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【番外編:二人の過去とその後の話】
銀髪の令嬢(前編)
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―――――【★ご案内★】―――――
時間軸は二人が魔法学園を卒業して一年後の話になります。
(全三話)
―――――――――――――――――
魔法学園を卒業してから一年程経った頃――――。
本格的に挙式準備が始まったロナリア達は、仕事の合間にその準備を進めていた。
特にロナリアは、挙式用のドレスのデザイン決めや採寸を頻繁に行わなければならない為、休日でもなかなかプラベートな時間が得られない日々が続いていた。
だが、ティアディーゼが学生時代に特に親しかった学友達を招いたお茶会をオークリーフ侯爵家にて開催する。その際、なかなか自由な時間が得られないロナリアに合わせて日程調整をしてくれた為、ロナリアは久しぶりに友人達と過ごせる自由な時間が得られ、本日はその楽しい時間を満喫していた。
「そういえば……ロナリア様は、リュカス様とのお式の日まで一年を切ったのでは?」
「まぁ、では現在そのご準備でお忙しいわね。もし何かお手伝い出来る事があれば遠慮なくおっしゃって? こう見えてもわたくし、現在は人妻なので! 経験者として色々とアドバイスが出来ると思うわ!」
「あら。それでしたら、わたくしも! 実は三ヶ月前に式を挙げたので、最新情報のアドバイスが可能ですわ!」
今回はティアディーゼの他に二人が特に親しくしていた三人の令嬢が招かれている。だが、そのうち二人は学園卒業後に婚約者の許に嫁いでいる為、先輩風を吹かす。そんな学生時代とは少し立場が変わった友人との新鮮なやり取りをロナリアは楽しんでいた。
すると、先程からそのやり取りを静観していたティアディーゼが、やや不満そうにわざと大きな音を立てて扇子を開く。
「皆様、ロナの挙式の前にまずわたくしが、2ヶ月早く挙式を控えている事をお忘れ? それなのにロナにばかりアドバイスをなさろうとするなんて、なんて薄情なのかしら」
「ですが、ティアディーゼ様はエクトル殿下が王家総出で万全な準備をしてくださったお式を挙げられるではありませんか……」
「そのような素晴らしい準備をされているのであれば、わたくし達の助言などお役に立ちませんわ」
「そもそもエクトル殿下は、卒業前から挙式の準備を早々に始めていたと、かなりお噂になっていたでしょ?」
「ふふ。余程、ティアディーゼ様とのご婚礼を心待ちになさっているのでしょうね!」
「なっ……!」
場を盛り上げる為に敢えて大袈裟に不機嫌そうな演出を行ったティアディーゼだったが、友人達の方が上手だったようで、見事にエクトルとの仲を冷やかされ、恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いてしまう。
その初々しい様子を他の令嬢達と共に微笑ましい気持ちで、ロナリアは見守っていた。
やや高圧的な人間と誤解されやすいティアディーゼだが、恥ずかしがるとすぐ顔に出やすい素直なところが彼女の最大の魅力である。この日のお茶会もそんなティアディーゼの赤面する愛らしい様子を愛でる事を楽しむ流れになりつつあった。
しかし、一人の令嬢がある話題をかなり遠慮がちに振った事で、この日の話題の中心がロナリアと変わる。
「あの……ロナリア様。不躾な質問を急に投げ掛けてしまって申し訳ないのですが……。最近、リュカス様は、お仕事の関係で東の辺境伯領方面に足を運ばれてませんか?」
「リュカですか? 確かに一週間前からエクトル殿下と共に東の国境を管理されているリングブルト辺境伯領の方面に視察に行っておりますが……それが何か?」
「やはりそうですか……」
何やら含みのある反応を見せたのは、昨年学園卒業と同時に婚約者と挙式し、最近妊娠が発覚した幸せ絶頂と思われるソフィーだ。彼女の嫁ぎ先もこの国の東側に領地を持っている子爵家なので、現在リュカス達が視察に行っているリングブルト辺境伯家の傘下でもある。
