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下−169 冒険者たち

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魔物の森の宿
できてからそこそこの年月が経っている。
最初の頃はこの森も、中堅でもベテラン寄り以上のパーティでなければ危険と言われていた。
なので、あまり来る冒険者はいなかった。
けど、そこそこ良い肉や毛皮が取れるんで、一度入ってそれなりに狩れれば、結構な収入になっていた。

で、イサムがこの世界に召喚されてここに住み着くために宿を作ったら、それは冒険者には超便利な宿になった。
ここに滞在し、森に入る冒険者が増え、狩り放題されたので魔獣が少なくなってきたから、イサムは手下の魔人メフィの指導の元、ダンジョンを作った。
大当たりだった。

浅い層では訓練を受けた新人程度なら問題なく成果をあげ、生きて帰ってこられる。
しかも1階層にはイサムが新たに作った超便利な宿がある。現場までの送り迎え付きである!深層まで行っても、なんどか叫んでりゃ迎えに来てくれ、翌朝同じ場所に送り届けてくれるのだ。

もちろん森の宿と同じく、獲物を預かってくれ、王都のギルドまで配送してくれるサービスもある。
他のダンジョンなんか面倒くさくっていけなくなる。
このダンジョンで稼げない者がいたら、よほど冒険者に向いていないので転職するほうが幸せに成れるだろう。
ってなくらいだ。


がらがらがらがら・・
「ただいまー」
ダンジョン地下一階の宿。入り口はなぜか引き戸だ。

なぜか、皆帰ってきた時はただいまーって言ってしまう。
「おかえりー、お疲れ様ー、飯さきですかー?風呂先ですかー?」
一階の食堂の者が訊いてくる。
このやりとりも、なんか、冒険者達にとって結構心にしみるのだ。

「お腹減ったから先に飯くださーい」
「はーい、すぐ出すから座って待っててねー」
常連たちの好みとか大盛りとかだいたい把握されているので、おなじ晩定食でもそれぞれちょいと違ったりする。
そこもなんかこそばゆい感じで嬉しい。

飯を食い終わり、
「ごちしーさまー」
「おそまつさまー」
で、冒険者は部屋に戻る。
狩った得物は、迎えに来てもらった時点で預けてあるので、さばいてから保管してくれる。ストレージ内なので問題はない。

部屋に戻った冒険者は、着替える。風呂の後は寝るか、いっぱい引っ掛けて寝るか、だけなので、寝間着だ。
この簡易服は便利だ。寝る用意のまま外に出られる。
今までそんなもの見たことなかったが、この宿に泊まると貸してくれる。長期利用者は上下の3着貰える。ある日名前書いて部屋に置かれているのだ。
その時、「ああ、俺もここの常連になったんだなぁ、、」と、感じる者も多いという。

この宿に併設してある雑貨屋には服も多い。値段も安いし。
なので、今まで着たきりすずめだった冒険者も、作業着の着替えをするようになった。
寝間着に着替えた冒険者は、今日使って血や泥にまみれた服を部屋番号の付いたカゴにいれ、着替えの下着を持って、かごを風呂場の入り口に持っていく。

風呂に行くと、入り口に畳まれた小さめのタオルが山積み。奥には風呂上がり用のデカイタオルが同じように。
その小さめのタオルを手にとって、中に入る。
中はすのこが引いてある。むわっと暑い。

壁際に棚が在り、かごが入っているので、空いているカゴをとり、自分の寝間着と新しい下着を入れ、使った下着を自分の部屋から持ってきた汚れた作業着の入っているカゴに入れ、そこの壁際に開いてあるカゴより少し大きめの窓につっこむ
「おねがいしまーっす!」
その窓の中から
「はーい、預かりましたー」と返答。
預かり証とか札とか無い。

洗濯物は翌日の夕方あたりか、翌々日には部屋に戻っている。
部屋には洗濯かごは幾つかあるのだ。

風呂から上がった冒険者は、大概その時になって、今日は飲むかどうか、を決める。
風呂上がりでその日の体調がもろわかりになる。眠たいと、かなり疲れているのだ。
そーでなきゃ、少し位飲んでも大丈夫、というわけだ。
常連は部屋にツケなので、財布もいらない。

なので、食堂には結構寝間着姿が見える。

この宿はダンジョン地下一階にある。なので外の時間はわからない。
が、
なぜか、この食堂の窓は地上の景色になっている。地上が夜になると、窓から夜空が見えるし月も出るときにはでている。
だから地上と合わせた生活をしたい短期のものなどには便利だ。

今から潜る者達もいる。今から寝る者達もいる。
おおしろいもので、大体夜か朝にそれが集まる。皆意識していないのに。

ここの常連になるようにな冒険者は大体ベテランだ。講習を一回二回は受けているくらいだ。
森の宿の方でやっている冒険者向けの講習だ。王都のギルドでもやっているが、こっちの教官のほうがいい。
超ベテラン冒険者の教官がいる。3度めになると、ほぼ確実にその教官にあたる。二度目で当たる者もいる。
確実に強く、そして安全になる。

そこまで行った者達は、ざっくばらんだ。寡黙な者達が多いが、それでも見知った顔がいると、その席に行き、一緒に飲む。余り話さないが、それでもいい。

パーティーになっていても、宿に帰ったらもう各自適当に、、というのばかりだ。
余程の者でなければ相席を拒否はされない。そして、その余程の者、は、一度来たらなぜか二度と来ないようだ。
なので、この宿はものすごく居心地が良い。皆そう思っている。

ただ、こもりっぱなしだと肌がまっちろけ、になってしまう。
そうなったら、訓練に出るか、地上の宿に移り、半月ほど森の方で狩りをするか、、と成るものは多い。
たまに、金が溜まったら「旅に出る」と、出ていく者もいる。半年、1年後くらいに帰ってくる。

「やっぱり、ここが一番落ち着く、、」
と。

引退した者も、少ないが、いる。
上の、森の宿は村だ。その端に新しく引退した冒険者向けの村ができている。いつの間にか。
で、畑をやる土地も使って良いらしく、言えばそれなりの区画を貰える。農作業が上手くなれば増やしてもらえるとのこと。他に栽培とか木工とかもできるらしい。商売もできるようになっているとの話だ。
安定しだした元冒険者を狙って、女性たちがその村で食堂を開いているらしい。酒を飲む店は別だという。

「もう、この村で一生おわるんじゃね?」

まぁ、、冒険者やるまで、生まれ育った村や街じゃ、そこの連中は一生そこから一度も出ずに終えるので、、それに比べりゃまだ動いた方だな、とは言えるが。



イサムの村も、いつの間にか少しづつ、大きくならざるを得ない、ということだ。
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