名も無き農民と幼女魔王

寺田諒

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第二部 第三章

エルナの家3

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 暖炉の炎と陽光が交叉していた。差し込む光が空中を舞う細かな塵をくっきりと浮かび上がらせている。光はカールの金髪の上で踊り、喜びの中でキラキラと輝いていた。
 炎に照らされたカールの顔はほんの少し紅潮している。滑らかな肌に陽光がじんわりと忍び込み、肌の内側から柔らかな光となって再び外へと溢れていた。
 カールの作る線は柔らかく、男にある硬さは無い。その瞳は夏の空のように爽やかな青色で、一片の曇りさえなかった。

 本当に、男とは思えないほど美しい顔をしている。
 そのカールが顔を綻ばせた。

「あ、遅かったね」
「うむ、悪かったのじゃ」

 ずっと待たせてしまったことになる。

 さきほど、エルナと二人で会話を交わした。エルナが実際にカールに惚れていることを確かめ、そしてエルナの恋路に協力すると告げたのだ。それと同時に、カールが実は男に惚れていることについてもエルナに説明をした。
 当然ながらエルナは驚き、本当なのかどうか疑った。しかしこれはカール自身から聞いた真実なのだ。

 カールの顔を見ていると、普段から一緒にいる自分でさえ本当に男なのかどうか疑ってしまう。もちろん、カールが男なのは知っているが、自分からすれば女の子のようにしか見えないのだ。
 これは自分が最初にカールと出会った時、カールのことを女だと思ってしまったからそれを引きずっているのだろうか。

 エルナはこの顔のカールをしっかり男だと認識していて、さらに惚れてしまっているようだ。もちろん、カールの顔立ちはとても美しいから、惹かれる者がいても不思議ではない。

 カールが呑気な顔で尋ねてくる。

「お花はいっぱい摘めたの?」
「何を言っておるのじゃおぬしは」
「え? でも、さっき二人で花を摘みに行くって」
「うむ、しかし季節は冬。花は咲いておらんかったのじゃ」
「そうなんだ、残念だね。あ、ソフィちゃん、寒くない? 暖炉の前空けるね」

 そう言いながらカールは立ち上がって椅子を動かした。
 こちらの体が冷えてるだろうと心配して譲ってくれたようだ。顔も美しければ心も美しいのだから、この男には色々と美点が多い。

「いや、それよりカールよ、実はエルナが凄いことを見せてくれるというのじゃ。見にゆこうではないか」
「すごいこと?」

 カールが不思議そうに瞬きをしている。さて、ここでエルナがカールを誘う手はずだ。しかし隣に立つエルナはカールと視線を合わせられず、もじもじと指先を絡ませて遊んでいる。
 そのエルナを肘で軽く突いた。

「これ」
「あ、えっと……。その、カールくん、実はわたし、フィルギナルの練習をしてまして」
「ふぃるぎなる?」

 カールが首を傾げた。無理もないだろう、自分だってさっきエルナから説明されるまで知らなかった。
 ここは自分が少し助け舟を出したほうがいいかもしれない。

「うむ、楽器の一種なのじゃ。聞くところによると、エルナは実に達者なのじゃという。妾もぜひ聴きたいのじゃ。カールもそうじゃろう?」
「へー、うん、僕も聴いてみたい!」
「カ、カールくん……」

 エルナは再びもじもじしてしまった。ただ、その頬は紅潮していて、喜びの色が唇の端に現れている。
 まだ喜ぶには早い。

 

「うむ、ではフィルギナルなるものがある部屋へ行くのじゃ」

 その部屋がどこにあるのかは知らないが、エルナが案内してくれることだろう。







 エルナについて廊下を歩き、屋敷の一室へとたどり着いた。その部屋は屋敷の北側に面しているらしく、光が殆ど入り込んでいない。部屋の壁は石が剥き出しになっていて、見ているだけで寒くなるような気がした。
 部屋の壁にはバイオリンのような楽器が二つかけられていた。木製の棚があり、そこには大きな鞄が並んでいる。もしかするとあの中にも楽器が入っているのかもしれない。

 エルナは壁際の机の上にある箱を指差した。

「これがフィルギナルですわ」
「ふむ、なんじゃこれは、箱ではないか」

 エルナが指差したのは木製の箱だ。まるで子ども用の棺のような大きさだった。

「箱ではありませんわ」

 そう言いながらエルナが箱の上部に手をかけ、ゆっくりと引き上げた。その行為自体が本当に箱を開けているかのように見える。ただ、箱の中身は想像とは違った。
 エルナはさらに手前側の板を開き、その奥に表れた鍵盤に触れた。エルナの小さな指が鍵盤を押し込むと、弦が弾かれて音が鳴った。
 その音は箱の中の空洞で反響し、大きく豊かな音となって放たれる。

「おお、なんじゃ音が出たのじゃ」
「楽器だから音が出るのは当然ですわ」

 エルナはフィルギナルの前にあった椅子に座り、鍵盤と向かい合った。鍵盤は白と黒があったが、どういう違いなのかはよくわからない。エルナは一度こほんと咳払いをしてから、後ろを振り返った。
 こちらの顔とカールの顔を交互に見ている。少し緊張しているのか、エルナの唇は強めに押し付けられているようだった。エルナの呼吸に合わせてその小さな肩が上下する。

「で、では僭越ながら弾きますわ」
「うむ、期待しておるのじゃ」
「がんばってエルナちゃん」
「カ、カールくん……」

 カールに応援されてエルナは嬉しそうに目を潤ませた。
 それからエルナは再びフィルギナルに向き直り、息をゆっくりと吸い込んだ。
 その息を吐くことなく、エルナが指先を鍵盤の上で踊らせる。石壁の部屋に音楽が満ちた。弦の奏でる音が幾重にも重なって響き渡る。
 エルナの両手は止まることを知らず鍵盤の上で跳ね回った。鍵盤を押し込む時のカタカタという音さえも聞こえてくる。

 エルナの左手が音楽の低音を支え、その土台の上で右手が旋律を奏でる。
 自分が予想していたよりもずっと上手かった。もしかしたらそれほど達者ではないのかもしれないと思っていたが、これだけ弾ければ確かに自慢もしたくなるだろう。

 やがて曲も終わりに差し掛かったらしく、段々とテンポが落ちてきた。最後の音を長く鳴らした後、エルナは息を吐いた。
 それから肩にかかった髪をかきあげながら振り返った。その顔はやや誇らしげで、称賛を求めているのがありありとわかる。


「おおエルナよ、実に素晴らしい演奏なのじゃ」
「エルナちゃん凄いよ! 僕感動しちゃった!」
「カールくん……」

 自分も褒めたのにカールの言葉にだけ感動している。エルナの身勝手さに腹も立つが、今は置いておこう。とりあえずエルナがカールに惚れているのはありありとわかったが、問題はカールがエルナに惚れるかどうかだ。

 カールの脇を肘でつついた。

「カールよ、エルナの演奏は実に素晴らしかったのじゃ。うむ、このような技術を持つ女というのはどうじゃ?」
「凄いと思うよ。だって僕、楽器とか全然弾けないから。ロルフ兄ちゃんとかアデル兄ちゃんはギターが弾けるけど、僕は全然だから」
「うむ、その二人のことは置いといて、エルナは凄いと思わんか」
「凄いよねぇ、きっと沢山練習したんだろうな」

 愛しいカールにそこまで言われて、エルナは露骨に照れていた。
 こうやって素直に人を褒められるのはカールの美点の一つだろうと思える。そういう姿勢はアデルに学んだのか、それともカールが元々持ち合わせていたものなのかはよくわからない。

「うむ、カールもエルナの良いところがしっかりとわかったようなのじゃ」

 しかしこれだけではまだ足りない。

「しかし楽器が演奏できるというのは素晴らしいのじゃ。これカールよ、カールもエルナに教わるがよい。ほれ、隣に座ってじゃな」
「えっ? えっ?」

 カールの体を押して、エルナの隣に座らせた。エルナの座っている椅子は肘掛けも背もたれも無いもので、その代わり横幅があった。子ども二人なら十分座れる。
 隣にカールが来たことで、エルナはまるで鰻にでもなろうとしているかのように身を細らせた。肩が上がり、背筋が伸び切っている。

 そんなエルナの後ろから小声で耳打ちをした。

「これエルナよ、そんなに固まっていてはいかん。カールにフィルギナルの使い方を教えてやるのじゃ」
「で、でも」
「でもも何もないのじゃ」

 小声で話しているが、カールには聞こえているかもしれない。そう思ったがカールはきょとんとしているだけだ。
 左側にカールを座らせたのだが、右側にいるエルナは段々と右に寄ってきている。そのせいで椅子から落ちそうになっていた。

「こりゃ、端に寄るでない」

 エルナの体がずり落ちそうになっているので、右側から腰でエルナの体を押し戻した。

「ほれカールよ、何か弾いてみるのじゃ」
「えっと、でも僕全然」
「適当に鳴らせばよい、どうせ一日で上達するはずもないのじゃ」
「じゃあ」

 カールは右手の人差し指で鍵盤を押し込んだ。それと同時にビヨンと音が鳴る。それからカールは他の指でも別の鍵盤を鳴らし始めた。
 それは音楽ではなく、ただの音の羅列でしかなかったが、カールは特に気にした様子もない。むしろ楽しげに右手を鍵盤の上で遊ばせている。