だが、過去ソフィーがリュカスの事についてロナリアに話題を振ってきた事は、あまりなかった。その事と現在意味ありげな困惑の表情を浮かべている状況にロナリアは、何かが引っ掛かる。
「あの……リュカが何か?」
「えっ!? い、いえ、そのぉ……」
明らかに何か思うことがあるという反応を見せたソフィーにロナリアだけでなく、他の令嬢達も一斉に彼女に注目をする。
そんな皆の視線を集めてしまったソフィーは一瞬だけ戸惑うが、それでもロナリアには伝えた方がよいと判断したのだろう。慎重に言葉を選ぶように口を開く。
「実は……5日程前、東側の領地を治めているある子爵家が主催された夜会に出席したのですが、そこでリュカス様をお見かけしたのです」
「あら、でしたらエクトル殿下もその夜会に出席されていたのでは?」
「それが……参加をされていたのはリュカス様お一人でした。しかも……」
そこで何故かソフィーが口ごもる。
「その際、小柄でとても美しい銀髪のご令嬢をエスコートされていたのです……」
その話にロナリアはもちろん、今回お茶会に参加をしている全員が息をのみ、静まり返る。
だがその沈黙は、すぐにティアディーゼによって破られた。
「あのリュカス・エルトメニアがロナ以外の女性をエスコートですってぇ!? ソフィー様! それは人違いをなされたのでは!?」
「わ、わたくしもそう思い、夫と共に近づき、その男性のお顔を確認してみたのですが、やはりリュカス様ご本人で……。しかもその銀髪のご令嬢とダンスまでされていたのです……」
そのソフィーの話にお茶席の場が、一瞬で静まり返る。
リュカスが仕事上、エクトルの接待相手の誰かの護衛をするという状況は、この先も多々あるはずなので、今回のように美しい女性と共に行動していた事はそこまで気にはならない。
だが問題なのは、他人に触れているだけで相手の魔力が体内に入ってきて、ロナリア以外の魔力では体調不良を起こしてしまうリュカスが、平然とその女性の手を取り、ダンスまでしていたという状況だ。
すなわち、その状況はリュカスにとって、ロナリア以外にも触れても体調不良が起こらない女性が現れたという事になる。
その話を聞いたロナリアは、自分でも無自覚で顔色を悪くさせていく。そんなロナリアの変化に皆が慌て始めた。
「ロ、ロナリア様! 落ち着いてくださいませ! もしかしたらリュカス様がエスコートをされていた女性は、他国の方で魔力をお持ちではなかったかもしれませんわ!」
「そ、そうよ! あのロナ至上主義のリュカス・エルトメニアが、あなた以外の女性をエスコートするなんて、仕事でもない限りありえないわ!」
「ソフィー嬢! その際のリュカス様は無表情ではなかったかしら!?」
「えっ!? ええと……そ、そうですわね! 少なくともロナリア様に向けられるような甘さは一切なかったですわ!」
「ほ、ほら! やはりエクトル殿下のご指示で、魔力をお待ちでない他国のご令嬢の護衛を兼ねてエスコートしていたのだわ!」
ティアディーゼを筆頭に必死でリュカスの無実を主張しだしたお茶会メンバーだが……そのフォローを打ち消すような事をロナリア本人が口にする。
「でも……リュカはその銀髪のご令嬢とダンスをしていたのですよね?」
そのロナリアの一言で、再びその場は静まり返った。
「で、ですから! それも護衛任務の一環で……」
必死でティアディーゼがフォローをし始めたが、いつもニコニコしているロナリアは、無表情のまま固まっている。
そんな重苦しい空気の中、もう一人参加メンバーの令嬢が、恐る恐る挙手をした。
「エ、エミリーナ様? な、何かしら?」
「じ、実はわたくしも……2日前に参加した別の伯爵家のお茶会で、銀髪の女性をエスコートされているリュカス様によく似ている男性を見かけまして……」
またしてもリュカスの不穏な動きの目撃情報が出てしまい、全員が凍りつく。
「エミリーナ様! それはどちらの伯爵家のお茶会ですか!?」
物凄い勢いでティアディーゼにテーブル越しで詰め寄られたエミリーナが、その気迫に怯え、小さな悲鳴をあげる。
「キ、キルティス伯爵家で行われていたお茶会です!」
やや怯え気味にエミリーナが慌てて答えると、何故かティアディーゼが考え込む仕草をし始める。
