天使な狼、悪魔な羊

駿馬

文字の大きさ
上 下
240 / 258
第20章 渦紋を描く

2.聞き耳を立てる給仕長

しおりを挟む
■■■前書き■■■
お気に入りや感想、web拍手、コメントをありがとうございます。
頂いた応援は更新の励みになっております。

更新をお待たせしました!
今回はシェニカが滞在した宿の給仕長から見たお話です。
■■■■■■■■■

フシュカードとウィニストラを隔てる関所から一番近い街アルトン。
ウィニストラから入国した人々を最初に迎えるこの街は、傭兵街と商人街が合わさった大きな地方都市だ。交通の要所でもあるため普段から騒がしい街なのだが、5階建のこの宿は、そんな喧騒を遮断する頑丈な石造りで出来た、この街で一番格式の高い店だ。
静かな環境を好まれる方向けの宿だから、我が国の王族や貴族の方々だけでなく、他国の要人も宿泊して頂いている。だからこそ、常日頃から客室はもちろん、廊下やレストランなどの隅々までスタッフ全員で確認し、いつ要人がお越しになっても良いように、常に塵一つない状態を維持している。
今回お越しになるウィニストラの要人に対しても、普段通り丁寧な接客を心がければ問題ないと思っていたら。要人が到着される日の朝、スタッフ全員を集めた朝礼の場で、オーナーは珍しく余裕のない表情をしていた。


「本日、ウィニストラの御一行がお越しになる見込みだ。先日、宰相様から頂いたお手紙について話したが、改めてシェニカ・ヒジェイト様には丁寧に接するよう、お手紙が届いた。
我が国はもちろん、他国の要人に対しても丁寧な接客を心がけるのは当然ではあるが、このようなお手紙が2度に渡って届くということは、我が国にとって非常に特別な客人であるということだ。滞在は3日間の予定とお聞きしているが、失敗すればこの宿は消えて失くなるし、お前達の生命はないかもしれん。運良く生き延びても、再就職は出来ないと思え」

いつになくプレッシャーをかけられれば、シェニカ様の部屋や接客を担当する給仕長の私だけでなく、シェフ達や他の給仕たちも、客人の到着前から気が気でない状態になった。それはオーナーも同じのようで、御一行が到着する前に、各階の責任者らを連れて全フロアの廊下と各階にあるレストランを歩き回って、細部まで確認することになった。


「おい、そのガラスに手垢が着いているぞ。どこをご覧になっても良いように、すべてのフロアを確認しろ。絶対に気を抜くな。次は外に行くぞ」

「はい」

オーナーは普段から口うるさい方ではあるが、今回は宿の外に出て周囲を確認したり、ホールや廊下に飾ってある絵画は傾いていないか、花瓶の花は萎れていないか、スタッフの制服にシミやヨレがないかなど、しつこいくらい注意を払っている。
その様子と宰相様からのお手紙から、『再生の天使』と呼ばれて名高いシェニカ様は、一緒にいらっしゃるウィニストラの王太子殿下や筆頭将軍ら以上の客人だと分かる。丁寧な治療をしていただける、話しやすい方だと噂で聞いているが、気難しい方なのだろうか。


「シェニカ様の部屋の最終確認は行なったか?」
「もちろんでございます」
「ではしばらく休憩を取ってくれ」

シェニカ様の部屋は清潔感と洗練された品の良さを出すために、白地に銀の縦縞が入った壁紙を使い、トイレも浴槽も洗面台もすべて大理石で出来ている。シーツや布団といった寝具類、タオル類やガウン、アメニティ、窓ガラス、カーテン、天井、飾っている絵画や生けた花類に至るまで、すみからすみまで全て確認した。
朝からずっと歩き回り、虫眼鏡で見なければ分からないようなところまで確認し続ければ、御一行が到着される前に、みんな精神的に疲れてしまった。