 カールが面白がっているのは良い傾向だ。こうやってカールがフィルギナルに興味を示したら、まだ今度このフィルギナルに触りに行こうと誘いやすくなる。
 良い傾向が続いている。しかしエルナのほうもどうにかしなければいけない。
 エルナの右耳に囁いた。

「ほれエルナも見本を見せてやるのじゃ」
「見本と言われても困りますわ」
「さきほどあれだけ上手に演奏したではないか。カールに動きを見せてやれば、カールも感心するに違いないのじゃ」
「なるほどですわ」

 気を取り直したらしく、エルナは両手を鍵盤の上に置いた。その瞬間、エルナの左手がすっぽりとカールの右手の上に載った。
 同時にエルナの体が固まった。みるみるうちにエルナの顔が赤くなる。
 カールは手の上に手を重ねられたまま隣のエルナの顔を覗き込んだ。

「エルナちゃん?」
「……」

 しばらくの沈黙の後、エルナは後ろに倒れ込んだ。
 
「のわっ?! な、なんじゃエルナ、どうしたのじゃ?!」

 エルナは危うく椅子から転げ落ちそうになったが、自分がその背中を支えて堅い床との衝突はどうにか防いだ。石の床に頭から落ちれば大変なことになる。
 
「これ、エルナよ、しっかりするのじゃ」

 エルナの肩を揺すったが反応がない。どうやらカールと手が触れ合ったことで緊張が頂点に達してしまったらしい。
 なんと情けない。

「カールよしばらくそのフィルギナルで遊んでおれ」
「ええっ? で、でも、大丈夫なの?」
「うむ、案ずるでない」

 後ろからエルナの脇の下に手を通し、エルナの体をずるずると引っ張った。エルナの踵が床でこすれる。
 そのまま石造りの部屋を出た。

 カールをどうにかすればいいと思っていたが、とんでもない誤算だった。
 エルナのほうにも相当の問題がある。

 この役にエルナを選んだのは失敗だったかもしれない。
 そう思いながらとりあえずエルナを引きずってカールから離れた。






















 美しいものを見た。


 ウェアンボナの中央通りは大勢の人で溢れ、エルナの小さな体を締め出そうとする。道の中央を通るのは馬車の列だった。溢れ出る人々の歓呼の声はエルナの耳に詰め込まれ、他の音をかき消してしまう。
 父が大声で何かを叫んでいた。父に手首を掴まれ、ようやく耳に父の声が届いた。

 見たいものが見えない。そう言うと父は肩車をしてくれた。そして人混みをかきわけ、前へ前へと進んだ。高くなった視界、そこから見えたのは白い服に身を包んだ騎士たちだった。
 騎士たちの制服は血にも地にも塗れたことが無いかのように白い。騎士たちの中には女も多く、膝が見えるほど短いスカートを履いていた。

 馬に乗ってゆっくりと進む騎士たちはみんな堂々と胸を張っていて、左右に広がる群衆に手を振っていた。
 その列の中を、一際白く輝く馬が一頭が進んでいた。

 美しい人がいた。

 その髪に触れた空気が金色に輝いているかのようだった。白い手袋をして、馬上から手を振っている。日光の中に透き通る白い肌、夏空のような碧眼、たおやかに湛えられた笑みは祝福のよう。
 浅く被った白い帽子は前後に長く、その帽子を飾る羽は人の前腕ほどの長さがあった。

 ふとその人物と目が合った。こちらの姿を見て、その人物は手を振りながら微笑みかけた。
 瞬きを忘れた。今、美しいものを見ている。

 ほんの短い時間だった。それでも、美しいものを見た記憶は小さな胸に深く刻まれて、時間が経ってもくっきりと形を残している。
 あれが、ヴェアンボナのお姫さま。




 父が事業の関係でヴェアンボナを訪れることになり、ついでとばかりに家族でしばらく滞在することになった。幸運なことに、そこでヴェアンボナの騎士団の列を観ることが出来たのだ。
 あのお姫さまのことがもっと知りたいと思った。父にねだって騎士団のことを書いた本などを買ってもらった。知れば知るほど素敵な人だった。困っている人たちのために立ち上がり、騎士団を創設し、各地の魔物を倒し、人々の暮らしに平和を取り戻している。
 憧れずにはいられなかった。

 幸いなことに、ルイゼと同じ金髪に産まれた。瞳の色は違うが、それは仕方がない。
 騎士団の物語はどれも面白くて、読む度に胸の奥がとくんとくんと高鳴った。
 特に勇者さまの活躍は、歴史上の英雄にも匹敵するほだと思えた。

 やがて、自分が騎士団に入ってルイゼに仕えるという妄想をするようになった。剣が無いので箒を振り回して練習をした。こうやって武芸の腕を磨いて、ルイゼの目に留まり、騎士団に入らないかと誘われるのだ。
 そして自分はどんどん強くなって、ルイゼの役に立って、ルイゼに信頼を寄せてもらうようになる。時には辛いこともあるけれど、ルイゼに仕える騎士は絶対に挫けない。

 もちろん、ただの妄想だった。
 それでも箒を振り回した。父に怒られたがやめられなかった。


 そんなある日、町の帽子屋で素敵な帽子を見つけた。その帽子はルイゼが被っていた帽子とよく似ていた。白を基調とした前後の長いものだ。もしかしたら都会の流行りなのかもしれない。
 羽飾りもあの日見たものとよく似ていた。


 その帽子が欲しくて、父に何度もお願いをした。何度も拒否された。これから絶対に良い子にするから、習い事ももっと熱心にするからと懇願した。
 根負けしたのか、父はようやくその帽子を買ってくれることになった。


 その帽子は自分には少し大きかった。それでも構わない。いつか自分もこの帽子が似合うような大人になるだろう。それまでずっと大事にしよう。
 鏡で自分を見る度に嬉しくなった。

 ほんの少しだけならいいだろうと思って、その帽子を被って町に出た。きっと多くの人たちが自分のこの帽子に見とれているのだろうと思い、意味もなくぶらぶら歩き回ったのだ。
 しかし、突然の強い風が帽子をさらってしまった。自分にはまだ少し大きな帽子は、そのつばに風を受けて宙に舞った。運の悪いことに、その時はちょうど川の近くにいた。

 帽子はまるで川に吸い寄せられるように転がり、川べりにたどり着いたのだ。
 顔から血の気が引いた。今の川の水深はそれほど深くないが、流れは人が軽く走るほどの速さに達している。もしあの流れに乗ったなら、一気に持っていかれることだろう。
 町の外側にある本流に到達すれば、もはや追うこともできない。

 慌てて岸へ通じる階段を降りた。再び帽子の姿を見た時、声をあげてしまいそうになった。帽子は川の流れの中にある。ただ、今は水草に引っかかっていた。
 再び風が吹けばすぐに流されてしまうだろう。

 どうすればいいのかわからなかった。手を伸ばしても届かない。何か棒のようなものはないかと辺りを見渡したが、見当たらない。岸から近い場所はせいぜい膝丈の深さだが、あと5,6歩でも向こうに進めば腰に達するはずだ。
 自分は泳げない。もし流されてしまえば、何も出来ずに下流へ押し流されるだろう。

 それでも、帽子を諦める気にはなれなかった。
 父にねだって買ってもらったのだ。あの帽子を失えば、父の優しい気持ちを傷つけてしまうことになる。
  だが、川の中に足を踏み入れて、流されない保証はない。膝丈程度の流れでも、下手をすれば足をすくわれてしまうかもしれない。
 そうなった時、泳げない自分はどんどん下流に流されてしまってしまうかもしれない。

 どうすればいいのかわからない。
 ただ一人でおろおろとしていると、後ろから声が聞こえた。

「僕が取りに行くよ」

 その一言だけを残して、後ろから現れた誰かは迷うことなく川の中へと足を踏み入れた。靴や服が濡れることを厭うこともなく、どんどん進む。そして帽子をひょいと拾い上げると、今度は川の流れにも負けずに戻ってきた。
 ばしゃりと音をさせながら岸に上がると、帽子を差し出してきた。

「はい、これ、君のだよね」

 差し出された帽子を受け取った。そこでようやくその誰かの顔を見ることが出来た。
 美しい顔だと思った。陽光に輝く髪は金色で、その瞳は空のように青い。いつか見たルイゼのようだった。
 顔立ちはまるでおとぎ話の王子様のように整っていた。あまりに綺麗な顔なので、女の子かと思ってしまった。しかし、服は男物だし、何より自身のことを僕と言っていた。

「気をつけてね」

 そう言って少年は立ち去ろうとした。行かせてはいけない。

「あっ、ま、待ってください。その、ありがとうございます。ぜひお礼を」
「あはは、何もいらないよ」
「でも」
「いいよ、その帽子、大切なものなんだよね。戻ってきてよかったね」

 少年が微笑んだ。その笑みを見た瞬間に心臓がきゅぅっと音を立てて縮む。視界が滲んだ。
 少年は軽く手を振った後、走り去ってしまった。

 その背中を見て呟く。

「見つけた、わたしの王子様……」

















「と、いうことがあったのですわ!」
「ですわ! ではないわ」

 エルナの長い話が終わった。その話を聞いている間、ずっと廊下にいたのだ。家の中とはいえ、廊下にいれば寒さも感じる。すぐに暖炉の前に戻りたかったが、エルナが許さなかった。
 さきほど、エルナはカールと手が触れ合ったくらいで驚いて倒れそうになったのだ。床との衝突を避けるためにその体を支えた。だらしない顔のエルナを外へと引きずっていき、そこでエルナの肩を揺らした。