「まるで……殿下のお帰りに合わせて行われている夜会や、お茶会に意図的に参加されているような動きをなさっているご令嬢ね……。もしかして、こちらにお帰りになる殿下と共に行動をなさっているのかしら? そうなると……東の隣国との交流が盛んなリングブルト辺境伯家が接待をなさっている他国の高貴な身分のご令嬢の可能性が高いかもしれないわ。例えば王族のご親戚筋の方とか……」
ティアディーゼのその考察にますますロナリアが顔色を悪くする。
その変化にティアディーゼが怪訝そうな表情を浮かべた。
「ロナ? どうなさったの?」
「も、もしそれが本当ならばリュカは、かなり高貴な身分のご令嬢に気に入られているという事ですよね……?」
ロナリアのその言葉にティアディーゼが、自身が軽はずみに口にしてしまった安易な考えでロナリアの不安を煽ってしまった事に気付く。
「ち、違うのよ!? もしそうであればリュカス・エルトメニアは仕事上、仕方なくそのご令嬢をエスコートせざるを得なかったという事で……」
ティアディーゼが必死にフォローを始めるが、ロナリアは暗い顔を浮かべたまま俯いてしまう。
そんな気まずい空気の中、一人の令嬢が発言の許可を取る為、ビッと勢いよく挙手する。
「ラ、ライリア嬢……。な、何かしら?」
ティアディーゼが恐る恐るその挙手した令嬢の発言を促す。
だが、内心はまたリュカスの不穏な動きの報告ではないかと冷や冷やしていた。
だが、ライリアの発言内容は、全く違うものだった。
「実は二日後、東寄りの領地を持つわたくしの叔父が開く夜会に王都に戻られる途中のエクトル殿下をお招きしたと聞いております。わたくしはあいにく翌日予定がある為、参加は出来ませんが……。もしロナリア様のご都合が合えば、ご参加されてみてはいかがでしょうか?」
ライリアのその提案にロナリアが、ビクリと体を強張らせる。
もし先程聞かされたリュカスの目撃証言が本当であれば、ロナリアは実際にリュカスが別の女性と親しげに過ごしている場面を直に目撃する事になってしまう……。
その可能性がロナリアを怯えさせ、不安を増幅させる。
だが、そんなロナリアの反応を見たライリアは、優しく妹を労う姉のような視線をロナリアに向けてきた。
「ここで事実とは異なる仮説を立て、無駄に不安を煽っているよりも実際にリュカス様が、どのような状況でそのご令嬢をエスコートされているのか、確認された方がよいかと思います。わたくしとしては、まずリュカス様がロナリア様以外の女性に親身になって接しているという状況が、とてもではありませんが信じられなのです。ですので、実際にリュカス様にお話を伺う方が、変な誤解もきれいさっぱり解消されるのではないでしょうか」
そう語ったライリアは、学生時代は常に成績が上位であり、今でも社交界では才女として囁かれている程、冷静な考えが出来る女性だった。
そのライリアの提案にティアディーゼが賛同する。
「そうね! 確かに実際に確認もしていない不明確な情報に踊らされるよりも、リュカス・エルトメニア本人に確認してしまった方が、確実だわ。ロナ! あなた、ライリア嬢にご協力頂いて、その夜会に参加なさい!」
「ええっ!? そ、そんな急に言われても……。最近、夜会への参加は、挙式準備が忙しく控えていたので、着ていけるドレスの準備が……」
「それはわたくしが所持しているドレスをアレンジし、何とかします! そうと決まれば、呑気にお茶など楽しんでいる場合ではなくってよ! 皆様! 今から二日後にロナをライリア様の叔父様が主催される夜会にロナを送り出す為、ドレスの準備をしたいと思います! ご協力頂けるわね!」
「「「「はい!」」」
ティアディーゼを筆頭に何故か瞳をキラキラと輝かせ、やけに協力的な姿勢を見せてきた元学友達の気迫にロナリアが身構える。しかしそんなロナリアをティアディーゼとエミリーナが、両脇からガッチリと囲い込みをした。
「さぁ、皆様! 今から二日後の夜会に備え、ロナを着飾りますわよ!」
「「「はい!」」」
何故か嬉々とした様子の元学友達の様子にロナリアは、ある事に気付く。
これはロナリアの事を心配しつつも、今から確実にロナリアを着せ替え人形として堪能するつもりだと……。