「ウィニストラの御一行がご到着です!」

西に面した窓から光が差し込む頃、いよいよウィニストラの御一行が到着された。ウィニストラの要人らが、次々にホールに入ってくる中、スタッフの誰もが件の方はどこにいるのかと視線で探し回った。そして、フードを外した方の額飾りを見たスタッフ全員は、落ち着くために深呼吸をしたに違いない。
部屋への案内、宿の説明については将軍エラルド様が行ってくれるとのことなので、私はウィニストラの御一行がお使いになる最上階のレストランへと向かった。


「御一行が到着されました。一丸となって頑張りましょう」

シェフや給仕たちに声をかければ、緊張感がより一層高まった。レストラン担当のスタッフは、料理の内容、食材、調味料、食器類、カトラリーなど様々な部分まで、入念に準備してきた。ここにいるスタッフたちはプロとして相応の経験を積んできているが、オーナーからのプレッシャーもあり落ち着かない状態だ。
重要なお客様であればオーナーが直接案内をするのだが、今回お越しになったシェニカ様に関しては、エラルド様が窓口になるということで、姿を現さず裏方に徹することになっている。シェニカ様に直接宿を紹介できる出来るまたとないチャンスだっただけに、オーナーは非常に落胆されていた。

廊下と繋がるガラス扉を開け、扉や取手を拭きながら廊下の様子を伺ってみると、先程までウィニストラの方々が廊下を歩いていたが、今はどこかの部屋に集まっているのか、誰もいないようなシンとした静けさで満ちている。嵐の前の静けさでないことを祈りながら店内に戻り、扉に近い場所でメニューの整理をしていると、足音と女性の話し声が聞こえてきた。


ーーまずは深呼吸。それから、いつも通りの接客を心がける。それだけだ。

ここで見習いとして働き始めてから30年以上経ったが、こんなに緊張するのは、初めて先王陛下をお迎えした時以来だと思う。あの頃、私はまだ新人に毛が生えた程度の給仕だったが、当時の給仕長もこのように緊張していたのだろうか。そんなことを思いながら呼吸を整えていると、2人の護衛を連れた一番の客人が扉の前で立ち止まった。


「いらっしゃいませ。お席にご案内致します」

どのようなお客様がいらっしゃった場合でも、プロとしてのパフォーマンスが発揮できるよう、常に気を張っているものだが。シェニカ様が店内に入ると、顔にも空気にも不安を出さないが給仕とシェフたちが、より一層緊張したのが手に取るように分かる。
ウィニストラの副官2人もシェニカ様の後をついてこられたが、彼らはレストランのガラス扉の前に控えているだけで入ってこない。廊下は相変わらず静けさで満ちているから、彼らを含め、ウィニストラの方々はまだ食事はしないのだろう。ウィニストラの王太子殿下や将軍らへのサービスも当然最上のものにしなければならないから、今シェニカ様だけに集中出来るのは、非常にありがたいことであると感謝した。


「こちらの席をご利用くださいませ」

ガラス張りのオープンキッチンがよく見える奥の席にご案内すると、シェニカ様はシェフ達が仕込みの料理をしている姿に視線を向けられた。まずは無事にご着席いただいたことに安心し、メニューをお渡しして少し離れた場所まで下がった。


「食後にフシュカード産のハーブを使ったお茶とデザートがついてるんだね」
「コースも単品も豪華だな」

シェニカ様は時折護衛らと言葉を交わしながら、当店自慢のメニューをしっかりご覧になっている。我が国は農産物の種類が豊富で、他国にはない固有のハーブと合わせた料理が有名だ。ハーブは料理だけでなく、お菓子やお茶、お灸などにも幅広く使用され、各家庭にはその家で使っているハーブの香りが常に漂っているほど広く定着している。


