの葉のサラダ、という名前をつけただけの具入りのお湯と葉っぱ、それからずっととっておいたためにかちんこちんになってしまった古いパンだった。

 食前の祈りを捧げ、スープを味わう。
 うん、味は特にない。しいて言えば土臭いニンジンとたまねぎのわずかな甘みがする、気がするだけだ。土にも栄養がないのだろうか。あとでニンジンの皮を撒いてみよう。
 ニンジンの葉は苦く、パンはひたすらに硬い。
 けれど生きるためだ、と無理矢理飲み込んで、エリスティナはふう、と息をついた。

 食事に体力を使うなんて本末転倒かもしれない。
 エリスティナはそれから、自分の古いワンピースを引っ張り出してきた。
 実家から持ってきた針と糸をとり、エプロンの内側に小さなポケットを縫いつける。
 布屑をたくさんつめて柔らかくしたそこに、琥珀色の卵を入れた。

 軽く撫でさすってやって、その卵が冷えそうにないことを確認すると少しだけ安心する。
 本当は温石をいれてやりたいけれど、そんなものは支給されていないし、なにより一緒にポケットに入れると割れてしまいかねない。
 エリスティナは、卵を定期的に両の手で温めて、自分の体温が伝わるようにエプロンの内側に作り付けたポケットで保温することにしたのだった。

 野菜くずのスープを飲んだあとを見て、卵を温めるため、自分の体温を上げるべく次からは生姜を入れようと決意するエリスティナは、少し、この世界に希望を見つけた気がしていた。

 ■■■

 しかし、その希望が崩れたのはそれからすぐのことだった。
 エリスティナがこのところ幸せそうにしていることに、生きがいを感じているように見えることに目ざとく気づいた召使の一人がカヤへと報告し、それを知ったカヤが予告もなく、突然離宮へとやって来たのだ。

「ごきげんよう、エリスティナ」
「……ごきげんよう、カヤさま」

 挨拶だけはしたが、カヤはエリスティナに敬語を使うこともなく、目を合わせることもなかった。一応、カヤが番であるとはいえ、まだエリスティナが王妃なのであるが、そんなことはカヤの頭の中にはないらしい。
 優雅に礼をとったエリスティナに対して、カヤは手をぱっぱと振って返しただけだった。
「それにしても、相変わらずぼろいところね」
「お恥ずかしい限りです……」
 エリスティナが殊勝に答えたので、カヤはふんと鼻を鳴らして眉を吊り上げた。
 カヤは、エリスティナに劣等感を抱いている、というのは、人間貴族であるエリスティナをことさらに蔑視していることから気づいた。
 カヤは人間貴族と竜種の関係について知らない。だからエリスティナを恵まれた環境にいた姫君だと思っているし、それでこの態度なのだろう。実際は、エリスティナは金銭面や暮らし向きに恵まれていたというわけではないのだけれど。
 カヤはエリスティナの作ったわずかばかりの畑をヒールのついた靴で踏みにじった。
 芽吹いたばかりのカブの目が無残につぶされていくのが悲しい。
 しかし、エリスティナが顔色を変えないのを見ると――そう装っていただけなのだけれど――きっと悔しそうな顔をして、エリスティナをぐちゃぐちゃの畑の上に引き倒した。

 ――卵が!

 エリスティナはとっさに卵のある位置――ポケットを縫い付けた位置をかばうように倒れた。
 その不自然な動作に気づかないカヤではなかった。

「あなたたち、エリスティナを捕まえて!」

 召使たちに命じて、カヤはエリスティナを羽交い絞めにした。
 そして、かばっていた卵をするりと抜き取ると、はぁ?と不思議そうな声を上げた。

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