 あまりに情けないのでエルナを責めたのだが、エルナはそれには深い理由があると言い、カールとの馴れ初めを話し始めたのだ。

「そういうわけで、カールくんのような素敵な男の子の前で緊張するのは当然のことですわ」

 ふんっ、と鼻息荒くエルナが腕を組んだ。

「何をそんなに偉そうにしておるのじゃ。そうやって緊張ばかりしておってはまったく進展が無いではないか」

 そう言うとエルナは腕を組んだまま横を向いた。自身でもわかっているがどうしようもないのだろう。ただ、これ以上責めても意味がない。

「うーむ……、カールがエルナの魅力に気づいてメロメロになれば、カールもアデルのことを諦めて万々歳のはずなのじゃ。しかし、よくよく考えれば別にエルナでなくても」
「はっ、何を言ってますの! まさかわたし以外の誰かをカールくんに引き合わせるつもりでは?!」
「いや、別にそういうわけではないのじゃ」

 エルナの剣幕にそう答えるしかなかった。とりあえず、自分の目標はカールにアデルを諦めさせることだ。男を好きでいるというのは許されないことだと聞く。同じ村の少年がそのようなことで責められてしまうのは気分のよいことではない。
 それに何より、アデルとカールが仲良くしているのは腹が立つ。アデルもアデルでカールのことを目一杯可愛がっているから、カールに好かれて悪い気はしないかもしれない。
 しかしそれは困る。


「ともかく、手が触れ合ったくらいでうろたえるでない。お互いに好きになれば、手を繋いだりそれ以上のこともするかもしれんのじゃ」
「そ、それ以上……、あ、い、いけませんわ、そんな、カールくん、でもカールくんが求めてくるならわたし……」

 エルナは品の無い顔で何やらぶつぶつ言い出した。どうやらまた妄想が膨らんでいるらしい。今は妄想にかまけている場合ではないというのに。
 
「ともかく、もう一度作戦を練り直して挑むのじゃ」










 楽器のあった部屋に戻ると、カールが顔を綻ばせるのが目に入った。こんな寒い部屋で待たされてさぞ憤慨しているだろうと思ったが、カールは別に気にした様子も無かった。
 
「これ面白いね、いっぱい弾いちゃった」

 そう言いながらカールがはにかむ。隣を見ると、エルナがぼーっとした様子でカールを見ていた。その肘のあたりを突くと、エルナが肩をびくりと震わせた。
 それから一度咳払いをする。

「カールくんが気に入ってくれたのは嬉しいですわ。いつでも弾きに来てください」
「ありがとうエルナちゃん」

 カールが素直に礼を言う。そういうところはカールの美徳だと思う。

「うむ、音楽というのは楽しいものなのじゃ。聞くところによると、エルナは歌も上手いのじゃという」
「そ、そうですわ。さきほどソフィさんとそんな話をしましたの」
「そうなんだ! すごいね、楽器が弾けるだけじゃなくて、歌も上手いなんて!」

 カールは本当に感心しているようで目を輝かせていた。
 
「うむ、妾も歌が聴きたいのじゃ」
「ソフィさんがそこまで聴きたいとおっしゃるのなら、仕方がありませんわね」
「妾など歌が下手なのじゃ、歌が上手いというのには憧れるのじゃ」
「まぁ! ソフィさんは歌が苦手なのですね」
「うむ、今のところは下手なのじゃ。どれ、少しばかり歌ってみせるのじゃ」

 そう言ってから少しばかり歌声を披露した。自分の歌は残念ながら大したことがない。その歌を聴いた後でエルナの歌声を聴けば、対比でエルナの歌がより良く聴こえるはずだ。
 簡単な曲を歌い終えると、エルナは困惑したように目を細めていた。それからこちらに耳打ちしてくる。

「そ、そこまでわざと下手に歌わなくても大丈夫ですわ。わたしのためにそんな恥ずかしいことをしてくれるのは助かりますけれど」

 大真面目に歌ったのだが、エルナは妙な勘違いをしたようだ。
 今更訂正することもできないので、神妙な顔で頷いておく。

















 フィルギナルの前に座るエルナがゆっくりと息を吸い込んだ。
 堅い石の壁はこの部屋にいる三人を冷たく囲んでいる。静かな空気の中に頼りない陽光が差し込んでいた。

 エルナが再び息を吸い込む。
 息が止まった瞬間、エルナの指先は白と黒に彩られた鍵盤の上で踊り始めた。左手が低音を奏で、右手が細かな装飾を加える。
 同時にエルナが歌い始めた。エルナの声はリディアが歌った時と同様に裏声のような声だった。シシィのように普段喋っている声で歌うのではなく、訓練された人の声だ。
 ただ、その歌声の輝きはリディアには及んでいない。これはエルナが下手なのではなく、リディアが上手すぎただけだろう。


 エルナの澄んだ声が石の壁に反響し、豊かな広がりを帯びた。上手いのかどうかは自分にはよくわからなかったが、これだけ器用に演奏ができるエルナが歌っているのだから上手いのだろう。
 歌詞は古語ではなく俗語で、何やら愛に関するもののようだ。

 よく両手をあれだけ動かしながら歌えるものだと感心してしまう。エルナの音楽の才能はもしかするととんでもないのかもしれない。
 アデルもギターを弾きながら歌っていたが、ここまで両手を激しく動かしていたわけではない。

 エルナは調子よく声を伸ばし、その伸びた先をたっぷりと揺らした。

 そして音楽が終止する。



 歌い終わったエルナは静かに息を吸い込んでから吐き出した。それと同時にカールが拍手を始めた。

「すごいよ! エルナちゃん歌上手だね!」
「そ、それほどでも」
「すごいよ、僕、エルナちゃんがこんな風に歌えるなんて全然知らなかった」

 カールが褒めそやしている。自分も拍手のひとつくらいしてやろうかと思っていたのだが、カールに先を越されたせいで今更拍手をするのがためらわれた。
 
「うむ、実に達者なのじゃ。カールよ、エルナの凄さが理解できたであろう」
「うん」

 エルナに視線を移すと、エルナは左手で長い金髪をふぁさっと払いながら照れ笑いを浮かべていた。カールに褒められて嬉しかったのだろう。緩みそうな顔をどうにか戻そうとしているらしいが、頬の端が段々と横へ伸びていた。

 早速良いところを見せつけることができた。ここでさらにヨイショしておくべきだろう。

「どうじゃカール、エルナは実に良い女じゃと思わんか?」
「え? そうだね、すごいよね」
「うむ、劇では主役を務め、良い感じの演技をしておったのじゃ。妾が思うに、エルナは男にモテる女のはず。見るがよい、顔も良いし、性格もいい性格をしておるし、歌も上手いし、フィルギナルも弾けるのじゃ」

 ここぞとばかりにエルナを推しておく。それを聞いていたエルナも少し鼻が膨らんでいて、平らな胸も自慢げに反っている。自信満々な様子だ。

「どうじゃカール、女というものは良いものであろう」
「え?」

 意味がわからなかったのか、カールが首をかしげた。今のは失敗だったかもしれない。そもそも、カールは自身が男を好いているということを誰にも知られていないと思っているのだ。
 そこに関することに言及すれば、カールも自身の好みが知られていることに気づくかもしれない。

「ともかくじゃ、妾は我が友エルナがこれほど良い女であることが誇らしい」
「そうなんだ」

 カールは無邪気な笑顔を見せた。その表情を見る限りでは、カールがエルナに興味を抱いたとはまったく思えなかった。エルナは今もご機嫌で鼻高々といった様子だが、そのままでは困る。

 こっそりとエルナに近づき、その耳元で囁いた。

「これエルナよ、まだ慢心してはいかん。次の案に移るのじゃ」
「はっ……、え、ええ、わかってますわ。でも、少し恥ずかしくて」
「ええい、情けないことを言うでない。ここが踏ん張りどころなのじゃ」
「わ、わかってますわ」


 カールは内緒話の内容が聞こえなかったらしく、わずかに首をかしげている。
 

「さてカールよ、エルナの素晴らしい歌を聞いて感動しっぱなしなところ悪いが、とりあえず暖炉の前に戻っておくがよい」
「僕だけ?」
「うむ、妾とエルナも後から行くのじゃ」

 カールには理由がよくわかっていないようだったが、特に反対することもなく先にこの部屋を出ていった。それを確認してからエルナに話しかける。

「では手はず通りに進めるのじゃ」
「や、やっぱり恥ずかしいですわ」
「いまさら恥ずかしがってどうするのじゃ」

 エルナは今頃になって尻込みしてしまっている。この部屋に戻る前に、エルナと二人で色々と案を練った。まずはエルナの凄いところを見せてエルナが実に良い女であることを訴える。
 それから次が肝心だ。やはり男というものは女の体に興味があるはずだ。もしここでカールが良い反応を示せば、話はどんどん進めやすくなる。カールもエルナに対して興味津々になるだろう。
 そうなれば男なんかよりも女のほうが良いと気づくはずだ。