ーー大丈夫だ。どの料理も美味しく召し上がって頂ける、シェニカ様にも気に入って頂ける。

そう心の中で繰り返していると、シェニカ様はメニューから護衛の男らに視線を移した。


「注文決まった?」
「決まった」

シェニカ様の視線に合わせてテーブルまで歩み寄ると、紺色の髪の男が最初に口を開いた。


「俺は牛肉のワイン煮込みと大地の恵みサラダ、鶏レバーのパテつきフランスパンとガーリックパン。燻製の盛り合わせとビールを大ジョッキで1杯」

「かしこまりました」

「私はとうもろこしのスープにトマトサラダ、魚のムニエルとごはん、木苺のシードルを1杯お願いします」

「かしこまりました」

「サーモンの刺し身と野菜スティック、牛肉のガーリックステーキにごはんを大盛りで。あと、ビールを大ジョッキで1杯頼む」

「かしこまりました」

注文を伺うと、聞き耳を立てていたシェフ達は伝える前から料理を始めた。シェニカ様は調理の様子に興味を持ったようで、シェフ達を観察し、時折フライパンから炎が立ち上ると目を輝かせた。その様子が、幼い孫がここに遊びに来た時に、フライパンを振って材料が宙を舞う様子にはしゃいでいた姿と重なった。
これまでに何人もの『白い渡り鳥』様をお迎えしてきたが、殆どの方はお気に入りの方との会話を楽しまれていて、調理の様子に注目する方はいなかった。シェニカ様はおそらく料理に興味がある方なのだろう。


「おまたせいたしました」
「わぁ~!美味しそう!」

シェニカ様が感嘆の声をあげたトマトサラダは、緑が鮮やかなベビーリーフと色も形も違う6種類のミニトマトが入っていて、カリカリに焼かれた小さなベーコンが乗っている。見ただけで分かる瑞々しさに、まずは目でご満足いただけたようだ。


「じゃ、かんぱーい!」

酒とサラダ類を出し終えると、シェニカ様はそう言って2人と乾杯なさった。それぞれが酒を一口飲むと、シェニカ様はサラダにハーブソルトをかけ、トマトを召し上がった。


「お前の飲んでるシードル、甘酸っぱいのか?」

「甘酸っぱいけど、少し苦さもあって美味しいよ」

シェニカ様に『お前』と発言したのは、見るからに傭兵だと分かる赤い髪の男だ。シェニカ様に雇われているとはいえ、傭兵と『白い渡り鳥』様では明らかに身分の差がある。親しい間柄だとしても失礼な呼び方ではないかと思ったが、シェニカ様が気にしている様子はない。他の『白い渡り鳥』様達の愛人らは、決して『お前』などと呼んでいないというのに。この男は立場を弁えていないのではなかろうか。



「嬢ちゃんはすっかりシードルにハマってるんだな」

「美味しいし、色んな味があるから楽しくってさ。飲んだことがない味を見たら、とりあえず飲んでみたいって思うようになったんだ。どれも美味しいんだよね」

もう1人の男はシェニカ様を『嬢ちゃん』と読んでいる。『お前』と呼ぶよりも多少マシなのかもしれないが、子供扱いしているような呼び方だから、高名な『再生の天使』様には相応しくないと思う。しかし、この呼び方をされてもシェニカはまったく気にしていらっしゃらないようだ。
この2人の言動を許容していらっしゃるということは、シェニカ様とこの傭兵2人は旧知の仲か親しい関係なのだろう。まだ食事は始まったばかりだが、これまでのやり取りから考えて、シェニカ様は神経質な方ではないような気がしてきた。


「どのお料理もハーブが効いていて、すごく美味しいですね」

「ありがとうございます。我が国は農産物も豊富ですが、ハーブの栽培、品種改良にも力を入れております。気に入っていただけて、我々も光栄です」

護衛の2人に追加の酒をお出ししていると、ムニエルを召し上がっているシェニカ様から直接声をかけていただいた。『白い渡り鳥』様から直接褒めて頂くことなど滅多にないから、感無量になりながら言葉を紡いだ。
護衛の2人は言葉は少ないが、手を休めることなく食べているから気に入ってくれたようだ。調理をしながら様子を伺っていたシェフ達も、ひとまず安心したようで強張っていた顔が少しだけほぐれた。