だがその事に気がついたのは、すでにロナリアがオークリーフ侯爵家のティアディーゼ専用の衣裳部屋へと連行された後だった。
時間軸は二人が魔法学園を卒業して一年後の話になります。
(全三話)
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魔法学園を卒業してから一年程経った頃――――。
本格的に挙式準備が始まったロナリア達は、仕事の合間にその準備を進めていた。
特にロナリアは、挙式用のドレスのデザイン決めや採寸を頻繁に行わなければならない為、休日でもなかなかプラベートな時間が得られない日々が続いていた。
だが、ティアディーゼが学生時代に特に親しかった学友達を招いたお茶会をオークリーフ侯爵家にて開催する。その際、なかなか自由な時間が得られないロナリアに合わせて日程調整をしてくれた為、ロナリアは久しぶりに友人達と過ごせる自由な時間が得られ、本日はその楽しい時間を満喫していた。
「そういえば……ロナリア様は、リュカス様とのお式の日まで一年を切ったのでは?」
「まぁ、では現在そのご準備でお忙しいわね。もし何かお手伝い出来る事があれば遠慮なくおっしゃって? こう見えてもわたくし、現在は人妻なので! 経験者として色々とアドバイスが出来ると思うわ!」
「あら。それでしたら、わたくしも! 実は三ヶ月前に式を挙げたので、最新情報のアドバイスが可能ですわ!」
今回はティアディーゼの他に二人が特に親しくしていた三人の令嬢が招かれている。だが、そのうち二人は学園卒業後に婚約者の許に嫁いでいる為、先輩風を吹かす。そんな学生時代とは少し立場が変わった友人との新鮮なやり取りをロナリアは楽しんでいた。
すると、先程からそのやり取りを静観していたティアディーゼが、やや不満そうにわざと大きな音を立てて扇子を開く。
「皆様、ロナの挙式の前にまずわたくしが、2ヶ月早く挙式を控えている事をお忘れ? それなのにロナにばかりアドバイスをなさろうとするなんて、なんて薄情なのかしら」
「ですが、ティアディーゼ様はエクトル殿下が王家総出で万全な準備をしてくださったお式を挙げられるではありませんか……」
「そのような素晴らしい準備をされているのであれば、わたくし達の助言などお役に立ちませんわ」
「そもそもエクトル殿下は、卒業前から挙式の準備を早々に始めていたと、かなりお噂になっていたでしょ?」
「ふふ。余程、ティアディーゼ様とのご婚礼を心待ちになさっているのでしょうね!」
「なっ……!」
場を盛り上げる為に敢えて大袈裟に不機嫌そうな演出を行ったティアディーゼだったが、友人達の方が上手だったようで、見事にエクトルとの仲を冷やかされ、恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いてしまう。
その初々しい様子を他の令嬢達と共に微笑ましい気持ちで、ロナリアは見守っていた。
やや高圧的な人間と誤解されやすいティアディーゼだが、恥ずかしがるとすぐ顔に出やすい素直なところが彼女の最大の魅力である。この日のお茶会もそんなティアディーゼの赤面する愛らしい様子を愛でる事を楽しむ流れになりつつあった。
しかし、一人の令嬢がある話題をかなり遠慮がちに振った事で、この日の話題の中心がロナリアと変わる。
「あの……ロナリア様。不躾な質問を急に投げ掛けてしまって申し訳ないのですが……。最近、リュカス様は、お仕事の関係で東の辺境伯領方面に足を運ばれてませんか?」
「リュカですか? 確かに一週間前からエクトル殿下と共に東の国境を管理されているリングブルト辺境伯領の方面に視察に行っておりますが……それが何か?」
「やはりそうですか……」
何やら含みのある反応を見せたのは、昨年学園卒業と同時に婚約者と挙式し、最近妊娠が発覚した幸せ絶頂と思われるソフィーだ。彼女の嫁ぎ先もこの国の東側に領地を持っている子爵家なので、現在リュカス達が視察に行っているリングブルト辺境伯家の傘下でもある。
だが、過去ソフィーがリュカスの事についてロナリアに話題を振ってきた事は、あまりなかった。その事と現在意味ありげな困惑の表情を浮かべている状況にロナリアは、何かが引っ掛かる。
「あの……リュカが何か?」
「えっ!? い、いえ、そのぉ……」