「や、やっぱり恥ずかしいですわ!」
「ええい、情けないことを言うでない。ここで頑張ればカールはエルナのことを好きになるかもしれんではないか」
「カ、カールくんが……、で、でも恥ずかしいですわ」
「別によいではないか、見せたところで減るものでもないのじゃ」
「わたしはソフィさんみたいに恥知らずではありませんわ!」
「なんと失礼な、妾とて恥くらいは知っておるのじゃ」
「こ、こうなったら、ソフィさん、ソフィさんも!」
「いや妾は遠慮したいこと山のごとしなのじゃ」
「山も海も知りませんわ! 大体、わたしだけそんな、恥ずかしい格好を」
「わかった、わかったのじゃ。妾も付き合うから早くするのじゃ」

 恥ずかしそうに頬を染めるエルナを見ていても意味が無い。とりあえず、ここはエルナに付き合うことにしよう。
 

 エルナが言うには、ヴェアンボナ騎士団の服を模したものを持っているのだという。もちろんエルナが着られるような大きさになっている。
 さきほど、その服をカールに見せればよいと提案したのだ。騎士団の服はたしかエルナが劇で着ていたものだ。スカートの丈が異様に短く、太ももすら見えてしまう。
 どうして騎士団の女の制服があんなに破廉恥なものなのかというと、どうやら動きやすさを優先してそうなったらしい。実際のところ、スカートの下には色々穿くらしく、いつも太ももを丸出しにしているわけではないそうだ。

 ふくらはぎどころか太ももまで見えるような格好はまず見ることがない。女がそんな格好をしていればきっと怒られてしまうのだろう。女だってふくらはぎを見せるような格好は恥ずかしいに違いない。しかし自分はそれほど抵抗がなかった。
 運動する時は膝丈のスボンを穿いているし、そもそもカールに太ももを見られて何が恥ずかしいのかよくわからない。
 別に素っ裸というわけでもないし、カールも自分の太ももを見たところでどうども思わないだろう。

 だからこそ、もしカールが過剰に反応するようであればエルナに対して強い興味を抱いたという証拠になる。カールもエルナのことが気になって仕方がなくなるに違いない。
 なにせ男というのはそういうのが好きだと聞いている。

「よし、エルナよ、ここでうだうだしていても仕方がないのじゃ。さぁ、早く」
「わ、わかりましたわ」

 エルナは覚悟を決めたらしく、凛々しい表情で立ち上がった。
 








「待たせたのじゃ!」

 バーン、と扉を開いて部屋の中へと入った。急に扉が開いたことで、部屋の中にいたカールは驚いたようだ。肩をすくませてこちらへ視線を向けている。今のは少し行儀が悪かったかもしれない。
 普通に入ってもよかったのだが、エルナがグズグズしていたせいで時間がかかり、こちらの気が逸ってしまった。今更入り直すわけにもいかない。

  暖炉の炎がゆったりと身じろぎをしている。それに合わせて壁に写ったカールの影が揺れた。こちらが寒い思いをしている中、カールはここでぬくぬくしていたのだろう。
 


 ずんずんと足を進めた。脚全体が寒い。寒風に張り手でも食らわされたような気分だ。それも仕方がない。スカートの丈が短いのだ。騎士団の制服はスカートの丈が異様に短いため、太ももですらも見えてしまう。そんな服装を冬にするのははっきり言って遠慮したい。
 この部屋に来るまでの間に、体ごと冷えてしまったような気がする。

「うむ、カールよ、待たせたのじゃ……、ってエルナ、これ、何を隠れておるのじゃ!」

 振り返ればエルナが扉の後ろに隠れているのが目に入った。顔だけはこちらに見せている。この段階になって怖気づくとは情けない。
 一旦戻ってから、エルナの体を引っ張り出す。それからエルナの背のほうへと回り、その背をグイグイと押した。

「ちょ、ちょっとソフィさん! まだ心の準備が!」
「準備など気にするでない。ほれ!」

 エルナをカールのほうへ向けて立たせた。カールは目を丸くしている。エルナが騎士団の制服の格好で出てきたのに驚いたのだろう。この格好自体は劇で見ているはずだが、こんなに近くで、しかも家の中となれば驚くのも無理はないかもしれない。
 どう見ても、カールに見せるためにこんな格好をしているとしか思えないはずだ。もちろん、それが狙いでもある。しかしエルナが怖気づいたせいで自分もこの格好をすることになってしまった。
 
 しかし、カールは自分には興味は無いだろうし、特に問題は無いはずだ。

「ほれカールよ、見るが良い。実に似合っておるであろう」
「え、えっと」

 カールは視線を逸した。しかしすぐにチラッとこちら目を戻す。唇が乾いているのか、カールは唇をぎゅっと結んでいた。その顔が赤いのは寒さのせいだけではないだろう。
 うろたえているのがはっきりと見てとれた。

 効果はあるようだ。

「うむ、エルナが騎士団の制服を持っておるというので、妾にも着させてもらったのじゃ。なんとも太っ腹な女ではないかエルナは。これ、遠慮せずに見るのじゃ。この白い生地も実に素晴らしいのじゃ」

 そう言いながらエルナのスカートの裾を摘んだ。するとエルナが慌ててスカートの裾を押さえて動かないようにした。

「ちょ、ソフィさん!」
「別にめくりはせんのじゃ」

 スカートにはヒダがあって、脚を動かしてもあまり邪魔にならないようになっている。
 こういう作りは実に良いものだと思うが、作るのが面倒くさそうだ。この服もきっと高いに違いない。さわり心地も良かった。
 カールに視線を移す。

「ほれカールよ、何か言ってやったらどうなのじゃ?」
「え、いや僕……」

 やはりカールは意識している。エルナがこの格好で近くに現れたことで、きっとエルナのことを可愛いと思っているのだ。良い調子だ。もしかしたらカールはもうエルナに好意を抱いているかもしれない。大体、男のカールがアデルを見ていたって何も面白くなどないはずだ。
 確かにあの筋肉などは逞しくてなかなか素敵だから、見ていたいと思う気持ちは理解できなくもない。

 カールはあまりこちらのことを見ようとしない。しかし、視線をさまよわせながらも口を開いた。

「でも、なんでそんな格好を」
「実の良いことを訊くではないか。ほれエルナよ、説明してやるのじゃ」
「ええっ?!」

 話を振られたエルナが目を見開いた。ここでカールのために可愛い格好をしたとでも言えば、カールも喜ぶに違いない。
 しかしエルナは口ごもったまま何も言わない。ここは自分が代わりに言ってやったほうがいいだろうか。

「うむ、カールよ、エルナはこの可愛い格好をカールに見てもがっ?!」
「そ、それ以上は言わせませんわ!」
「むがが!」

 いきなり口を塞がれた。凄い力でしがみついてくるものだから、押されて思わず後ろへと足を出した。その足が椅子の足に引っかかった。

「なぬっ?!」

 体重を支えようとした足が引っかかったことで、上体がどんどん倒れ込む。まずい、このままでは倒れる。どうにか腕を振り回して耐えようとした瞬間、さらにエルナが体を押し込んできた。

「のわっ?!」
「きゃあっ!」

 二人して床に倒れ込んでしまう。エルナがしがみついてきたせいで、手をついて衝撃を殺すこともできなかった。どうにか背を丸めて腰から首のほうへと体重を移して衝撃を抑えたが、それでも腰が痛い。

「いたた、これエルナよ、妾の上に乗っかるでない、重たいのじゃ」
「失礼な、重くなんか……」

 エルナに押し倒された格好になってしまった。そのエルナは急に顔面が硬直して、さらに血の気が引いたように青くなっていく。もしかして今の拍子に怪我をしたのではないか。

「これエルナよ、どうしたのじゃ?! もしや怪我でも」
「きゃ、きゃああっ?!」
「ほわっ?!」

 エルナが急に上体を起こし、自身の尻のほうへと両手を回した。そしてスカートの裾を押さえる。慌ててエルナが立ち上がった。
 そこでようやく気づいた。もしかすると、さっき二人とも倒れ込んだせいで、二人のスカートが完全にめくれあがっていたかもしれない。
 そうなると、スカートの中身は丸見えということになる。

 カールに視線を移すと、カールがそっぽを向いているのが目に入った。何も見ていません、といった感じを装っているが、そもそも見ていなければ目をそむけるようなことをしない気もする。
 しかしここはカールがこうやって現に目を逸しているのだから、深く追及してやるべきではないだろう。


「あ、あわわわ……」

 エルナはスカートの裾を両手で握ったまま目をぐるぐるさせている。きっとスカートの中身を見られたと思っているのだろう。カールに見られたくらいでそんなにうろたえる必要も無い気がする。

 ここはエルナのためにカールと一芝居打ってやるべきだろう。カールなら乗ってくれるはずだ。

「これカールよ、妾たちが倒れ込んだ拍子に妾たちのスカートの中を見たりはしておらんじゃろうな?」
「みみみみ、見てないよ! 全然、何も! 暗くて全然見えなかったし!」
「そうか、ならば安心なのじゃ」

 こういう時に暗くて見えなかったなど言うのは見てましたと言っているようなものだが、そこを追及するのも避けたほうがいいだろう。おそらくカールが言う通り、暗くてよく見えなかったに違いない。
 それにカールのことだからすぐに目を逸しただろう。エルナが心配するほどのことではない。

「そういうことなのじゃ、エルナよ、心配するでない。カールは何も見ておらんのじゃ」

 そう告げるとエルナは少しだけ落ち着いたようで、スカートを握りしめたまま息を吐いた。

「それにエルナなどまだよいではないか。妾などスカートの下に何も履いておらんのじゃ」
「は、穿いてない……」

 反応したのはカールだった。
 この服を着るのはいいが、自分はエルナが持っているような下ばきは着ていない。リディアやシシィは穿いているらしいが、自分の下着はこういうものではない。こんな短いスカートだと丸見えになってしまうような大きな下着だ。
 はっきり言ってスカートから下着が覗くのはあまりに不格好で遠慮したかった。そこで下着も脱いだのだ。

