昔の手記

高遠すばる

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深きものども

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 緑色の鱗がねばつき、月に照らされておぞましく輝く。頭部にはヒレがあり、ぎょろりとした目がぴくぴくと震えている。まるで魚だが、首より下はひとのそれに似ているのだった。
 腕が二本、足が二本。しかし人間のものと決定的に違うのは、それらがびっしりと鱗に覆われていることだ。
 これは、生きているのだろうか。いいや、生きているのだろう。なぜなら動いているから。こちらを見て、悪意の塊のようなねばこい視線を投げてくる。
 私は後ずさった。後ずさった分だけ、この何かは距離を詰めてきた。
 私の額を汗が伝う。こんなものは知らない。私の持つどの書物にも載っていない。
 しかし、私の脳はこれを生物と呼ぶことを拒否した。何故か。これをそう呼ぶのは、この世すべてにあまねく存在する生命体への冒涜に思えたからだ。
 それが、鈍色の視線を私に向ける。
 私の思考はそこで終わっている。



 聞こえるかい。
 ハロー、新世界。
 清々しい気分だ。
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