明らかに何か思うことがあるという反応を見せたソフィーにロナリアだけでなく、他の令嬢達も一斉に彼女に注目をする。
そんな皆の視線を集めてしまったソフィーは一瞬だけ戸惑うが、それでもロナリアには伝えた方がよいと判断したのだろう。慎重に言葉を選ぶように口を開く。
「実は……5日程前、東側の領地を治めているある子爵家が主催された夜会に出席したのですが、そこでリュカス様をお見かけしたのです」
「あら、でしたらエクトル殿下もその夜会に出席されていたのでは?」
「それが……参加をされていたのはリュカス様お一人でした。しかも……」
そこで何故かソフィーが口ごもる。
「その際、小柄でとても美しい銀髪のご令嬢をエスコートされていたのです……」
その話にロナリアはもちろん、今回お茶会に参加をしている全員が息をのみ、静まり返る。
だがその沈黙は、すぐにティアディーゼによって破られた。
「あのリュカス・エルトメニアがロナ以外の女性をエスコートですってぇ!? ソフィー様! それは人違いをなされたのでは!?」
「わ、わたくしもそう思い、夫と共に近づき、その男性のお顔を確認してみたのですが、やはりリュカス様ご本人で……。しかもその銀髪のご令嬢とダンスまでされていたのです……」
そのソフィーの話にお茶席の場が、一瞬で静まり返る。
リュカスが仕事上、エクトルの接待相手の誰かの護衛をするという状況は、この先も多々あるはずなので、今回のように美しい女性と共に行動していた事はそこまで気にはならない。
だが問題なのは、他人に触れているだけで相手の魔力が体内に入ってきて、ロナリア以外の魔力では体調不良を起こしてしまうリュカスが、平然とその女性の手を取り、ダンスまでしていたという状況だ。
すなわち、その状況はリュカスにとって、ロナリア以外にも触れても体調不良が起こらない女性が現れたという事になる。
その話を聞いたロナリアは、自分でも無自覚で顔色を悪くさせていく。そんなロナリアの変化に皆が慌て始めた。
「ロ、ロナリア様! 落ち着いてくださいませ! もしかしたらリュカス様がエスコートをされていた女性は、他国の方で魔力をお持ちではなかったかもしれませんわ!」
「そ、そうよ! あのロナ至上主義のリュカス・エルトメニアが、あなた以外の女性をエスコートするなんて、仕事でもない限りありえないわ!」
「ソフィー嬢! その際のリュカス様は無表情ではなかったかしら!?」
「えっ!? ええと……そ、そうですわね! 少なくともロナリア様に向けられるような甘さは一切なかったですわ!」
「ほ、ほら! やはりエクトル殿下のご指示で、魔力をお待ちでない他国のご令嬢の護衛を兼ねてエスコートしていたのだわ!」
ティアディーゼを筆頭に必死でリュカスの無実を主張しだしたお茶会メンバーだが……そのフォローを打ち消すような事をロナリア本人が口にする。
「でも……リュカはその銀髪のご令嬢とダンスをしていたのですよね?」
そのロナリアの一言で、再びその場は静まり返った。
「で、ですから! それも護衛任務の一環で……」
必死でティアディーゼがフォローをし始めたが、いつもニコニコしているロナリアは、無表情のまま固まっている。
そんな重苦しい空気の中、もう一人参加メンバーの令嬢が、恐る恐る挙手をした。
「エ、エミリーナ様? な、何かしら?」
「じ、実はわたくしも……2日前に参加した別の伯爵家のお茶会で、銀髪の女性をエスコートされているリュカス様によく似ている男性を見かけまして……」
またしてもリュカスの不穏な動きの目撃情報が出てしまい、全員が凍りつく。
「エミリーナ様! それはどちらの伯爵家のお茶会ですか!?」
物凄い勢いでティアディーゼにテーブル越しで詰め寄られたエミリーナが、その気迫に怯え、小さな悲鳴をあげる。
「キ、キルティス伯爵家で行われていたお茶会です!」
やや怯え気味にエミリーナが慌てて答えると、何故かティアディーゼが考え込む仕草をし始める。
「まるで……殿下のお帰りに合わせて行われている夜会や、お茶会に意図的に参加されているような動きをなさっているご令嬢ね……。もしかして、こちらにお帰りになる殿下と共に行動をなさっているのかしら? そうなると……東の隣国との交流が盛んなリングブルト辺境伯家が接待をなさっている他国の高貴な身分のご令嬢の可能性が高いかもしれないわ。例えば王族のご親戚筋の方とか……」