  
「さてエルナよ、落ち着いて次の行動に移るのじゃ」

 エルナの耳元でそう囁いた。エルナも正気を取り戻したようで、何度か瞬きをしてから息を吸い込んだ。
 暖炉の前には椅子が置いてある。今はカールだけが座っていた。その向かい側にエルナのために椅子を出してやった。

「妾の言った通りにするのじゃ」
「本当に効果がありますの?」
「もちろん。妾はそういう女らしさが男の心を捉えることを知っておる」

 エルナはその言葉で意を決したようだ。エルナは椅子の前にきて、両手を腿の後ろへと回した。そしてスカートの裾を軽く押さえながらゆっくりと座った。
 それから肩にかかった髪を片手で軽く払う。

 良い感じだ。男というのはああいう女らしい仕草に弱いのだ。
 エルナが座った後、自分もエルナの隣に椅子を並べた。そして椅子にドスンと音を立てて座り込む。それから脚を組んだ。ついでに腕も組み、ふんぞり返った。実に態度が悪い。どちらかといえば男がやるような仕草だ。

 一方、エルナは腿の上に両手を置いて座っている。その楚々とした態度は実に女らしいもので、これにはカールもたまらないに違いない。
 カールを見ると、せわしなく視線を動かしていた。視線をこっちに向けようとしているが、どうやらまともに見ることができないらしい。

「エルナよ、実に良い感じなのじゃ。カールは確実にエルナを意識しておる」

 そう耳打ちすると、エルナがごくりと唾を飲み込んだ。カールの態度はひと目見ただけでわかるほどにおかしい。せわしなく視線を動かし、それから縮こまるように両足を閉じて硬くなっていた。
 きっとエルナの女らしさにグッと惹かれているのだろう。

 良い感じに推移している。カールも男などより女のほうが良いと思うに違いない。

「ところでカールよ」
「ええっ?! えっ?」
「なんじゃいきなり驚きおって、話しかけただけではないか」
「あ、う、うん……」

 急に声をかけられたかのようにカールが驚いている。

「しかしカールよ、おぬしは……」

 話を続けようとして詰まった。何から話そう。まずは少し遠回りをしたほうがいいかもしれない。

「そういえばまだ木の剣を振り回したりしておるのか?」
「うん……、それはできるだけ」
「ほう、なるほど。うむ、実はエルナもこの通り、実は騎士というものに憧れておるらしいのじゃ。聞くところによると、エルナも箒などを振り回しておるとか」
「そうなんだ」
「うむ、実に気が合うかもしれんのじゃ。カールも騎士は格好いいと思っておるはず」
「うん、僕の友達のジェクっていう子も、騎士に憧れてて、体を鍛えてるんだ」
「なるほどなるほど、それは良いことなのじゃ。エルナもヴェアンボナのお姫様、ルイゼ姫に憧れておる。それは知っておるな?」

 前に話していたからカールなら覚えているだろう。カールが頷いた。

「うん、知ってるよ」
「そのお姫様は実に優れた人物らしいのじゃ」

 ここでチラリとエルナを見た。得意な話題になってエルナも饒舌になるだろうと思ったのだが、口を閉ざしたまま太ももの上で両手を遊ばせている。肘で軽くエルナを突いた。
 さっさと喋り散らかしたらどうなのかと思ったのだが、エルナは口を開こうとしない。

「カールよ、少し待つのじゃ。妾たちはお花を摘んでくるのじゃ」
「え? うん、綺麗な花でもあったの?」
「そんなところなのじゃ」

 キョトンとしているカールを置いて、エルナの肘を掴んだ。それから引っ張り上げて、部屋の外へと連れ出す。
 まずい、この娘、意外と使えないかもしれない。















 エルナの屋敷は広い。廊下といえどもその幅は大人が寝転んでもまだ余りある。その広さのせいか、寒々しく感じられた。
 エルナは機嫌が悪そうに髪を手で払った。美しい金髪がハラリと広がる。
 せっかくカールといい感じに会話を膨らませられそうだったのに、エルナが黙り込んでしまったせいでうまく行かなかったのだ。

 暖炉のそばにいたのに、今度は寒い廊下の中だ。あまり大きな声を出すのは憚られたが、ついつい声が大きくなってしまう。

「何をやっておるのじゃ。せっかく妾がエルナの得意な話題に持っていったというのに。そこでおしゃべりをして、カールとどんどん仲良くならねば」
「わ、わかってますわ! で、でも、カールくんを前にすると緊張して……。それに、カールくんに太ももを見られたりしてるかもしれないですし」
「まったく、なんと頼りない」
「ひどい言い草ですわ! 仕方がないでしょう。恋をしているのですから。ソフィさんは恋を知らないのですわ!」
「知っておるのじゃ。妾はもうすでに夫となるべき者を定めておる。それに、キスもしたことがあるのじゃ。ドキドキなのじゃ」
「キス?!」
「うむ、しかし他言は無用なのじゃ。あまり言いふらしてはならんと言われておる」

 アデルはこういう話を人に知られるのを嫌っている。アデルを好きだと言うことで誰かに変な目で見られたりするかもしれないから、そういう話はやめるべきだと諭されたことがある。
 自分としては納得がいかないが、アデルが強硬に主張しているので折れざるを得なかった。


 エルナの魅力をドンドン押し出して、カールにエルナを意識させることができれば、カールの男好きも改善されるに違いない。
 男が男を好きになるというのは間違っている。カールはアデルを好きになってはいけないのだ。もちろん、アデルが魅力的な男だということは自分もよく理解している。
 同様に、カールにとってもアデルは魅力的なことだろう。好きになるのも仕方がないかもしれない。しかし、男同士では結婚はできない。
 それに男を好きだということが知られれば、カールはきっと責められることだろう。辛い目に遭うはずだ。
 こんな未来を変えるためには、カールにはエルナを好きになってもらうしかない。

 幸いなことに、エルナもカールを好いている。エルナは見目麗しい女の子だし、お金持ちの家の子だし、魅力は充分にあるはずだ。
 そう思って二人の仲を進展させようとしたのだが、エルナがあまりにも怖気づいてしまってまったく上手くいかなかった。

 どうすればよいのか案を練りたいが、そんな時間は無い。
 それに、廊下にいても寒い。

 
「さて、それよりもエルナよ、早く部屋に戻るのじゃ。寒くてかなわん」

 こんな短いスカートを穿いていたらすぐに太ももが冷たくなってしまう。リディアの話によると普通は下にタイツか何かを穿くらしいが、そういうものは無かった。

「エルナ、そうやって緊張ばかりしておってはまったく話が弾まんのじゃ。それに、こうやって中座ばかりしていてはカールも不審に思う」
「それは、わかってますが」
「妾もそれとなく手伝うのじゃ」
「助かりますわ」
「ではサクサク行くとするのじゃ」

 これ以上廊下にいても寒いだけだ。









 再び部屋に戻り、暖炉の前に座った。炎の出迎えは暖かくて、抱擁されたように体に熱がまとわりつく。いきなり中座したにも関わらず、カールはそれほど気にした様子もなかった。
 しかしここは一応詫びを入れておくべきだろう。
 
「うむ、待たせたのじゃ」

 そう言ったが、カールは別に気にしていないらしく首を振った。こういう心の広さはカールの美徳かもしれない。
 
「さて、何の話をしておったか。おお、そうじゃ。騎士の話であった。うむ、騎士というものは実に格好いいものなのじゃ。妾も憧れずにはおれん」

 その話題の騎士は家にいるのだが、そんなことを二人に言うわけにはいかない。
 カールはやや真剣な面持ちでうなずいた。

「そうだよね。僕も、本物にはなれなくても、誰かにとっての騎士になれたらいいなって思ってるんだ」
「うむ、その心がけは実に尊いのじゃ。エルナもそう思うであろう?」
「ひぇ? そ、そうですわ。さすがカールくんですわ」

 隣のエルナはやや緊張しているようだ。やはり短いスカートが慣れないのかもしれない。カールしか見ていないのだからそんなに気にする必要は無い気もするが、エルナにとってはそのカールこそが問題なのだろう。

「ごほん、うむ、カールは棒を振り回したりしておったのじゃ。エルナも箒などを振り回しておったという。実によく似ておる」
「あはは、やっぱり騎士だったら剣かなって。さっき言った友達のジェクもね、すごく練習してて、僕なんかいっつも負けちゃうんだ」
「ほう、なんじゃ、そのジェクとかいう者はカールより強いということじゃな」
「うん、でも僕も負けてられないから、もっと練習しなくちゃ。僕と歳は同じだし、背の高さとかもあんまり変わらないから」

 カールにそんな友達がいたとは知らなかった。カールとの付き合いは一年以上になるが、カールが誰かと木剣を交えている姿は見たことがない。それどころか、カールが男友達と遊んでいるところを見たことがなかった。

「ふむ、妾はそのジェクなるものを見たことがないのじゃ」
「違う村に住んでるから。でも、お父さんの仕事とかで町に来るんだ。それで、一緒に遊ぶようになって。ジェクはすごくかっこよくて、落ち着いてて、それで強いし、色んなこと知ってて本当にすごいんだ」