すべて食べ終わったシェニカ様たちは、いまハーブティーと焼き菓子を召し上がっている。
今回お出ししたハーブティーは、色こそ薄い黄色だが、味は紅茶に似ていて砂糖が不要なほど甘みを感じる。マカロンのような丸い焼き菓子には、細かく砕いたザラメとレモンのような風味とほろ苦さが残るハーブで味をつけ、火が通っても柔らかなままにするをハーブを包み込み、中をスフレのような食感にしている。シェフたちが苦難の末に作り出した、当店自慢の焼き菓子だ。


「すみません。このお菓子とハーブティーを3人分おかわりできますか?」
「もちろんでございます」

「どの料理も美味しかったですが、この焼き菓子もすごく美味しいですね。ずっと食べられそうです」
「ありがとうございます。温かいお言葉を頂き、大変光栄です」

料理だけでなく、ハーブティーと焼き菓子を気に入ってくれた様子に、私だけでなくシェフ達も非常に喜んでいる。特に、菓子担当のシェフや考案に関わったシェフは、口を真一文字に引き締めて感動を噛み締めているようだ。
オーナーから、他店には真似できないようなデザートを作れとプレッシャーをかけられ、眠れぬ夜を何日も過ごし、時には怒鳴られ、試作品を捨てられ、期待に応えられないとクビにされてきた仲間を見てきたから、努力が報われたお言葉に彼らは誰よりも感無量だろう。


「新聞もらえるか?」
「かしこまりました」

紺色の髪の護衛に数種類の新聞を渡すと、ハーブティーを飲みながら地方新聞を開き、興味深そうに読み始めた。


「なにか面白いことが書いてあるの?」

「最近コロシアムが人気だから、地方新聞で周辺国のコロシアムの詳細を載せるようになったんだ。褒賞は金や家、職業の斡旋もあるが、絵画や装飾品みたいな物だったり、剣や斧といった武器の場合もあるんだ。良い褒賞がないか確認するのが日課になっちまったよ」

「そうなんだ。レオンは何か欲しい褒賞品ってあるの?」

「俺が欲しいのは、リジェット鉱で作られた剣だな」

「リジェット鉱?」

「黒魔法を打ち消すと言われる鉱石だ。俺の親父は鍛冶職人なんだが、親父が『一度で良いからリジェット鉱で剣を作ってみたい。いや、鍛え直すだけでもいい。とにかくこの目で見て、触ってみたい』ってずーっと言ってたんだ。滅多に出回らないし、作られた武器は国で管理していることが多くて、街の鍛冶場じゃ見ることなんてない逸品なんだよ」

「リジェット鉱で出来た武器なら、黒魔法を切り裂けるのか?」

「実際に見たことはないが、多分そうなんじゃないか? お前、見たことあるのか?」

「バルジアラが持ってる剣で黒魔法を切り裂かれた」

「大国の筆頭将軍が持ってる剣ってことは本物じゃないのか? 羨ましいぜ」

「リジェット鉱ってどこで取れるんだ?」

「海の深いところに出来る鉱石だから採掘は出来ないが、海のある国ならたまーに浜辺に打ち上がるらしい。滅多に出てこない鉱石だが、最近じゃサザベルで結構取れてるらしい」

「なんで最近になってサザベルで取れてるの?」

「『深海の死神』がいるせいだな」

「『深海の死神』って?」

「筆頭将軍ディネードの二つ名で、島国から侵略戦を仕掛けてきた敵船を、たった1人で深海に沈めるんだ。ディネードに攻撃された船は、岩場にぶつかりながら沈むわけだが、その時に岩にくっついてる鉱石が剥げ落ちるんだ。剥げ落ちたリジェット鉱は、そのまま沈まずに強い潮の流れに乗って海面方面にゴロゴロ動き、やがてサザベルの前にある遠浅の海までやってくる。ディネードが沈めてきた結果が、今になって恩恵をもたらしているってわけだ。
サザベルの港町には鉱石探しを仕事にする地元民がいて、見つければ結構な稼ぎになるんだと」