ティアディーゼのその考察にますますロナリアが顔色を悪くする。
その変化にティアディーゼが怪訝そうな表情を浮かべた。
「ロナ? どうなさったの?」
「も、もしそれが本当ならばリュカは、かなり高貴な身分のご令嬢に気に入られているという事ですよね……?」
ロナリアのその言葉にティアディーゼが、自身が軽はずみに口にしてしまった安易な考えでロナリアの不安を煽ってしまった事に気付く。
「ち、違うのよ!? もしそうであればリュカス・エルトメニアは仕事上、仕方なくそのご令嬢をエスコートせざるを得なかったという事で……」
ティアディーゼが必死にフォローを始めるが、ロナリアは暗い顔を浮かべたまま俯いてしまう。
そんな気まずい空気の中、一人の令嬢が発言の許可を取る為、ビッと勢いよく挙手する。
「ラ、ライリア嬢……。な、何かしら?」
ティアディーゼが恐る恐るその挙手した令嬢の発言を促す。
だが、内心はまたリュカスの不穏な動きの報告ではないかと冷や冷やしていた。
だが、ライリアの発言内容は、全く違うものだった。
「実は二日後、東寄りの領地を持つわたくしの叔父が開く夜会に王都に戻られる途中のエクトル殿下をお招きしたと聞いております。わたくしはあいにく翌日予定がある為、参加は出来ませんが……。もしロナリア様のご都合が合えば、ご参加されてみてはいかがでしょうか?」
ライリアのその提案にロナリアが、ビクリと体を強張らせる。
もし先程聞かされたリュカスの目撃証言が本当であれば、ロナリアは実際にリュカスが別の女性と親しげに過ごしている場面を直に目撃する事になってしまう……。
その可能性がロナリアを怯えさせ、不安を増幅させる。
だが、そんなロナリアの反応を見たライリアは、優しく妹を労う姉のような視線をロナリアに向けてきた。
「ここで事実とは異なる仮説を立て、無駄に不安を煽っているよりも実際にリュカス様が、どのような状況でそのご令嬢をエスコートされているのか、確認された方がよいかと思います。わたくしとしては、まずリュカス様がロナリア様以外の女性に親身になって接しているという状況が、とてもではありませんが信じられなのです。ですので、実際にリュカス様にお話を伺う方が、変な誤解もきれいさっぱり解消されるのではないでしょうか」
そう語ったライリアは、学生時代は常に成績が上位であり、今でも社交界では才女として囁かれている程、冷静な考えが出来る女性だった。
そのライリアの提案にティアディーゼが賛同する。
「そうね! 確かに実際に確認もしていない不明確な情報に踊らされるよりも、リュカス・エルトメニア本人に確認してしまった方が、確実だわ。ロナ! あなた、ライリア嬢にご協力頂いて、その夜会に参加なさい!」
「ええっ!? そ、そんな急に言われても……。最近、夜会への参加は、挙式準備が忙しく控えていたので、着ていけるドレスの準備が……」
「それはわたくしが所持しているドレスをアレンジし、何とかします! そうと決まれば、呑気にお茶など楽しんでいる場合ではなくってよ! 皆様! 今から二日後にロナをライリア様の叔父様が主催される夜会にロナを送り出す為、ドレスの準備をしたいと思います! ご協力頂けるわね!」
「「「「はい!」」」
ティアディーゼを筆頭に何故か瞳をキラキラと輝かせ、やけに協力的な姿勢を見せてきた元学友達の気迫にロナリアが身構える。しかしそんなロナリアをティアディーゼとエミリーナが、両脇からガッチリと囲い込みをした。
「さぁ、皆様! 今から二日後の夜会に備え、ロナを着飾りますわよ!」
「「「はい!」」」
何故か嬉々とした様子の元学友達の様子にロナリアは、ある事に気付く。
これはロナリアの事を心配しつつも、今から確実にロナリアを着せ替え人形として堪能するつもりだと……。
だがその事に気がついたのは、すでにロナリアがオークリーフ侯爵家のティアディーゼ専用の衣裳部屋へと連行された後だった。
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