 カールは惜しみない賞賛をそのジェクとかいう男に向けている。男を相手にそれだけべた褒めというのはやはり、男に対して魅力を感じているからだろうか。
 アデルのみならず、そのジェクとかいう男にも好意を抱いているのかもしれない。なんと気の多い男だろう。さてはスケベか。

 しかしそうやって男を好きでいてはいけない。
 カールはさらに声を弾ませた。

「ジェクはね、騎士団のヒルベルトっていう人が好きなんだって。すごく体が大きくて強くいんだって」

 なんということだ。カールの男友達のジェクも男が好きなのか。
 そうなるとカールとジェクの関係も気になってしまう。
 どことなく嬉しそうなカールを見ていると不安が募ってきた。とりあえずカールにだけ喋らせておくのはまずい。


 隣のエルナの耳元で囁く。

「これエルナ、黙っておってどうする。話に入ってくるのじゃ」
「え、ええと……。そ、そうですわ、わたしも騎士に憧れていて、もちろん、その、わたしごときでは騎士にはなれませんけど、それでもルイゼさまを心からお慕いしていますから、少しでもルイゼさまのように弱い誰かを守れるような人になりたいと思ってますわ」

 少したどたどしいが言っていることは好感の持てる内容だ。カールも聞き入っているようだ。
 ここは自分も乗っておこう。

「さすがエルナ、立派な心がけなのじゃ。顔も可愛くて性格も良いとは、実に良い女がいるものじゃと妾は感心しっぱなしなのじゃ。エルナこそこの町の宝、いや実に立派なのじゃ。これはもう騎士のように気高い心の持ち主と言っても過言ではあるまい」

 ここぞとばかりに持ち上げておく。持ち上げすぎてエルナの評判が宙に浮きそうなくらいだ。

「妾も騎士なるものをかっこ良いと思う。特に妾は翡翠の魔法使いが好きなのじゃ」

 今更リディアを称揚するまでもない。ここはシシィを持ち上げるとしよう。
 シシィは騎士団で活躍をしていたから、名前を挙げても不自然ではないだろう。そう思ったのだが、エルナは渋い表情だった。

「ええ? でも翡翠の魔法使いは裏切り者ですわ。それにいつもルイゼさまに迷惑をかけていたり、ルイゼさまの命令を無視したり、身勝手にも程がありますわ」
「む? いや裏切り者ではないのじゃ。あれはお芝居だけのこと。妾が思うに、翡翠の魔法使いは……、良い者なのじゃ。魔法も凄いのじゃ」

 そう擁護してみたが、エルナは首を横に振った。

「まぁ、ソフィさんは翡翠の魔法使いについて全然知らないようですわ」

 確実にエルナよりよく知っていると思うが、知り合いだと言うわけにもいかない。
 エルナは少し胸を張って言う。

「例えば、騎士団が山賊退治にでかけた時、ルイゼさまが完璧な作戦をお立てになったのに、翡翠の魔法使いはそれに従わずに勝手な行動を取ったのです」
「勝手な行動じゃと。それでどうなったのじゃ」
「どう……、その時はルイゼさまの完璧な指揮のおかげで何も起こりませんでしたわ。山賊も壊滅に追い込まれたと書いてありました」
「ふむ、まぁ結果が良いのであれば別に構わんではないか。妾は凄い魔法使いに憧れずにはおれん」
「まぁ、魔法ならルイゼさまも完璧ですわ。わたしの読んだ本ではルイゼさまのほうが魔法では上だそうです。しかもルイゼさまは剣術にも優れ、さらに学識豊かで」
「いやいや、翡翠の魔法使いのほうが魔法では凄いの違いないのじゃ」

 ルイゼが優れた魔法使いだとは聞いているが、さすがにシシィを超えるようなことはないだろう。リディアとシシィもそんなことは言っていなかった。
 確かにルイゼは優れた魔法使いかもしれないが、シシィには及ばないはずだ。
 そう思っての発言だったが、エルナはムッと眉を寄せた。

「それほどの魔法使いなら魔王相手に寝返ったりはしませんわ」
「ただの作り話を真に受けてはいかん。翡翠の魔法使いはきっと寝返ってなどおらん」
「それにルイゼさまに逆らってばかりで、投降するよう促しても無視したり、最低ですわ」
「最低ではない。翡翠の魔法使いは高潔な心の持ち主なのじゃ」
「どうしてそんなことが言えますの」
「それは……、妾の勘なのじゃ」
「まぁ、呆れましたわ」

 そう言ってエルナが眉を上げる。それからゆっくりと首を振った。

「そんな魔法使いを好きになるなんて間違ってますわ」
「な、なんじゃとーっ?!」
「いいでしょう、わたしがしっかりとルイゼさまの魅力を語ってさしあげますわ」
「いらん! 妾はなんと言われようと翡翠の魔法使いのほうが好きなのじゃ。大体、お姫さまに関する話も本当かどうかわからんではないか。いくらか盛っておるに違いないのじゃ」
「な、なんですって?! 聞き捨てなりませんわ! ルイゼさまのような完璧なお方を好きにならないだなんて、ソフィさんは間違ってますわ!」
「間違ってなどおらんのじゃ!」

 段々と体が熱くなってきた。エルナも同じだったようで、顔色はやや赤みがかっていて、怒りのためか眉も釣り上がっている。
 お互いに立ち上がろうとしたその時、カールが先に立ち上がった。

「だ、だめだよケンカしちゃ」

 両手を伸ばしながらカールが近づいてくる。それを見てエルナは咳払いをした。どうやら落ち着いた姿を見せようと思っているらしい。
 別にケンカをしようとしていたわけではないのだが、カールから見ればそうではなかったのだろう。

「別にケンカなどしておらん。妾は妾の主張をぶつけただけなのじゃ」

 言い争いをしたいわけではない。

「大体、妾が翡翠の魔法使いが好きでエルナに一体なんの迷惑をかけたというのじゃ。妾は妾の好きなものを好きで居続けるだけなのじゃ。誰かにあれを好きになれなどと言われるのは気に食わん」

 会ったこともないお姫さまよりも、身近にいる翡翠の魔法使いを好きになるほうが普通のはずだ。
 そこまで考えて気づいた。

「……好きになる相手を、どうして人に指図されねばならんのじゃ」
「ソフィちゃん?」

 つぶやいた一言にカールが反応をする。こちらのことを心配しているのか、カールの目はやや細くなっていた。
 好きになる相手がおかしいと、自分も言われたことがある。自分だって、アデルのように歳の離れた男を好きになることについて色々言われたこともあった。もちろん、惚れている相手本人にもだ。

 それでも、好きなものは好きなのだ。仕方がない。

「……妾が間違っておった」

 すっと立ち上がった。カールの横顔は暖炉の炎に照らされてわずかに赤くなっている。
 カールと向き直った。そしてカールの両肩に手を置く。その青い瞳をまっすぐに見つめた。カールは驚いたのか目を大きく開いている。

「カールよ、妾が間違っておった」
「え? えっと、うん。ケンカはダメだよね」
「いやそうではないのじゃ。カールよ、よく聞くのじゃ」
「う、うん……」

 カールの顔を正面から見つめる。女の子のようにまつ毛が長く、目が大きい。その澄んだ青い瞳はカールの心の清廉さの現れのようだった。
 この清らかな少年は多くの人から軽蔑されるような恋をしている。きっと、誰もカールの味方などしてくれないだろう。
 誰もがそれは間違いだとカールを責めて、心変わりするように促すはずだ。
 だが、それは本当に正しいことなのか? 
 そうは思わなかった。好きな気持ちは止められないのだ。

 これからカールに言わなければいけない。

「カールよ、妾はカールがアデルのことを好きでも妾はカールの味方をするのじゃ」
「え? うん」
「うむ、もちろんカールもアデルも男じゃから結婚などはできん。しかし、それでもカールが男を好きでいることを妾は悪し様には言わんのじゃ」
「え、えーと……、ソフィちゃん」
「カールよ、もうしらばっくれる必要はないのじゃ」

 確かに素直に認めるのは難しいことかもしれない。しかしもう既に本人から話は聞いているのだ。ここで話をはぐらかす必要はない。

「妾は知っておる。カールは女ではなく男が好きなのであろう。そしてアデルのことを好きでおるのじゃ」
「え、ええええええぇっ?!」

 カールがさらに目を見開いた。あまりに大きく開いているから、まなじりが裂けるのではないかと心配になるほどだ。
 
「案ずるでない、妾は知っておる。カールは男が好きなのじゃ。男にしか興味がないのじゃ。妾はそれを間違っておると思っておった。どうにか正さねばならんと思っておった。しかしそれは間違いであった。そうじゃ、好きになる気持ちに優劣や正誤を持ち込むべきではないのじゃ」

 そうだ、正しいから好きになるのではない。

「残念ではあるがカール、男が男を好きになることは誰にも理解されん。言えば迫害されることもある。しかし妾は味方でおるのじゃ。カールが男を好きでも、それを間違っておるとは言わん」
「ま、待って! ソフィちゃん?!」

 カールの顔が段々と赤くなっていく。それも無理はない。カールが首を振った。カールの両肩に置いた手を下ろし、少しだけ距離を取る。
 どうやらカールはまだ誤魔化そうとしているようだ。