「へぇ~!そうなんだ」

「まぁ貴重な鉱石だから、見つけても国に全部取られてしまうし、一般人には絶対売ってくれないし、見せてもくれないがな。傭兵になりたての頃、ツテを使って、頼み込んでサザベルで鉱石探しの仕事をしてみたが、見つからなかったよ」

「そんな仕事があるんだ」

「見つければ相当な稼ぎになるらしくてな。地元民しか出来ない仕事になってる」

「そんな貴重な鉱石がコロシアムの褒賞品に出るのか?」

「稀に、リジェット鉱を含んだ武器が出されることがあるらしい。とは言っても、使われたリジェット鉱の量が少ないから、性能も劣るし短剣程度の大きさしかないらしいが。それでも貴重品であることには違いない。それを狙ってるんだ」

「なるほど」

「傭兵には手の届かない逸品だな。お前も欲しくなったか?」

「ああ」

「じゃあお前もコロシアムの情報はチェックした方がいい。また決勝でお前と対戦することになるかもしれんが、リジェット鉱がかけられてたら、俺は本気でいくからな」

「レオンはポルペアに行った後、どこかに行く予定あるの?」

「まだ決まってないが、コロシアムの褒賞で良いのがあれば、そっちに行こうかと思ってる」

「じゃあポルペアでルクトと別れた後、護衛を続けてもらえない?」

「え?」

「ポルペアで新しく護衛を頼もうと思ってる人と会う予定なんだけど、しばらく一緒に護衛の仕事してもらって、レオンから見て、どういう人か教えてもらいたいなって思ったんだ」

紺色の髪の護衛はしばらく黙ると、困ったような顔でチラリと赤い髪の護衛を見た。


「…それはルクトに頼めば良いんじゃないのか?」

「ポルペアまでって約束だから」

「お前はポルペア行った後も嬢ちゃんと一緒に行けないのか?」

「行ける」

「でもルクトを付き合わせ続けるのも悪いし、戦場に戻りたいでしょ?」

「俺はお前の護衛を続けたい」

赤い髪の護衛がそう言うと、シェニカ様は困ったという表情になった。


「嬢ちゃん、俺は特に予定を決めてない。だから、結論は今じゃなくてポルペアに行った後に決めないか?」

「決めておいた方が動きやすいと思ったんだけど…。ルクトはそれでいい?」

「いい」

「じゃあ…そうする」

紺色の髪の護衛は、中立的で全体を俯瞰するような立ち位置。赤い髪の護衛は、シェニカ様に好意があるようだが、一歩引いた立ち位置のように見える。『白い渡り鳥』様は護衛と深い関係でいらっしゃる方が多いのだが、シェニカ様は2人の護衛を平等に扱い、特に目立った感情はなさそうだ。
長い間、いろいろな方々の人間模様を間近で見てきたから、会話の内容や空気、態度で関係性を推察出来るのだが、護衛と仲睦まじい『白い渡り鳥』様、嫉妬と憎悪を抱える護衛たちばかりを見ているから、なんとも不思議な関係に思えてしまう。
ひとまず。シェニカ様が神経質な方ではなく、噂に違わず、気さくで優しい方なのだろうということが分かり安心した。


その日の晩。レストランの営業を終えると、エラルド様がお使いになる4階の部屋を訪ねた。この部屋は見慣れているにも関わらず、エラルド様から発される存在感のせいか、軍の施設にいるかのような感じがする。独特の緊張感を抱えながら、腹心の方の案内でソファに座るエラルド様の前に立たされた。


「では今日の報告を」
「はい」

そう答えると、部屋の隅で控えていた白魔道士専用のローブを着た方が目の前に立ち、額に指が当たった。


「これから言う我々の質問に素直に答えろ」




パチンと指をならした音が耳に届いた瞬間、強制催眠が解けてハッと意識が戻った。強制催眠中の記憶が残されていたから、今日シェニカ様が宿に到着されてから、レストランを出て行かれるまでに見聞きしたこと。ウィニストラの王太子殿下や筆頭将軍らが注文した料理や会話など全て話した、というのは覚えている。その内容に私自身が気になることは特になかったのだが、エラルド様は何か思うところがあったのか、立ち上がると真っ暗な窓の外を眺め始めた。