「ソフィちゃん待って、何か誤解してるよ!」
「もうはぐらかす必要はないのじゃ」

 カールの表情には焦りの色が浮かんでいる。

「その、僕がアデル兄ちゃんのことを好きだっていうのは、それは、その、人間としてで、その、僕は別にアデル兄ちゃんと結婚したいわけじゃないよ!」
「なぬ?」
「僕は、男の人とじゃなくて、ソ……、その、女の人と結婚したいって思ってるし!」
「……今更誤魔化す必要は無いのじゃ。妾はカールの味方をすると言っておる」
「違うよ! 僕、男の人じゃなくて女の人が好きだから! 全然違うよ!」

 カールが必死になって否定してくる。

「な、なんで僕が男の人を好きだっていうことになってるの?」
「それは、おぬしが自分で言ったのじゃ。アデルのことを好いておると」
「それは違うよ、僕はアデル兄ちゃんのことを人間として尊敬してるっていうだけで、別にアデル兄ちゃんと結婚したいとかそんなんじゃないから」

 カールはそう訴えてきた。その表情は真剣そのもので、こちらの瞳をまっすぐに見つめてきた。まだ焦りがあるのか、少しばかり頬が赤くなっている。
 瞳に宿る熱量は凄まじいものだった。
 
「つまりなんじゃ、カールよ、おぬしは別に男が好きというわけではなく、女が好きということか?」
「そうだよ、僕は女の人が好きだし」
「つまりなんじゃ、カールはスケベということか?」
「スケベって、ぼ、僕はそうじゃないけど」
「と、いうことは男が好きなのか?」
「どういう二択なの?!」
「女が好きということはスケベなのではないのか。女の裸を見たいと思ったり、触ったりしたいと思うはずなのじゃ」

 聞くところによると、スケベとはそういう者のことを指すのだという。カールもやはり女の裸に興味津々なのだろうか。
 カールの顔色は目に見えて赤くなっていた。

「べ、別に、女の人が好きでも絶対に女の人の裸を見たいと思うわけじゃないっていうか……」
「む……」

 そうなのだろうか。正直なところ、さほど詳しいわけではないからわからない。
 こういう時は他の人の意見を聞いてみるほうがいいかもしれない。

「エルナよ、どうなのじゃ?」
「どうと言われましても、わたしは女なので」
「それもそうじゃのう」

 自分も女だが、別に男の裸でも女の裸でも見たいと思うことはない。もしかしたらエルナは違うのではないかと思ったが、そうでもないようだ。
 カールの言うことが真実なのだとすれば、カールは男ではなく女が好きだということになる。自分はカールが男を好きなのだとばかり思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。


「なんとまぎらわしい!! おのれカールめ! 妾を騙しおったな!」
「ええっ?! 僕が悪いの?!」

 多分悪くないが悪いことにしておく。

「カールがそうやって誤解をさせるようなことを言うから悪いのじゃ。アデルが好きと言ったり、なんじゃ、ジェクとかいう男のことを好きだと言ったり」
「いや、それは僕はただ人として素晴らしいなぁって思うだけで」
「言い訳無用なのじゃ」
「う……、ひ、ひどい」

 確かに酷いかもしれないが、カールにも責任はあるはずだ。しかし、カールが女を好きだと言うのであれば、それは良いことなのだろう。カールは誰かから迫害されることもない。
 もちろん、あまりにもスケベだと嫌われたりするかもしれないが、カールにはそんな心配はいらないかもしれない。

「おおそうじゃ、カールよ、おぬしはエルナの太ももやふくらはぎを見て嬉しいと思うのか、どうなのじゃ?」
「え、ええっ?!」

 カールは目をむいた。エルナのほうも急にそんな話を聞いて驚いたようだ。エルナは椅子に座ったまま両脚をギュッと閉じて、小さな手で膝のあたりを隠している。
 今更そんなことをしても何の意味も無い気がしてならない。しかしエルナは慌てたように口を開いた。

「ソフィさん、何を言ってますの!」

 もしカールがエルナの太ももを見て喜ぶのであれば、カールはエルナに興味津々ということになる。そうなればエルナもカールともっとお近づきになれるかもしれない。そう思っての発言だったのだが、どうやらエルナはお気に召さなかったようだ。

 エルナとしては自身の恋心がカールに知られてしまうことが恐ろしいのだろう。その気持は理解できなくもない。好きな人と一緒にいられなくなることは、死にも等しい恐怖だ。
 恐れる気持ちはわかるが、だからといっていつまでも気持ちを隠していては進展はしない。


「どうなのじゃカール?」
「え、えっと、僕は……、その、女の人があんまり、人前で足を出すのはやめたほうがいいかなって思うけど」
「なるほど、確かに女が足を見せびらかすのははしたないのじゃ」

 自分もエルナも出しているが、もしかするとカールにとっては見苦しいものだったのかもしれない。
 エルナが勢いよく立ち上がった。

「すぐに着替えてきますわ!」
「え? そ、そんなに急がなくても」

 カールはエルナの急な動きに驚いたようだ。立ち上がったエルナが近づいてきた。それからカールに見えないようにこちらを睨み、肘のあたりを掴んできた。そのまま引っ張られてしまう。

「これ痛いのじゃエルナよ」
「さぁソフィさん、早く着替えますわよ!」
「そんなに強く引っ張るでない。こりゃ」

 文句を言ったが、エルナは大股でずんずんと歩いていく。どうやら有無を言わせるつもりは無いらしい。
 抵抗する気もおきず、エルナに引っ張られながら部屋を出た。

 













「まったく、本当に困ったことになりましたわ!」

 エルナの刺々しい声が部屋の中に響く。エルナの部屋は子ども用とは思えないほどに広い。なんなら我が家の中よりも広いくらいだった。
 テーブルの上には、ここに来る時に着ていた服がある。お互いに騎士団の制服を模したものを着ていたのだが、もう脱ぐことになった。自分の服の中にはエルナから見えないように魔法の杖が紛れ込ませている。あの杖を見られたところで、すぐに自分が魔法使いだとバレるようなことは無いはずだが、念を入れて隠しておいた。

 着替えをしながら杖をサッとスカートの中に隠しておく。
 それから着替え途中のエルナをチラリと見た。

「まぁよいではないか。カールは女が好きということがはっきりと分かったのじゃ。後はエルナが努力をすれば、カールもエルナに惚れるかもしれんではないか」

 そう言ってみたのだが、エルナはしらーっとした表情でこちらを見ている。
 まずい、アテにならない奴だと思われているようだ。
 ここは何か気の利いたことでも言ってエルナの歓心を買うとしよう。

「案ずるでないエルナよ、妾はエルナの味方なのじゃ。妾がおったほうがエルナとカールの仲はズンズン進展するのじゃ」
「本当ですの?」
「うむ、任せるがよい。妾とカールは同じ村に住んでおる。声をかけるのも簡単なのじゃ。今度はエルナが村に来ればよい。妾とカールが歓迎するのじゃ。そこでカールと仲良くすればよいではないか。帰りはカールに送ってもらえばよい」
「それは、魅力的ですわ」

 どうやら気に入ってくれたようだ。
 しかしエルナはすぐに首を振った。

「そ、それよりも……」
「なんじゃ?」
「まかり間違ってカールくんがソフィさんに惚れてしまう可能性も」
「それは無いのじゃ」

 カールが自分に惚れるような要素は特に見当たらない。もちろん、自分には美しい容姿もあれば頭の良さもあって実に素晴らしい女の子ではあるが、カールに対しては割とツンケンしているし、文句ばかり言っているし、カールが自分を好きになることは無さそうだ。

 
「妾など最初はカールに嫌われておったくらいじゃ。全然口も利いてくれんし、妾もあまり喋ることはなかったのじゃ」
「それは、意外ですわ。カールくんは誰にでも優しくて親切で、そのせいでたくさんの女の子がカールくんを好きになっていますのに」

 カールがそこまで女の子に大人気だとは思えない。きっとエルナがカールを良く評価しすぎているからそう見えてしまうだけだろう。
 思い込みというのは真実を歪めてしまうものだ。

「うむ、嫌われてはおらんかったが、妾も女、カールは男、それほど接点が無かったのじゃ。しかし村長の計らいでカールと一緒に村のチビたちの相手をしておるうちに打ち解けたのじゃ」
「なるほど」
「妾が思うに、村長は二人に同じ目的を持たせることで仲良くさせられると思ったに違いないのじゃ。エルナもカールと一緒に子どもの世話をすればきっとカールと仲良くなれるはず」
「それは、名案ですわ」


 どうやらお気に召したらしい。エルナは目を輝かせた。
 とりあえず着替えも終えてすぐにカールの元へ戻ることになった。












 ようやく暖炉の前に戻ってきたことで、体に段々と熱が戻り始めた。午後になって少し眠気が出てくる。お手伝いさんがお菓子を差し入れてくれたので、三人で頬張りながらおしゃべりに興じた。
 カールのような男にとっては女の子二人と遊ぶのは面白くないかもしれない。それでもカールは嫌な顔をひとつせずに話に付き合ってくれていた。

「それでじゃな、都会で流行っておるのが、カフワ……、ではなかったカフェとかいう豆の煮出し汁なのじゃ」
「なんですのそれは」
「うむ、なんでもカフェという豆を黒くなるまで炒めてじゃな、その豆を潰して煮込んでその煮汁を飲むのじゃ」

 そう言ってみたが、エルナは胡散臭そうに目を細めている。

「いや、本当に都会で流行っておるらしいのじゃ。妾は都会の娘から聞いたのじゃ」
「豆の煮汁を飲むなんて信じられませんわ。それで、どんな味ですの?」
「苦くて酸っぱいのじゃ」
「……誰がそんなものを好んで飲むというのです」
「いや、妾も理解できんかった。しかし、うちの家主が作るとなかなか美味しいのじゃ。妾はそれに砂糖と牛乳を入れて飲んでおる。飲むとこう、カーッと体が熱くなって心臓がドキドキしてくるのじゃ」
「変な飲み物ですわ」
「うむ、しかし飲むと目が冴えて元気になるのじゃ。都会で流行っておるのはそういうのもあるかもしれん」

 エルナは少しは信じたのか、カフェの煮汁に興味を示したようだ。

「それは、少しだけ飲んでみたいですわ」
「それではエルナが今度は我が家に来ると良いのじゃ。カールも飲むであろう?」
「え? うん」

 カールが断るわけがないと思っていたが、とりあえず聞いておく。
 豆の煮出し方はアデルが作っているのを見て覚えたから、リディアとシシィが作った時のように酸っぱくて苦いものにはならないはずだ。
 豆はアデルがすでに炒めてくれているから、後は磨り潰してもらっておこう。煮込むだけなら自分でも問題なくできる。
 

「うむ、任せるがよい。妾が二人に都会の味というものを教えてやるのじゃ。フッ、しかしあれは大人の味なのじゃ、二人にわかるかどうか」
「まぁ、偉そうに。ソフィさんも子どもですわ」
「それは見かけだけのことなのじゃ」


 そうやってお喋りをしながら過ごしていると、段々日も傾いてきた。冬が近いせいで、すぐに日が落ちてしまう。そろそろお暇したほうがいいかもしれない。
 今日は沢山喋ることができたし、エルナと友達になることもできた。次に合うためにカールとエルナが暇な日を聞き出す。そうして次に合う約束も取り付けることができた。


「忌々しいことに妾だけで町に行くのは禁じられておる。と、いうわけでカールよ、エルナを町まで迎えに行くのじゃ、よいな」
「うん、いいよ」

 さすがカール、嫌な顔ひとつせずに快諾してくれた。こうすればカールとエルナが二人で一緒になって歩く時間ができる。そこでエルナがカールとの距離を縮めることができればいい。
 そう思っての提案だったのだが、エルナが慌てて首を振った。

「そ、そんなカールくんだけに迎えに来てもらうだなんて……。ソ、ソフィさんもできれば来ていただいで、それで三人で一緒に歩くというのが良いと思いますわ」
「……へたれおった」

 この女、カールと二人きりに耐えられそうにないらしい。やや呆れ顔でエルナを見ていたのだが、エルナが顎をくいっと動かして合図を送ってくる。

「わかったのじゃ、妾も行く。それでよいな」

 そう言うとエルナが頷いた。こんな調子ではエルナとカールの距離は縮まりそうにない。
 勘ではあるが、カールはエルナに対してそれほど興味を持っていないだろう。同世代の女の子に興味が無いのだろうか。胸が大きい女でないと好きになれないとかそういう好みがあるのかもしれない。
 カールとそのあたりの話はしたことがないので確信は持てない。

 しかし、エルナが自身の魅力をどんどん見せていけば、カールもエルナに興味を持つかもしれない。そのためにはどんどん会話をして、仲を深めていくのが一番に違いない。
 


 エルナは自宅の屋敷の前まで出てきて見送ってくれた。影はすでに自分の身長よりもずっと長くなっていて、太陽が地上に近づいているのがありありと分かった。
  手を振るエルナに手を振り返しながらエルナの家を去った。
 アデルと約束通り、帰りにジル親方の店に寄った。

「お土産を貰ってしまったのじゃ」
「うん、嬉しいよね」

 村への道をカールと歩きながら、ユーリが作ったジャムを陽光に掲げる。ガラスの瓶に入っているジャムは、きらきらと輝いて見えた。
 杏のジャムだそうだ。しかも白いパンも貰ってしまった。これにジャムを塗って食べたらそれだけ美味しいだろう。
 杏は少し酸っぱくて渋みもあるが、それが甘さの中で良い仕事をする。ただ甘いだけでなく、そういう酸味が甘さを引き立てるのだ。


 ゆっくりと歩いていたが、やがて自分の家が見えてきた。

「僕、少し鶏の様子見ていっていいかな」
「うむ、見てやるがよい。あのモルゲンとやらもカールが来れば喜ぶであろう」
「えへへ、そうかな」

 そう言って、カールが微笑む。実際のところ、鶏が人の顔を覚えるのかどうかはよく知らない。
 ちょうど家の中からアデルが出てきた。こちらの姿に気づいて大きく手を振っている。

 カールだけがその手に向かって手を振り返した。












「ふぅ……、家の中は暖かいのじゃ」

 家の中に入ってからそう呟いた。家の中ではテーブルを挟んでリディアとシシィが向かい合っている。シシィはいつもとあまり変わらない表情だったが、少しだけバツが悪そうにも見えた。
 リディアのほうはご機嫌斜めといった様子で腕を組んでいる。

「む、なんじゃ?」
「あらおかえりなさいソフィ。そうね、ソフィはちゃんと早起きしてお友達の家に行ってきたのね」
「うむ、行ってきたのじゃ」
「それなのに、シシィったらね、今日は昼間まで寝てたっていうのよ。今日はね、一緒に森で作業しようって言ってたのに、まったくシシィったらあたしが汗水垂らして働いてる間にグースカ寝てたのよ」
「なんと」

 そういえば朝のシシィは眠たそうだった。その後もずっと寝ていたということになる。一体どうしてそんなに寝ていたのかはわからない。
 夜ふかしでもしたのだろうか。いや、しかしシシィも早くにベッドに入って眠っていたはずだ。

 リディアは腕組みをしたまま首を振った。

「あたしがね、この家の将来のために一生懸命になって働いてる間に、シシィはグーグー寝てたのよ。みんなで立派なお家を建てて、一緒に暮らしていくために、がんばって木を切ったり運んだりしてたのに、シシィったら朝から昼まで寝てたっていうのよ」
「ふむ、まぁそういう日もあるのじゃ」

 事情はわからないが、シシィにだって眠たい日はあるのだろう。
 シシィも反省しているようだし、ここはシシィを責め続けるべきではない。

「あたしが必死になって働いてる時に、シシィったら」
「これリディアよ、そうネチネチと責め続けるでない」

 リディアはさっぱりした性格ではあるが、時折妙にねちっこいところが顔を出す。

「別にネチネチなんかしてないわよ」
「いやしておったのじゃ」
「あたしはサバサバした女って評判だもの。ねちっこくなんかないわ」


 サバサバというのがどういうことなのかはわからないが、おそらくサッパリした性格という意味に近いのだろう。
 それが誰の評判かは知らないが、リディアの表面だけを見ていればそういう感想を抱くのも仕方がないかもしれない。それについて文句を言っても仕方がないので、ここは黙って頷いておこう。

「うむ、サバサバしたリディアはこれ以上文句は言わんのじゃ」
「言わないわよ。今度シシィをいっぱいこき使うだけなんだから」

 しっかりと根に持っているが、それを指摘するとリディアの機嫌を損ねそうなのでやめておこう。



 アデルはまだ外にいるようだ。カールがまだいるのかどうかはわからない。リディアも外に出ていってしまった。こんな暖かい場所からわざわざ外に出るというのも元気なことだと感心してしまう。
 

 シシィはまだ眠たいのか、少しぼんやりしているように見えた。

「しかしシシィよ、なにゆえにそこまで眠っておったのじゃ。昨夜はぐっすり眠ったのではなかったのか」

 昨日は特に変わりない様子だった。シシィは少し困ったように視線を逸した後、小さな声で言う。

「気が緩んでいるかもしれない」
「気の緩みじゃと」
「昔は、眠ることは自分を危険に晒すことだから、それほど好ましくなかった。ここに来て、ここで暮らすようになって、安心して眠れるようになったから」
「ふむ……」

 シシィの人生がどのようなものであったのかはよくわからないが、いつでも安心して眠れるものではなかったらしい。確かに、シシィはか弱い少女の見た目をしているが、戦いの中に身を置いていた。
 もし寝ている間に襲われるようなことがあれば、さすがのシシィも困ってしまうだろう。そうならないように、シシィは気を張っていたのかもしれない。
 しかしこの村は平穏そのものだから、悪者に襲われることもないだろう。安心して眠れるから、つい余計に寝てしまうのかもしれない。

「なるほど、わかったのじゃ。シシィも寝ることの気持ちよさを知ってしまったのじゃな。しかし寝てばかりでは怠け者になってしまうのじゃ」
「……気をつける」

 暖炉の炎に照らされてシシィがそう答えた。そうは言っているが、今後もシシィは何度も寝坊するのではないかと思えた。
 シシィの顔は少しばかり呆けているように見えた。きっと、眠りの快楽を覚えてしまったのだろう。気持ちはわからないでもない。特に冬は暖かいベッドの中から出るのに苦労する。
 もっと寝ていたいという気持ちは湧き上がる。しかしそれを振り払うのが大人というものなのだ。

 シシィを見ると、シシィが顔を赤らめてぼんやりとしているのが目に入った。
 過去のことを見ているかのように視線を遠くへ向けている。どうやら今も気が緩んでいるようだ。
 しかしそれを咎めるべきではないのだろう。温かい目で見てやったほうがいい。

 そう考えながら一人で頷いた。









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