「あと2日も同様に頼みましたよ」

「もちろんです」

「では今日の分です」

「ありがとうございます。遠慮なく頂戴いたします」

背を向けるエラルド様に頭を下げ、腹心の方から革袋を受け取ると、ズッシリとしたその重さに驚いた。このようなことは今までに何度も行っているが、御一行の情報はそれほど重要なのだろう。
出発されるまでのあと2日。エラルド様のご期待に応えられるように、しっかり話を記憶し、様子を目に焼き付けておかなければ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

(R18)エロゲRPGの中に転生してしまったので仕方ないからプレイする

前花しずく
ファンタジー
エロゲRPGの中に入ってしまった主人公ヒロキ。元の世界に帰る方法も分からないからとにかくえっちをしまくってやるー!?? 案内役魔法使い、ロリ、巨乳お姉さん、エルフ、悪魔……よりみどりなえっちシーンをぜひ文章でお楽しみください! 主に紳士向けですが割と描写を細かくしてるので女性の方でもお楽しみいただける方はいると思います ※R18です。エロシーンばかり、というかエロシーンしかないので変態さん以外は絶対に見ないでください! ※完全なエロシーンはサブタイに「Hシーン」と必ず入れてあります。もはやHシーンだけしか読まねえ!という方はそこだけお読みください。(サブタイの見方→「Hシーン(状況・プレイ内容/登場する女の子キャラクター)」 自分の好みのヒロインの名前と好きなプレイ内容を選んでご覧ください) ※この小説はフィクションです。実際に性行為をする場合には法令に則り、相手の同意を得て適切な方法でするようお願いします。

【R18】NTR魔王の復讐劇~勇者に蹂躙されたので、パーティーの女全員寝取って絶望させます~

あむあむ
ファンタジー
魔族の尊厳を守るため立ち上がった魔王アークスは大陸全土を巻き込んだ戦争の末、魔族の天敵とも言える『天使の加護』を得た勇者ザックス・ザンザスと彼の仲間である七人の美少女の前に倒れる。 失意の死を迎えたアークスであったが、幼馴染の智将アルカ・ナハトの手で復活する。 時を経て大陸は勇者達に統治され、魔族は種族別に分けられ弾圧されていた。 もう一度勇者と戦うことを決意したアークスであったが、彼の肉体は弱体化している。 そんな彼ににアルカは言う。 「世界の危機です、エッチしましょう」 アルカは弱体化を見越して、アークスがセックスした魔族の能力を使えるよう、改造を施していたのである。 そして同時に、『天使の加護』を攻略する方法も見つけ出していた——それは、勇者の絶望。 勇者の仲間である七人の美少女を全員籠絡すれば、絶望した勇者は力を失う。 オーガの国を統べる格闘家ライオ・ネロ。 機械の国に籠る盗賊アビー・スゥ。 妖精の国を統べる剣士モモカ・杏・ブレイド。 獣の国を統べる狩人ジェーン・スミシー。 希少種を集めるする賢者リザ・ミスティ。 吸血種の国を統べる魔法使いマリィ・コルク。 勇者と共に大陸の中心を統べる聖女ソフィア。 全てを解放し、全てを寝取れ。 魔王のリベンジが幕を開ける——!

冒険が初めてな王宮の王子が、凄腕の女回復師と共に旅に出るが、回復師の体が気になって仕方ない。

小説好きカズナリ
ファンタジー
旅に出る命を受けた王子が冒険がはじめてだからと、凄腕の女回復師をお供につけるが、回復師がボインなので、気になって仕方ない。 しかも、回復の仕方がエッチな方法なのだ。 主人公はいろいろ妄想してしまい、エッチないたずらをするようになる。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...